メンバーが気づいていない“停滞のサイン”。リーダーだけが感じる違和感の正体とは?

✏️ 【1. はじめに】

「数字は悪くないのに、何かが止まっている」そんな瞬間、ありませんか?

受注状況はそこそこ。

悪くはないと言える状況。

メンバーも、淡々と“やるべきこと”をこなしているように見える。

チームの状態も、ぱっと見は良好に見える。

けれど──

リーダーである自分だけが、薄い違和感に気づいている。

メンバーからも、
「順調です」
「ちゃんと動けています」
といった声が普通に出てくる。

でも、リーダーの目にはわかる。
• 行動が「これだけやっておけば大丈夫。」になっている
• ミーティングの空気に“勢い”がなくなってきている
• 「やり切るぞ」というエネルギーの温度が、じんわり下がっている

数字にはまだ表れない。
けれど、確かにチームのどこかで“静かな停滞”が始まっている。

これは経験あるリーダーほど敏感に察知する“空気の変化”。
逆に、メンバーは気づきません。
彼らは“いつも通り”の感覚で動き続けてしまう。

だからこそ、この最初の違和感に気づいたリーダーには、

「チームの空気を整える」という一番大事な仕事が発生します。

本記事では、
この“静かな停滞”の正正体と、
それを適切にほぐして再び前に進ませる「健全なカウントダウン」の使い方について、
現場の感覚に寄り添いながら解説していきます。

✏️ 【2. 営業チームに起こる“停滞のサイン”とは?】

“静かな停滞”は、数字の遅れよりも先に

チームの空気やメンバーの言動に現れる

ここでは、営業チームでよく見られる
4つの停滞の予兆 を見ていきましょう。

どれも表面上は小さな変化ですが、
放っておくと後半の数字にじわじわ効いてきます。

サイン①:行動が「必要最低限モード」になっている

「これだけやっておけば大丈夫ですよね」
「今日の分は終わりました」

こうした言葉が増えてきます。

表面上はちゃんと動いている。
でも、本当にやり切っている時にある “前のめりな姿勢” が薄れます。

営業は行動量が数字に直結する仕事。
その行動が “守りの動き” に寄っていくと、
徐々にチーム全体のギアが落ちていきます。

サイン②:ミーティングの空気に“勢い”がなくなる

ミーティングでの発言が減る。
声のトーンが落ちる。
やり取りのスピード感がなくなる。

一言で言えば、チームの“温度”が下がっている状態です。

良い時期は、
「これやってみます」
「こういう提案どうですか?」
と自然に言葉が出てくる。

停滞期は、
反応がワンテンポ遅れる、
同じテンションが続かない──など、
小さな変化が積み重なります。

サイン③:中位層(ナンバー4・5)が“受動モード”になる

トップは動く。
ボトムは支援の対象になる。
一番気づきにくいのは、

中位層の“ギアが入らない”状態

「今日はこれくらいで…」
「明日挽回します」

このあたりの言葉が増えたら要注意。
チームの空気は“中位層”がつくるため、
ここが受動的になると数字の伸びが止まります。

サイン④:個人数字ばかり気にして、視野が狭くなる

停滞が始まると、
メンバーは“数字に追われる感覚”を強めがちです。
• 「あと何件…」が口癖になる
• 行動以上に結果ばかりを気にする
• 新しい打ち手よりも“安全策”を優先する

こうした状態は、

チーム全体が“挑戦”ではなく“防御”に入っているサイン

ここまでの予兆は、
いずれも 「数字に出る前の、最初の揺らぎ」 です。

そして多くのチームでは、
リーダーだけがこれらの微細な変化に気づき、
メンバーは“いつも通り”の感覚で動き続けてしまう。

だからこそ、ここから先で紹介する

「健全なカウントダウン」

チームの空気を整える強い味方になります。

✏️ 【3. 停滞の正体は「プレッシャーの偏り」】

営業チームが停滞しはじめる背景には、
単純に「やる気が落ちた」や「能力の問題」というよりも、

チーム内でのプレッシャーのかかり方に偏りが生まれている

これは、現場を見ているとよく見られる現象です。

プレッシャーが“個人”に寄りやすいときに起きること

営業という仕事柄、
どうしても「個人数字」や「個人の責任」に意識が向きがちです。

もちろん大切な視点ではありますが、
そこに比重がかかりすぎると、
• 結果への意識が強まりすぎて、動きが小さくなる
• “ミスしないこと”が優先される
• 個人ごとで抱え込みやすくなる
• チーム内の相談や協力が少しずつ減っていく

といった変化が見られるケースもあります。

これが重なると、チーム全体のエネルギーが
“攻め”から“守り”に変わりやすくなります。

プレッシャーが“チーム全体”に向くと、動きが前に向きやすい

一方で、プレッシャーを

チーム全体で適切に共有できている状態

メンバーの動きは前向きに揃いやすくなります。

たとえば、
• 「あなたはあと何件?」ではなく
 「チームとしてあと◯◯件」 と考える
• 個人の責めや焦りではなく
 チームの残り数字を共有する
• “追い詰める感覚”ではなく
 前に進むためのエネルギーとして扱う

こうした関わり方をしているチームは、
自然と助け合いやアイデアのやり取りが増え、
行動も揃いやすくなっていきます。

停滞が生まれるとき、内部では何が起きているか

リーダーだけが「何かが止まっている」と感じる場面では、
このプレッシャーのかかり方に
わずかなアンバランスが生まれていることが多いように思います。
• 特定のメンバーに負荷が寄っている
• 中位層のエネルギーが上がりづらい
• チームとして数字を共有する機会が減っている
• 会話が“個人数字”に集まりすぎている

