期待されているのに、なぜ影響力を発揮しづらいのか── 現場で評価されてきた人が、次の役割に向かうときに起きていること

① はじめに|評価と手応えが、なぜか噛み合わない

現場では、一定の成果を出している。
上司や責任者からも、明確に期待されている。
本人もその期待を、プレッシャーではなく「意気に感じて」前に進もうとしている。

それなのに、
どこか手応えが噛み合わない。

リーダーシップを発揮しようとすると、
前に出きれない感覚が残る。
言っていることは間違っていないはずなのに、
周囲に強い影響力を持てている実感が薄い。

評価されていないわけではない。
成果が出ていないわけでもない。

それでも、

「自分は、いま何を求められているのだろうか」
そんな問いが、ふと頭をよぎることがある。

この違和感は、決して珍しいものではありません。
むしろ、現場で評価されてきた人ほど通りやすい地点だと感じています。

ここで起きているのは、
能力不足でも、意欲の欠如でもありません。
「まだ足りない」「向いていない」という話でもないのです。

実際には、

評価されてきた役割と、
これから期待されている役割が、
少しずつズレ始めている

そんなことが起きているように、ぼくには見えます。

現場で結果を出す力と、
周囲に影響を与える力は、
似ているようで、使いどころが違います。

その切り替えが、
はっきりと言葉で説明されることは多くありません。
そのため、この違和感はしばしば
「自分の中の問題」として、静かに引き取られていきます。

けれど本当は、
これは個人の内面だけで完結する話ではありません。

組織の中で、
評価や期待がどのようにつくられているのか。
役割がどのように切り替わっていくのか。

その構造を少し引いて見てみると、
この違和感の正体は、
別の輪郭を持って見えてきます。

この記事は、
とある20代後半で、現場で活躍しているクライアントさんとの対話をきっかけに、
この「評価と手応えのズレ」について、改めて考えてみたいと思ったことから書き始めました。

——ここから先では、
この違和感を生みやすい
「言語化されていない前提」について、少し整理していきます。

② 言語化されていない前提が、評価の裏側で働いている

多くの組織を見ていると、
はっきりと言葉にされてはいないけれど、
評価や役割の与え方の裏側で、ある前提が静かに働いているように感じることがあります。

それは、
• 現場で成果を出してきた人
• 現場で頼りにされてきた人

が、次の役割として
リーダーや管理職を期待されやすい、という流れです。

誰かが会議の場で
「現場で優秀だから、管理職にも向いている」
と明言しているわけではありません。

けれど、
• 昇格のタイミング
• 任される仕事の種類
• 育成の順番

を眺めてみると、
結果として、そうした流れになっている組織は少なくないように思います。

この前提は、とても自然です。
現場で成果を出してきた人を評価したい。
次のステップに進んでほしい。
そう考えること自体に、違和感はありません。

問題があるとすれば、
その前提が言語化されないまま共有されていることです。

現場で評価されてきた力と、
これから期待されている力が、
同じものなのか、違うものなのか。
その切り替えについて、
きちんと立ち止まって話されることは多くありません。

その結果、
• 役割だけが少しずつ変わっていく
• 期待の中身が、言葉にならないまま膨らんでいく

という状態が生まれます。

現場ではうまくやれていた。
周囲からも評価されてきた。
それなのに、役割が変わった途端に
影響力を発揮しづらくなる。

このとき起きているのは、
能力が足りなくなったわけでも、
急に向いていなくなったわけでもありません。

これまで評価されてきた力と、
これから求められている力の種類が、
少しずつズレてきている

そんな変化が、
本人にも、周囲にも、
十分に共有されないまま進んでいるだけです。

このズレが厄介なのは、
誰も悪意を持っていない、という点です。

組織側も、
「期待しているからこそ任せている」。
本人も、
「期待に応えたいと思っている」。

だからこそ、この違和感は
「自分の頑張りが足りないのかもしれない」
という形で、個人の内側に引き取られやすくなります。

けれど、少し引いて見てみると、
ここで起きているのは
個人の問題というより、構造の問題だと言えそうです。

次の役割に進むとき、
求められる仕事の中身がどう変わるのか。
どんな力を、どんな形で使うことが期待されているのか。

それが十分に言葉にされないまま、
評価だけが先に動いてしまう。

この「言語化されていない前提」こそが、
評価と手応えのズレを生みやすくしている背景なのではないか。
ぼくは、そんなふうに感じています。

③ この前提が生みやすい、静かなズレ

言語化されていない前提のもとで役割が切り替わっていくと、
組織の中では、ある種の「静かなズレ」が生まれやすくなります。

それは、大きな衝突や明確な失敗として表に出るものではありません。
むしろ、日常の中に、違和感としてじわじわと現れてきます。

たとえば、
• 任される仕事が、少しずつ変わってきた
• 周囲からの期待が、以前とは違う方向を向き始めた
• それなのに、自分が何を軸に振る舞えばいいのかが、はっきりしない

そんな状態です。

現場で評価されてきた人ほど、
「これまで通りやっていればいいはずだ」と感じやすいものです。
実際、それまではそれでうまく回ってきました。

さらに多くの場合、
そのやり方こそが、
自分の強みであり、評価されてきた理由そのものだと感じています。

だからこそ、

「ここを変える必要があるのだろうか」
「このやり方を手放してしまっていいのだろうか」

そんな迷いが生まれるのも、自然なことです。

ところが、ある時点から、
• 自分が前に出ても、場が思うように動かない
• 良かれと思ってやっていることが、少しズレて受け取られる
• 周囲との距離感が、微妙に変わった気がする

そんな感覚が出てくることがあります。

それでも、影響力が思うように立ち上がらない。

ここで起きているのは、
能力の低下とかではなく

これまで評価されてきた振る舞いと、
いま期待されている振る舞いが、
少しずつズレ始めている

ということだと、ぼくは思っています。

ただし、このズレはとても見えにくい。
なぜなら、評価の言葉そのものは、
以前と大きく変わらないことが多いからです。

「期待している」
「任せたいと思っている」

そう言われながらも、
具体的に何をどう変えるべきなのかは、
はっきり示されない。

その結果、
• 期待されているのに、手応えがない
• 任されているのに、影響力が及ばない

という状態が続いていきます。

そしてこの違和感は、
多くの場合、本人の内側で処理されます。

「自分の伝え方が悪いのかもしれない」
「もっと実績を積めばいいのかもしれない」
「まだ自分には早いのかもしれない」

そうやって、
静かに引き取られていく。

評価の前提が変わり始めているのに、
その変化が共有されないまま、
役割だけが先に進んでいる。

この「静かなズレ」こそが、
影響力を発揮しづらくなる正体なのではないか。
ぼくには、そんなふうに見えます。

④ 数字や専門性が“使えなくなっていく場面”で、影響力が試される

影響力が発揮しづらくなる場面には、ある共通点があります。
それは、これまで評価の拠り所になってきたものが、そのまま効きにくくなっていく場面です。

たとえば、
• 数字で押し切れない
• 専門性の高さを示しても、判断が進まない
• 「正しいこと」を言っているだけでは、場が動かない

そんな状況です。

現場で評価されてきた人ほど、
これまでの成功体験の中に、
「これを出せば通る」という手応えを持っています。

数字。
実績。
専門知識。

それらは、現場では確かに強い力を持ってきました。

けれど、役割が変わると、
それらを前面に出しても、以前ほど影響力が発揮されない場面が増えてきます。

たとえば、
• 顧客満足度向上の取り組みのように、
成果は数値として示されていても、
その意味や手応えが見えにくい仕事
• 会議や調整のように、
誰かを論破しても前に進まない場面
• 横断的な取り組みのように、
正解が一つではなく、合意の質が問われる状況

こうした場面では、

「どれだけ数字が上がっているか」
「どれだけ詳しいか」

といった要素よりも、

どんな視点で、この場を見ているのか

が、問われるようになります。

ここで、多くの人が戸惑います。

これまで頼ってきた武器を使っているはずなのに、
思ったほど場が動かない。
だから、どう振る舞えばいいのかが分からなくなる。

前に出るべきなのか。
一歩引くべきなのか。
強く言うべきなのか。
待つべきなのか。

判断の軸が、
これまでよりも曖昧になります。

けれど、ここで試されているのは、
発言の強さや説得力ではありません。

試されているのは、
• 何を大事にしようとしているのか
• この場で、何を揃えたいのか
• どんな前提を、共有しようとしているのか

そうした、判断の背景です。

数字や専門性が効きにくくなっていく場面では、
判断そのものよりも、
判断に至る考え方が影響力になります。

だからこそ、
• 正解を出そうとしすぎる
• うまくまとめようとしすぎる

ほど、場は動きにくくなります。

一方で、

「いま、この場で大事にしたいのは何か」
「この議論で、何が揃えば前に進めそうか」

そうした問いを、
場に差し出せる人がいると、
少しずつ空気が変わり始めます。

影響力とは、
誰かを動かす力というよりも、

人が動ける状態をつくる力

なのかもしれません。

数字や専門性が、
以前ほど効かなくなっていく場面は、
不安定で、手応えがなく、
できれば避けたくなる場所でもあります。

けれど同時に、
そこは、影響力の質が切り替わり始める場所でもあります。

現場で評価されてきた人が、
次の役割に進むとき、
最初に立たされるのが、
この「数字や専門性が効きにくくなる場面」なのではないかと、
ぼくは感じています。

⑤ なぜ“今”、これまでの強みとは違う役割を任されているのか

ここまで読んでくると、
ひとつの疑問が浮かんでくるかもしれません。

「なぜ、今の自分が、
これまで評価されてきた強みとは少し違う役割を任されているのだろうか」

評価もされている。
現場では、頼られてもいる。
それなのに、
• 成果がすぐに見えにくいテーマ
• 正解が一つではない取り組み
• 周囲との調整や、場づくりが求められる役割

が、増えていく。

このとき、多くの人は、
どこかでこう感じます。

「まだ、自分はそこまでではないのではないか」
「これまでの強みを活かすために、
この役割から降りた方が良いのではないか」

けれど、少し視点を変えてみると、
別の見え方もあります。

それは、

その役割は、
これまでの強みを評価された結果だけではなく、
次の役割に向けた“準備”として渡されているのではないか

という見方です。

現場で発揮してきた強みは、
これからも大事です。
ただ、役割が変わっていくと、
• 自分が前に出て解決する
から
• 人や関係性を通して、状況が整うのを支える

という位置に、
少しずつ重心が移っていきます。

この移行は、
いきなりは起こりません。

まずは、
• これまでの強みだけでは前に進まない場に立ってみる
• 成果が見えにくい仕事を引き受けてみる
• 人や空気を扱いながら、場を動かしてみる

そんな経験を通して、
影響力の質を切り替える時間が置かれます。

これまでの強みが、
そのままでは効きにくい場面に、
あえて立たされる。

それは、
• 期待されていないから
• 信頼されていないから

ではありません。

むしろ、

強みを一度脇に置いたとき、
どんな視点で場を見て、
どんな関わり方を選ぶのか

を、見られているのではないか。
そんなふうにも考えられます。

場をどう見るのか。
誰の声を拾おうとするのか。
どんな問いを立てるのか。

そこには、
管理職としての資質が、
とても静かな形で現れます。

だからこそ、この段階では、
• うまくまとめられなくてもいい
• 正解を出せなくてもいい

代わりに、

「何を大事にしようとしているのか」
「この場を、どう扱おうとしているのか」

その姿勢そのものが、
次の評価軸になっていきます。

これまでの強みとは違う役割を任されるというのは、
負荷が増えることでもあり、
手応えが減ることでもあります。

けれどそれは同時に、

役割が切り替わる前に与えられる、
とても実践的な“練習の場”

