その言葉、誰のため? 聴くことから始まるチームづくり

Pocket

1. 冒頭:「伝えること」に必死になっていないか?

部下が思うように動かない。
チームにどうも一体感がない。
──そんなとき、つい考えてしまうのが「もっと伝えなきゃ」ということ。

指示の出し方が悪かったのかもしれない。
期待をもっと明確に伝えるべきだったかもしれない。
あるいは、感情的にならずに、もっと冷静に説明するべきだったのかも。

でも、こうした“伝えること”への意識が強くなればなるほど、
逆にチームの反応が鈍くなる…そんな感覚に覚えがある方もいるのではないでしょうか。

実はそこに、「関係性が動き出すヒント」が隠れていることがあります。
それは、伝えることよりも“聴くこと”のほうが、チームを変える力を持っているという事実です。

ぼくがこれまでコーチングの現場でご一緒してきた、
さまざまな業種の多くの管理職の方も、
あるタイミングから“伝えること”への力みを少し手放し、
「どう聴くか」「何を受け取るか」に目を向け始めたときに、
チームとの関係性が少しずつ変化していくのを実感されています。

コミュニケーションを変える第一歩は、
“話し方を磨くこと”ではなく、「伝える前に立ち止まること」かもしれません。

2. 会話が変わると、チームが変わる──その実感

「最近、前よりも話してくれるようになった気がする」
「ミーティングで誰かが話し始めると、自然と他のメンバーも反応してくれるようになった」

そんな変化の声を、コーチングの中で管理職の方から聞くことがあります。
そのきっかけになっているのは、多くの場合、特別なスキルや施策ではありません。

それは、“聴き方”が変わったことによる、空気の変化です。

「こう言えば部下が動くだろう」「これを伝えれば納得してくれるはず」──
そんな“伝えようとする努力”は、もちろん大切なものです。
けれど、それだけでは伝わらないことがある。

むしろ、相手が話すのを待つ。
言葉をかぶせずに聴く。
評価せずに受け止める。
その“余白”があることで、メンバーは少しずつ「話してもいい」と思えるようになる。

とくに、管理職という立場であるあなたの一言は、
本人が意図する以上に大きく響き、影響を与えます。
だからこそ、言葉を選ぶこと以上に、“聴く姿勢”が大切になる場面があるのです。

「伝えよう」とする気持ちが強いほど、
知らず知らずのうちに、相手の言葉が入るスペースを奪っていることがある。

ほんの少し立ち止まって、相手の声に耳を傾ける。
その姿勢が、チームの空気を変え、関係性をじんわりと動かしていくのです。

3. “伝える力”よりも、“受け取る力”が先

コミュニケーションというと、「どう伝えるか」が主役になりがちです。
プレゼン力、言語化力、ロジカルシンキング──それらは確かにビジネスにおいて重要なスキルです。

でも、チームを動かし、関係性を育てるという文脈においては、
“受け取る力”が先にあってこそ、“伝える力”が活きるのではないでしょうか。

たとえば、メンバーに「期待してるよ」と声をかけるとき。
それが応援になるか、プレッシャーになるかは、相手が今どんな状態かによって変わります。
つまり、“何を言うか”と同じくらい、“いつ、誰に、どんな気持ちで言うか”が大事なんです。

その違いを見極めるには、まず相手のことをよく“見る”こと、
そして、“聴くこと”が必要です。

自分の正しさや意図を押しつける前に、
「相手は何を感じているだろうか」
「どんな前提をもって、この話を受け取るだろうか」
そんな問いを、言葉を発する前の1秒間に、自分に向けてみる。