こんな状態が重なると、
チーム全体が少しずつ“守り”の動きになっていきます。

これは決して誰かが悪いわけではなく、
忙しい現場では自然に起きやすいことです。

だからこそ、「健全なカウントダウン」が役に立つ

次章で紹介する

「健全なカウントダウン」

このプレッシャーの偏りを“やさしく整える”ための実践的な方法です。

個人を追い詰めないまま、
チーム全体の目線と動きを揃えていくことができます。

停滞の空気が生まれる前に、
あるいは違和感を覚えたその瞬間に、
リーダーが打てる手として活用しやすい考え方です。

✏️ 【4. 健全なカウントダウンでチームを動かす】

チームに停滞の兆しを感じた時、
リーダーが使える手のひとつが

「健全なカウントダウン」

カウントダウンは、本来“追い詰める”ためのものではありません。
むしろ、

プレッシャーを個人からチームにやわらかく割り戻すための方法

と捉えると、現場でも使いやすくなります。

カウントダウンの目的は“焦らせること”ではない

数字を追う時期は、どうしても
メンバーそれぞれが“自分の数字”に意識を寄せやすくなります。

そんなときにこそ、
チームとして目線をそろえ、状況を共有し、行動の基準を整えることが、
停滞を防ぐための土台になります。

健全なカウントダウンは、そのための架け橋になる考え方です。

健全なカウントダウンの3つのポイント

① 個人ではなく“チームの残数字”を共有する

「あなたはあと何件?」ではなく、

「チームとして、あと◯◯件」

こうすることで、
個人が抱え込む感覚が薄れ、
自然とチームとして動きやすくなります。

② 毎日追わない。“定点”で見直す

カウントダウンを毎日行うと、
どうしても締めつけになりがちです。
• 週のはじまり
• midweek
• 週末の締め

など、週3回の定点観測だけでも、
チーム全体の進み方は大きく変わります。

③ 行動量の“最低ライン”を共有する

数字の話だけをしても、動きは変わりにくいものです。

そのため、

行動量の最低ライン(週◯件、1日◯件)

メンバーは動き出しやすくなります。

小さな承認で、チームの温度が上がる

カウントダウンを使って数字の話をするときは、
同時に “行動の事実を拾う承認” を一緒に添えると効果的です。

これは褒めるというより、

「見ているよ」というサインを送る関わり方

たとえば:
• 「動き出しが早かったのが印象的だったよ」
• 「今日の提案、しっかり準備してたね」
• 「あのお客様へのフォロー、すごくいいと思うよ」

いずれも、メンバー自身がコントロールできる行動を認める言葉です。

こうした声がけは、
“数字の話”でやや重たくなりがちな空気をほどよく中和し、
チーム全体の温度を整える助けになります。

健全なカウントダウンは、“整える技術”

停滞のサインを感じていても、
強くテコ入れする必要はありません。

目線をそろえる → 行動基準を整える → 行動の事実を拾う

という流れをつくるだけで、
チームはゆっくりと、でも確実に前に進みはじめます。

健全なカウントダウンは、
その流れを自然につくるための、シンプルで扱いやすい方法です。

✏️ 【5. 実際の現場で、健全なカウントダウンをどう使うか?】

健全なカウントダウンは、
“数字を追わせるテクニック”というより、
チームの動きを整えるための“関わり方” として使うと、現場で機能しやすくなります。

ここでは、営業リーダーが
日々のチーム運営の中でどのように取り入れると効果的かを、
いくつかの場面に分けて整理してみます。

① 朝礼・昼礼で「全体の位置」を短く共有する

朝礼や昼礼のような短い共有の場は、
健全なカウントダウンを最も自然に取り入れやすいタイミングです。

たとえば:
• 「今週はチームであと◯◯件。今日はこのあたりを意識していこう」
• 「ここまでの流れは悪くないね。この調子で進めよう」

ポイントは、
“個人”ではなく “チームとしての位置” を共有すること。

これだけでも、
メンバーの行動基準がそろい、
動きが自然に前向きになります。

② ミーティングの冒頭で「方向の確認」を入れる

ミーティングは、
数字の話が中心になりやすい時間です。

冒頭の1〜2分で、
リーダーが落ち着いたトーンで“方向”を示すだけでも、
その日の場の空気が整います。
• 「今日は、この3つだけ押さえて動きましょう」
• 「この流れは悪くないので、続けていきましょう」

細かく言いすぎないことがポイントです。
やるべきことがシンプルになると、
動きが整理されやすくなります。

③ 行動量が落ち始めたメンバーには“軽い声がけ”から入る

停滞が起きはじめると、
どうしても動き出しが重くなるメンバーが出てきます。

そんなとき、いきなり数字の話に入ると、
相手は守りに入りやすくなります。

まずは、

本人がコントロールできる行動の事実を拾う

• 「動き出しが早かったのが印象的だったよ」
• 「今日の提案、しっかり準備してたね」
• 「あのお客様へのフォロー、すごくいいと思うよ」

こうした声がけは、
「見てもらえている」という感覚を生み、
その日一日のエネルギーの底上げにつながります。

④ 中位層(ナンバー4・5)には“行動ベースの会話”を増やす

チームの空気をつくるのは、
トップでもボトムでもなく、
実は 中位層(ナンバー4・5) のメンバーです。

停滞が近いときほど、
この層と“行動ベースの問い”を交わしておくと、
チーム全体のギアが整いやすくなります。

使いやすい質問は、例えば:
• 「この1週間で、大事にしたいポイントは?」
• 「次に良くしていきたいところはどこ?」

広すぎず、狭すぎず、
本人の視点が自然に整理される問いです。

この問いをきっかけに、
メンバーは“数字”よりも “動き方の質” に意識が向きやすくなり、
停滞の時期でも前向きなギアを入れやすくなります。

⑤ 月末の追い込みでは“追い詰めない進捗共有”を使う

月末の数字の追い込み時期は、
チームの空気が重くなりがちです。

ここで大事なのは、

追い詰めずに“次の一歩”だけを短く示す

たとえば:
• 「ここまでの進み方は悪くないよ。あと少しだけ進めよう」
• 「今日はここまで来たね。明日はこのあたりを意識しよう」

淡々とした共有の方が、
プレッシャーの偏りを生みにくく、
チーム全体が落ち着いて動けるようになります。

健全なカウントダウンは、“チームの呼吸を整える技術”