でもあります。

この時間を、
「本筋ではない仕事」と捉えるか、
「次に進むための準備」と捉えるかで、
その後の見え方は大きく変わります。

ぼくは、
このタイミングで任される役割の質に、
その人への期待が、
かなり正直に表れているように感じています。

⑥ この局面で、影響力が立ち上がり始める人の共通点

この局面で、
影響力が少しずつ立ち上がり始める人たちには、
いくつかの共通点があります。

それは、
特別なスキルや、強い主張を持っていることではありません。

むしろ、
**「何をしなくなったか」**のほうに、
その兆しが現れます。

まずひとつは、
自分の強みを、使おうとしすぎなくなることです。

数字で語れる。
専門性で説明できる。
現場の感覚もある。

そうしたものを「出せば通る武器」として
前に押し出すのではなく、

「今、この場でそれは本当に必要だろうか」

と、一拍置けるようになります。

強みを捨てるわけではありません。
ただ、強みを主役にしない時間が増える

この切り替えが起き始めると、
場の見え方が変わってきます。

次に、
答えを出す前に、場を整えようとするようになります。

何が正しいか。
どう決めるべきか。

そうした思考よりも先に、
• いま、この場はどんな状態なのか
• 誰が、どこで引っかかっているのか
• 何が、まだ揃っていないのか

を見ようとする。

議論を前に進めるために、
何かを「言う」よりも、
何を「共有するか」を選び始めます。

その結果、
本人の発言量が減ることもあります。

けれど、不思議と、
場は前より動きやすくなる

もうひとつの共通点は、
自分の立ち位置を、固定しなくなることです。

前に出る。
一歩引く。
誰かに任せる。

そのどれかを「自分の役割」と決め打ちせず、
場に応じて立ち位置を変えていく。

ここには、

「自分がどう見られるか」
よりも
「この場がどう進めばいいか」

という関心の移動があります。

この関心の向きが変わると、
周囲の受け取り方も変わります。

「指示された」
ではなく
「考えやすくなった」

「動かされた」
ではなく
「動ける状態になった」

そんな感覚が、
少しずつ周囲に広がっていきます。

影響力が立ち上がるとき、
本人の中に
はっきりした手応えがあるとは限りません。

むしろ、
• 以前より発言を控えるようになった
• 前より注目されることが少なくなった
• 自分の役割を、説明するのが難しくなった

そんな実感を伴うこともあります。

けれど、その裏側で、
• 話がまとまりやすくなっている
• 人が動くスピードが上がっている
• 小さな合意が、静かに積み重なっている

という変化が起き始めます。

そして多くの場合、
この力が立ち上がり始めたあとで、
あなた自身が、影響力の変化を実感するようになります。

この局面で立ち上がる影響力は、
「引っ張る力」ではありません。

人が動きやすい状態を、
繰り返しつくっていく力

です。

それは派手ではありません。
結果も、すぐには見えにくい。

けれど、
あなたに、これまでとは違う役割を求め始めた組織の中では、
確実に必要とされる力です。

⑦ 期待されているのに、影響力を発揮しづらいと感じているあなたへ

もし今、
• 評価はされている
• 期待も、感じている
• けれど、以前のような手応えがない

そんな状態にいるとしたら、
それは、何かが足りないからではないのだと思います。

むしろ、
扱うものが変わり始めているのかもしれません。

これまで、
あなたが現場で積み上げてきた強みは、
間違いなく価値のあるものでした。

結果を出してきたこと。
頼られてきたこと。
自分なりのやり方をつくってきたこと。

それらがあったからこそ、
今の場所に立っています。

ただ、役割が切り替わり始めると、
同じ強みを、同じ使い方では活かせなくなる瞬間があります。

それは、
• 強みが通用しなくなった
• 評価が下がった

という話ではありません。

強みの使いどころが、
少しずつ変わってきている

ということなのだと、ぼくは感じています。

この時期に感じる違和感は、
成長のサインとしては、とても静かです。

派手な成功も、
分かりやすい称賛も、
すぐには返ってこない。

だからこそ、

「自分は、ちゃんと期待に応えられているのだろうか」
「このまま進んでいいのだろうか」

そんな問いが、
心の中に残り続けます。

けれど、その問いが生まれていること自体が、
すでに次の役割に足を踏み入れている証でもあります。

これから求められていくのは、
• 前に出て答えを出す力
よりも
• 人が動ける状態をつくる力

かもしれません。

自分が目立たなくても、
場が前に進む。

自分が話さなくても、
対話が深まる。

そんな変化は、
最初はとても心細く感じられるかもしれません。

けれど、
その静かな変化の中でしか育たない影響力も、
確かに存在します。

もし今、

「影響力を発揮できていない気がする」

と感じているなら、
それは、影響力を失っているのではなく、
影響力の質が切り替わる途中にいるだけなのかもしれません。

焦らなくていい。
無理に、以前の自分に戻らなくてもいい。

今、目の前で起きている違和感を、
「足りなさ」ではなく、
「役割の変わり目」として扱ってみてください。

あなたが、
これまで積み上げてきたものは、
この先も、ちゃんと土台になります。

その上に、
少し違う形の影響力が、
静かに立ち上がっていく。

ぼくは、
多くの人のその過程を見てきて、
そう感じています。

仕事はうまく回っているのに、違和感がある──管理職が立つ役割の切り替え期

「期待されている」自分に残る、説明しづらい違和感

ぼくはビジネスコーチとして、
これまで多くの方のキャリアや仕事の節目に立ち会ってきました。

今日は、その中でも、
とある企業の経営企画室長をされているクライアントさんとの対話
をきっかけに感じたことを、少し整理してみたいと思います。

あくまで一人の方との対話がきっかけではありますが、
同じような立場にある方には、
どこか重なる感覚があるかもしれません。

彼女との対話からは、
仕事はきちんと回っている。
判断に迷うことはあっても、手が止まることはない。
成果も一定水準では出せていることが伝わってきます。

むしろ組織の中では、
「安心して任せられる人」
「最後まできちんとやり切る人」
として見られていることの方が多いように見えます。

上層部からの評価も、決して低くありません。

ただ最近、
向けられている視線の質が、
少し変わってきたように感じている、ことも伝わってきます。

「もっと任せたい」というより、
「そろそろ殻を破ってほしい」
「これまでの延長ではない動きを見せてほしい」
──そんな、はっきりとは言葉にされない期待があるようです。

明確な指示があったわけではありません。
何かを求められていると、言葉で伝えられたわけでもありません。

それでも、
「次の段階に進むこと」を前提に見られているような感覚
が、どこかに残っている。

一方で、彼女自身の内側を見てみると、
不安で動けなくなっているわけでも、
自信を失っているわけでもないように感じられます。

やろうと思えば、
今のやり方で仕事は進められる。
迷いを抱えながらでも、
現実的な判断はできてしまう。

ただ、そこにひとつだけ、
うまく言葉にできない引っかかりが残っている。

どう変化していけばいいのか。
どう成長していけばいいのか。

上層部が期待している「殻を破る」という状態が、
自分の中で、まだ具体的なイメージとして結びきっていない。

そのため、
動けないというよりも、
期待の意味が、まだ十分に腑に落ちていない
そんな感覚に近いのかもしれません。

この違和感は、
「能力が足りないから」と単純に言い切れるものでも、
「やる気が下がったから」と片づけられるものでもなさそうです。

むしろ、
これまで誠実に役割を果たし、
周囲の期待に応えてきた人だからこそ、
ふと立ち止まる形で現れる、
とても静かで、説明しづらい感覚なのだと、
ぼくは感じています。

第1章|迷っているのに、仕事はちゃんと進んでしまう

迷っていないわけではありません。
ただ、その迷いは、仕事を止めてしまう種類のものではないようです。

彼女との対話からは、判断が必要な場面では判断できていることが伝わってきます。
会議では論点を整理し、現実的な落としどころを示すこともできる。
難しい調整役も、必要であれば引き受けられる。

だからこそ、日常業務は回っていきます。
多少の違和感を抱えながらでも、仕事は前に進んでしまう。
ここに、この違和感の扱いづらさがあるのかもしれません。

問題は「できない」ことではない

変化できない理由は、
しばしば「準備不足」や「能力不足」として語られます。

ただ、彼女の話を聞いていると、少し違う構図にも見えてきます。

これまで積み上げてきた経験がある。
現場も、組織全体も、どちらも見えている。
実行力も、周囲からの信頼も、すでにある。

少なくとも、「能力が足りないから動けない」と単純に言い切れる感じではありません。

それでも大きく踏み出す感覚がつかみにくいとしたら、
「次にどう変化すればいいのか」という像が、まだ自分の中で結びきっていない。
そんな状態に近いのかもしれません。

自己評価が低いというより、「慎重さ」が前に出ることがある

ご本人は、自分を過小評価しているつもりはないようです。
むしろ、現実を冷静に見ているだけだと感じている。

ただ、その冷静さはときに、
• どこまで踏み込めばいいのか
• どの変化が“やりすぎ”にならないのか

を慎重に見極めようとする姿勢につながっていきます。

その結果として、
大胆な一手よりも、確実に成立する一手を選び続けてきた。
そんな流れがあっても不思議ではありません。

そしてこれは弱さというより、
これまで信頼を積み上げてきた理由でもあるのだと思います。

ただ同時に、
役割が切り替わる局面では、その慎重さがブレーキとして働くこともあります。
(本人の意思というより、習慣や責任感の形で出てくることが多い印象です。)

「止まっている」のではなく、「まだ定義できていない」

この状態を「立ち止まっている」と表現すると、少し違和感が残ります。

実際には止まっていません。
今の役割の中では、きちんと前に進んでいます。

ただ、
• どう変化していけばいいのか
• どんな成長を求められているのか

が、まだ自分の言葉として定義しきれていない。

だから、行動できないというよりも、
変化の方向が、まだ像として結ばれていない
そんな状態に近いのではないでしょうか。

迷いながら進めてしまう人に起きやすいこと

この違和感は、
仕事がうまくいっていないときに出るものとは、少し質が違うように感じます。

むしろ、
• 周囲の期待に応えてきた人
• 組織の中核として機能してきた人
• 「任せれば大丈夫」と言われてきた人

そういう人ほど、静かに抱えやすい。

迷いながらでも進めてしまうからこそ、
どこで引っかかっているのかが、外からは見えにくい。
そして本人も、
「この程度の違和感で立ち止まっていいのだろうか」
と、自分にブレーキをかけてしまうことがあります。

この章のまとめ

第1章で扱っているのは、「停滞」そのものではありません。

役割の切り替えを前にして、
変化の定義が、まだ自分の中に定まりきっていない状態
ぼくには、まずはそう見えています。

次の章では、
なぜ未来は描けているのに、
その未来に向かう“動き方”だけが見えてこないのか。
その構造を、もう一段深く見ていきます。

第2章|未来は描けているのに、変化の仕方だけが見えてこない

不思議なことに、
彼女との対話を通して感じるのは、
未来そのものが見えていないわけではない、という点です。

5年後、組織がどうなっていたらいいか。
どんな状態であれば「うまくいっている」と言えそうか。

その輪郭は、かなり具体的です。

売上や利益といった数字の話だけではありません。
ブランドのあり方。
現場の空気。
そこで働く人たちの表情。

そうしたものを含めた
「こうありたい会社像」は、すでに言葉になっています。

見えていないのは「未来」ではない

それでも、なぜ動きづらさが残るのか。
ここで立ち止まって考えてみると、
少し違う見え方が浮かんできます。

見えていないのは未来そのものではなく、
「そこに向かう自分自身の変化の形」
なのかもしれません。

今の役割の延長で、
何を改善すればいいかは想像できる。
今の立場で、
何を最適化すればいいかも分かっている。

けれど、
• 今の役割を、どこまで越えていいのか
• 自分は、どんな存在へと変わっていく必要があるのか

そのあたりは、まだはっきりとした像になっていない。
そんな状態にも見えます。

「やるべきこと」は分かる。でも、しっくりこない

多くの管理職の方と話していると、
共通して出てくるのが
「やるべきこと」のリストです。

仕組みを整える。
数字を可視化する。
人を育てる。
部門間の連携を強める。

どれも間違いではありません。
実際、どれも必要なことです。

それでも、
「これでいいはずなのに、どこか引っかかる」
そんな感覚が残ることがあります。

それは、
それらが これまでの自分の延長線上にある動き
だからなのかもしれません。

上層部が期待しているのは、
改善の積み重ねそのものではなく、
見方や立ち位置が一段変わること
なのではないか。
そんな可能性も感じられます。

期待が、まだ腑に落ちきらない理由

「殻を破ってほしい」
「次の段階に進んでほしい」

そう言われている“気がする”。
けれど、その中身がはっきりしない。

そのため、
期待に応えられないというよりも、
期待の意味を、まだ自分の中で翻訳しきれていない
そんな状態になることがあります。

これは、理解力が足りないからではなさそうです。

むしろ、
組織の文脈や力学をよく分かっている人ほど、
安易な解釈を避けようとします。

その慎重さが、
「分かったつもりで動く」ことを、
無意識のうちに止めているのかもしれません。

未来像と行動の間にある「役割のズレ」

ここで起きているのは、
意欲と能力のズレ、ではありません。

未来像と、今担っている役割とのズレ
と捉えたほうが近いように思います。

今の役割は、
• 整える
• 回す
• 安定させる

ことを前提に設計されています。

一方で、
彼女が描いている未来は、
• 問いを立てる
• 前提を揺さぶる
• 方向性を示す

ことを必要としている。

このズレがある限り、
「何をすればいいか」は分かっても、
「どう変わればいいか」が見えにくい。
そう感じるのも、自然なことです。

動けないのではなく、「移行期にいる」

だからこれは、
決断力が足りない状態でも、
覚悟が足りない状態でもありません。

役割を移行している途中にいる
と考えるほうが、しっくりきます。

これまでの自分を完全には手放せない。
けれど、そのままでは足りないとも感じている。

その間に立たされたとき、
人は一度、動きがゆっくりになることがあります。

それは失速ではありません。
視点を切り替えるための減速
と捉えることもできそうです。

この章のまとめ

第2章で扱っているのは、
「なぜ動けないのか」という問いではありません。

なぜ、変化の像だけが結びにくいのか
という問いです。

次の章では、
このズレを生み出している背景としての
「役割の慣性」について、
もう少し踏み込んで見ていきます。

第3章|優秀な管理職がハマりやすい「役割の慣性」

ここまで見てきた違和感は、
個人の性格や意志の問題として片づけられるものではなさそうです。

ぼくがクライアントさんとの対話を通して感じるのは、
むしろ多くの場合、
役割そのものが持つ「慣性」 から生まれているのではないか、
という点です。

役割は、成果を出すほど人を固定されていく

管理職として成果を出してきた人には、
いくつか共通する特徴があります。
• 周囲の期待を正確に読み取れる
• 組織の空気を乱さずに前に進められる
• 「今、何をすべきか」を外さない