その“間”があるかないかで、
言葉の届き方も、相手の反応も、大きく変わってくるのです。

だからこそ、伝えるスキルを磨くよりも先に、
相手を受け取る土台を、自分の中につくっておくことが、信頼を育てる一歩になります。

4. 自然体のリーダーシップと、余白のある対話

管理職という立場になると、
「ちゃんとしなきゃ」「見本にならなきゃ」と、どうしても構えてしまうことがあります。

でも、その“構え”が、かえってコミュニケーションの流れを堰き止めてしまうことがあるんです。

こちらが肩に力を入れて話せば、相手も構えます。
完璧に伝えようとするほど、対話の“余白”がなくなってしまう。
結果として、「話しやすさ」が失われていくんですね。

実は、自然体でいることそのものが、強いメッセージになることがあります。

「すごいことを言わなくてもいい」
「ちゃんと答えられなくても大丈夫」
そう思ってもらえる空気感があるだけで、
部下は自分の言葉で話そうとし始めます。

そのきっかけになるのが、何気ない問いです。

「どう思う?」
「何か気になることある?」
「最近どう?」

──こんな、答えに“正解”のない問いかけ。
評価や判断をしない問いが、相手の心を少しずつ開いていきます。

そして、その姿勢こそがリーダーシップの本質ではないか と、ぼくは思うんです。

自然体で関わること。
構えずに、相手と同じ地平に立つこと。
対話に余白を持たせること。

それは、管理職としての“弱さ”ではなく、
むしろ“信頼をつくる強さ”なのかもしれません。

5. 相手の価値観に立った“ひとこと”が、関係を変える

言葉は、ときに人を動かします。
でもそれは、「正しい言葉」を選べば動く、という単純な話ではありません。

同じ言葉でも、ある人には届き、別の人には響かない。
それは、相手の価値観や、そのときの状態によって、言葉の意味が変わるからです。

たとえば、部下に「もっと自信を持って」と伝えたとき。
その言葉が励ましになることもあれば、
「プレッシャーだな」と感じさせてしまうこともある。

この違いは、伝える側の“言い方”や“論理”ではなく、
相手が今、どんな状態でその場にいるか──
その“前提”に目を向けられているかどうか、にかかっています。

だからこそ、「この言葉、誰のために言ってるんだろう?」と立ち止まる習慣が大切になります。

「自分を安心させるために言っているのか」
「相手を動かすためだけに言っているのか」
それとも、相手の価値観を尊重して、本当に支えになりたいと思っているのか

そこに自覚があると、同じ言葉でも“温度”が変わります。

相手に寄り添おうとする気持ちがにじんだひとことは、
派手じゃなくても、確実に相手の心に残るものになります。

管理職として言葉を使うということは、
“コントロールするため”ではなく、
相手が伸び伸びと働き、自分らしく成長していけるよう支援するためにある。

その土台となるのが、相手の価値観に立って言葉をかける姿勢であり、
信頼に根ざした、あたたかなコミュニケーションなのだと思います。

6. 結び:関係の質は、対話の積み重ねで変えられる

「もっと伝えなきゃ」と力んでいたときには見えなかったことが、
少し立ち止まって“聴く”ことを意識し始めると、不思議と見えてくることがあります。

表情の変化。
言葉の選び方。
沈黙の向こうにある感情。

相手の反応を丁寧に“受け取る”ようになると、
それまで一方通行だったコミュニケーションが、すこしずつ“対話”に変わっていきます。

そしてこの「対話の質」が、
チームの空気を変え、関係性を育て、
結果的に一人ひとりのパフォーマンスや働き方にも影響していくのです。

伝え方の工夫も、言葉の力も、もちろん大切です。
でもその前に、自分の“聴く姿勢”がどうあるかを問い直すことが、
管理職としてのリーダーシップをぐっと深めてくれる──
ぼくはそう信じています。

日々の会話のなかで、ほんの少し立ち止まる。
「この言葉は誰のため?」と自分に問うてみる。
「今、何を感じている?」と相手に尋ねてみる。

そんな小さな対話の積み重ねが、
“伝わるチーム”をつくり、
“安心して働ける関係性”を育てていくはずです。

Pocket

売れない商品と向き合う──整理することで見えてくること

Pocket

売れない商品があるとき、よくある反応はこうです。
「これ、本当に置いておく意味ある?」
「売れないなら、もうカタログから外してもいいんじゃない?」

でも、そんなふうに“売れない”ことばかりに目を向けてしまうと、
その商品が本来もっている役割や、ラインナップ全体に与えている影響を見逃してしまうことがあります。

実は──
「売れる商品」と同じくらい、「選ばれるプロセスを支えている商品」があるんです。
それは、比較対象としての展示品かもしれないし、
選択肢の幅を広げるために必要な“静かな存在”かもしれない。
あるいは、ラインナップを“面”で見せるために欠かせない、構成上のピースかもしれません。

今回は、そんな“売れない商品”との向き合い方について、
整理と伝え方の工夫から生まれる「選びやすさ」の話をしてみたいと思います。

第1章:「売れない=いらない」ではない

つい、「売れない=価値がない」と見なしてしまう。
忙しい日常のなかで、数字に表れない価値を評価するのは難しいから──
これは、どんな現場でも起きうる自然な感覚です。

でも本当に、その商品は「いらない」のでしょうか?

たとえば、同じジャンルの中で幅広い価格帯をカバーするラインナップ。
その“端”に位置する商品は、数としては出ていなくても、
実は「真ん中の価格の商品を選びやすくする」という役割を果たしていることがあります。

これは、**行動経済学で言う“極端回避性”**──
人は、複数の選択肢があるときに、極端なものを避けて「中間」を選ぶ傾向がある、という理論です。
たとえば3つの価格帯があると、「一番高いのは手が出ないけど、一番安いのも不安…」という心理が働き、結果として“真ん中”が選ばれやすくなります。

また、**“アンカリング効果”**とも関係しています。
最初に提示された価格(アンカー)が高いほど、その後に提示される価格が“お得”に感じられる。
つまり、一見売れそうにない高価格商品にも、「他の商品を魅力的に見せる」という効果があるわけです。

こうした視点で見ると、売れていない商品にも
“ラインナップ全体の選ばれやすさを設計するためのピース”としての価値があることがわかってきます。

また、ひとつの用途やシーンを“面”で見せたいとき、
パーツとしてはあまり選ばれない商品が、全体の統一感や安心感をつくっていることもあります。
そういう商品は、目立たずとも、選ばれるプロセスの一部を支えているのです。