数字を追う時期ほど、
焦り・疲れ・視野の狭まりがチーム内に生まれやすくなります。

健全なカウントダウンは、
そうした“乱れた呼吸”を整えていくような、
落ち着いたマネジメントの手法です。
• 目線をそろえる
• 行動基準を整える
• 行動の事実を拾う

この積み重ねが、
チームの動きをゆっくり、でも確実に前へ押し出していきます。

✏️ 【6. 実際に変化が起きたケース】

ある営業チームでは、
受注状況はそこそこ。
数字としては悪くはないのに、
リーダーは“静かな停滞の気配”を感じはじめていました。
• 行動が「これだけやっておけば大丈夫」に寄ってきている
• ミーティングに勢いがない
• 中位層のメンバーが少し受動的になっている

数字にはまだ表れないものの、
チームの“温度”がじんわり下がりはじめている──
そんな状況でした。

リーダーは強くテコ入れするのではなく、

とくに中位層に丁寧に働きかけながら、
チーム全体の動きを整えることに意識を向けました。

その上で取り組んだのが、次の3つのアクションです。

① 週6件の新規顧客訪問という、コントロール可能な目標を設定する

まず取り組んだのは、
**「行動量の最低ラインをはっきりさせる」**ことでした。

設定したのは、
メンバー自身がコントロールできる行動として、

週に6件の新規顧客訪問。

数字そのものではなく、
「まずは行動を整える」ことをチーム全体で共有しました。

これにより、
メンバーが“やるべき最初の一歩”をつかみやすくなり、
動き出しの重たさが減っていきました。

② チーム全体の数字をカウントダウンし、“個人”から“チーム”へ視点を戻す

次に行ったのが、

個人数字ではなく「チームとしての残数字」を共有すること。

朝礼や短いミーティングで、
• 「チームとしてあと◯◯件」
• 「今週は、この数字をみんなで進めよう」

といった“全体の位置”を短く伝えることで、
プレッシャーが個人に偏らず、
自然にチーム全体へと戻っていきました。

これによって、
メンバー同士の視線が“縦の数字”ではなく
**“横のつながり”**に向きはじめ、
空気が少し軽くなっていきました。

③ 行動に対して「ありがとう」を伝え、メンバーの動きを肯定する

そしてもうひとつ大切にしたのが、

行動へ「ありがとう」を伝えること。

提案に向けた準備や
お客様へのフォローなど、
メンバー自身がコントロールできる行動に対して
短く「ありがとう」を伝える。
• 「今日の準備、ありがとう」
• 「あのお客様へのフォロー、助かったよ」

こうした言葉が積み重なると、
数字に追われがちな時期でも、
チームの“温度”が下がりにくくなります。

承認は大げさにほめる必要はなく、
ただ “動いた事実を丁寧に拾う”
これだけでエネルギーが整っていきます。

■ 数字より先に、“動きが整いはじめた”

この3つを続けたことで、
チーム内に少しずつ変化が出始めました。
• 行動のペースが整う
• 中位層が受動性から抜けはじめる
• ミーティングの空気が少し明るくなる
• 個人数字よりもチーム全体の動きに関心が戻る

派手な変化ではなく、
「日々の動き方の質」が静かに改善されていくような変化でした。

数字が急に跳ねたわけではありません。
けれど、

動きの整い方が変わると、チーム全体のリズムも変わる。

その結果として、
後半の数字も自然に伸びていきました。

■ このケースが示すこと

大きなテクニックや強いテコ入れではなく、
この3つの“シンプルな整え”の積み重ねこそが、
停滞しかけたチームを動かす土台になるということです。
• 行動量を整える(週6件の新規訪問)
• 視点を整える(チーム全体のカウントダウン)
• エネルギーを整える(行動への「ありがとう」)

チームにとって必要だったのは、
この“整えるための関わり方”でした。

✏️ 【7. まとめ】

営業チームの停滞は、
数字の遅れとして表れる前に、
ほんの小さな違和感や温度の変化となって現れることが多いものです。

そして、その違和感に最初に気づくのは、
いつも現場を見ているリーダーです。

本記事で紹介した
“健全なカウントダウン”は、
その違和感を無理なく整えていくための、

シンプルで扱いやすい関わり方

停滞をほぐす3つの視点

記事の中で取り上げてきたように、
チームの停滞をほぐすためには、
大きな施策よりも、日々の“整え”の積み重ねが役に立ちます。

そのための3つの視点がこちらです:
• 行動量を整える
 週6件の新規顧客訪問のように、
 コントロールできる行動のラインを提示する。

• 視点を整える
 個人数字ではなく、
 チーム全体の数字をカウントダウンすることで、
 視野を“チーム”に戻す。

• エネルギーを整える
 提案やフォローなど、
 メンバー自身がコントロールできる行動の事実を拾い、
 「ありがとう」を伝える。

どれも派手ではありません。
けれど、こうした“小さな整え”が、
チームの呼吸をゆっくりと前に向けていきます。

“整える力”は、数字をつくる土台になる

リーダーは数字を動かす存在ですが、
数字そのものを“直接”動かすことはできません。

動かせるのは、

行動と視点とエネルギー。

ここを整えることで、
結果のほうが自然とついてきます。

健全なカウントダウンは、
その整え方をシンプルにしてくれる、
ひとつの実践的なツールです。

もし、あなたのチームでも
「数字は悪くないのに、どこかに停滞があるように感じる」
そんな瞬間があるなら、
今回紹介した“整える3つの視点”を、
ぜひ小さく試してみてください。

大きな変化ではなくても、
チームの動き方が静かに整い始めるのを感じられるはずです。

部下の『苦手を直すか』『強みを伸ばすか』──その葛藤がマネージャーを育てる

1.オープニング

部下の成長を支えたいと思っているのに、なかなか行動が変わらない──。
マネージャーをしていると、そんな場面に必ず出会います。

「この苦手をなんとか克服させたい」
「いや、強みを活かした方が成果は早いかもしれない」

頭ではわかっていても、どちらを選んでもモヤモヤが残ることがあります。

先日、とある管理職の方とのコーチングセッションでも、まさにこのテーマが話題になりました。
部下の業務遂行が思うように進まない状況の中で、「克服させるべきか、活かすべきか」で悩み続ける姿は、多くのマネージャーが直面するリアルそのもの。