これらは、簡単に身につく力ではありません。
だからこそ評価され、任されてきたのだと思います。

ただ、その積み重ねの中で、
ひとつ見落とされがちな点があります。

役割は、成果を出せば出すほど、
「うまくいったやり方=正解の型」 を
少しずつ強化していく、ということです。

「うまくやってきたやり方」から、離れにくくなる

これまで評価されてきた行動を振り返ると、
そこには共通点が見えてきます。
• 周囲と合意形成をとる
• 現実的な落としどころを探す
• 波風を立てずに前に進める

どれも、組織を安定させるうえで欠かせない動きです。

ただ、次の段階で求められているのが、
• 前提そのものを問い直すこと
• あえて未整理な問いを差し出すこと
• まだ答えのない方向性を示すこと

だとしたら、
これまでと同じやり方では、
どこか噛み合わなくなってくることがあります。

慣性は、怠慢ではなく「誠実さ」から生まれる

「役割の慣性」という言葉を使うと、
惰性や保身のような印象を持たれるかもしれません。

けれど、実際の対話では、
むしろ逆の印象を受けることが多いです。
• 組織を混乱させたくない
• 周囲の努力を無駄にしたくない
• 軽率な判断をしたくない

そうした 誠実さ があるからこそ、
人は慎重になります。

ですから、ここで起きているのは、
「変われない人」の話ではありません。

変化に対して、きちんと責任を感じている人
に起きやすい現象だと、ぼくは見ています。

役割が変わるとき、いちばん難しいのは「やめ方」

新しい役割に移るとき、
人はつい「何を始めるか」に意識が向きがちです。

けれど実際には、
何をやめるか のほうが難しい場合が多くあります。

たとえば、
• すべてを自分で把握しようとすること
• 正解を出そうとする姿勢
• その場をうまく収める役回り

これらは、
これまで自分を支えてきた大切な武器でもあります。

だからこそ、簡単には手放せません。

ただ、役割が変わる局面では、
それらが 次の役割への入り口を、結果として塞いでしまう
こともあります。

「殻を破る」とは、性格を変えることではない

上層部から語られる
「殻を破ってほしい」という期待は、
大胆になれ、強く主張しろ、という意味ではないことが多いです。

ぼくの経験では、それはむしろ、
• 視点の置きどころを変えること
• 自分が立つ位置を、半歩ずらしてみること
• これまでとは違う問いを引き受けること

を指しているように感じます。

つまりこれは、
性格の問題というより、
役割の置きどころの問題 なのだと思います。

この章のまとめ

第3章で見てきたのは、
なぜ慎重で誠実な人ほど、
次の一歩が見えにくくなることがあるのか、という構造です。

それは、怠慢でも、勇気不足でもありません。

役割に誠実であろうとするほど、
その役割から離れるのが難しくなる。

次の章では、
この慣性を無理に断ち切ろうとするのではなく、
どう扱っていけばいいのか。

「いきなり変わらなくていい」という前提で、
次の進み方を整理していきます。

第4章|それは停滞ではなく、「役割が切り替わり始めている」合図

ここまで読み進めてきて、
「それでも、やはり止まっているように感じる」
そんな感想を持たれた方もいるかもしれません。

仕事は回っている。
評価も大きく落ちてはいない。
未来像も、ある程度は描けている。

それなのに、
次の動きが、どうにもはっきりしない。

この状態を「停滞」と呼んでしまうと、
どうしてもネガティブな印象になります。

けれど、
ぼくが対話の中で感じているのは、
ここで起きているのは「止まっていること」ではなさそうだ
ということです。

見えている世界が、すでに変わり始めている

これまでと決定的に違ってきているのは、
「見えている範囲」そのものです。

以前は、
• どう改善すれば、うまく回るのか
• どこを整えれば、成果が出るのか

といった問いが、自然と立ち上がっていました。

ところが最近は、
• この組織は、どこに向かおうとしているのか
• 今の延長線で、本当に持続するのか
• 何を問い直す必要があるのか

といった、
もう一段、上流の問い が目に入ってくるようになります。

これは、能力が上がったから、というよりも、
役割の射程が変わり始めている
そう捉えたほうがしっくりくる場面が多いように思います。

今の役割では、扱いきれない問いが増えてくる

これまで担ってきた役割は、
• 正解を探すこと
• 最適解を選ぶこと
• 現実的に実装すること

を前提に設計されていました。

ところが今、
目の前に現れているのは、
• まだ正解が存在しない問い
• 組織の前提そのものを揺らす問い
• 答えを急ぐほど、ズレてしまう問い

です。

当然、
これまでのやり方では扱いにくく感じます。

だから違和感が生まれる。

けれどそれは、
能力の限界にぶつかっているからではありません。

役割の射程が、すでに広がり始めている
そのサインとして現れている可能性があります。

「前と同じやり方で進めない」ことは、後退ではない

この段階で、
多くの人が自分を責めてしまいます。
• 以前のような手応えがない
• 進んでいる実感が薄い
• 判断に時間がかかるようになった

そうした変化を、
「成長が止まった」と捉えてしまうことがあります。

ただ、別の見方もできそうです。

地図のスケールが変わっている
と考えると、どうでしょうか。

地図が拡大されれば、
一歩一歩は小さく見えます。

進んでいないように感じるのは、
扱っている領域が広くなっているから。
そう捉えることもできるのではないでしょうか。

役割が切り替わるとき、人は一度「鈍く」なる

役割が切り替わる局面では、
多くの人が一時的に動きづらさを感じます。

判断に時間がかかる。
即答を避けるようになる。
言葉を選ぶ時間が増える。

これは、
感覚が鈍くなったわけではありません。

これまでとは違う感覚を使い始めている
その途中段階として起きていることが多いのです。

新しい役割に必要な感覚は、
最初からはっきりしているものではありません。

だから一時的に、
「うまく動けていない」
そんなふうに感じてしまうことがあります。

この章のまとめ

第4章でお伝えしたかったのは、
次の点です。

今感じている違和感は、
止まっている証拠ではない
ということ。

それは、
役割が切り替わり始めた人にだけ現れる、
ごく自然なサインでもあります。

次の章では、
この移行期にいるとき、
いきなり行動を変えなくていい理由と、
まず整えておきたいものについて、
もう少し具体的に整理していきます。

第5章|いきなり行動を変えなくていい。まず整えるのは「問い」

ここまで読み進めてくると、
「では、何から変えればいいのだろうか」
そんな疑問が浮かんでくるかもしれません。

役割が切り替わり始めている。
違和感は、決して悪いものではない。
そこまでは、なんとなく腑に落ちてきた。

それでも、
日々の現実は待ってくれません。

だからこそ、
ここでひとつ、あらかじめ共有しておきたいことがあります。

この段階で、いきなり行動を変えなくてもいい。
ぼくは、そう考えています。

行動を急ぐほど、ズレが大きくなることがある

変化の気配を感じたとき、
人はつい「何かをしなければ」と思いがちです。

新しい施策を打つ。
役割を広げる。
思い切った提案をしてみる。

もちろん、それ自体が悪いわけではありません。

ただ、
変化の輪郭がまだはっきりしていない段階での行動は、
かえって違和感を強めてしまうこともあります。

それは、
問いが整っていないまま、答えを出そうとする状態
に近いからかもしれません。

先に整えたいのは、「問いの置きどころ」

この移行期において、
まず必要になるのは、
行動計画よりも「問い」の整理です。

たとえば、こんな問いがあります。
• 今の役割の中で、私は何を最適化しているのか
• それは、これからの会社にとっても最適なのか
• 私が「踏み込まないことで守っているもの」は何だろうか
• 逆に、まだ引き受けていない問いは何だろうか

これらは、
すぐに答えが出る問いではないかもしれません。

けれど、
この問いを持ち続けることで、
「次にどこへ動くか」ではなく、
「どこに立てばいいのか」 が、
少しずつ見えてくることがあります。

問いが変わると、行動の意味も変わる

問いが変わると、
同じ行動でも、その意味合いが変わってきます。

たとえば、
• 会議で発言する
• 数字を見直す
• 人に問いかける

といった行動も、

「うまく回すため」ではなく、
「前提を見直すため」
という意味を帯びるようになります。

行動の数を増やす必要はありません。
行動の「質」が変わる のです。

「殻を破る」とは、劇的な変化のことではない

上層部から使われがちな
「殻を破ってほしい」という言葉は、
少し誤解を生みやすい表現でもあります。

大胆な決断をすること。
強く主張すること。
誰かを説得すること。

必ずしも、そういうことを指しているわけではありません。

ぼくの経験では、多くの場合、
• 問いのレベルを一段上げること
• これまで扱ってこなかったテーマを引き受けること
• 答えのない話を、場に出してみること

といった変化を意味しています。

つまり、
行動よりも先に、立ち位置が変わる
ということなのだと思います。

違和感を消そうとしない人から、次の流れは始まる

最後に、これだけはお伝えしておきたいことがあります。

違和感を、急いで消そうとしなくていい。
無理に納得しようとしなくてもいい。

その違和感は、
これまでの自分を否定するものではありません。

次の役割を引き受ける準備が、すでに始まっている
そのサインとして現れている可能性があります。

問いを持ち続けること。
すぐに答えを出さないこと。

それ自体が、
すでに変化の一部になっている。
ぼくは、そう感じています。

まとめ

今の仕事に、どこかハマりきらない感覚があるとしたら、
それは「足りない」からではないのかもしれません。

見えている世界が変わり、
引き受ける役割が変わり始めている
その途中にいるだけ、という可能性もあります。

その移行期にいるとき、
いちばん大切なのは、
正しく動こうとすることではありません。

正しい問いを、手放さずに持ち続けること。

「仮想敵」という言葉に躊躇を覚える時代に、チームビルディングを考える ── 仮想敵・教材・外部参照をめぐる、ある営業所長との対話をきっかけに

はじめに|なぜ今、あらためて「仮想敵」を考え直すのか

最近、組織やチームが少し伸び悩んでいると感じているリーダーの方々と話をする中で、
「仮想敵」という言葉を使う機会が増えています。

チームビルディングの観点で見ると、
チームの方向性を揃えたり、目的意識を持ちづらいメンバーの視線を外に向けたりするために、
仮想敵という考え方は、今も一定の有効性を持っていると感じています。
実際、この考え方によって、チームの空気が変わり、動き出す場面を何度も見てきました。

一方で、最近はこの言葉に対して、どこか引っかかる感覚を持つようにもなりました。
「仮想敵」という表現は、今の時代感や価値観と、少しズレ始めているのではないか。
あるいは、「ライバル」という言葉でさえ、受け取り方によっては不要な緊張や対立を生んでしまうのではないか。
そんな違和感です。

そもそも、私が本当に目指しているのは、外部に基準を置かなくても、
チームが自分たちで考え、修正し、前に進んでいける「自走している状態」です。
その意味では、仮想敵という考え方そのものも、チームの成長につれて必要がなくなるものだと考えています。

とはいえ、仮想敵という考え方そのものを否定したいわけではありません。
問題なのは手法そのものではなく、
その言葉が今の組織やチームに、どのように届いているのか、という点だと感じています。

この記事では、
なぜ仮想敵という考え方がチームビルディングにおいて機能してきたのかを整理しながら、
今の時代や組織のあり方に合わせて、この考え方をどのような言葉に置き換えられるのかを考えていきます。

仮想敵を手放すための記事ではありません。
むしろ、チームを前に進めるために使ってきたこの考え方を、
今の環境に合わせて、あらためて翻訳し直す。
そのための思考整理として、ここに書いてみたいと思います。

第1章|仮想敵は、なぜチームをまとめるのか

チームの調子が上がらないとき、現場ではさまざまな兆しが見えます。
個々は真面目に取り組んでいるのに、力が噛み合わない。
会議ではそれらしい話は出るものの、決定打に欠ける。
どこか「自分ごと」になりきらない空気が漂っている。

こうした状態の背景には、
チームとしての視線が、内側に向きすぎているという問題があります。

自分たちのやり方は正しいのか。
誰がどこまで頑張っているのか。
評価は公平なのか。

問いの矢印が内向きに集まりすぎると、
チームは次第に動きづらくなっていきます。

ここで機能するのが、「仮想敵」という考え方です。

仮想敵とは、誰かを攻撃するための存在ではありません。
チームの意識を、いったん外に向けるための支点です。

「あのチームと比べて、私たちはどうか」
「外から見たとき、今の自分たちはどう映っているか」

こうした問いが生まれることで、
バラバラだった視線が、少しずつ同じ方向を向き始めます。

心理学の文脈では、人は自分が属する集団を意識した瞬間に、
「私たちは何者か」という感覚を強めると言われています。
外部との比較が生まれると、
内部の違いよりも「共通点」に目が向きやすくなるのです。

チームの黎明期や停滞期において、
仮想敵が有効に機能するのは、このためです。

まだ共通の価値観や判断基準が育っていない段階では、
内部だけで問いを回そうとしても、どうしても限界があります。
だからこそ、一度外に基準を置く。
それによって、チームの輪郭をはっきりさせる。

この意味で、仮想敵は
未成熟な組織にとって、ごく自然に立ち上がる装置だと言えます。

ただし、ここで一つ補足しておきたいことがあります。

仮想敵が「強いから」チームがまとまるのではない、という点です。
大切なのは、その存在が、
メンバー一人ひとりに
「比べてみたい」「負けたくない」と
自然に思わせるだけの質と距離感を持っていることです。

あまりにも遠すぎる存在では、現実味がありません。
逆に、明らかに格下の相手では、競争心は生まれにくい。

手が届きそうで、少し悔しい。
工夫や努力次第で追いつけそうだと感じられる。

そのくらいの距離にある、質の高い存在であることが、
仮想敵として機能するための重要な条件になります。

ここまでを見ると、
仮想敵という考え方が、これまで多くの組織で使われてきた理由も、
それなりに説明がつくのではないでしょうか。

ただし――
この手法には、使いどころがあります。

次の章では、
仮想敵そのものではなく、
それに頼り続けたときに起きる問題について整理していきます。

第2章|問題は「仮想敵」そのものではない

ここまで見てきたように、
仮想敵という考え方には、チームを前に進める力があります。
方向性を揃え、視線を外に向け、
チームとしての輪郭をつくるうえで、確かに機能してきました。

それでも、「仮想敵」という言葉に違和感を覚える人が増えているのも事実です。
そしてその違和感は、多くの場合、
仮想敵そのものではなく、その使われ方に向けられています。

仮想敵があることでしか動けない。
敵が見えなくなると、途端に空気が緩む。
誰かと比べられないと、自分たちの立ち位置がわからなくなる。

こうした状態に陥っているとしたら、
それは仮想敵という手法が間違っているのではなく、
仮想敵に依存し始めているサインだと考えたほうがよさそうです。

本来、仮想敵は「方向づけのための支点」です。
ところが、それが長く使われ続けると、
いつの間にか「動機そのもの」になってしまうことがあります。

「負けたくないから頑張る」
「比べられているから動く」

こうした状態が続くと、
チームのエネルギーは、少しずつ外部に吸い取られていきます。

さらに厄介なのは、
仮想敵を前提にした関係性が、
チーム内部の対話を減らしてしまうことです。

外に明確な基準があると、
内部で問い直す必要がなくなります。
「どうすればもっと良くなるか」よりも、
「相手より上か下か」という話に寄っていく。

これは短期的にはわかりやすく、
スピードも出やすいのですが、
長期的には、チームの思考を単純化させてしまいます。

また、仮想敵を強く打ち出しすぎると、
リーダー自身が、その役割を背負い込みやすくなります。

敵を設定し、
緊張感を保ち、
温度を下げないように気を配る。

こうした状態が続くと、
チームが回っているように見えて、
実は、リーダーが走り続けているだけ、ということも少なくありません。

ここで大切なのは、
仮想敵を「良い・悪い」で判断しないことです。

仮想敵は、
使えば必ずチームを壊すものでもなければ、
使い続ければ成長し続ける万能な手法でもありません。

問題になるのは、
本来は一時的な支点であるはずのものが、
固定化されてしまうことです。

仮想敵がなくても、
チームとして問いを立てられるか。
外部と比べなくても、
自分たちの状態を言葉にできるか。

そうした力が育つ前に、
仮想敵だけで回し続けてしまうと、
チームの成長は、そこで止まりやすくなります。

次の章では、
この「外部参照に頼る構造」をもう一段引いた視点から整理し、
仮想敵と「教材」という言葉が、
実はどのように重なっているのかを見ていきます。

第3章|仮想敵と教材は、実はほぼ同じ役割を持っている

仮想敵や外部参照から自走する組織へ移行していくチームビルディングのイメージイラスト

ここまでの話を踏まえると、
仮想敵に対して感じている違和感は、
「外部を参照すること」そのものではなく、
その言葉が呼び起こすイメージに向いているのかもしれません。

そこで一度、
「仮想敵」と「教材」という二つの言葉を、
機能の観点から並べてみたいと思います。

仮想敵も、教材も、
どちらもチームの外側に置かれる存在です。
そして、いずれも
「自分たちは今どこにいるのか」
「何が足りていないのか」
を考えるための、外部参照として使われます。

仮想敵の場合は、
「あのチームと比べて、私たちはどうか」
という問いが立ち上がります。

教材の場合は、
「あのやり方から、何を学べるか」
という問いが立ち上がります。

問いの形は違いますが、
どちらも、チームの視線をいったん外に向け、
内側にこもりすぎた思考をほぐす、という役割を果たしています。

この意味では、
仮想敵と教材は、ほぼ同じ機能を持っている
と言ってよいと思います。

では、何が違うのでしょうか。

一番大きな違いは、
その言葉がチームにもたらす感情の方向性です。

「敵」という言葉には、
どうしても対立や勝ち負けのニュアンスが含まれます。
それは、短期的な集中や結束を生みやすい一方で、
緊張感や防衛的な姿勢も同時に呼び起こします。

一方で、「教材」という言葉は、
学ぶこと、取り入れること、改善することを前提にしています。
比較はしても、相手を下げる必要はありません。
自分たちの未完成さを、
そのまま認めやすい表現でもあります。

ここまで見ると、
仮想敵と教材の違いは、
手法の優劣というよりも、
言葉が生み出す感情や関係性の違いだと言えそうです。

もう一つ、ここで整理しておきたいことがあります。

仮想敵と教材は、
機能的にはよく似た外部参照ですが、
どちらが先にチームに作用するかは、
メンバーやチームの成熟度によって変わる
という点です。

まだ自分たちの課題を言葉にできない段階では、
「学ぶ対象」としての教材よりも、
感情が先に動く仮想敵の方が、
入り口として機能しやすい場面も少なくありません。

学ぶ以前に、
まず視線を揃え、温度を上げ、
「自分たちの話」に引き戻す必要がある。
そうしたフェーズでは、
仮想敵が担ってきた役割は、今も有効です。

一方で、
ある程度チームが整ってくると、
対立や勝ち負けの構図は、
思考の幅を狭めてしまうことがあります。

この段階では、
仮想敵が持っていた機能を、
より穏やかな言葉に置き換えた方が、
チームの対話が広がりやすくなります。

つまり、
仮想敵と教材の違いは、
「どちらが正しいか」ではありません。
どのフェーズのチームに、
どの言葉が届きやすいか
という違いです。

ここまで整理してくると、
次に浮かんでくるのは、
こんな問いではないでしょうか。

では、今の時代や環境の中で、
なぜ「教材」という言葉が、
選ばれやすくなっているのか。

そして、
それでもなお、
場面によっては「仮想敵」という言葉を
使わざるを得ないと感じる現場があるのは、なぜなのか。

この問いを手がかりに、
次の章では、
言葉が選ばれる背景そのものを整理していきます。

第4章|では、今なぜ「教材」という言葉が選ばれやすくなっているのか

それでも、ここまで整理してきたうえで、
どうしても浮かんでくる問いがあります。

今後も、場面によっては
「仮想敵」という言葉を使わなくてはいけないのだろうか。

正直に言えば、
私自身、この問いに明確な「はい」や「いいえ」を
用意しているわけではありません。
ただ、現場に立ち続ける中で、
一つはっきりしてきたことがあります。

