『人が足りない』は本質じゃない??──とあるセッションで感じた、“感情を扱う”という視点

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「人が足りないんです」

そんな言葉を、現場を預かる立場の方から聞くことは少なくありません。

たしかに、採用が難しい。育成にも時間がかかる。

仕組みや制度を見直しても、思うように動かない──

そんな歯がゆさを感じている方も多いのではないでしょうか。

今回のブログは、ある取締役とのコーチングセッションをきっかけに書いたものです。

その方の現場で起きていたのも、「人が足りない」ことで見えてきた業務の停滞でした。

でも、対話を通じてあらためて浮かび上がってきたのは、

仕組みや制度の話だけではなく、

“関係性の中にある小さな感情”が、チームや業務の流れを左右しているという事実でした。

「うまくいかない理由」に、もう少しだけ丁寧に目を向けてみる。

そんな視点のヒントになれば嬉しいです。

① 背景にある問い:「人が足りない」のか、本当に?

先日、とある企業の取締役の方とのコーチングセッションを行いました。

バックオフィス全体を統括されている方で、実務にも現場にも深く関わっておられます。

その日のテーマは、経理業務が思うように進まず、全体の流れに遅れが出ているというものでした。

人が足りないのかもしれない。

経験者を採用しても定着せず、派遣で補っても引き継ぎに時間がかかる。

今いるメンバーには限界が見えはじめている──

そんな現場の実感が、静かな語り口の中ににじんでいました。

話は自然と、人材の配置や教育プロセス、新しいシステムの導入といった「実務上の打ち手」に流れていきます。

けれど、そのやり取りの中で、ぼくの中にはある問いが浮かび上がってきました。

仕組みや制度だけじゃなくて、

人と人との関わり方にも、業務をスムーズにするヒントがあるんじゃないか。

関係性が止めていた:仕組みだけでは動かない理由

セッションでは、業務の流れをどう整えるか、人の配置をどう見直すか、具体的な話題が次々と出てきました。

チームや業務が滞っているとき、多くの組織では「仕組み」「制度」「スキル」の話をします。

もちろん、それらはとても大事な要素です。

でも、多くの企業をコーチングを通じて支援してきた中で、

実際には「仕組み」「制度」「スキル」の改善をしてもうまくいかない場面をたくさん見てきました。

うまく回らない原因が、“人と人との関係性”の中にあることは、これまで何度も見てきました。

たとえば──

誰に、どう伝えるか。どこまで任せるか。

マネージャーになることを避ける人に、どう声をかけるか。

こうしたテーマは一見、実務の範囲内に見えます。

でもその奥には、ちょっとした気まずさや、失敗への恐れ、責任感の重さといった“感情”の層がある。

それらは会議の議題には上がらないし、表立っては語られない。

でも、そこに少し目を向けるだけで、滞っていたやりとりがスッと動き出すことがある──

これも、コーチングを通じてぼくが何度も実感してきたことの一つです。

今回のセッションは、そのことをあらためて思い出させてくれるような時間でした。

③ 話すより、まず“聴く”:リーダーにできる対話のつくり方

役職が上がるほど、「どう判断するか」「どう決めるか」が求められる場面が増えていきます。

それ自体は当然のことだし、現場が混乱しないようにするための重要な役割でもあります。

でも、状況が複雑だったり、メンバーの思いや関係性が絡むときほど、

「まずは、相談という形で話してみる」という選択肢が、有効な場面もあると感じています。

今回のセッションでも、

「それって、決めるというより、まず“相談ベース”で伝えてみるのはどうでしょう?」

というやり取りが自然と出てきました。

誰かに動いてもらいたいとき、指示や依頼ではなく「聴くこと」から始める。

その余白があるだけで、相手の受け取り方がまったく変わることもあります。

何かを決めてから伝えるのではなく、

まだ決まっていない段階で声をかけてみる。

そうすることで、相手との間に「考える時間」や「すり合わせの余地」が生まれていく。

そんな関わり方が、感情が複雑に絡むような場面では、

実はすごく実務的な“前進のきっかけ”になるんじゃないか──

そんなことを、あらためて感じたセッションでした。

④ おわりに:感情は“チームを動かす力”になる

業務が滞っているとき、つい「仕組みを整えよう」「人を増やそう」といった対策に意識が向きがちです。

でも実際には、その前に「関係性のひっかかり」や「伝え方への迷い」といった、