そして、その迷いは部下だけでなく、自分自身のマネジメントに対するスタンスを突きつけてくるのです。

実は、この瞬間こそがマネージャーにとっての“成長の壁”。
部下をどう育てるかを考えているようでいて、実は「自分はどんなリーダーでありたいのか」を試されている局面なのです。

2.よくある現場の葛藤

例えば、こんな場面を想像してみてください。

ある苦手分野があって業務の進捗が捗々しくない部下に、
「このタスクを小さく分けて、計画を立てて進めよう」と伝えた。
ところが翌週になっても、ほとんど手がついていない。

理由を尋ねても「やろうとは思っていたんですが…」と口ごもり、優先順位の理解も曖昧。
納期を守れないこともあり、チーム全体の進行に影響が出てしまう。

マネージャーとしては「ここを何とか克服させなければ」と感じるのは自然なことです。
「自分が細かく確認し、厳しく管理しないと、このままでは改善しないのではないか」
そう考えれば考えるほど、気持ちが焦りや苛立ちに傾いてしまいます。

一方で、部下の中には確かに強みもある。
人との関係構築や資料づくりなど、光る部分は見えている。
「だったら、苦手を深追いさせずに強みを発揮できる役割を任せた方がいいのでは…?」
そんな考えがよぎることもあるでしょう。

結果として、
• 苦手を克服させるべきか
• 強みを活かすべきか

その狭間で揺れ続け、モヤモヤしたまま時間が過ぎていく。
これこそ、多くのマネージャーが抱える典型的な葛藤です。

3.「苦手を克服」か「強みを活かす」かの二択に見える罠

この葛藤は、しばしば「二択」のように見えます。

ひとつは、苦手なことにあえて挑戦させて克服させる道。
もちろんこれは本人の成長につながる可能性がありますが、成果が出るまでに時間がかかり、途中で自信を失ってしまうリスクも大きい。

もうひとつは、強みを優先的に活かす道。
得意分野を任せれば成果は出やすいですが、苦手分野の改善は先送りになり、本人の成長の機会が薄れるかもしれません。

どちらを選んでも「しわ寄せが出る」と感じやすく、多くのマネージャーはこの二択の中で答えを探し続けてしまいます。

しかし実際のマネジメントはもっと複雑です。
成長と成果、本人とチーム、短期と長期──それらをどうバランスさせるか。
この二択に見える問いこそが、マネージャーにとっての大きな“罠”なのです。

4.実は問われているのは“マネージャー自身”

部下の苦手にどう向き合うか。
その問いは部下の課題のように思えますが、突きつけられているのは マネージャー自身の“育成の軸” です。

「成果を出すために厳しく指導するのか」
「まずは強みを活かして自信を育てるのか」

どちらを選んでも答えが見つからないのは、個別の事象ごとに正解を探しているからです。
本当の課題は、「人を育てるときに自分が何を大事にしているのか」という軸が定まっていないことにあります。

つまり、この葛藤は「部下の育成法をどうするか」というテクニックの話ではなく、
「自分はどんなリーダーシップで人を育てたいのか」という根本的なテーマに向き合う場面なのです。

ここで悩むことは、決して無駄ではありません。
むしろ、その葛藤を通じて初めて、マネージャーは自分自身の育成観を磨いていくのです。

5.壁を越えるヒント

では、この“成長の壁”をどう越えていけばよいのでしょうか。
大きな正解があるわけではありませんが、現場で実践できるヒントをいくつか紹介します。

① 一次感情を伝える

「怒り」や「苛立ち」といった表層の反応ではなく、
その奥にある「悲しい」「残念」「期待していた」という一次感情を丁寧に言葉にして伝えること。
これだけで、相手に届く温度は大きく変わります。
パワハラにならずに率直さを出せる、実践的な方法です。

② “待つ技術”を身につける

部下が黙る──その沈黙は一様ではありません。
背後には例えば、
• 不本意な感情の抑え込み(怒り・恥ずかしさ・防衛)
• 思考停止による“やり過ごし”(その場を切り抜けたい)
• 叱責に慣れた結果の指示待ち(自分で考えるより正解待ち)
• 自信のなさ/言語化への不安(否定されるのが怖い)

…など、複数の可能性が隠れています。

どの場合でも、上長が**焦らずに“待つ”**ことは、やり過ごしの沈黙を「考えるための沈黙」へと切り替えるスイッチになります。
コツは、短く開く問いを一つだけ投げる → 沈黙を保つ → 出てきた言葉を受けとめる。
放置ではなく“思考の余白”を渡す姿勢が、部下の自発的な思考と次の一歩を促します。

③ 強みを見抜く視点を持つ

苦手ばかりに目が向くと、指導は厳しくなりがちです。
しかし、苦手と強みはしばしば表裏一体の関係にあります。

たとえば、
• 「優先順位をつけるのが苦手」=「複数の物事を同時に抱えても粘り強く対応できる」
• 「細かい作業が遅い」=「慎重で正確さを大事にしている」
• 「自分の意見をあまり言わない」=「周囲の空気を読んで調整できる」

このように、苦手の裏には必ず強みの芽が潜んでいます。
マネージャーが「弱みを直す」視点だけでなく、「裏にある強みをどう活かすか」という問いを持ち続けることが、部下の自信と成長を引き出すきっかけになります。

マネジメントの現場に“魔法の答え”はありません。
だからこそ、感情を丁寧に扱い、沈黙を受け止め、強みに光を当てる──。
こうした小さな実践が、壁を越えるための確かな一歩になっていきます。