商品ひとつひとつに「売る」という役割だけを求めると、
この“静かな存在感”に気づけなくなってしまう。
むしろ、数字が出ていないからこそ、その価値を問い直すことが大切になってきます。

売れていないものを、ただ切り捨てる前に。
「この商品の存在は、意味を持っているだろうか?」
そんな問いを立てるところから、次の一手が見えてくるかもしれません。

第2章:商品マトリックスが教えてくれること

“なんとなく”で扱い続けてきた商品たち。
それらをあらためて見直したいとき、ただ眺めているだけでは全体像は見えてきません。
必要なのは、「整理すること」で、見えなかった関係性や抜けを“見える化”することです。

そのときに役に立つのが、金額や用途別、アイテムごとに整理したマトリックスです。

たとえば、価格帯を縦軸に、用途別やカテゴリーごとを横軸にして並べてみる。
あるいは、「単体で選ばれる商品」と「他の商品とセットで選ばれる商品」を分けてみる。
──そうやって整理してみると、意外と空白が多いことに気づくことがあります。
• この価格帯に、特定の用途の商品だけがない
• ある用途に使える中価格帯の選択肢が極端に少ない
• 一番高い価格帯に属する商品が、他の商品とつながっていない

つまり、“売れていない”という現象を、個別ではなく「構造」で見る視点が生まれてくるのです。

もうひとつのポイントは、マトリックスが“比較と選択”を可視化するツールにもなること。
「AとB、どちらにしようか」と迷ってもらうためには、並べる土台が必要です。
その土台がなければ、比較されることなく、最初から選ばれないまま終わってしまう商品もあります。

整理とは、「売る順番を決めること」ではありません。
まずは、ラインナップ全体を判断できる状態にしてあげること。
マトリックスは、そのための地図のような役割を果たしてくれます。

第3章:整理すれば、伝え方が変えられる

商品をマトリックスで整理してみると、
これまで「よくわからないけど売れない」と思っていたものに対しても、
その位置づけや関連性が見えてくるようになります。

すると、今度は「どう伝えるか?」という視点が生まれてきます。

たとえば──
・この価格帯では“選ばれにくい”のではなく、“比較されにくい”だけだった
・ある用途の商品が孤立していたのは、他の商品との関係が言語化されていなかったから
・売れ筋の商品ばかりを前に出していた結果、それ以外が“伝わる場”を失っていた

このように、「整理された情報」は、伝え方の土台になります。
伝える順番・見せる組み合わせ・ラベルの言葉ひとつで、印象は大きく変わるのです。

たとえば、同じ商品でも──
「この商品は高いけれど長持ちします」ではなく、
「同じジャンルで比較すると、実は10年スパンでは一番コストパフォーマンスが高いんです」と伝える。
これは、事実の変換ではなく、“伝え方の設計”です。

整理されていないものは、どう伝えるかも定まりません。
逆に言えば、整理ができれば“まだ伝えられていない価値”に手が届くのです。

売るためだけじゃなく、ちゃんと伝えるために整理する。
その発想が、売れない商品との関係を変えていくかもしれません。

第4章:展示や紹介の“意味”を、チームで共有する

商品の整理や伝え方を見直す中で気づくのは、
「これは売れないけれど、置いてある意味がある」という商品が意外と多いということです。

たとえば、売れ筋商品の隣に置かれることで「比較されるために存在している」商品。
あるいは、選ばれることは少なくても「ラインナップ全体の印象を支えている」商品。
こうした存在には、数字には出ないけれど確かな意味があります。

ただ、それをチーム全体で共有できていないと──
「なんでこれ、まだ扱ってるの?」
「場所を取るだけじゃない?」
そんな声が出てきてしまいます。

商品そのものを守るためではなく、
意図のある展示・紹介ができるチームにするために
「この商品は、こういう意図でここにある」という認識を言葉にしておくことが大切です。

たとえば、こんなふうに整理してみることができます。
比較の起点になる商品:売るためというより、“選ばせる”ために必要
ラインナップの幅を感じさせる商品:安心感や多様性の演出に貢献
未来提案のための商品:いまは選ばれなくても、「こういう選択肢もあります」と伝える材料

こうした“語りの補助線”が共有されていると、営業や接客の現場でも
無理に売ろうとするのではなく、「どう見せればよいか」が明確になっていきます。

展示とは、在庫ではない。
展示とは、対話のきっかけであり、選択の幅であり、
「この会社は、どういう姿勢で商品を見せているのか?」というメッセージでもあります。

だからこそ、「なぜここにあるのか?」という問いと、それに対する答えを
チームで共有できているかどうかが、売れない商品との付き合い方を変えていくのです。

第5章:「売れるかどうか」ではなく、「どう扱うか」を判断できるチームへ

商品を整理し、見せ方を見直し、社内でその意味を共有していく──
そうした一つひとつの積み重ねが、チーム全体に変化を生みはじめます。

その変化とは、
「売れない商品をどうするか?」という話を、ただ感覚や前例で済ませずに
「今のラインナップに、この商品はどう位置づけられるのか?」
「この商品を扱う意味は、現時点でも十分にあるのか?」
と、自ら問い、判断する力が育っていくことです。