それは、
「教材」という言葉が、
多くの場面で“選ばれやすく”なってきている
という事実です。

ここで注意したいのは、
「教材」という言葉が
すべてのチームに通用するようになった、
という意味ではない、という点です。

実際、私が向き合っている現場の中には、
まだ「教材」という言葉がまったく響かないチームもあります。
そうしたチームにとっては、
学ぶ以前に、まず視線を揃えることの方が重要で、
その入口としては、
今も仮想敵の方が機能しやすいと感じる場面も少なくありません。

それでもなお、
社会全体を見渡したときに、
「教材」という言葉が選ばれやすくなっているのには、
いくつかの背景があるように思います。

一つは、
対立や競争を前面に出し続けることの
限界が見え始めていることです。

変化のスピードが速く、
正解が一つに定まらない環境では、
勝ち負けを軸にした比較だけでは、
前に進みにくくなってきています。

もう一つは、
組織やチームに求められる役割そのものが、
変わりつつあるという点です。

個人の成果を積み上げるだけでなく、
学び続ける力や、調整し続ける力が、
より強く求められるようになってきました。

こうした環境の中では、
「敵に勝つ」という表現よりも、
「何を学び、どう取り入れるか」という表現の方が、
チームの思考を広げやすくなります。

つまり、
「教材」という言葉が選ばれやすくなっているのは、
それが正解だからではなく、
今の時代や環境において、
誤解や摩擦を生みにくい表現だから
だと言えるのかもしれません。

ここまで整理してくると、
仮想敵と教材の関係は、
どちらかを選び、どちらかを捨てる、
という話ではなくなってきます。

大切なのは、
「どの言葉が、このチームに届くのか」
そして、
「その言葉は、今のフェーズに合っているのか」
を見極め続けることです。

仮想敵という言葉を使う場面が、
これからもゼロになるとは思っていません。
ただし、それは
使いやすいからでも、慣れているからでもなく、
その言葉が、今このチームを動かすかどうか
という一点で判断されるべきものだと思っています。

次の章では、
こうした外部参照そのものを、
どのように扱っていけばよいのか。
仮想敵や教材を「手段」として使いながら、
最終的にどこを目指しているのかについて、
あらためて整理していきます。

第5章|外部参照は、あくまで一時的な支点である

ここまで、
仮想敵や教材といった「外部参照」が、
チームを前に進めるうえで果たしてきた役割を整理してきました。

あらためて強調しておきたいのは、
私は、これらがゴールだとは思っていないという点です。

仮想敵も、教材も、
チームが自分たちの状態を捉え直すための支点にすぎません。
視線を外に向け、比較し、気づきを得る。
そのプロセスを助けるための、一時的な装置です。

支点があるからこそ、
チームは動き出しやすくなります。
内向きに閉じていた思考がほぐれ、
共通の話題や基準が生まれる。
これは、特に立ち上げ期や停滞期において、
とても大きな意味を持ちます。

一方で、
支点は、使い続けることを前提にしたものではありません。

外部参照がなくなると動けない。
比べる相手がいないと、自分たちの位置がわからない。
そうした状態に入ってしまうと、
チームの判断や成長は、どうしても外に委ねられてしまいます。

本来、チームが少しずつ力をつけていく中で、
外部参照の役割は変わっていくはずです。

最初は、
「外を見ることで、ようやく自分たちが見える」状態だったものが、
やがて、
「自分たちの中で問いを立てられる」状態へと移っていく。

この移行が起き始めたとき、
仮想敵や教材は、
前に出る存在である必要がなくなっていきます。

大切なのは、
いつ、どのタイミングで、
外部参照の比重を下げていくかです。

それは、
明確なチェックリストで判断できるものではなく、
チームの会話の質や、
問いの立ち上がり方、
リーダーがいなくても回り始める小さな動きの積み重ねの中で、
少しずつ見えてくるものではないでしょうか。

そして、
この外部参照の有無や強弱をどうコントロールするかが、
自走できるチームをつくっていくうえでの
リーダーの役割の一つではないかと私は思っています。

仮想敵を置くか。
教材と呼ぶか。

その選択そのものよりも、
その言葉が、
今のチームにとって
「前に進むための支点」になっているのか。
それとも、
「立ち止まり続けるための拠り所」になってしまっているのか。

この違いを見極め続けることが、
リーダーやコーチに求められているのではないでしょうか。

おわりに|本当に目指しているのは、外部を必要としない状態

この記事では、
仮想敵や教材といった言葉を入り口に、
チームが前に進むときに
「何を外に置くのか」について考えてきました。

ただ、ここまで書いてきてあらためて感じるのは、
本質は言葉そのものではない、ということです。

仮想敵という言葉を使うかどうか。
教材という表現に言い換えるかどうか。

それよりも大切なのは、
今、このチームが
外部にどれくらい頼る必要があるのかを、
リーダーが感じ取れるかどうかだと思っています。

外部を強く置いた方が前に進むフェーズもあれば、
少しずつ手放した方が、
チームの思考が育つフェーズもあります。

そのどちらが正しいかではなく、
今どちらが必要かを見極め、
必要に応じて調整していく。
その繰り返しの中で、
チームは少しずつ自分たちの足で立ち始めます。

外部を見なくても、
自分たちで問いを立て、
ズレに気づき、整えていける。

私がこれからもやっていきたいのは、
そんな状態に近づいていくプロセスに、
伴走し続けることです。

あなたのチームは今、
仮想敵を必要としているフェーズでしょうか。
教材を置いて学び始めるフェーズでしょうか。
それとも、
外部参照を少しずつ手放し始めるフェーズでしょうか。

メンバー間に能力差があるチームをどう設計するか ――管理職が担う「前提の解像度を上げる」という仕事

先日、とあるクライアントさんとのコーチングセッションが、
このテーマについて立ち止まって考えるきっかけになりました。

その方は、チームの人間関係を丁寧に整え、
メンバー同士の信頼関係も、少しずつ築いてきた管理職の方です。

中心的な話題は、
「メンバー間に能力差がある状態で、
どうチームを前に進めていけばいいのか」という問いでした。

配慮が必要なメンバーもいる。
一方で、成長を期待している優秀なメンバーもいる。
そして、チームとしては前に進まなければならない。

どれも間違っていない。
むしろ、真剣に向き合っているからこそ、
判断が簡単には割り切れない。

セッションを通して感じたのは、
この悩みは特定の誰かのものではなく、
多くの管理職が静かに抱えている問いだということでした。

この記事では、
そのときの対話をきっかけに、
「メンバー間に能力差のあるチームをどう設計していくのか」
というテーマについて、言葉を整理しています。

正解を出すための記事ではありません。
管理職として、
どこに解像度を上げて考えると、
チームが動きやすくなるのか。

その視点を、共有できればと思います。

はじめに

メンバー間に能力差があるチームは、前提条件である

チームの中に、能力差がある。
経験値も、得意分野も、体調も、ライフステージも揃っていない。

これは、特別な状況ではありません。
今の多くの職場では、ごく自然な前提条件です。

それでも多くの管理職の方は、
「この状態で、どうチームを回していけばいいのか」
一度は立ち止まる場面が出てくるのではないでしょうか。

けれど、その違和感の本質は、
「能力差があること」そのものに対するものではないように思います。

多くの場合、管理職の方が向き合っているのは、
能力差がある状況の中で、
どう設計するのが“いまのチームにとって妥当なのか”を、簡単には決めきれない
という感覚です。

やみくもに厳しくしたいわけでもない。
かといって、守ることだけを優先したいわけでもない。

配慮が必要なメンバーもいる。
一方で、成長を期待したい優秀なメンバーもいる。
そして、チームとしては前に進んでいきたい。

この3つを同時に成立させようとすれば、
判断が簡単でないのは、むしろ当然です。

この記事では、
「正解のマネジメント方法」を提示することはしません。

代わりに、
管理職として、どの部分の解像度を上げて考えると、チームの設計が現実的になるのか。
その視点を、ひとつずつ整理していきます。

管理職の仕事は、
すべてを抱え込むことでも、
すぐに答えを出し続けることでもありません。

状況をもう少し立体的に捉え、
判断の前提を整えていくこと。

ここから一緒に、
そのための視点を言葉にしていきましょう。

1|能力差のあるチームで、管理職が同時に抱える3つの前提

現場で本当によくある状態

メンバー間に能力差のあるチームをマネジメントするとき、
多くの管理職が、無意識のうちにいくつかの前提を同時に背負っています。

ひとつひとつを見れば、どれももっともな判断です。
けれど、それらが同時に存在するとき、
マネジメントは一気に難易度を上げます。

まずひとつ目は、
配慮が必要なメンバーには、無理な負荷をかけられないという前提です。

体調やコンディションの波があったり、
今は踏ん張りどきではない時期にいるメンバーもいる。
その状態を理解していればいるほど、
「これ以上は任せられない」という判断が自然と生まれます。

二つ目は、
優秀なメンバーには、成長につながる仕事を任せたいという前提です。

能力があり、責任感もある。
チームの中心として期待しているからこそ、
簡単な仕事ばかりではなく、
一段階上の経験につながる負荷をかけたいと考えます。

一方で、
自分ばかりが常に大きな負荷を背負っていると、
感じさせたくはない
という思いも同時にあります。

期待しているからこそ任せている。
けれど、その背景が伝わらなければ、
負荷だけが偏って見えてしまうこともある。

そして三つ目は、
それでも、チームとしては前に進んでいきたいという前提です。

守る判断と、育てる判断。
どちらかを優先すれば楽になる場面でも、
管理職は「チーム全体としての前進」を手放したくはありません。

この三つは、相反するものではありません。
どれかが間違っているわけでもありません。

ただし同時に満たそうとするなら、
チーム全体として
どの速度で進むのかを決めておくことが重要になります。

進むスピードが明確であれば、
仕事の重みづけや役割分担は、
必要以上に迷わずに済むようになります。

ここで大切なのは

メンバー間に能力差があるチームでは、
複数の前提を同時に扱いながら判断する場面が増えます。
いま管理職に求められているのは、
その前提をどう並べて、どう整理するか、という視点です。

能力差のあるチームをマネジメントするということは、
単純な正解を一つ選ぶ作業ではありません。

いまのチームにとって、
どの前提を、どの順番で扱うのか。
その整理の粒度が、そのままチームの動き方に表れていきます。

次の章では、
こうした前提が揃ったときに、
現場で「自然と起きてしまいやすいこと」について、
もう少し具体的に見ていきます。

2|管理職が示すべき「解像度」とは何か

業務の取捨選択・重みづけ・納期を、言葉にするという仕事

メンバー間に能力差があるチームでは、
「どう進むか」を決めるだけでは、まだ十分ではありません。

もう一段、
管理職として示しておきたいことがあります。

それは、
チームが前に進むための判断の解像度を揃えておくことです。

ここでいう解像度とは、
細かな指示や、逐一の確認を意味するものではありません。

むしろ、
メンバーがそれぞれの立場で判断するときに、
同じ前提に立てる状態をつくることを指しています。

具体的には、
次の三つを、運用できるレベルまで言葉にしておくことです。

① 業務の取捨選択

まず最初に必要なのは、
「すべてをやるわけではない」という前提を
チームとして共有することです。

今のこの時期に、
• 本当に取り組むべき仕事は何か
• 今はやらなくていいことは何か

これを管理職が言葉にしないままだと、
メンバーはそれぞれの判断で、
「やれることはすべてやろう」としてしまいます。

前進スピードを決めるとは、
やらないことを含めて決めることでもあります。

② 仕事の重みづけ(完成度の指定)

次に必要なのは、
任せる仕事ごとに
どの程度の完成度を求めているのかを示すことです。

すべての仕事に
同じ熱量や作り込みが必要なわけではありません。
• まず形にできれば十分な仕事
• 一定の品質でまとめればよい仕事
• しっかり時間をかけて仕上げるべき仕事

この違いが言葉として共有されていないと、
特に責任感の強いメンバーほど、
すべてを全力で仕上げようとしてしまいます。

重みづけを示すことは、
仕事の質を下げることではなく、
力を使う場所を揃えることです。

③ 納期と優先順位

三つ目は、
時間軸の明確化です。
• どれを先に終わらせたいのか
• どこまでを、いつまでにできていればよいのか

ここが曖昧なままだと、
メンバーはそれぞれの基準で
「急ぎそうなもの」から手を付けることになります。

納期を示すというのは、
詰めるためではなく、
判断の迷いを減らすためのものです。

この三つが運用レベルで共有されていると、
管理職がすべてを決め続けなくても、
チームは同じ方向に進みやすくなります。

解像度を上げるというのは、
管理を細かくすることではありません。

判断の前提を、先にそろえておくこと。
それが、能力差のあるチームを前に進めるための、
管理職の重要な仕事です。

次の章では、
この「解像度を上げる」という行為が、
決してマイクロマネジメントではない理由について、
もう少し整理していきます。

3|解像度を上げることは、細かく管理することではない

管理職が手放していいもの、手放してはいけないもの

「解像度を上げる」と聞くと、
細かく指示することや、
進捗を頻繁に確認することを思い浮かべる方もいるかもしれません。

けれど、ここで言う解像度は、
そうしたマイクロマネジメントのことではありません。

むしろ、
管理職が細かく見続けなくても済む状態をつくることに近い考え方です。

管理職が手放していいもの

まず、手放していいのは
日々の判断そのものです。

業務の取捨選択や、
仕事の重みづけ、
納期の優先順位。

これらが共有されていれば、
現場で起きる小さな判断は、
メンバー自身が行えるようになります。

管理職が逐一判断を下さなくても、
「この判断で問題ない」と、
メンバーが自分で確かめられる状態をつくる。

それが、解像度を上げるということの大きな意味です。

管理職が手放してはいけないもの

一方で、
手放してはいけないものもあります。

それは、
方向性と判断基準を示すことです。
• 今、どの仕事を大事にしているのか
• どのレベルまでを求めているのか
• 何を優先し、何を後回しにするのか

ここを曖昧にしたまま
「任せているつもり」になると、
現場には余計な迷いが生まれます。

解像度を上げるというのは、
裁量を奪うことではなく、
裁量を使いやすくする条件を整えることです。

解像度が低いと、なぜ管理が増えるのか

皮肉なことに、
判断の前提が曖昧なままだと、
管理職はかえって現場に関わらざるを得なくなります。
• 想定と違うアウトプットが出てくる
• やり直しが増える
• 状況説明のやり取りが増える

結果として、
「確認」「修正」「フォロー」に
多くの時間を取られてしまう。

管理が増える原因は、
管理しようとし過ぎていることではなく、
判断の前提が共有されていないことにあります。

解像度を上げると、チームはどう変わるか

解像度が揃うと、
チームの会話は少しずつ変わっていきます。
• 「これ、今やるべきですか?」
• 「ここは、8割で一度出しますね」
• 「納期を優先して、今回はこう判断しました」

こうした言葉が自然に出てくるようになると、
管理職は
「全部を管理する人」ではなく、
方向を確認する人になっていきます。

解像度を上げることは、
管理を強めることではありません。

チームが自分たちで判断できる範囲を、広げていくこと。
そのために、
管理職が最初に示すべきものを、
少しだけ具体にすることです。

次は最後に、
この記事全体をまとめながら、
管理職の仕事を一つの言葉で言い換えてみます。

まとめ|正解を出すのではなく、前提を揃える仕事

ここまで、
能力差のあるチームを前にしたとき、
管理職が何に向き合っているのかを整理してきました。

大事なのは、
「正しいマネジメントの型」を身につけることでも、
すべての判断を自分で背負い続けることでもありません。

メンバー間に能力差があるチームでは、
判断が難しくなるのは自然なことです。
問題は、その難しさを
個人の資質や決断力の話にしてしまうことにあります。

管理職の仕事は、
その場その場で「正解」を出し続けることではありません。

むしろ大切なのは、
チームとして
• 何をやるのか
• どこまでを求めるのか
• 何を優先するのか

こうした判断の前提条件を、運用できる形で揃えておくことです。

前提が揃っていれば、
現場の判断は一気にやりやすくなります。
管理職がすべてを見なくても、
メンバーは同じ方向を向いて考えられるようになります。

それは、
管理を強めることでも、
裁量を奪うことでもありません。

チームが自律的に判断できる範囲を、少しずつ広げていくこと。
そのために、
管理職が果たすべき役割があります。

メンバー間の能力差は、なくなりません。
状況も、常に変わり続けます。

だからこそ、
「どうすれば正解か」を探すよりも、
「何を前提として進むのか」を揃え続けること。

それが、
メンバー間に能力差のあるチームを前に進める、
管理職の仕事なのだと思います。

メンバーが気づいていない“停滞のサイン”。リーダーだけが感じる違和感の正体とは?