6.まとめ

部下の「苦手」をどう扱うか。
それは単なる育成方法の選択ではなく、マネージャー自身の成長に直結するテーマです。
• 苦手を克服させるのか
• 強みを活かすのか

その狭間で悩むことは、誰もが通る“成長の壁”。
そして、この葛藤に向き合うことこそが、マネージャーとしての軸を磨く大切な機会になります。

大切なのは、**「自分は人をどう育てたいのか」**という視点を持つこと。
感情を丁寧に伝え、沈黙を受けとめ、強みに光を当てる──そんな小さな実践の積み重ねが、部下を育てるだけでなく、自分自身を次のステージへと導いていきます。

いま葛藤の最中にいるあなた自身が、すでに次のリーダーシップへの一歩を踏み出しているのです。

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「いい影響を与える人」がしている、シンプルなこと──感情の伝え方

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昇進・昇格したあなたへ『何から始めればいいの?』迷ったときに立ち返る5つの視点

はじめに:昇進はゴールではなくスタート

年度初め。

この時期、新しい肩書きでスタートを切った方も多いのではないでしょうか。

昇進や昇格は、これまでの努力が認められた大きな節目です。

でも同時に、「ここからが本当のスタートだ」と実感する瞬間でもあります。

今年度も、ぼくのコーチングを継続してくださっている方の中に、昇進・昇格を迎えた方が何人かいらっしゃいます。

新しい役割に向き合う姿はどの方も本当に真摯で、ぼく自身も毎回刺激を受けています。

実はこのブログも、その中のお一人とのセッションがきっかけで書いています。

初めて部下を持つことになり、「自分に人を育てることができるのか?」という問いに向き合っていた方です。

昇進したばかりの頃って、「とにかくミスなく回さないと」とか、「まずは自分がちゃんとやらないと」って気持ちになりやすいですよね。

ぼくもこれまで何人も、そんな気持ちで新しい役割に飛び込んでいく方たちを見てきました。

その姿勢はすばらしいし、責任感のある証拠。

でも、一つだけ視点を足すとしたら──

**「チームとして成果を出すには、自分一人では限界がある」**ということです。

なりたて管理職がはまりやすい「3つのトラップ」

① ✋ これまでどおり、自分で動いたほうが早いと思ってしまう

→ 手を動かせば成果は出る。でも、それを続けるほど部下は育たない。

② 📈 プレイヤーとしての延長線上で成果を出そうとする

→ 数字や結果で目立とうとするが、それはマネジメントの本質とはズレている。

③ 🧠 部下のことより、自分のことでいっぱいいっぱいになる

→ 「まず自分がちゃんとしなきゃ」と思いすぎて、部下との関係づくりが後回しに。

これ、全部「自分のがんばり」で何とかしようとしている状態なんですよね。

でも、役割が変わった今こそ、目を向けてほしいことがあります。

それは──

部下と一緒に成果を出していく、という視点です。

たとえば、自分がいないときもチームがちゃんと動いていたり、

誰かが「そのやり方、前に○○さんから学んだんです」とあなたのことを言ってくれたり。

そういう“じわっとくる成果”って、ほんとうに嬉しいんです。

だからこそ、今このタイミングで「育てる」というテーマに目を向けることは、

マネージャーとしてのスタートラインに立った今だからこそ、意味のあることだと思っています。

このブログでは、「育てるマネジメントって、どうやって始めればいいのか?」

そのヒントをお届けしていきます。

自分らしい関わり方を見つけたいと思っているあなたに、少しでも参考になれば嬉しいです。

1️⃣ 自分でやった方が早い、の壁

「これ、教えるより自分でやった方が早いな…」

管理職になって最初にぶつかる壁が、まさにこの感覚かもしれません。

チームとして成果を出したいと思っていても、現場は待ってくれません。

納期はあるし、質も落としたくない。

だからつい、手を出してしまう。自分でやった方が早いから。

しかも、切羽詰まれば詰まるほど、頭ではわかっていても思うようにいかないんですよね。

•報告の期限が明日まで!

•月末に売上が全然足りてない!

•プレゼンのクオリティがどうしても上がらない!

こういうとき、「育てる」なんて余裕がないよ…って思うのも、正直なところじゃないでしょうか。

「自分がいないと回らない」チームができあがる

もしあなたがずっとそのやり方を続けていたら、

メンバーは「困ったら上司に頼めばいい」「任せても結局自分で直される」と感じるようになります。

その結果、少しずつ自分で考える力や、自分で動く責任感が薄れていってしまうんです。

これって、長い目で見るとけっこう大きなリスクですよね。

でも、それでも少しずつ視点をずらしていくことができれば、

“自分がやる”というスタイルから抜け出していくことができます。

じゃあ任せるって、どうすればいいの?

「任せよう」と思っても、最初は勇気がいります。

でも、いきなり“全部”任せなくていいんです。

まずは「ここまでは任せる」という範囲を決めること。

その上で、うまくいかなかったときにどうフォローするかもセットで考えておく。

この“準備付きの任せ方”が、育てるマネジメントの最初の一歩になります。

そして大事なのは、「どうだった?」と振り返る時間をつくること。

これは、任せっぱなしではなく、関わり続ける姿勢を伝えることにもつながります。

任せることは、期待を伝えることでもある

人は、自分に期待されていると感じたときに一歩前に出ます。

逆に「どうせ無理だろうな」と思われていると、それ以上がんばろうとしません。

だからこそ、「やってみて」「任せるね」と伝えることは、

**「あなたならできると信じてる」**というメッセージにもなるんです。

もちろん、うまくいかないこともあります。

でも、そこで一緒に考え、成長のプロセスに付き合うことこそ、マネジメントの醍醐味かもしれません。

あなたがやった方が早い。

でも、あなたが“任せた先”にしか生まれない成長がある

それを信じて、最初の一歩を踏み出してみませんか?

2️⃣ 1on1は“管理”じゃなく“関係づくり”

昇進後にまず始めたほうがいいアクションは何ですか?