たとえば、こんな場面で違いが表れます。
• 「これはずっと売れてないから、もういいよね?」という声に対して、
 →「今は売れていないけれど、〇〇の比較軸として必要なんです」と返せる
• 「展示するには弱いよね」と言われたときに、
 →「展示というより、これは“対話の起点”として置いているんです」と位置づけを共有できる

このように、**商品の有無を“数字だけで決めない視点”**が生まれてくると、
売れない商品に対する会話そのものが変わっていきます。
誰かが一方的に決めるのではなく、現場とマネジメントが同じ地図を見ながら、
「扱い方そのもの」を戦略的に考えられるようになるのです。

大切なのは、「売るか、やめるか」の二択だけにしないこと。
ときに、“あえて置く”“あえて伝える”という選択もまた、有効な戦略になり得ます。

そのためには、問いを立て、整理し、伝え方を設計し、それを共有するプロセスが必要です。
そして、それを繰り返すうちに、チームは“売上を出す”だけではなく、
「判断できる組織」へと変わっていくのです。

まとめ:問い直す力が、商品にもチームにも変化を生む

「売れないものを、どうするか?」

この問いに向き合うとき、
私たちはつい“売上”や“数字”だけを判断基準にしてしまいがちです。

でも、売れていないからといって、すぐに「いらない」と決めてしまう前に──
その商品の存在が、選ばれるプロセスの中でどんな役割を果たしているのか。
ラインナップ全体の中で、何を支えていたのか。
そうした視点をいったん整理してみることには、十分に意味があります。

そしてその整理は、
伝え方や見せ方、さらにチームの中での共有や対話へとつながっていきます。

・なぜこれを展示しているのか
・誰にどう伝えたくて、どこに置いているのか
・その理由を、自分たちの言葉で説明できるか

それができるチームは、たとえ同じ商品ラインナップであっても、
「売る」ことだけでなく「扱う」ことそのものに意味を持たせることができます。

この取り組みは、劇的な改革ではありません。
でも、小さな問いを起点に、少しずつ見方を変えていくことで、
商品との関係性も、チームの判断力も、確実に変わっていくはずです。

売れないものをどう扱うか──その問いが、
自分たちのあり方を映し出す“鏡”になることもあるのです。

Pocket

「優しいね」と言われてきたあなたへ──“らしさ”を自分で選び直すということ

Pocket

1. はじめに

「優しいね」「しっかりしてるね」「落ち着いてるね」。
昔から、よくそんなふうに言われてきた。

もちろん、それを言ってもらえるのは嬉しいし、ありがたい。
実際、自分でも「そうありたい」と思ってきた部分はあるし、
その評価に違和感があるわけでもない。

でも時々、ふと考えることがある。
──これは“私”そのものなのか、それとも“役割”として身につけてきたものなのか。

たとえば、家族の中で自然と空気を読んだり、
職場で相手に合わせて言葉を選んだり。
気づけば「そう振る舞ってきた自分」がいて、
それがそのまま“評価”になっている気がする。

今回の記事では、そんな“長女っぽい”私を自認しているとあるクライアントさんが、
他者からの評価をどう受け取り、それをどう自分の中に位置づけていくのか

コーチングセッションで一緒に見つめ直した、そのプロセスをご紹介します。

2. 「長女っぽい」と言われる私のこれまで

今回ご紹介するクライアントさんは、自分のことを
「長女っぽいって、よく言われます」と表現しました。

話を聞いていくと、それが決してネガティブな意味ではなく、
これまでの人間関係の中で自然に身につけてきたスタイルであることが伝わってきました。

子どものころから
「しっかりしてるね」「空気が読めるね」「よく人に譲っているよね」と
言われることが多かったそうです。

特別頑張ってそうしてきたわけではないけれど、
気づけば人に気を配り、場に合わせて振る舞うことが“当たり前”になっていた。

その延長にあるのが、今の職場での評価です。
「優しい」「頼りになる」「落ち着いてる」など、周囲からの信頼を集めている。
そしてご本人も、その評価を概ね納得し、むしろ「ありがたいこと」として受け止めている。

ただ、そのうえでふと立ち止まったんです。
「これって本当に“私らしさ”なんだろうか?」
「もし私が“長女っぽくない人”だったら、どう振る舞っているんだろう?」と。

こうした問いは、自己否定から生まれるものではなく、
むしろ「今の自分を見つめ直す」という前向きな探求心から出てきたものでした。
そしてこの探求が、他者評価を“外の声”ではなく“自分の選択の結果”として受け止めていくプロセスの入口になっていきます。

3. 「落ち着いてるね」の奥にある感情と行動

クライアントさんは、職場でもよく「落ち着いているね」と言われるそうです。
プレッシャーがかかる場面でもいい意味でマイペースで、周囲に安心感を与えている──
そうした印象を持たれていることに、ご本人も納得している様子でした。