✏️ 【1. はじめに】

「数字は悪くないのに、何かが止まっている」そんな瞬間、ありませんか?

受注状況はそこそこ。

悪くはないと言える状況。

メンバーも、淡々と“やるべきこと”をこなしているように見える。

チームの状態も、ぱっと見は良好に見える。

けれど──

リーダーである自分だけが、薄い違和感に気づいている。

メンバーからも、
「順調です」
「ちゃんと動けています」
といった声が普通に出てくる。

でも、リーダーの目にはわかる。
• 行動が「これだけやっておけば大丈夫。」になっている
• ミーティングの空気に“勢い”がなくなってきている
• 「やり切るぞ」というエネルギーの温度が、じんわり下がっている

数字にはまだ表れない。
けれど、確かにチームのどこかで“静かな停滞”が始まっている。

これは経験あるリーダーほど敏感に察知する“空気の変化”。
逆に、メンバーは気づきません。
彼らは“いつも通り”の感覚で動き続けてしまう。

だからこそ、この最初の違和感に気づいたリーダーには、

「チームの空気を整える」という一番大事な仕事が発生します。

本記事では、
この“静かな停滞”の正正体と、
それを適切にほぐして再び前に進ませる「健全なカウントダウン」の使い方について、
現場の感覚に寄り添いながら解説していきます。

✏️ 【2. 営業チームに起こる“停滞のサイン”とは?】

“静かな停滞”は、数字の遅れよりも先に

チームの空気やメンバーの言動に現れる

ここでは、営業チームでよく見られる
4つの停滞の予兆 を見ていきましょう。

どれも表面上は小さな変化ですが、
放っておくと後半の数字にじわじわ効いてきます。

サイン①:行動が「必要最低限モード」になっている

「これだけやっておけば大丈夫ですよね」
「今日の分は終わりました」

こうした言葉が増えてきます。

表面上はちゃんと動いている。
でも、本当にやり切っている時にある “前のめりな姿勢” が薄れます。

営業は行動量が数字に直結する仕事。
その行動が “守りの動き” に寄っていくと、
徐々にチーム全体のギアが落ちていきます。

サイン②:ミーティングの空気に“勢い”がなくなる

ミーティングでの発言が減る。
声のトーンが落ちる。
やり取りのスピード感がなくなる。

一言で言えば、チームの“温度”が下がっている状態です。

良い時期は、
「これやってみます」
「こういう提案どうですか?」
と自然に言葉が出てくる。

停滞期は、
反応がワンテンポ遅れる、
同じテンションが続かない──など、
小さな変化が積み重なります。

サイン③:中位層(ナンバー4・5)が“受動モード”になる

トップは動く。
ボトムは支援の対象になる。
一番気づきにくいのは、

中位層の“ギアが入らない”状態

「今日はこれくらいで…」
「明日挽回します」

このあたりの言葉が増えたら要注意。
チームの空気は“中位層”がつくるため、
ここが受動的になると数字の伸びが止まります。

サイン④:個人数字ばかり気にして、視野が狭くなる

停滞が始まると、
メンバーは“数字に追われる感覚”を強めがちです。
• 「あと何件…」が口癖になる
• 行動以上に結果ばかりを気にする
• 新しい打ち手よりも“安全策”を優先する

こうした状態は、

チーム全体が“挑戦”ではなく“防御”に入っているサイン

ここまでの予兆は、
いずれも 「数字に出る前の、最初の揺らぎ」 です。

そして多くのチームでは、
リーダーだけがこれらの微細な変化に気づき、
メンバーは“いつも通り”の感覚で動き続けてしまう。

だからこそ、ここから先で紹介する

「健全なカウントダウン」

チームの空気を整える強い味方になります。

✏️ 【3. 停滞の正体は「プレッシャーの偏り」】

営業チームが停滞しはじめる背景には、
単純に「やる気が落ちた」や「能力の問題」というよりも、

チーム内でのプレッシャーのかかり方に偏りが生まれている

これは、現場を見ているとよく見られる現象です。

プレッシャーが“個人”に寄りやすいときに起きること

営業という仕事柄、
どうしても「個人数字」や「個人の責任」に意識が向きがちです。

もちろん大切な視点ではありますが、
そこに比重がかかりすぎると、
• 結果への意識が強まりすぎて、動きが小さくなる
• “ミスしないこと”が優先される
• 個人ごとで抱え込みやすくなる
• チーム内の相談や協力が少しずつ減っていく

といった変化が見られるケースもあります。

これが重なると、チーム全体のエネルギーが
“攻め”から“守り”に変わりやすくなります。

プレッシャーが“チーム全体”に向くと、動きが前に向きやすい

一方で、プレッシャーを

チーム全体で適切に共有できている状態

メンバーの動きは前向きに揃いやすくなります。

たとえば、
• 「あなたはあと何件?」ではなく
 「チームとしてあと◯◯件」 と考える
• 個人の責めや焦りではなく
 チームの残り数字を共有する
• “追い詰める感覚”ではなく
 前に進むためのエネルギーとして扱う

こうした関わり方をしているチームは、
自然と助け合いやアイデアのやり取りが増え、
行動も揃いやすくなっていきます。

停滞が生まれるとき、内部では何が起きているか

リーダーだけが「何かが止まっている」と感じる場面では、
このプレッシャーのかかり方に
わずかなアンバランスが生まれていることが多いように思います。
• 特定のメンバーに負荷が寄っている
• 中位層のエネルギーが上がりづらい
• チームとして数字を共有する機会が減っている
• 会話が“個人数字”に集まりすぎている

こんな状態が重なると、
チーム全体が少しずつ“守り”の動きになっていきます。

これは決して誰かが悪いわけではなく、
忙しい現場では自然に起きやすいことです。

だからこそ、「健全なカウントダウン」が役に立つ

次章で紹介する

「健全なカウントダウン」

このプレッシャーの偏りを“やさしく整える”ための実践的な方法です。

個人を追い詰めないまま、
チーム全体の目線と動きを揃えていくことができます。

停滞の空気が生まれる前に、
あるいは違和感を覚えたその瞬間に、
リーダーが打てる手として活用しやすい考え方です。

✏️ 【4. 健全なカウントダウンでチームを動かす】

チームに停滞の兆しを感じた時、
リーダーが使える手のひとつが

「健全なカウントダウン」

カウントダウンは、本来“追い詰める”ためのものではありません。
むしろ、

プレッシャーを個人からチームにやわらかく割り戻すための方法

と捉えると、現場でも使いやすくなります。

カウントダウンの目的は“焦らせること”ではない

数字を追う時期は、どうしても
メンバーそれぞれが“自分の数字”に意識を寄せやすくなります。

そんなときにこそ、
チームとして目線をそろえ、状況を共有し、行動の基準を整えることが、
停滞を防ぐための土台になります。

健全なカウントダウンは、そのための架け橋になる考え方です。

健全なカウントダウンの3つのポイント

① 個人ではなく“チームの残数字”を共有する

「あなたはあと何件?」ではなく、

「チームとして、あと◯◯件」

こうすることで、
個人が抱え込む感覚が薄れ、
自然とチームとして動きやすくなります。

② 毎日追わない。“定点”で見直す

カウントダウンを毎日行うと、
どうしても締めつけになりがちです。
• 週のはじまり
• midweek
• 週末の締め

など、週3回の定点観測だけでも、
チーム全体の進み方は大きく変わります。

③ 行動量の“最低ライン”を共有する

数字の話だけをしても、動きは変わりにくいものです。

そのため、

行動量の最低ライン(週◯件、1日◯件)

メンバーは動き出しやすくなります。

小さな承認で、チームの温度が上がる

カウントダウンを使って数字の話をするときは、
同時に “行動の事実を拾う承認” を一緒に添えると効果的です。

これは褒めるというより、

「見ているよ」というサインを送る関わり方

たとえば:
• 「動き出しが早かったのが印象的だったよ」
• 「今日の提案、しっかり準備してたね」
• 「あのお客様へのフォロー、すごくいいと思うよ」

いずれも、メンバー自身がコントロールできる行動を認める言葉です。

こうした声がけは、
“数字の話”でやや重たくなりがちな空気をほどよく中和し、
チーム全体の温度を整える助けになります。

健全なカウントダウンは、“整える技術”

停滞のサインを感じていても、
強くテコ入れする必要はありません。

目線をそろえる → 行動基準を整える → 行動の事実を拾う

という流れをつくるだけで、
チームはゆっくりと、でも確実に前に進みはじめます。

健全なカウントダウンは、
その流れを自然につくるための、シンプルで扱いやすい方法です。

✏️ 【5. 実際の現場で、健全なカウントダウンをどう使うか?】

健全なカウントダウンは、
“数字を追わせるテクニック”というより、
チームの動きを整えるための“関わり方” として使うと、現場で機能しやすくなります。

ここでは、営業リーダーが
日々のチーム運営の中でどのように取り入れると効果的かを、
いくつかの場面に分けて整理してみます。

① 朝礼・昼礼で「全体の位置」を短く共有する

朝礼や昼礼のような短い共有の場は、
健全なカウントダウンを最も自然に取り入れやすいタイミングです。

たとえば:
• 「今週はチームであと◯◯件。今日はこのあたりを意識していこう」
• 「ここまでの流れは悪くないね。この調子で進めよう」

ポイントは、
“個人”ではなく “チームとしての位置” を共有すること。

これだけでも、
メンバーの行動基準がそろい、
動きが自然に前向きになります。

② ミーティングの冒頭で「方向の確認」を入れる

ミーティングは、
数字の話が中心になりやすい時間です。

冒頭の1〜2分で、
リーダーが落ち着いたトーンで“方向”を示すだけでも、
その日の場の空気が整います。
• 「今日は、この3つだけ押さえて動きましょう」
• 「この流れは悪くないので、続けていきましょう」

細かく言いすぎないことがポイントです。
やるべきことがシンプルになると、
動きが整理されやすくなります。

③ 行動量が落ち始めたメンバーには“軽い声がけ”から入る

停滞が起きはじめると、
どうしても動き出しが重くなるメンバーが出てきます。

そんなとき、いきなり数字の話に入ると、
相手は守りに入りやすくなります。

まずは、

本人がコントロールできる行動の事実を拾う

• 「動き出しが早かったのが印象的だったよ」
• 「今日の提案、しっかり準備してたね」
• 「あのお客様へのフォロー、すごくいいと思うよ」

こうした声がけは、
「見てもらえている」という感覚を生み、
その日一日のエネルギーの底上げにつながります。

④ 中位層(ナンバー4・5)には“行動ベースの会話”を増やす

チームの空気をつくるのは、
トップでもボトムでもなく、
実は 中位層(ナンバー4・5) のメンバーです。

停滞が近いときほど、
この層と“行動ベースの問い”を交わしておくと、
チーム全体のギアが整いやすくなります。

使いやすい質問は、例えば:
• 「この1週間で、大事にしたいポイントは?」
• 「次に良くしていきたいところはどこ?」

広すぎず、狭すぎず、
本人の視点が自然に整理される問いです。

この問いをきっかけに、
メンバーは“数字”よりも “動き方の質” に意識が向きやすくなり、
停滞の時期でも前向きなギアを入れやすくなります。

⑤ 月末の追い込みでは“追い詰めない進捗共有”を使う

月末の数字の追い込み時期は、
チームの空気が重くなりがちです。

ここで大事なのは、

追い詰めずに“次の一歩”だけを短く示す

たとえば:
• 「ここまでの進み方は悪くないよ。あと少しだけ進めよう」
• 「今日はここまで来たね。明日はこのあたりを意識しよう」

淡々とした共有の方が、
プレッシャーの偏りを生みにくく、
チーム全体が落ち着いて動けるようになります。

健全なカウントダウンは、“チームの呼吸を整える技術”

数字を追う時期ほど、
焦り・疲れ・視野の狭まりがチーム内に生まれやすくなります。

健全なカウントダウンは、
そうした“乱れた呼吸”を整えていくような、
落ち着いたマネジメントの手法です。
• 目線をそろえる
• 行動基準を整える
• 行動の事実を拾う

この積み重ねが、
チームの動きをゆっくり、でも確実に前へ押し出していきます。

✏️ 【6. 実際に変化が起きたケース】

ある営業チームでは、
受注状況はそこそこ。
数字としては悪くはないのに、
リーダーは“静かな停滞の気配”を感じはじめていました。
• 行動が「これだけやっておけば大丈夫」に寄ってきている
• ミーティングに勢いがない
• 中位層のメンバーが少し受動的になっている

数字にはまだ表れないものの、
チームの“温度”がじんわり下がりはじめている──
そんな状況でした。

リーダーは強くテコ入れするのではなく、

とくに中位層に丁寧に働きかけながら、
チーム全体の動きを整えることに意識を向けました。

その上で取り組んだのが、次の3つのアクションです。

① 週6件の新規顧客訪問という、コントロール可能な目標を設定する

まず取り組んだのは、
**「行動量の最低ラインをはっきりさせる」**ことでした。

設定したのは、
メンバー自身がコントロールできる行動として、

週に6件の新規顧客訪問。

数字そのものではなく、
「まずは行動を整える」ことをチーム全体で共有しました。

これにより、
メンバーが“やるべき最初の一歩”をつかみやすくなり、
動き出しの重たさが減っていきました。

② チーム全体の数字をカウントダウンし、“個人”から“チーム”へ視点を戻す

次に行ったのが、

個人数字ではなく「チームとしての残数字」を共有すること。

朝礼や短いミーティングで、
• 「チームとしてあと◯◯件」
• 「今週は、この数字をみんなで進めよう」

といった“全体の位置”を短く伝えることで、
プレッシャーが個人に偏らず、
自然にチーム全体へと戻っていきました。

これによって、
メンバー同士の視線が“縦の数字”ではなく
**“横のつながり”**に向きはじめ、
空気が少し軽くなっていきました。

③ 行動に対して「ありがとう」を伝え、メンバーの動きを肯定する

そしてもうひとつ大切にしたのが、

行動へ「ありがとう」を伝えること。

提案に向けた準備や
お客様へのフォローなど、
メンバー自身がコントロールできる行動に対して
短く「ありがとう」を伝える。
• 「今日の準備、ありがとう」
• 「あのお客様へのフォロー、助かったよ」