そう聞かれたら、ぼくは迷わずこう答えます。

「1on1をやってみてください」と。

メンバー一人ひとりと、落ち着いて話す時間を取ること。

これは、これからのチームづくりの土台になります。

でも、1on1ってやったことがないと、ちょっとハードル高く感じますよね。

「何を話せばいいんだろう…」とか

「ちゃんとアドバイスできる自信がない…」とか。

大丈夫です。

最初の1on1でいきなり深い話をしようとしなくてOKです。

むしろ、“管理”じゃなく“関係”をつくる場なんだと考えてもらえたら十分です。

聴くことから始まる信頼関係

1on1でいちばん大切なのは、相手の話を“ちゃんと聴く”こと。

アドバイスすることでも、管理することでもありません。

「最近どう?」というシンプルな問いからでも大丈夫。

相手の口から出てくる言葉を、途中でさえぎらず、評価せずに聴く。

これだけで、少しずつ「この人には話してもいいかも」という空気が生まれてきます。

上司が“ちゃんと聴いてくれる人”であることの価値

メンバーにとって、上司が「ちゃんと話を聴いてくれる人」かどうかは、とても大きな意味を持ちます。

ここでの“ちゃんと”には、ただ聞いているのではなく、評価せずに、途中で遮らずに、最後まで耳を傾けてくれるというニュアンスが含まれます。

仕事で判断に迷ったとき、誰かとの関係に悩んだとき。

そんなときに「この人なら話してもいいかも」と思える存在がいるだけで、人は安心し、前を向いていけるんです。

あなたが1on1を通じて「この人は大丈夫」と思ってもらえる存在になれたら、

それだけでチームの安心感と自走力は、確実に上がっていきます。

完璧な質問なんていらない

「どんな質問をすればいいですか?」と聞かれることもありますが、

正解の質問なんて、実はありません。

大事なのは、あなたが相手に関心を持っているかどうか。

その気持ちがあれば、多少ぎこちなくても1on1は成立します。

たとえば:

•「最近、仕事で面白かったことってある?」

•「いま、ちょっとしんどいなって思ってることってある?」

•「このチームで、もっとこうなったらいいなって思うことある?」

ちょっとした問いでも、関係性を深めるきっかけになります。

まずは月1回でも、10分でもいい。

1on1を始めてみることで、チームの空気は確実に変わりはじめます。

そして気づいたとき、きっとこう思うはずです。

「チームって、ひとりひとりとの対話の積み重ねでできていくんだな」と。

3️⃣ “強み”からマネジメントするという視点

部下の育成というと、つい「どこが足りないか」「何を直すべきか」に目が向きがちです。

もちろん、改善点に気づいて支援することは大切ですが──

そればかりだと、本人のモチベーションが下がってしまうこともあります。

そんなときこそ、“強み”に目を向けるという視点が力を発揮します。

弱点を補うより、強みを活かす方が伸びる

人は、自分の得意なことをやっているときに、自然とエネルギーが湧いてきます。

集中力も高まるし、周囲にも良い影響を与えやすくなる。

それはきっと、あなた自身も経験があるはずです。

だからこそ、上司として「この人は何が得意なのか?」「どんなときにイキイキしてるのか?」に目を向けて観察すること

それが、育成の入り口になります。

では、具体的にどこを見ればいいのか?

ぼくがよくお伝えしているのは、こんな3つの観点です。

その人が楽しそうに取り組んでいること(=好き)

周囲が自然とその人に頼っていること(=任せたくなる)

結果が出ていて、周囲からも評価されていること(=成果)

この3つが重なるところに、その人の“強み”が隠れていることがよくあります。

しかもそれは、目に見えるスキルだけじゃなく、関わり方や姿勢、仕事へのスタンスのような「その人らしさ」にも現れるんです。

「役割」ではなく「可能性」で関わる

マネージャーになると、つい“役割”で人を見てしまいがちです。

「あの人は経理だから数字まわり」「彼は中堅だから後輩指導」など。

でも、強みで見るということは、「この人にはこんな可能性があるかもしれない」という視点を持つということ。

実際にやったことがなくても、「向いてそう」と思えることを小さく任せてみることで、思わぬ成長につながることもあります。

強みを活かすチームは、自走する

強みを起点に任せられたメンバーは、「自分の力が活かされている」と感じやすくなります。

その実感が、自信と行動につながり、少しずつチーム全体の流れが変わっていきます。

こうした経験を積み重ねることで、メンバーの「自立」や「主体性」が育っていきます。

自分の意思で動ける人が増えると、やがてチーム全体が“自走”しはじめる。

「この人なら、あれを任せてみようかな」

そんな小さな選択の連続が、自走できるチームを育てていくんです。

強みを見る視点は、マネジメントにおいてとても優しい眼差しです。

それは、「あなたを見ているよ」「可能性を信じてるよ」というサインでもあります。

あなたがその視点を持つだけで、メンバーの表情がふっと明るくなる瞬間が、きっとあるはずです。

4️⃣ 自分の“理想の上司像”を棚卸ししてみる

部下を育てたい。

でも、自分はどう関わればいいのか、正解がわからない。

そんなときこそ、「自分がどんな上司でいたいか?」を考えてみることがヒントになります。

難しく考えなくても大丈夫です。

過去をちょっとだけ振り返ってみるだけでいいんです。

「この人みたいになりたい」と思った上司は誰でしたか?

•どんな関わり方をしてくれていましたか?

•どんな言葉が印象に残っていますか?

•自分がどんなふうに変わっていったか、覚えていますか?

あなた自身が成長したと感じた瞬間には、きっと誰かの“関わり”があったはずです。

そして大事なのは、その人のすべてを真似しようとしなくていいということ。

完璧に理想的な人なんて、きっといません。

でも、「あのときの言葉が嬉しかったな」「あの接し方は印象に残ってるな」

そんな“ひとつひとつの部品”のような要素を、自分なりに切り取って取り入れていけばいいんです。

そうやって、少しずつ自分だけのマネジメントスタイルをつくっていけばいい。

正解を探すのではなく、「自分の軸」を持つこと

マネジメントに“正解”はありません。

でも、「自分がどんな上司でいたいか」という軸があると、

迷ったときにもブレにくくなります。

•部下にどんなふうに関わりたいか

•どんなチームをつくりたいか

•自分がどんなふうに信頼されたいか

言葉にしてみることで、自分のマネジメントスタイルが少しずつ見えてきます。

育てるマネジメントは、他人のマネをすることじゃない。

あなた自身の言葉と行動で、少しずつ形づくられていくものです。

だからまずは、自分の過去を棚卸しして、

「自分が大切にしたい関わり方」を見つけるところから始めてみませんか?