でも、本人の内側ではこんな感覚の時もあると言います。

「実はけっこう、焦ってるんですよね。
でも表に出さないようにしてるというか、
たぶん、出ないように“してる”んです。」

この言葉が出てきたとき、「落ち着いている」という状態の中には
“感情”と“行動”の二層構造があることが浮かび上がってきました。

外から見えるのは「行動としての落ち着き」。
でもその内側には、「揺れ」や「戸惑い」といった感情がある。
それらを無理に押し殺しているわけではないけれど、
ちゃんと見極めて、自分の中で「整える」ようにしている。

つまり彼女は、感情を“なくしている”のではなく、
感情を抱えたままでも、落ち着いて行動できる状態を
自分なりに作っていたということです。

この気づきは、彼女にとっても大きなものでした。
「ちゃんと感じてる自分」も、「落ち着いて動けている自分」も、
どちらも間違いなく自分なんだと認められたことで、
それまでよりも少しだけ、肩の力が抜けたように感じました。

4. 優しさと境界線──どちらも守っていい

クライアントさんは、「人に優しくしたい」という気持ちをとても大切にしている方です。
職場でもプライベートでも、相手の気持ちを思いやって接している。
その姿勢が、周囲からの「優しい」「気が利く」「頼りになる」といった評価にもつながっています。

でも、その“優しさ”が、時に自分自身を苦しくさせてしまうことがある。
たとえば、本当は余裕がないのに「大丈夫です」と言ってしまったり、
誰かのために行動しすぎて、自分の時間やエネルギーがすり減ってしまったり。

こんなふうに語ってくれました。

「“いい人でいたい”というより、“そういう自分でいたい”という気持ちなんです。
でも、その分、自分に無理させてるときがあるのもわかってて……。
気づかないうちに、自分の境界線が薄くなってるなって思うときがあるんです。」

この気づきもまた、とても大切なものでした。

人に優しくすることと、自分の境界線を守ること。
この2つは、相反するものではなく、両立していていいもの。
むしろ、自分をすり減らさずに人に接するためには、
「どこまでなら心地よく関われるか」という“優しさの半径”を知っておくことが必要なのかもしれません。

そして、それを知ることは、「自分を大切にする」という選択でもあります。
自分を雑に扱ったまま、他者に丁寧には接し続けられないからこそ──
優しさと境界線、どちらも守っていい。
このシンプルだけど奥行きのある前提を、彼女は少しずつ自分の中に育てはじめていました。

5. 評価は“土台”にも“呪縛”にもなる

「優しいね」「落ち着いてるね」「しっかりしてるね」──
クライアントさんが受け取ってきた評価は、どれも温かく、信頼のこもったものです。
そしてそれは、まさに彼女がこれまでしてきた選択と行動の積み重ねに対する“結果”でもあります。

本人が意識していたかどうかにかかわらず、
彼女は周囲に安心感を与えるような振る舞いを、自然と選んできた。
だからこそ、その評価に納得できるということは、
「そうしたくて、そうしてきたんだって、自分でも思えること」
という自分への信頼でもあるんです。

こうした見方に立つと、評価というものは
“他人から与えられるラベル”ではなく、
**「自分が育ててきたひとつの結果」**として捉え直せるようになります。

ぼくが一番大切だと思うのは、

自分の選択を肯定しながら、これからの選択も自由にできる。

ということ。

今までは「しっかりしてなきゃ」「落ち着いて見られてるから」──
そんな無言の期待に応えようとしていたかもしれない。
でも、評価を「過去の自分が築いてきたもの」として受け止められたとき、
そこに縛られる必要はないことにも気づけたんです。

「そういう自分でありたい」と思えば、これからもそうしていける。
でももし違う選択をしたくなったら、それも自分で決めていい。
評価を“自分の軸”にしながらも、進む方向は自由に選んでいい。

彼女の中に、そんな柔らかくもしなやかな自覚が芽生えていくのを感じました。

6. おわりに

「長女っぽいよね」と言われてきた彼女には、
人を思いやる力や、場を整える力が、自然と備わっていました。
そしてその力は、彼女自身が無意識のうちに選び、磨いてきたものでもあります。

他者からの評価は、外側からのラベルに見えるかもしれません。
でもそれは、自分が選んできた行動や姿勢の“積み重ね”に対する反応でもある。
だからこそ、その評価に納得できるということは、
**「私はそうしたくて、そうしてきた」**という自分への肯定でもあるんだと思います。

ただ、どんなにその評価がポジティブなものであっても、
それに縛られ続ける必要はありません。

これまでを肯定しながら、これからの選択は自由にできる。
そう思えることが、ほんとうの意味で「自分らしさ」を大切にするということかもしれません。

ぼくは、彼女のその姿勢にとても希望を感じました。

さて、ここまで読んでくださったあなたに、ひとつだけ問いかけを残して終わりにします。

あなたが今、大切にしている“らしさ”は、どんな選択の積み重ねからできていますか?