こうした言葉が積み重なると、
数字に追われがちな時期でも、
チームの“温度”が下がりにくくなります。

承認は大げさにほめる必要はなく、
ただ “動いた事実を丁寧に拾う”
これだけでエネルギーが整っていきます。

■ 数字より先に、“動きが整いはじめた”

この3つを続けたことで、
チーム内に少しずつ変化が出始めました。
• 行動のペースが整う
• 中位層が受動性から抜けはじめる
• ミーティングの空気が少し明るくなる
• 個人数字よりもチーム全体の動きに関心が戻る

派手な変化ではなく、
「日々の動き方の質」が静かに改善されていくような変化でした。

数字が急に跳ねたわけではありません。
けれど、

動きの整い方が変わると、チーム全体のリズムも変わる。

その結果として、
後半の数字も自然に伸びていきました。

■ このケースが示すこと

大きなテクニックや強いテコ入れではなく、
この3つの“シンプルな整え”の積み重ねこそが、
停滞しかけたチームを動かす土台になるということです。
• 行動量を整える(週6件の新規訪問)
• 視点を整える(チーム全体のカウントダウン)
• エネルギーを整える(行動への「ありがとう」)

チームにとって必要だったのは、
この“整えるための関わり方”でした。

✏️ 【7. まとめ】

営業チームの停滞は、
数字の遅れとして表れる前に、
ほんの小さな違和感や温度の変化となって現れることが多いものです。

そして、その違和感に最初に気づくのは、
いつも現場を見ているリーダーです。

本記事で紹介した
“健全なカウントダウン”は、
その違和感を無理なく整えていくための、

シンプルで扱いやすい関わり方

停滞をほぐす3つの視点

記事の中で取り上げてきたように、
チームの停滞をほぐすためには、
大きな施策よりも、日々の“整え”の積み重ねが役に立ちます。

そのための3つの視点がこちらです:
• 行動量を整える
 週6件の新規顧客訪問のように、
 コントロールできる行動のラインを提示する。

• 視点を整える
 個人数字ではなく、
 チーム全体の数字をカウントダウンすることで、
 視野を“チーム”に戻す。

• エネルギーを整える
 提案やフォローなど、
 メンバー自身がコントロールできる行動の事実を拾い、
 「ありがとう」を伝える。

どれも派手ではありません。
けれど、こうした“小さな整え”が、
チームの呼吸をゆっくりと前に向けていきます。

“整える力”は、数字をつくる土台になる

リーダーは数字を動かす存在ですが、
数字そのものを“直接”動かすことはできません。

動かせるのは、

行動と視点とエネルギー。

ここを整えることで、
結果のほうが自然とついてきます。

健全なカウントダウンは、
その整え方をシンプルにしてくれる、
ひとつの実践的なツールです。

もし、あなたのチームでも
「数字は悪くないのに、どこかに停滞があるように感じる」
そんな瞬間があるなら、
今回紹介した“整える3つの視点”を、
ぜひ小さく試してみてください。

大きな変化ではなくても、
チームの動き方が静かに整い始めるのを感じられるはずです。

“確認”が信頼をつくる──限られた時間でチームが動き出す3つの仕組み

🟦 はじめに|限られた時間で、どう「伝える」か

「話す時間が足りない」
「一人ひとりに丁寧に説明したいけど、全員とは会えない」

──そんな現場を抱える管理職の方は少なくありません。

今回の記事のきっかけも、あるクライアントさんとのコーチングセッションでした。
その方は、客先に常駐して働く業務委託メンバーのマネジメントを任されています。
社内メンバーのように、日常的に顔を合わせて話せるわけではない。
加えて、すべてのメンバーが得意先の文化や文脈でほとんどの時間を過ごしている。
だからこそ、「限られた時間の中で、どう伝えるか」が常に課題になるのです。

打ち合わせや定例会の時間は短く、
話せるチャンスも多くて週1回。
その中で、方針を伝え、考え方を共有し、方向性を揃えなければならない。

「どうすれば、限られた時間の中で、効果的に“考え方や方向性の共有”や“共感”をつくり出せるのか。」
セッションでは、この点が本質的なテーマとなりました。

多くの職場で「伝える時間が足りない」と言われる中で、
実は“伝え方の工夫”と“確認の設計”で成果は大きく変わります。

今回の記事では、
そのセッションで見えてきたヒントをもとに、
限られた時間で、伝わるチームをつくるための3つのステップを紹介します。

🟨 第1章|伝える時間が限られているからこそ、“設計”が効果を発揮する

限られた時間の中で多くのことを伝えようとすると、
つい「要点だけ伝えよう」「細かい説明は省こう」となりがちです。
けれど実際には、そこに“解釈のズレ”が生まれることも少なくありません。

そんなときに役立つのが、「伝える前に、少しだけ設計しておく」という発想です。
これは、話す内容を固めるというよりも、
「どんな理解を得たいのか」を整理する時間をつくるという意味です。

🔹1. 目的を整理してみる

会話や打ち合わせの前に、
「今日、自分は何を理解してもらいたいのか?」と
一度立ち止まってみると、話す内容が自然に整理されます。

たとえば──
• 方向性を共有したいのか
• 行動の優先順位をそろえたいのか
• 判断基準を伝えたいのか

この目的が明確になると、話す順番や時間配分も決まりやすくなります。
短い時間だからこそ、“どんな理解を持って帰ってもらいたいか”に意識を向けておくことが効果的です。

🔹2. 情報を3つの層で整理してみる

メンバーが別々の現場や文化で働いている場合、
「背景」や「意図」を飛ばして伝えると、
その言葉の“意味”が伝わりにくくなります。

次のように3つの層で整理してみるのも一つの方法です。

1️⃣ 背景:「なぜこの話が必要なのか」

2️⃣ 意図:「どんな考え方に基づいているのか」

3️⃣ 行動:「具体的にどう動いてほしいのか」

この3層を意識して話すと、
相手が“自分の現場ではどう活かせるか”を考えやすくなります。

🔹3. 伝える順番を意識する

短時間の打ち合わせでは、
「手順や方法」から話したくなることが多いですが、
最初に“考え方”を共有するという順番を意識してみると、
話の伝わり方が変わってきます。

考え方が共有されると、
細かい指示を出さなくてもメンバーが判断しやすくなる。
その結果、後からの修正も少なくなります。

🔹4. “準備の5分”を味方につける

忙しい現場では、「準備の時間をとるのは難しい」と感じることもあると思います。
けれど、ほんの5分でも「何を、どんな順番で伝えるか」を考えておくだけで、
その後のコミュニケーションが驚くほどスムーズになることがあります。

設計とは、綿密に計画することではなく、
“相手が受け取りやすい形を考える”ための一呼吸
その小さな一手間が、限られた時間を有効に使うコツかもしれません。

🔸まとめ

• 「何を理解してもらいたいか」を整理してから話す
• 背景・意図・行動の3層で伝えるとズレが減る
• 手順よりも“考え方”を先に伝えてみる

時間が限られている状況こそ、
“話す”より“設計する”時間を少しだけつくる。
それが、伝わるチームづくりの第一歩になっていきます。

🟩 第2章|確認をどう効率的に設計するか

「ちゃんと伝えたつもりだったのに、ちょっとズレてた」
「話は通じたと思ったけど、動き方が違ってた」

──そんなこと、ないですか?

実はこの“ズレ”を防ぐ鍵は、
「確認の仕方をあらかじめ設計しておく」ことにあります。
ここでいう確認とは、「言ったことをもう一度確認する」というよりも、
“お互いの理解を揃える時間を持つ”という意味です。

時間が限られた現場ほど、
その「確認の時間」をどう取るかが、生産性に直結していきます。

🔹1. 確認の目的を共有する

まず大事なのは、「なんのために確認するのか」をチームで共有しておくこと。
確認は“間違い探し”ではなく、“方向をそろえる時間”です。

リーダーがあらかじめそういうスタンスを示しておくと、
確認の場が“チェック”ではなく“対話”になっていきます。

「ちょっとだけ確認しておこう。お互いズレたまま進めるのはもったいないしね。」

こんな軽い一言で、場の雰囲気はずいぶん柔らかくなります。

🔹2. “言葉”じゃなく“行動”で確認する

限られた時間で確認するときに効果的なのが、
「わかった?」じゃなくて「どう動く?」と聞く方法です。

たとえば──

「この方針で行くとして、最初にどんな対応から始める?」
「次の打ち合わせまでに、どこまで整理しておきたい?」

こう聞くと、相手の理解度が“言葉”じゃなく“行動イメージ”で返ってきます。
それが一番確実な確認になります。

🔹3. 確認のタイミングを“ルーティン化”する

毎回、確認の時間を別で設けるのは正直むずかしいですよね。
だからこそ、**確認を「仕組みの中に入れる」**という考え方が役立ちます。

たとえば、
• 定例ミーティングの最後3分を「共通理解の整理タイム」にする
• チャットの最後に「理解したポイントを一文で返す」
• プロジェクトの節目に「認識合わせのメモ」を残す

こうしたちょっとした習慣を仕組みにしておくと、
確認が“特別なこと”じゃなく“自然な流れ”になります。

🔹4. “確認のコスト”を減らすには(鍋蓋組織での工夫)

今回のように、各メンバーがそれぞれ別の常駐先で働く“鍋蓋型”の組織では、
「チームとしての確認」が起きにくい構造があります。
同じ現場でフォローし合うことができないぶん、
リーダーが個別にコミュニケーションを取る負担がどうしても大きくなる。

だからこそ、“接点の質を上げる”ことで確認のコストを下げるという考え方が大切です。

🟩 ① “報告の形式”を決めておく

毎回、報告のスタイルがバラバラだと、それを整理するのに手間がかかります。
たとえば、次の3項目を共通ルールにしておくだけでも、ぐっと確認がラクになります。

• 今週やったこと
• やってみて気づいたこと
• 来週どう動くか

これだけでも、やり取りの中で「考え方」や「方向性」が見えやすくなります。

🟩 ② 「同期」じゃなく「非同期」で確認をまわす

全員とリアルタイムで話すのがむずかしい場合は、
**“非同期で確認する”**仕組みを取り入れるのもひとつの方法です。

たとえば、
• 定例の前に「今週の共有メモ」を簡単に送ってもらう
• 打ち合わせでは、それを前提に“ズレ”だけをすり合わせる

こうすることで、打ち合わせの時間を“説明”ではなく“確認”に使えるようになります。

🟩 ③ “反応”をもらいやすい問いかけを使う

「了解です」だけで終わってしまうと、
確認できたようで実はズレていた、なんてこともありますよね。

そんなときは、ちょっと問いを変えてみると違います。

「今日の話で、どの部分を一番意識したいと思った?」
「次までに、どんなことを試してみようと思う?」

こんな問い方をすると、
相手の中で何が響いているか、どこまで理解が進んでいるかが自然に見えてきます。

🟩 ④ “確認しやすい関係性”をつくる

仕組みだけじゃなくて、
「確認されることがイヤじゃない関係」をつくっておくのも大事です。

確認って、“監視”ではなく“信頼の再同期”。
その感覚が共有されていれば、短い対話でもお互い気持ちよく動けます。

🔸まとめ

• 確認は“チェック”じゃなく“方向をそろえる時間”
• 「どう動く?」で理解を確かめる
• 定例やチャットの中に“確認の習慣”を組み込む
• 鍋蓋組織では、“接点の質”を上げて確認コストを下げる

リーダーが全員を直接見られないからこそ、
「短い接点を濃くする」ことが、最大の確認効率化になります。

🟧 第3章|“関係の設計”が信頼を育てる

「伝える」と「確認する」を丁寧に設計できるようになると、
少しずつチームの関係性そのものが変わっていきます。

最初は“業務の効率化”として始めた仕組みが、
いつの間にか“関係の質”を高める土台になっていく。
それが、関係の設計=信頼を育てる仕組みづくりです。

🔹1. 「見てもらえている」という安心感を設計する

人は、自分の仕事をちゃんと見てもらえていると感じたとき、
自然と前向きなエネルギーが湧いてきます。

確認の時間は、単に“内容をそろえる”ためだけじゃなく、
「あなたの取り組みをちゃんと見ているよ」というメッセージにもなる。

「前に話してたあの件、進んできたね」
「あの判断、すごく助かったよ」

たったそれだけでも、
相手は“評価されている”よりも“理解されている”と感じます。

関係の設計とは、こうした小さな安心の接点を意図的に散りばめていくこと。
その積み重ねが、信頼の基盤になります。

🔹2. “確認”を支援の対話に変える

一見すると「確認」は“自律”を妨げるようにも見えます。
でも実際は、伝える設計・確認の設計が整っていれば、
確認は“干渉”ではなく“支援”として機能します。

「この方向で進めてみようと思うけど、どう感じる?」
「OK、まずやってみよう。途中で違うと思ったらその時また話そう。」

このやり取りの中にあるのは、支配ではなく支えです。
関係の設計とは、こうした“対話の構造”をチーム内に仕込むこと。

リーダーが「確認=見守り」として関わる姿勢を持つだけで、
メンバーの行動の質が自然と変わっていきます。

🔹3. ミスを恐れず話せる関係を設計する

確認がうまく回るようになると、
チーム内で「間違いを隠さない」空気が生まれます。

確認を“責任追及”ではなく“早く整えるための習慣”として扱うことで、

「少し迷ってるんですけど…」
「いまのやり方、少しズレてるかもです」
といった会話が自然に出てくるようになる。

それが、チームが“学習する組織”へと育つ最初のサインです。
関係の設計とは、こうした**「話せる安全圏」を意図的につくること**なんです。

🔹4. 関係を支える“構造”を持つ

信頼は感情だけでは続きません。
「安心して話せる」「任せられる」その状態を支えるために、
関係を維持する構造を持つことが大切です。

たとえば──
• 定例の最後3分を「お互いの確認タイム」にする
• チャットで「今週助かったこと」を1行だけ共有する
• 1on1では“結果”よりも“考え方”をすり合わせる

こうした小さな構造が積み重なることで、
信頼は一時的なムードではなく“再現可能な関係性”になります。

🔸まとめ

• 確認は“見張り”ではなく“見守り”
• 安心の接点を設計することで、信頼の基盤ができる
• 支援の対話を仕組みに変える
• 「話せる安全圏」を意図的につくる
• 関係を支える構造が、信頼を持続させる

確認とは、単なる業務プロセスではなく、
関係をデザインするリーダーシップの実践なんです。

リーダーがその意図を持って関係を設計すると、
チームは少しずつ、自分たちで考え、支え合いながら動く存在に変わっていきます。

🟫 まとめ|3つの設計がつくる、信頼で動くチーム

ここまで見てきたように、
限られた時間の中でチームを動かすには、
「伝える」「確認する」「関係をつくる」の3つを
“設計”という視点で捉えることが大切です。

🔹① 伝える設計

伝える内容・順序・意図を整理して話すことで、
短い時間でも「何を」「なぜ」やるのかが明確になります。
これが、チームの“理解の基礎”になります。

🔹② 確認の設計

「どう確認するか」を仕組みとして設計することで、
理解のズレを防ぎ、考えの共有を加速させることができます。
確認は“チェック”ではなく、“対話”に変わっていく。

🔹③ 関係の設計

そして、伝える・確認するを繰り返す中で、
その仕組み自体がチームの信頼を育てていきます。
安心して話せる関係、支援としての対話、
それを支える構造──これが信頼を支える「関係の設計」です。

3つの設計は、どれかひとつでは機能しません。
伝え方が整うと確認がスムーズになり、
確認の質が上がると関係が深まり、
関係が強くなることで、再び“伝える”が通じやすくなる。

この循環が生まれたチームは、
指示で動くのではなく、信頼で動くチームへと変わっていきます。

「伝える設計」

「確認の設計」

「関係の設計」

それぞれは別々の仕組みのようでいて、
実はひとつの信頼循環をつくる“チームの設計図”です。

💬 最後に問いかけを

今週、あなたのチームで
「伝え方」「確認の仕方」「関係のつくり方」──
どこに小さな一歩を加えられそうですか?