表に出にくい“感情の層”が、動きを止めていることも少なくありません。

感情といっても、大げさな話ではなくて──

ちょっとした気まずさとか、失敗への恐れとか、「これ以上負担をかけたくないな」という遠慮とか。

そういう小さな気持ちの積み重ねが、チームや業務の流れをじわじわと止めてしまうことがあるんです。

今回のセッションでは、そうした話題が大きく扱われたわけではありません。

むしろ、話題の中心はあくまで実務でした。

でも、その中にふと現れた一言や反応が、ぼく自身にとって大事なヒントになりました。

「感情を扱う」というと、構えてしまう方も多いかもしれません。

でも実はそれは、チームをスムーズに動かすための、ごく実践的なヒントでもあるんだと思います。

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その言葉、誰のため? 聴くことから始まるチームづくり

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1. 冒頭:「伝えること」に必死になっていないか?

部下が思うように動かない。
チームにどうも一体感がない。
──そんなとき、つい考えてしまうのが「もっと伝えなきゃ」ということ。

指示の出し方が悪かったのかもしれない。
期待をもっと明確に伝えるべきだったかもしれない。
あるいは、感情的にならずに、もっと冷静に説明するべきだったのかも。

でも、こうした“伝えること”への意識が強くなればなるほど、
逆にチームの反応が鈍くなる…そんな感覚に覚えがある方もいるのではないでしょうか。

実はそこに、「関係性が動き出すヒント」が隠れていることがあります。
それは、伝えることよりも“聴くこと”のほうが、チームを変える力を持っているという事実です。

ぼくがこれまでコーチングの現場でご一緒してきた、
さまざまな業種の多くの管理職の方も、
あるタイミングから“伝えること”への力みを少し手放し、
「どう聴くか」「何を受け取るか」に目を向け始めたときに、
チームとの関係性が少しずつ変化していくのを実感されています。

コミュニケーションを変える第一歩は、
“話し方を磨くこと”ではなく、「伝える前に立ち止まること」かもしれません。

2. 会話が変わると、チームが変わる──その実感

「最近、前よりも話してくれるようになった気がする」
「ミーティングで誰かが話し始めると、自然と他のメンバーも反応してくれるようになった」

そんな変化の声を、コーチングの中で管理職の方から聞くことがあります。
そのきっかけになっているのは、多くの場合、特別なスキルや施策ではありません。

それは、“聴き方”が変わったことによる、空気の変化です。

「こう言えば部下が動くだろう」「これを伝えれば納得してくれるはず」──
そんな“伝えようとする努力”は、もちろん大切なものです。
けれど、それだけでは伝わらないことがある。

むしろ、相手が話すのを待つ。
言葉をかぶせずに聴く。
評価せずに受け止める。
その“余白”があることで、メンバーは少しずつ「話してもいい」と思えるようになる。

とくに、管理職という立場であるあなたの一言は、
本人が意図する以上に大きく響き、影響を与えます。
だからこそ、言葉を選ぶこと以上に、“聴く姿勢”が大切になる場面があるのです。

「伝えよう」とする気持ちが強いほど、
知らず知らずのうちに、相手の言葉が入るスペースを奪っていることがある。

ほんの少し立ち止まって、相手の声に耳を傾ける。
その姿勢が、チームの空気を変え、関係性をじんわりと動かしていくのです。

3. “伝える力”よりも、“受け取る力”が先

コミュニケーションというと、「どう伝えるか」が主役になりがちです。
プレゼン力、言語化力、ロジカルシンキング──それらは確かにビジネスにおいて重要なスキルです。

でも、チームを動かし、関係性を育てるという文脈においては、
“受け取る力”が先にあってこそ、“伝える力”が活きるのではないでしょうか。

たとえば、メンバーに「期待してるよ」と声をかけるとき。
それが応援になるか、プレッシャーになるかは、相手が今どんな状態かによって変わります。
つまり、“何を言うか”と同じくらい、“いつ、誰に、どんな気持ちで言うか”が大事なんです。

その違いを見極めるには、まず相手のことをよく“見る”こと、
そして、“聴くこと”が必要です。

自分の正しさや意図を押しつける前に、
「相手は何を感じているだろうか」
「どんな前提をもって、この話を受け取るだろうか」
そんな問いを、言葉を発する前の1秒間に、自分に向けてみる。