Pocket

「話すのが苦手」は変えられる──脳と心を整える“言葉の筋トレ”

Pocket

1. はじめに:話すのが苦手だと思っているあなたへ

「自分の気持ちをうまく言えない」
「何を話したらいいのか、頭が真っ白になる」
「会話の途中で、“これでよかったのかな?”と不安になる」

そんなふうに感じたことはありませんか?
もしあなたがそう感じているなら──安心してください。それは「あなたがダメだから」ではありません。
そして、それは変えていけるものです。

今回のテーマは、あるクライアントさんとのコーチングセッションがきっかけで生まれました。
その方がふと口にした「コミュニケーション、やっぱり苦手で…」という言葉から、
“話すこと”や“言葉にすること”について、改めて深く考える機会をもらったのです。

「話すのが得意な人」はたしかにいます。
でも、彼らが最初から“話す才能”を持っていたとは限りません。
むしろ、言葉にする力は、後天的に伸ばせるスキルだということが、心理学や脳科学の研究からも明らかになってきています。

このブログでは、「話すのが苦手」と感じている人が、
どうすれば少しずつ“言葉にする力”を育てていけるのか──
そのヒントを、科学的な根拠実際の気づきを交えて紹介していきます。

2. 「話す力」は、あとからでも育つ

「自分は話すのが苦手なんです」
そう言う人の多くが、「話すのが得意な人は、もともとそういう素質がある」と思い込んでいるように見えます。
でも実は、“話す力”や“言葉にする力”は、生まれつきの才能ではなく、後天的に伸ばすことができるスキルです。

これは、脳科学でいう「神経可塑性(Neuroplasticity)」という概念とも関係しています。
神経可塑性とは、経験や反復によって脳の神経回路が再編成され、機能そのものが変わっていく仕組みのこと。
つまり、言葉にするという行為を繰り返すことで、私たちの脳は「言語化の通り道」を強化し、よりスムーズに考えや気持ちを言葉にできるようになるのです。

これは、ぼく自身がコーチングの現場で日々実感していることでもあります。
たとえば、最初のころは「うまく話せない」「どう伝えればいいかわからない」と戸惑っていた方が、
セッションを重ねるにつれて少しずつ変化していくことがあります。

その変化は、単に話す内容が整っていくというよりも、
**「行動につながりやすい視点の持ち方」や「行動につながりやすい言葉遣い」**が上手くなっていく、という形で現れることが多いです。

つまり、話し方や言葉の選び方が変わることで、
考え方にも影響が生まれ、最終的には行動まで変わっていく。
これもまさに、言語化を通じて脳が変化し、現実に働きかける力が育っていくプロセスだとぼくは感じています。

「話す力」がある人というのは、才能があるからではなく、
そうした積み重ねを経て、“言葉を使って前に進む”回路ができている人なんだと思います。

そんなふうに、言葉にする力は筋トレのように少しずつ育っていきます。
次の章からはその“トレーニングの仕方”を、科学と実体験の両面からご紹介していきます。

3. 言葉が、こころの“混線”をほどいてくれる

「なんだかモヤモヤする」
「理由はよくわからないけど、気分が沈んでる」

こうした状態のとき、感情や思考が“混線”していることがあります。
でも、そんなときに「なんで自分はモヤモヤしてるんだろう」と問いかけてみたり、
「ちょっと疲れてるかもしれないな」とつぶやいてみたりするだけで、
気持ちが少し落ち着くことってありませんか?

実はこれ、偶然ではありません。

感情を言葉にすることには、脳科学的にもはっきりとした効果があります。
アメリカの研究者マシュー・リーバーマンの実験によると、
自分の感情を言葉で表現する(アフェクト・ラベリング)と、感情の中枢である扁桃体の活動が低下することが分かっています。
つまり、「ムカついてる」「不安だ」「なんか疲れてる」と言葉にするだけで、気持ちが整理されやすくなるということ。

言葉にすることは、単なる“説明”ではなく、
感情と距離をとるための技術でもあるのです。

ぼくがセッションでご一緒している方の中でも、
「言語化するだけで、自分の気持ちがはっきり見えてきた」と話してくれる場面があります。
一見ネガティブに見える気持ちも、
「ちゃんと自分にとって意味のある感情だったんだな」と腑に落ちるだけで、ぐっとラクになることがあるんですよね。

大切なのは、“うまく話す”ことではなく、
いま感じていることを、そのままの言葉で置いてみること
それだけでも、心は少しずつ整っていきます。

4. 話すことが怖いあなたに、ちょっとした入口を

ここまで読んで、「言葉にすることって大事なんだな」と感じてくれた方もいるかもしれません。
でもきっと、こんなふうにも思うはずです。

「でもやっぱり、言葉が出てこないんだよな」
「どこから手をつけていいのか、わからない」

そんなとき、いきなり“うまく話そう”としなくていいんです。
大切なのは、**まず「ちょっと言ってみる」「ちょっと書いてみる」**こと。
それだけで、脳の中にはちゃんと“言語化の回路”が少しずつ育っていきます。

たとえば、こんなシンプルなことから始めてみてはどうでしょう?
ここからは、ぼくがクライアントさんに実際におすすめしている“言葉のストレッチ”を3つ紹介します。

📓 一言日記をつけてみる

「今日は〇〇でうれしかった」
「なんとなく疲れてた。たぶん△△のせい」
一言でいいんです。正確じゃなくても、きれいな言葉じゃなくても大丈夫。
「いまの自分にとってリアルな言葉」を出してみることに意味があります。