その一歩が、チームの信頼の循環を
静かに動かし始めるかもしれません。

“伝わらない立場”にいるリーダーへ──支える力を言葉に変えるヒント

はじめに|「言っているのに、伝わらない」

「ちゃんと伝えたつもりなのに、なぜか伝わらない」──。

そんな感覚を抱えたまま日々を過ごしているリーダーは少なくありません。

上司には、現場の課題や限界を言葉にして伝えている。

メンバーにも、社長の意図をできるだけ丁寧に説明している。

どちらにも誠実に向き合っているのに、なぜか誤解されたり、

“わかってもらえない”まま話が終わってしまう。

声の大きさの問題でも、説明力の問題でもない。

それはむしろ、組織の中で立っている位置がそうさせている。

上と下のあいだに立つ人ほど、言葉が空中でほどけていくような感覚を抱く。

支える立場のリーダーが感じる「伝わらなさ」は、

怠慢でも無関心でもなく、誠実さの副作用なのかもしれません。

先日、とある社員数百名規模の企業で取締役を務める方との

コーチングセッションの中で、彼女が抱えるジレンマを聞くことがありました。

「上にも下にも伝わらない」と語るその言葉の奥には、

長く続く努力と、静かな諦めが同居していました。

現状の構造|上にも下にも「中継するだけ」のポジション

その取締役の彼女は、社長の言葉を現場へ、

現場の声を社長へと橋渡しする役割を担っている。

日々、経営会議と実務のあいだを往復しながら、

どちらにも混乱が生まれないように気を配り続けている。

社長から新しい方針が下りると、彼女はまず内容を整理し、

現場にどう伝えるのが最も理解されやすいかを考える。

会議資料を整え、言葉をやわらげ、

時には「社長の意図」を代弁するような形でメンバーに話す。

一方で、現場で生じる課題や不安を社長に届けるのも彼女の仕事だ。

「この仕組みでは運用が難しそうです」「今の時期に実施するのは負担が大きいかもしれません」

──そんな現場のリアルを慎重に伝えるが、

返ってくるのは「いや、それはできる」「やるしかない」という言葉。

社長には、現場の戸惑いや混乱が“やればわかるはずのこと”であったり、

“覚悟の足りなさ”に映っているようだ。

けれど、彼女には**“見え方のずれ”に見えている。**

気づけば、自分の言葉がどちらにも届かないような感覚が残る。

経営の近くにいながら、意思決定には関われない。

現場を理解しているのに、裁量を発揮できない。

社長は現場の未熟さを感じ、

現場は社長の“方針がコロコロ変わる”ように見えて苛立っている。

そのあいだに立つ彼女は、どちらの言い分も理解できるがゆえに、どちらからも距離を置かれる。

ときに社長の意図を代弁すれば、現場から反発を受け、

現場の声を拾えば、社長から「言い訳に聞こえる」と言われる。

だからこそ、一番誠実に立ち回っているのに、いちばん板挟みになる。

この立場の孤独は、静かだけれど、深い。

内省|「伝わらない」には3つのパターンがある

彼女が感じている「伝わらなさ」は、

単に言葉の選び方や伝達手段の問題ではない。

その根っこには、**立場によって異なる“伝わらなさの構造”**がある。

そしてそれは、大きく三つのパターンに分けられる。

① 上に伝わらない──現場のリアルが、理想の中で薄まる

社長は、会社全体を動かすための理想やスピード感を大切にしている。

だから、現場の課題を聞いても「やればできる」と返す。

そこには、成長への信念もあれば、現実への鈍感さもある。

一方で、彼女が丁寧に言葉を選ぶほど、

その“現場の温度”は、社長の頭の中で抽象化されていく。

結果として、伝えたはずの内容が、意味の輪郭を失っていく。

② 下に伝わらない──社長の意図が、彼女の口を通して弱まる

彼女は、社長の方針をできるだけ柔らかく、誤解を生まないように伝えようとする。

けれど、その“配慮”が意図の鮮度を下げてしまう。

現場のメンバーには、「また上からの指示か」としか届かない。

伝えようとすればするほど、言葉が摩耗していく。

③ 自分にも伝わらない──“考えること”を自分の役割としていない

上にも下にも橋をかけ続けるうちに、

「自分はどうしたいのか」「どうすべきなのか」を言葉にする機会が少なくなっていく。

社長の意図を理解し、現場の状況を整理する──

その“翻訳”の仕事に意識の大半を使っているからだ。

彼女は、経営の意図を正確に伝えることが自分の役割だと信じている。

だから、自分の意見を明確にする必要をあまり感じていない。

仮に「どう思う?」と問われても、

経営の全体像を描くための視点や経験がないまま、

自分の言葉を整えることができずにいる。

誠実に動いているのに、

その誠実さが“自分の意思”を育てる方向には向かっていない。

ここに、彼女が抱える“伝わらなさ”の根がある。

“伝わらない”という現象の背景には、

伝える力の不足ではなく、それぞれが見ている位置の違いがある。

そのズレを整理することが、次に進むための第一歩になる。

その“一歩”とは、何か。

転換点|“翻訳”から“意味づけ”へ

「社長の言葉をどう伝えるか」──

これまでの彼女の関心は、ほとんどがその一点にあった。

誤解を防ぎ、現場を混乱させないように。

社長の意図を崩さずに、できるだけわかりやすく。

けれど、どれだけ丁寧に“翻訳”しても、

現場が動かなければ、経営は進まない。

彼女はそのシンプルな事実に気づきはじめている。

少しずつ、彼女の中に「伝える」よりも

“どう受け取らせるか”という視点が生まれてきた。

それはまだ言葉にならないけれど、

“翻訳者”ではなく“意味づけを促す人”としての小さな目覚めでもある。

社長の言葉をそのまま伝えるのではなく、

「こう受け取りました。こう動くことで、こんな変化が想定されるので、まずそこまでやります。」

と返してみる。

それは、“意図をくんでもらう”ためではなく、

動いてもらう中で気づきを生み出すための返し方だ。

現場に理解を求めすぎず、

段階的なアプローチで「現場が動く」ことを優先する。

その小さな実践が、やがて“現場が自ら意味づけできる組織”への土台になっていく。

「伝える」から「動かす」へ。

その転換が、彼女自身の言葉に“自分の意思”を取り戻していく第一歩になる。

結び|「支えるリーダー」に共通する、静かなテーマ

今回の彼女のケースは、決して特別なものではない。

「支える立場」にいる人ほど、

自分の意思よりも、誰かの意図を優先してしまう。

その誠実さが、いつの間にか“自分の言葉の薄まり”につながっていく。

けれど、経営やチームが動くためには、

支える側がただの“翻訳者”で終わってはいけない。

言葉の背景を理解し、状況の意味を整理し、

ときに「まずこう動いてみます」と意思を返す。

その小さな対話の積み重ねが、

組織に“考える文化”をつくっていく。

支えるリーダーの成長は、

声を大きくすることでも、立場を強く主張することでもない。

状況の中で、自分なりの意味を見つけ、行動で示すこと。

静かに、けれど確かに組織を変えていく。その姿勢が、支えるリーダーの原点だ。

経営の信頼は“成果”よりも“姿勢”で積み上がる

1. 成果はわかりやすい、でもそれだけでは足りない

経営をしていると、どうしても「成果」で物事を測りがちです。

売上や利益、数字として表れる結果は、経営者、管理職、現場の間で共通言語にしやすいからです

でも、あるクライアントさんとのセッションでの出来事が、改めてぼくに問いを投げかけてきました。

その方は、自社で進めていたプロジェクトがうまくいかず、やむを得ず作り直しに至った案件を振り返っていました。

「結果」として見れば、顧客に満足を与えられなかった事例です。

ところが、その中で光ったのは「失敗をどう受け止め、どう対応したか」という姿勢でした。

顧客への謝罪を避けずに向き合い、必要なパートナーを紹介し、顧客の得たい「結果」に対して今、自社ができることをやり遂げようとする姿勢

それを経営者として実践しようとする姿を目の当たりにして、ぼく自身も大きな気づきを得ました。

──信頼は「成果」ではなく「姿勢」で積み上がるのではないか。

この記事では、その気づきを整理しながら、経営に携わる方にとってのヒントをお伝えしていきます。

2. 数字に頼りすぎると信頼の土台を見失う

成果はわかりやすく、数字で示せます。

経営において数字は間違いなく大切で、売上や利益といった指標がなければ、組織は健全に続けられません。

経営者・管理職・現場、それぞれの立場で共通言語にしやすいのも「数字」という形だからこそです。

ただ──数字だけを拠り所にすると、信頼の土台を見失ってしまうことがあります。

「成果が出たときは評価されるけれど、出なかった瞬間に一気に信頼が揺らぐ」

そんなとき、現場では数字の良し悪しに一喜一憂し、チームの安定感が大きく揺れ動く光景を、ビジネスコーチとして様々な現場で見てきました。

一方で、数字だけでは測れない信頼の軸があります。

それが「どんな姿勢で臨んでいるか」という部分です。

成果が出ているときも、出ていないときも、誠実に相手と向き合い続ける姿勢があるかどうか。

ここが、数字だけでは語れない長期的な信頼を左右していきます。

大切なのは、成果と姿勢のどちらか一方を選ぶことではありません。

数字を追うことと、姿勢を示すことの両輪がそろって初めて、信頼は安定して積み上がっていくのだと思います。

3. 信頼を積み上げる本当の力は「姿勢」

成果は一時的なものですが、姿勢は日常の積み重ねとして相手に映ります。

たとえば「謝るべきときにきちんと謝る」「不都合なことも隠さずに伝える」「できないことを無理に抱え込まず、適切なパートナーにつなぐ」──こうした一つひとつの姿勢が、長い時間をかけて信頼を形づくっていきます。

逆に言えば、姿勢はごまかせません。

成果だけを追っているときには見えにくい部分ですが、人は「この人はどういうスタンスで向き合ってくれているのか」を敏感に感じ取ります。

だからこそ、数字が思うように出ていないときほど、姿勢が信頼の決め手になるのです。

ある経営者のクライアントさんも、プロジェクトが計画通りに進まなかったときに、ただ謝罪するだけでなく「顧客の得たい結果に対して、今、自社ができることをやり遂げよう」とする姿勢を示しました。

その姿勢が、信頼を継続させるための大切な一歩になっていました。

信頼は、成果の波に左右されない「姿勢」という土台の上に積み上がります。

その姿勢は、日常のちょっとした態度や対応の中に表れ、相手に安心感や一貫性を感じさせます。

4. 姿勢が信頼を変えた3つの事例

「姿勢」が信頼に影響を与えるのは、抽象的な話ではありません。

現場では、ちょっとした態度や対応の積み重ねが、実際に関係を左右していきます。

今回の記事のきっかけになった、ある経営者のクライアントさんは、

顧客から「プロジェクトで制作したシステムが、運用開始後に現場からの要望で改修が必要になり、他社に開発を依頼することにした」との連絡を受けました。

このクライアントさんはきちんとお客様と向き合い、必要なパートナーを紹介し、

「顧客の得たい結果に対して、今できることをやり遂げる」姿勢を示したのです。

誠実に対応することで、今後の信頼を構築している最中です。

また、営業力がとても高い別のクライアントさんの会社では、

顧客との関係がうまくいかなくなっているときほど、営業所長や営業課長が率先して顧客先に出向くことを当たり前に行っています。

その姿勢が、商品の品質の高さとともに会社のブランドへの信頼を、より確かなものにしているのです。

そして、少し手前味噌な事例ですが──

ぼくが会社員時代、商品の企画や開発に関わる仕事をしていた頃のことです。

ぼくが企画に携わった商品で、製造現場のミスなどからトラブルが発生することが時々ありました。

そういう時に、ぼく自身がまず顧客のもとへ出向き、お話をきちんと聴くようにしていました。

結果としてお客様との距離がグッと縮まり、それ以前よりも強い信頼とともにビジネスをご一緒させていただくという経験が、幾度となくありました。

成果が出ているときはもちろんですが、むしろ成果が揺らいだときほど「姿勢」が信頼を変えていきます。

数字では測れないけれど、日常のふるまいが確実に相手の心に残り、長期的な関係性を支えるのです。

5. 経営者が姿勢を磨く3つの実践ポイント

姿勢は一朝一夕で身につくものではありません。

けれども、日々の意識や小さな行動の積み重ねによって、少しずつ磨いていくことができます。

ここでは、経営者として実践できる3つのポイントをまとめてみます。

1. 短期的な成果に一喜一憂せず、中長期の視点を持つ

数字や成果はもちろん大切です。

ただ、経営を続けていくうえで本当に必要なのは、中長期で信頼を積み上げる姿勢です。

「この判断は、3年後・5年後の会社にどんな意味を持つか」という問いを一つ加えることで、目先の成果に流されず、落ち着いた判断ができるようになります。

2. 不都合なことほど率直に伝え、組織の文化にする

トラブルや想定外のことは、必ず起こります。

そのときに「隠す」より「正直に伝える」ことが、信頼の礎になります。

経営者が自らその姿勢を示すことで、社員も同じ姿勢をとるようになり、誠実さが組織文化として根づいていきます

3. 自社だけで抱え込まず、外部の力を戦略的に使う

限られたリソースの中で、すべてを自前で解決するのは現実的ではありません。

必要に応じて信頼できるパートナーや専門家を紹介することは、顧客にとって「責任を持って対応してくれた」という安心につながります。

そして、このときに借りた外部の力をきちんと分析することが大切です。

どんな技術力を自社として獲得すべきか、どのリソースはアウトソースを継続すべきか、適切な外部パートナーは誰か──。

外部協力を単なる応急対応にせず、向後の経営戦略を明確にしていく機会へとつなげられます。

信頼を支えるのは、目に見える成果だけではなく、日常ににじみ出る姿勢です。

今日からできる小さな一歩に、中長期のビジョンを重ねていくことで、やがて大きな信頼を築く力へと変わっていきます。

6. まとめ──信頼は成果以上に姿勢で築かれる

経営の現場では、つい「成果」ばかりに目が向きがちです。

もちろん成果や数字は大切で、組織を維持し成長させるための共通言語でもあります。

けれども、信頼の本当の土台になっているのは、日々ににじみ出る「姿勢」です。

謝罪の仕方、誠実な説明、パートナーを紹介する判断、中長期を見据えた行動──。

そうした小さな積み重ねこそが、長期的な信頼を支えています。

成果は一時的に上下しますが、姿勢はどんな状況でも示すことができます。

だからこそ、「この人となら長く付き合いたい」と思ってもらえるかどうかは、成果以上に姿勢にかかっているのだと思います。

この記事を読んでくださっている経営者の方も、改めてご自身の「姿勢」を振り返ってみてはいかがでしょうか。

明日の一歩を考えるとき、まずは「どんな姿勢を示すか」から始めてみてください。

会社文化と自分らしさ、そのはざまで──バランスを取り戻す小さなヒント

会社文化と“自分らしさ”の間で揺れるとき

先日、とあるクライアントさんとのコーチングセッションで、こんな気づきがありました。
それは──**「プロ意識を取り戻すこと」こそが、その方の課題の本質的な解決策につながる**ということです。