5️⃣ 育成に“正解”はない

ここまで読んで、「なるほど、とは思うけれど…」と感じている方もいるかもしれません。

現場は忙しいし、余裕なんてない日もある。

ちゃんとやれている実感が持てないまま、毎日が過ぎていく。

そんな中で、「育てるマネジメント」なんて言われても、うまくできる気がしない──

そう感じるのも、すごく自然なことです。

育成は、正解を目指すものじゃない

マネジメントって、“うまくやろう”と思えば思うほど、プレッシャーが増します。

でも実際は、育成に「これが正解!」という唯一の答えなんてありません。

相手も状況も日々変わっていく中で、

あなた自身も試行錯誤を繰り返しながら、少しずつ形をつくっていくしかない。

ときには遠回りに感じることもあるけれど、

そのプロセスこそが、あなたのチームを育てていく時間になります。

大切なのは、「関わろうとする意志」

うまくいくかどうかよりも、

何より大切なのは、**「部下と関わろうとする意志があるかどうか」**です。

忙しい中でも、少し時間を取って話を聴こうとする。

うまく伝わらなくても、また別の角度で伝えようとする。

任せたことに口を出したくなっても、信じて見守ろうとする。

その積み重ねが、メンバーに伝わっていきます。

「ちゃんと見てもらえている」「自分のことを気にかけてもらえている」

そんな実感が、行動を変えていくんです。

あなたのマネジメントには、あなたらしさがあっていい

ここまで読んでくれたあなたには、きっと「いいマネジメントをしたい」という思いがあるはずです。

その気持ちがある限り、たとえ迷いながらでも、きっとチームはついてきてくれます。

大事なのは、正しくやろうとしすぎないこと

完璧じゃなくていい。あなたらしさがある関わり方こそが、チームの空気をつくっていきます。

育成は、ゆっくりでいいんです。

関わる中で、お互いが育っていけばいい。

それが、あなたのチームの、これからの土台になっていきます。

🧭 おわりに:あなたらしい育成の一歩を

ここまで、「育てるマネジメント」をテーマに、5つの視点をお届けしてきました。

✅ 自分でやった方が早い、の壁を超える

✅ 1on1は“管理”ではなく“関係づくり”

✅ 強みからマネジメントするという視点

✅ 自分の理想の上司像を棚卸ししてみる

✅ 育成に“正解”はない

どれも、すぐに完璧にできるものではありません。

でも、どれも「意識して関わろう」と思ったその瞬間から、

少しずつチームの空気は変わっていきます。

昇進・昇格は、ゴールではなく新しいスタート。

大変なことも増えるけれど、その分だけ“育てる喜び”も手にしていけるはずです。

だからこそ、正解を探すのではなく、

「自分だったら、どんなふうに関わりたいか?」を問いながら、

あなたらしい育成の一歩を踏み出してみてください。

その一歩が、未来のチームをつくっていきます。

今日もその歩みを応援しています

若手の“転職したい”に、あなたが正解を出さなくても良い理由

「部下から“転職を考えています”と言われました」

そんな報告を受けたとき、あなたはどう反応するでしょうか。
引き止めるべきか、黙って背中を押すべきか、それとも上司として何かを伝えるべきか。
――いろんな考えが一気に頭を駆け巡るかもしれません。

私たち管理職は、「その場で的確に対応すること」や「部下にとって正しい助言をすること」を求められる場面が多くあります。
だからこそ、“転職”という言葉を聞いた瞬間、つい「どう対処すればいいか?」という答え探しのスイッチが入ってしまうのも無理はありません。

でも、そんなときこそいったん立ち止まって考えてみてはどうでしょうか?
その言葉、本当に“辞めたい”という意味なのでしょうか?
そして――

その言葉をどう受け取るかが、あなた自身のマネジメントを問い直すチャンスになるかもしれません。


“転職”という言葉の奥にあるもの?

以前のセッションで、ある管理職の方からこんな相談を受けました。
「新入社員の女性から“転職を考えています”と言われて、正直、どう対応すればいいかわからなくなってしまいました」

この方は、これまで対話型のマネジメントを実践し、部下の主体性を引き出し、安心して意見を出し合えるチームづくりを地道に積み重ねてきました。
実際、とても良いチームビルディングができていました。

しかし、今回の新人にはこれまでのやり方が通用しませんでした。

一見すると明るく、ポジティブな印象で、コミュニケーションもきちんと取れているように見える――
けれど、どこか本気さが感じられず、常に薄い違和感が残る。
大きなトラブルがあるわけではないものの、時折、目立たないかたちで自己中心的な行動が見られることもありました。

そんな新人との関わり方に悩み始めていた矢先の“転職発言”だったのです。

これまでも難しい局面は何度もあったけれど、自分のマネジメントでなんとか乗り越えてこられた。
でも今回は通用しないのではないか――そんな迷いが、少しずつ心の中に生まれていたようです。

とはいえ、「これまでのやり方が通用しない」という感覚は、これまで積み上げてきた自分のマネジメントに対する小さな不信感を呼び起こすこともあります。

とくに対話型のマネジメントを実践している人ほど、
「関係性を築く」「対話する」「相手の成長を信じて関わる」といった原則を大切にしているからこそ、
うまくいかない相手と出会ったときに、「自分のやり方がズレていたのではないか?」という自責の思考に陥りやすいのです。

だからこそ、「接し方を変えれば解決するのでは」と考えるのは、ある意味とても自然な反応です。
けれどその視点は、相手に合わせようとするがゆえに、逆に自分の視野を狭めてしまうこともある。

この方も、「新人に対してどのように接すればいいのか?」という“接し方の修正”に意識が向いている感じがしました。
けれど、それだと関わり方の選択肢の幅が狭くなるように感じたので、