🗣 声に出して読んでみる

書いたことを、少しだけ声に出して読んでみるのもおすすめです。
自分の言葉を、自分の耳で聞いてみる。
それだけで、「あ、自分はこう思ってたんだな」と気づけることがあります。

💬「正しい言い方」より「出すこと」が大事

話すのが苦手な人ほど、「どう言えば正しいんだろう」と考えすぎてしまいがち。
でも、本当に必要なのは**“出してみる”こと**です。
少しくらい違和感があっても、曖昧でも、まずは出す。
そこから少しずつ、言葉の輪郭がはっきりしてきます。

こうした小さな「言葉のストレッチ」を続けていくうちに、
「前より言いやすくなったかも」と感じる瞬間が出てきます。
そしてその小さな成功体験が、自信や前向きな感覚につながっていきます。

“話すのが苦手”という自分に優しく向き合いながら、
まずは「出すことから始めてみる」──その選び方こそ、
言葉とのいい関係をつくる第一歩になるんじゃないかと思います。

5. さいごに──言葉は、あなたの味方になる

「話すのが苦手」
そう思う気持ちは、決して否定すべきものではありません。
その背景には、まじめさや、慎重さ、人への思いやりがあることも多いからです。

でも同時に、「話すのが苦手」と決めつけてしまうことで、
本当は届けたかった自分の思いや、本音や、小さな願いをしまい込んでしまうのも、少しもったいないなと思うのです。

このブログで紹介してきたように、
言葉にする力は、生まれつきの才能ではなく、あとから育てることができる力です。
神経可塑性の考え方が示すように、言語化を繰り返すことで脳の回路は変わり、
言葉は少しずつ、あなたの中で“使えるツール”になっていきます。

その変化は、たとえ小さくても、ちゃんと実感できる形で現れてきます。
・気持ちが整理できた
・人と話すのがちょっと楽になった
・自分のことを、少し前より理解できた気がする
そんな体験を、あなたにも味わってほしいと思っています。

言葉は、うまく使わなければいけない“武器”じゃありません。
自分自身を守ったり、整えたりする“味方”になってくれるものです。

最初の一歩は、たった一言からで十分です。
自分のために、自分の気持ちを、ちょっとだけ言葉にしてみる。
その繰り返しが、未来のあなたにとって、きっと大きな支えになってくれるはずです。

Pocket

行動量とフォローアップ──営業を“継続できる人”になるためのヒント

Pocket

1. はじめに──「いま動くべき」営業とは?

「とにかく動け」「数を打てば当たる」──営業の世界では、そんな言葉を聞くことがあります。たしかに行動量は成果に直結する大切な要素です。でも、それだけで本当に成果が出るかというと、現実はもう少し複雑です。

9月末決算のとある営業パーソンとの先月(5月)のコーチングセッションで、
あらためてそのことを感じるやりとりがありました。
「今年度、残り数ヶ月。いま動けなきゃ、たぶん流れる」
この感覚には、“焦り”というより、「いまだからこそ動く理由」が込められています。

「いま動くべき」とは、単にがむしゃらに動くことではありません。
自分の目標やタイミングを見極めたうえで、“意味のある一手”を積み重ねていくこと。

この記事では、営業の現場で“勢い”をつくりながら、信頼を積み重ねていくスタイルについて紹介していきます。

2. “いま動くべき理由”が明確な人は、行動に軸がある

「いま動かなきゃ」──そう思っても、どこから手をつければいいかわからない。
そんなとき、多くの人は“動くこと”より先に、“迷うこと”に時間を使ってしまいます。

先月のコーチングセッションで、ある営業パーソンと一緒に6月・7月の見込み案件を整理しました。
動くべきタイミングや、注力すべき対象が明確になってくると、「この期間は営業強化のフェーズ」と、自分なりの方針が定まっていきました。

行動量を出せる人、継続して動ける人には、共通して「判断の軸」があります。
たとえば──
• 新規だけでなく、「過去の商談相手」にもあえてアプローチしている
• 同僚への相談や、社内の協力体制づくりを“計画的に”進めている
• 「このタイミングで30社フォローアップ」と数字を明確に定めている

動く理由が曖昧なままだと、行動も散らかります。
でも、「この期間で何を掴みたいか」が見えてくると、迷いが減り、継続しやすくなる。
行動量が安定して出せる人ほど、自分なりの判断軸を持っているものです。

3. 行動が続く人の共通点──“リズム”を自分でつくっている

行動量は、気合や気分に頼っていると長続きしません。
続けられる人は、特別な意志力があるわけではなくて、自分なりの“リズム”を持っていることが多いです。

たとえば、先ほど紹介した営業パーソンの場合。
「今月中に30社フォローアップする」と数字を明確に掲げた上で、
• 朝イチで同僚に相談する
• 自分のスキルを求めてくれそうな顧客に、順番に声をかけていく
• 営業チームにもフォローアップリストを渡して協力体制をつくる