その“間”があるかないかで、
言葉の届き方も、相手の反応も、大きく変わってくるのです。

だからこそ、伝えるスキルを磨くよりも先に、
相手を受け取る土台を、自分の中につくっておくことが、信頼を育てる一歩になります。

4. 自然体のリーダーシップと、余白のある対話

管理職という立場になると、
「ちゃんとしなきゃ」「見本にならなきゃ」と、どうしても構えてしまうことがあります。

でも、その“構え”が、かえってコミュニケーションの流れを堰き止めてしまうことがあるんです。

こちらが肩に力を入れて話せば、相手も構えます。
完璧に伝えようとするほど、対話の“余白”がなくなってしまう。
結果として、「話しやすさ」が失われていくんですね。

実は、自然体でいることそのものが、強いメッセージになることがあります。

「すごいことを言わなくてもいい」
「ちゃんと答えられなくても大丈夫」
そう思ってもらえる空気感があるだけで、
部下は自分の言葉で話そうとし始めます。

そのきっかけになるのが、何気ない問いです。

「どう思う?」
「何か気になることある?」
「最近どう?」

──こんな、答えに“正解”のない問いかけ。
評価や判断をしない問いが、相手の心を少しずつ開いていきます。

そして、その姿勢こそがリーダーシップの本質ではないか と、ぼくは思うんです。

自然体で関わること。
構えずに、相手と同じ地平に立つこと。
対話に余白を持たせること。

それは、管理職としての“弱さ”ではなく、
むしろ“信頼をつくる強さ”なのかもしれません。

5. 相手の価値観に立った“ひとこと”が、関係を変える

言葉は、ときに人を動かします。
でもそれは、「正しい言葉」を選べば動く、という単純な話ではありません。

同じ言葉でも、ある人には届き、別の人には響かない。
それは、相手の価値観や、そのときの状態によって、言葉の意味が変わるからです。

たとえば、部下に「もっと自信を持って」と伝えたとき。
その言葉が励ましになることもあれば、
「プレッシャーだな」と感じさせてしまうこともある。

この違いは、伝える側の“言い方”や“論理”ではなく、
相手が今、どんな状態でその場にいるか──
その“前提”に目を向けられているかどうか、にかかっています。

だからこそ、「この言葉、誰のために言ってるんだろう?」と立ち止まる習慣が大切になります。

「自分を安心させるために言っているのか」
「相手を動かすためだけに言っているのか」
それとも、相手の価値観を尊重して、本当に支えになりたいと思っているのか

そこに自覚があると、同じ言葉でも“温度”が変わります。

相手に寄り添おうとする気持ちがにじんだひとことは、
派手じゃなくても、確実に相手の心に残るものになります。

管理職として言葉を使うということは、
“コントロールするため”ではなく、
相手が伸び伸びと働き、自分らしく成長していけるよう支援するためにある。

その土台となるのが、相手の価値観に立って言葉をかける姿勢であり、
信頼に根ざした、あたたかなコミュニケーションなのだと思います。

6. 結び:関係の質は、対話の積み重ねで変えられる

「もっと伝えなきゃ」と力んでいたときには見えなかったことが、
少し立ち止まって“聴く”ことを意識し始めると、不思議と見えてくることがあります。

表情の変化。
言葉の選び方。
沈黙の向こうにある感情。

相手の反応を丁寧に“受け取る”ようになると、
それまで一方通行だったコミュニケーションが、すこしずつ“対話”に変わっていきます。

そしてこの「対話の質」が、
チームの空気を変え、関係性を育て、
結果的に一人ひとりのパフォーマンスや働き方にも影響していくのです。

伝え方の工夫も、言葉の力も、もちろん大切です。
でもその前に、自分の“聴く姿勢”がどうあるかを問い直すことが、
管理職としてのリーダーシップをぐっと深めてくれる──
ぼくはそう信じています。

日々の会話のなかで、ほんの少し立ち止まる。
「この言葉は誰のため?」と自分に問うてみる。
「今、何を感じている?」と相手に尋ねてみる。

そんな小さな対話の積み重ねが、
“伝わるチーム”をつくり、
“安心して働ける関係性”を育てていくはずです。

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