その課題とは、会社文化を受け入れきれずに“自分らしさ”との間で揺れる気持ちをどう扱うか、ということでした。

このテーマは、特定の誰かだけに限らず、多くの人に共通するものだと感じています。
大企業の中で働いていると、組織の文化や空気にどうしても影響を受けます。会社の伝統的な価値観や文化、外から見ると独特な暗黙のルール。そうしたものに触れ続けるうちに、「自分はどう働きたいのか」「どんな価値を提供したいのか」という基準が、少しずつ揺らいでしまうことがあるのです。

会社の文化に明確な違和感を感じている方もいれば、
「どこの会社もこんな感じで、ただ自分の価値観とずれているのだろう」と思い込んでしまう方もいるかもしれません。

実はその背景には、転職の経験がある人と、新卒から一社で働き続けている人とで、
“違和感の解像度”が違うという可能性があります。

もちろん、こうした会社の文化に適応していくことは、円滑に仕事を進める上で欠かせないでしょう。
しかし、適応に偏りすぎると、自分のスタイルや考え方を置き去りにしてしまう。
その結果、“プロとしての誇り”や“自分らしさ”が曖昧になり、仕事へのエネルギーも削がれていきます。

今回のセッションでの気づきを通じてあらためて思ったのは、これは決して個人の弱さの問題ではなく、
「個人」と「組織」とのバランスをどう取るかという普遍的なテーマだということです。

会社文化との付き合い方──“適応”と“距離感”

会社という組織には、それぞれ固有の文化があります。
それは理念や制度といった目に見えるものだけでなく、日々の会話の雰囲気や、当たり前とされている働き方のリズム、そして「ここではこうするものだ」という無言の圧力まで含まれます。

文化にうまく適応することは、円滑に仕事を進めるうえで欠かせません。新しい環境に入ったときほど、まずは周囲の空気に合わせることが重要です。そこから信頼関係が生まれ、任される仕事も広がっていくからです。

一方で、適応に偏りすぎてしまうと、次第に「自分は何を大事にしたいのか」が見えなくなっていきます。会社の文化に完全に飲み込まれると、思考や判断の基準が自分の外側にあることになり、やがて疲れや違和感につながってしまいます。

一概に正解があるわけではないと思いますが、ビジネスコーチとして様々な組織の方々を支援してきた経験から言うと、
大切なポイントのひとつは、“どこまで適応するか、どこからは自分を守るか”を意識的に決めることだと感じています。

つまり、会社文化との関係は「ゼロいち」ではなく、“適応”と“距離感”のバランスを取り続けることが、プロとしての健全さを保つカギなのです。

プロとしての姿勢を取り戻すためにできること

プロ意識を揺らさないためには、まず「自分はどうありたいか」をあらためて確認することが欠かせません。
会社の文化や環境は変えられなくても、自分の立ち位置や姿勢は自分で選び直すことができます。

その際に、「違和感の感受性」には人によって差があることを心に留めておくことも大切です。

たとえば、転職経験がある人は、別の文化を知っているからこそ今の環境に違和感を覚えやすい。
一方で、新卒から一社に勤めている人は「どこの会社もこんなものだろう」と思い込みやすく、
本当はうまく言葉にできないだけで会社とのズレを感じていても、比較対象がないために「自分だけがズレている」と思い込み、苦しんでしまうケースがあります。

この点も踏まえると、これまで様々な立場のビジネスパーソンをコーチングしてきた経験から、
次のような取り組みが効果的であることが多いと感じます。

• 自分の強みを棚卸しする

「努力せずに自然と評価されていること」を書き出してみる。
それは、プロとしての価値を支えている“素の力”です。

• 外の世界に触れる機会を増やす

社外の勉強会や副業のチャレンジ、異業種の人との会話。
会社の内と外、両方の視点を持つことで、バランスが整います。

• 評価の軸を自分に取り戻す

周囲の期待や組織の基準だけでなく、「私はどういう仕事を誇りに思うか」という視点で日々を見直してみる。

こうした「自分の基準をどこに置くか」を少しずつ確かめていくことが、プロ意識を整えていく大切なプロセスになります。

プロ意識を支える“小さなルール”

プロ意識を取り戻すといっても、大きな変化を起こす必要はなく
むしろ日常の中で、ささやかな「小さなルール」を持つことが、自分を支える大きな力になります。

• 仕事の区切りを意識する

たとえば、始業と終業の時間を自分で決める。メールを送る時間を区切る。
こうした小さな線引きが「ここからは仕事」「ここからは自分」という切り替えを助けます。

• 一日の成果を短く言葉にする

「今日はこれをやり切った」と3行程度でまとめる。
仕事に流される感覚を減らし、自分の達成感を確かめられます。

• 感情を外に出す練習をする

モヤっとしたら心の中で飲み込まず、言葉やメモで表現してみる。
それだけで冷静さを取り戻すきっかけになります。

こうした小さなルールは、実際にやってみると思いのほか気持ちよく感じるものです。
おそらく自己承認ができるからでしょう。
そして、それが積み重なると、会社の文化に流されすぎず、かといって突き放すこともなく、バランスを保ちながら働くことができるようになります。

プロとしての姿勢は、一度決めたら揺るがないものではありません。
日常に置いた“小さなルール”が、揺らぎを整える支えとなり、自然と自分らしい働き方へと導いてくれるのです。

まとめ:流されず、自分を守る働き方

会社文化との違和感に苦しむとき、どう自分を守り、働き方のバランスを整えるか──今回の記事でお伝えしてきたのは、この問いへのヒントです。
どのように自分を守り、働き方のバランスを整えていけるのかについて考えてきました。

• 企業には伝統的な価値観や文化、独特な暗黙のルールがあり、それに触れ続けるうちに自分の基準が揺らぐことがある。

• 文化に適応することは必要だけれど、「ゼロいち」ではなくバランスを取ることが大切。

• そして、そのバランスを取る方法のひとつが、プロとしての姿勢を取り戻すことです。

• 具体的には、「自分はどうありたいか」を確認し、誇れる基準を自分で選ぶこと。

• 日常に“小さなルール”を置くことで、自然とバランスを取り戻せる。

プロ意識とは、特別な肩書きや完璧な成果のことではなく、
むしろ、日々の中で「自分の基準をどこに置くか」を選び直し続ける姿勢そのものではないでしょうか?

会社の文化にただ流されるのでもなく、突き放すのでもなく。
自分らしいプロ意識を持ちながら働くことが、結果的に心地よいパフォーマンスや周囲からの信頼につながっていくはずです。

では、あなたにとっての「基準」は、今どこにあり、これからどこに置いていきたいでしょうか。

あなたが強みを知ると、問いかけられる──リーダーの“聴く”は、そこから始まる

1. はじめに──「どう思う?」と言えなかった頃の自分へ

管理職やリーダー的な立場を担っている方の中には、
部下やメンバーとの接し方に、漠然とした課題を感じている人が少なくありません。
「もっと自分から動いてくれたらいいのに」
「任せたいけれど、結局自分が動いたほうが早い」
そんな思いを抱えながら、日々のマネジメントをしている方は多いのではないでしょうか。

コーチングの現場でも、「どう伝えるか」「どう関わるか」といったご相談はよくあります。
その背景には、「相手を信じて任せることが難しい」という感覚が、
ご本人も気づかないうちに隠れていることがあります。

先日のあるクライアントさんとのセッションでも、まさにそうしたテーマが浮かび上がってきました。

そのクライアントさんは、ITエンジニア。
複数の業務委託メンバーをまとめるリーダー的な立場にあり、
構造を整理し、優先順位を見極め、ゴールまでの道筋を描くことを、日々ごく自然に行っていました。

ところがご本人は、それを「自分の強み」としては捉えていませんでした。
むしろ、「なぜ他の人はこれがわからないんだろう?」と感じることが多く、
「自分が動かないとプロジェクトが止まってしまう」というプレッシャーを、
一人で抱えていたそうです。

セッションの中で、その思考や行動の特徴を一緒に棚卸ししていくと、
それが特性であり、他の人にはない価値ある強みであることに、少しずつ気づかれていきました。

「自分にとって当たり前すぎて、気づいていませんでした」

そうおっしゃったとき、表情が少し和らいだのが印象的でした。

その気づきをきっかけに、心に少し余裕が生まれ、
「全部自分が決めなくてもいいのかもしれない」という感覚が芽生えていったそうです。
そしてこんな言葉が出てきました。

「だから『どう思う?』って言えばよかったんですね。
 それだけで、チームって動き出すんですね」

このnoteでは、このクライアントさんの変化をもとに、
「問いかけるリーダーシップ」と「自己理解」の関係について、整理してみたいと思います。

部下を尊重することと、自分の強みを活かすことは、実はつながっている。
その実感を、ひとつのプロセスとして言葉にしていきます。

2. 問いかけられるリーダーになる第一歩は、自分の強みを知ること

「どう思う?」と部下やメンバーに言ってみる。
その一言が、チームの空気を変えるきっかけになることは少なくありません。

けれど実際には、それを言うことが難しいと感じているリーダーも多いようです。

その背景には、リーダー自身の心理的な余裕のなさが関係していることがあります。
「自分が判断しなければならない」
「リーダーが迷ってはいけない」
そんな思い込みがあると、相手に委ねるよりも先に自分で答えを出してしまうのです。

先ほどのクライアントさんも、まさにその状態でした。
しかし、自分の強みに気づいたことで、そこに変化が生まれました。

彼の強みは、「物事を素早く整理し、ゴールまでの道筋を描けること」
それはプロジェクトを前に進めるうえで大きな力ですが、
本人にとってはあまりにも当たり前すぎて、強みとして捉えられていませんでした。

その力が他の人には簡単にできることではないと理解したとき、
「なぜ他の人はわからないのか」という苛立ちはやわらぎ、
「だから自分はこういう役割を担っているのだ」という納得感に変わっていきました。

自分の強みを客観的に理解すると、自然と心に余裕が生まれます。
「全部自分で背負わなくてもいい」
「自分はここを担えるから、他の部分は任せればいい」
そんなふうに、力の抜きどころを見つけられるようになるのです。

そしてその余裕が、「どう思う?」と言ってみようという気持ちを支えてくれます。
最初はぎこちなくても、それが自然に出るようになっていく。

つまり、問いかけられるリーダーになる第一歩は、テクニックを磨くことではなく、
自分の強みを知り、それを受け入れることなのです。

3. 「どう思う?」が生まれるチームの土壌とは

「どう思う?」という問いをチームに投げかけることは、
単に意見を求めるだけでなく、信頼を示す行動でもあります。

ですが、それが自然に出てくるには、ある程度の“土壌”が必要です。
心理的な余裕、自分の強みへの理解、そして何より、
相手の中にも答えがあるはずだと信じられる感覚がそのベースになります。

先ほどのクライアントさんも、自分の特性を理解し、
それを強みとして認識できるようになったことで、
「全部自分が決めなくてもいいのかもしれない」と少しずつ感じ始めていました。

これまでさまざまなリーダーの支援をしてきた中で、
「問いかけよう」と意識が変わったこと自体が、関係性の変化のきっかけになっていく場面を何度も見てきました。

たとえば、問いかけを習慣にしはじめたリーダーのチームでは、
メンバーからこんな言葉が返ってくることが多くあります。

「なんか最近、相談しやすくなりました」
「考えたことをちゃんと聞いてくれる感じがします」

リーダーがすべてを決めるのではなく、
「あなたはどう思う?」と対話を始めることが、
チーム全体の心理的な安全性や、自律的な関わりに影響していくのです。

「問いかける」という行動は、単なる言葉のやりとりではありません。
返ってきた言葉にきちんと反応し、
相手の考えに耳を傾け、場に残していくこと。
そうした一つひとつのやりとりが、信頼の土壌をつくっていきます。

そして、そうした空気は「メンバーを尊重しよう」と頑張ってつくるものではなく、
リーダー自身が無理のない状態で問いかけられるようになることで、少しずつ育っていくのだと思います。

4. 強みを活かせると、尊重も自然にできる

「どう思う?」と問いかけることが、部下への尊重につながる──
そう理解していても、いざ実践しようとすると、うまくいかないことがあります。

その背景には、「尊重しなければ」と気負ってしまう気持ちや、
「相手の意見をちゃんと受け止めないといけない」というプレッシャーが潜んでいることもあります。

実は、こうした状態のときにこそ、必要なのは“自分の強みの理解”です。

自分の強みを客観的に理解できるようになると、
その強みを「どう発揮するか」に意識が向いていきます。
そこには無理のない納得感があり、自然な安定感が生まれてきます。

たとえば、「整理して道筋を描く力」が強みであれば、
その役割を自覚することで「自分が全部をやらなければ」という思い込みから解放されていきます。

さらに、自分の強みを尊重できるようになると、
相手の強みにも目が向くようになっていきます。
「この人にはこの人の見え方や得意があるのかもしれない」と、
視野が広がっていくのです。

このような内面的な変化が起きることで、
「どう思う?」と問いかける余裕や土台が育っていきます。

問いかけとは、単なる“聞き方”の問題ではなく、
リーダー自身の立ち位置や心の状態によって、自然に生まれてくるものです。

だからこそ、問いかけを実践するために必要なのは、
「言い方を工夫すること」よりも、まずは自分の強みを理解し、活かすこと
そのプロセスを経て、尊重も、問いかけも、無理なくできるようになっていくのだと思います。

5. 自分を知ることが、問いかけのはじまりになる

リーダーとして、部下やメンバーにどう関わればいいのか。
答えのない問いに向き合いながら、日々奮闘されている方は多いと思います。

今回紹介したクライアントさんのように、
「自分が動いたほうが早い」
「なぜみんなわからないんだろう」
という感覚を抱えながらも、誠実にチームと向き合っている方こそ、
きっと問いかけの力を必要としているのではないでしょうか。

ただ、「問いかけよう」と意識するだけでは、なかなか続かないものです。
言葉の選び方やタイミングに悩んでしまったり、
相手の反応が薄くて、不安になることもあるかもしれません。

だからこそ、**問いかけの一歩手前にある「自己理解」**が大切なのだと思います。

自分の強みに気づくと、そこに安心感が生まれます。
その安心感が、自分をゆるめてくれて、相手にもスペースを与えられるようになる。
そして自然と、「どう思う?」という言葉が口に出せるようになっていくのです。

問いかけは、テクニックではなく“あり方”から始まる。
それが、今回のセッションを通してあらためて感じたことでした。

ここまで読んでくださったあなたに、
最後にこんな問いを残したいと思います。

あなたがふだん、つい自然にやってしまうことの中で、
周りの人に想像以上に喜んでもらえることが多いのは、どんなことですか?

それが「自分にとっては当たり前すぎて、気づいていなかったあなたの強み」かもしれません。

自分自身への問いかけが、チームへの問いかけを育てていきます。
それが、リーダーとしての信頼をつくる一歩になると信じています。

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