私は、視点を変えることが効果的だと思えたのです。

そこで私は、こう問いかけてみました。

「その“転職したい”という言葉、本当にそのまま受け取って良いと思いますか?」

もしかすると――
• 自分の存在を認めてほしいという“試し行動”
• 過度な期待への“抵抗”
• 職場に対する違和感を言語化できず、転職という言葉に置き換えている

そんな背景がある可能性もあります。
「転職したいです」は、単なる意思表明ではなく、“何かを伝えたい”というサインなのかもしれません。


正解探しより、問いの力を信じてみる

転職の意思を伝えてきた新人に対して、どんな言葉をかければよいのか。
どんな態度で接するべきなのか。
管理職としてその場に立たされたとき、私たちはつい「正しい対応」を探そうとしてしまいます。

でも、すぐに“正解”を出そうとすることが、かえって状況を見誤らせてしまうこともあります。

対話型のマネジメントを実践してきたこの方も、今回ばかりは、

「自分のマネジメントにどこか足りないところがあったのではないか」
「接し方をもっと変えた方がよかったのではないか」
そんなふうに“答え”を求め始めていました。

ですが、マネジメントにはそもそも正解がありません。
あるのは、その時々の相手に合わせた“問い”を持てるかどうかです。

とはいえ、正解を出したくなる気持ちは、とてもよくわかります。
上司という立場にあると、部下の不安を取り除くことや、スムーズに仕事が回るように整えることが求められます。
だからこそ、「何か言わなければ」「すぐに動かなければ」と感じてしまうのは、ある意味自然な反応です。

けれど、「正しく対応すること」ばかりに意識が向いてしまうと、
いつの間にか、“相手の言葉をどう受け取るか?”という問いよりも、
“自分がどう振る舞えばいいか?”という問いにすり替わってしまうことがあります。

問いを持つとは、「正解を探し続ける」ことではありません。

一度立ち止まり、その言葉の裏にある背景やサインを見つめる余白を持つこと。

それこそが、対話型マネジメントを実践する上での“本当の問い”なのだと思います。

たとえば今回のように、「転職したい」という言葉が出てきたとき、
それをそのままの意味で受け取って、“転職したい部下”への接し方を選ぶのか?
それとも、その言葉を何かしらのサインとして捉えたうえで接するのか?

どちらの姿勢で関わるかによって、見えてくる景色は大きく変わってきますし、
関わり方の選択肢の幅も、圧倒的に変わってきます。

人は、心の中で思っていることをそのまま言葉にできないこともありますし、
意図的に、違う言葉を発することもありますよね。

だから、言葉に反応することではなく、問いを持ち続ける意識をもつこと。

その問いが、次の一手を見つける力になります。


「見守る」という粘り強さ

今回のケースでこの管理職の方が選んだのは、すぐに何かを変えようとするのではなく、“見守る”という選択でした。

ただ、それは決して放置ではありません。
「社会人としてのルールに明確に反したときだけ指導する」
「必要に応じて人事部門にも状況を共有する」
――そうした対応策を冷静に整えた上で、“あえて踏み込まない”という判断をされたのです。

そしてもう一つ、大切にされていたことがあります。
それは、新人の成長を諦めないこと
感情を介入させすぎず、でも見捨てることなく、距離を取りながらも可能性に目を向け続ける。
その姿勢には、粘り強さと覚悟がありました。

けれど、「見守る」という選択は、言うほど簡単ではありません。
人間のもつ本当の力を信じたいと思う反面、

「本当にこのままでいいのか」「何か動いた方がいいのではないか」――
そんな葛藤が、心の中で何度も浮かんでは消えます。

ときには、周囲からの声がプレッシャーになることもあります。
「最近あの子、大丈夫なの?」「もっと声をかけてあげた方がいいんじゃない?」
そんなふうに言われると、
自分の静かな“見守り”の姿勢が、消極的に見えているのではと不安になる瞬間もあるでしょう。

でも本当は、「見守る」というのは何もしないことではなく、“すぐに動かない”という決断を続けること。
その裏には、手を出すことが自分の安心のためになっていないかという、内省と問いかけがあるのだと思います。

すぐに動くこと、すぐに言葉をかけることが「マネジメントらしさ」だと思い込んでしまうと、
“何もしない”ことは無責任に感じられるかもしれません。
そして、とくに自分が迷っているときは、「動く」ほうが自分が楽なことも、本当は多いと思います。

でも実は、問いを持ち続けながら見守ることこそ、最もエネルギーがいるマネジメントのひとつなのだと思います。


部下の「転職したい」は、上司の成長の扉

「転職したい」と口にする部下に、どう向き合うか。
それは単に、“引き止める or 見送る”という二択の話ではありません。

まず大前提として、転職は悪いことではありません。
部下には部下の人生があり、その時点でのベストな選択として転職を選ぶことも、当然あり得ることです。

けれど、その選択が正しいかどうかを判断することよりも、
上司として本当に大切なのは――

たとえそれがマネジメント側の要因ではなかったとしても、その言葉が発せられた“状況”に、どれだけ真摯に向き合えるかどうか

正解を出そうと焦るよりも、問いを持ち続ける。
すぐに動くのではなく、粘り強く見守る。
その姿勢が、部下の未来を信じることにもなり、同時に自分自身を育てることにもつながっていきます。

だからこそ、「転職したい」のように、一見会社側にはマイナスに聞こえる、
現状を大きく変えようとする部下の言葉は、

結果がどうなろうとも、上司自身の成長に向けた扉をノックしてくれているのかもしれません。

たとえ最終的にその部下が転職という選択をしたとしても、関わった時間が無駄になるわけではありません。

マネジメントは、“関係性の結論”ではなく、“関わったプロセス”そのものに価値がある。

上司の問い続ける姿勢は、部下の心に直接届かなくても、
その後の誰かとの関係、あるいは自分自身の在り方に、きっとつながっていくはずです。

その扉の前で、あなたはどんな問いを持ちますか?

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