など、毎日の動きに小さな仕掛けを入れてリズムを整えることにしました。

ポイントは、「一気にやる」ではなく「自然と続く流れをつくる」こと。
予定が入らない日でも「誰かに相談する」「ひと声かける」といった小さな動きを積み重ねることで、行動の流れは止まりにくくなります。

そしてこのリズムは、周囲との関係にも波及します。
社内の誰かを巻き込んで動ける人は、“相談できる関係性”も日々の行動で育てているのかもしれません。

4. フォローアップは「紹介」と「信頼」の起点になる

フォローアップという言葉には、どこか“おまけ”のような印象があるかもしれません。
でも、実際の現場ではむしろ、**フォローアップこそが「信頼関係の本番」**と言える場面が多くあります。

一度やりとりをしたものの、その後話が止まってしまっているお客様。
その存在を「まだ見込みが薄い」として放置するのか、
「今こそもう一度声をかけるチャンス」と捉えるのかで、次の動きは大きく変わります。

今回のセッションでは、過去の商談相手や既存顧客へのアプローチを改めて見直しました。
そのなかで出てきたのが、**「そういえば、あのときの●●さんにも連絡してみよう」**という気づき。
実際、このひと声が関係性の再接続につながることもあります。

また、社内に向けて「こういうお客様、今いませんか?」と具体的に聞いてみることで、
思いもよらない紹介や新しい情報が入ってくるケースもある。

紹介は、狙って得るものではなく、日々の積み重ねの中から自然に返ってくる、信頼の先にある“ギフト”のようなものです。

フォローアップとは、「売り込む」ではなく、「気にかけている」という姿勢を示す行為。
それが結果的に、紹介や次の商談の“種”を育てる動きになっていきます。

5. 「売る営業」より「思い出される営業」

目の前の数字を追いかけていると、「どう売るか」「どう契約を取るか」に意識が偏りがちです。
でも、実際の現場では──とくに関係性がものを言う営業では──**「売ろうとしない人」の方が信頼される**という場面もよくあります。

たとえば、「あのとき丁寧に話を聞いてくれた人」とか、
「こちらの状況をよく覚えてくれていた人」って、時間が経ってもふと“思い出す”ものです。
そして、そのときに“また声をかけよう”と思ってもらえるかどうかが、大きな差を生みます。

今回のセッションでも、このクライアントさんが元々大事にしてきた「思い出される関係性」を意識した動き方を、あらためて整理していきました。
新しい提案を出すことだけが営業じゃない。
必要なときに「そうだ、この人に相談してみよう」と思ってもらえる状態をつくる。
そのために、普段からのフォローアップや、小さな接点づくりを積み重ねていくんです。

「自分のスキルで誰かの役に立ちたい」「ちゃんと価値を届けたい」──
そんな思いをもって動いている人ほど、その姿勢は自然と相手に伝わります。
そして、相手の記憶の中に“信頼できる誰か”として残っていきます。

“売るための営業”ではなく、“思い出してもらえる営業”。
それは、焦らず・途切れず・気にかけ続ける人にしか、つくれない関係なのかもしれません。

6. おわりに──動き続けることが、信頼を育てる

営業という仕事の面白さは、「今」の行動が、ずっと先の未来に返ってくるところにあります。
すぐに成果が出ることもあれば、数ヶ月、あるいは数年越しで「またお願いしたい」と声がかかることもある。
その“時差のある成果”を信じて動き続けられるかどうかが、大きな分かれ道になるのかもしれません。

今回のセッションを通じて感じたのは、
行動量を増やすことも、リズムを整えることも、フォローアップを丁寧にすることも、
すべてが「思い出される存在であり続ける」ための工夫だということです。

営業は、“いま売る”だけがすべてじゃない。
むしろ、“また声をかけたいと思ってもらえる関係性”こそが、その人らしい営業スタイルの中心にある。
その関係性は、焦らず・丁寧に・動き続けることで育っていきます。

目の前の一歩を重ねることで、未来の誰かがあなたを思い出す。
それが営業の本質のひとつだと、ぼくは思っています。

Pocket

期待されはじめた自分に戸惑ったら──思考と感情の渋滞をほどくシンプルな方法

Pocket

最近、仕事の幅が広がってきた。

上司や先輩からの期待も感じる。

それ自体は嬉しいけれど、なぜか思考がまとまらず、気づけば頭も気持ちもパンパンに…。

本記事では、そんな“前向きだけど動きづらい”状態に陥ったとき、思考と感情の渋滞をほどくためのシンプルな整理法を紹介します。

「なんとなくうまく進めない」と感じている方に、実践しやすいヒントをお届けします。

1. はじめに

「最近、ちょっと任される仕事が増えてきたな」
「ありがたいことに、周りからの期待も感じる」
そんな実感が芽生えてくる時期って、ありますよね。

もちろん、前向きな気持ちがないわけじゃない。
むしろ、今の状況をちゃんと受け止めて、しっかり応えていきたいと思ってる。
でもその一方で──

「なんだか最近、頭の中がずっとごちゃごちゃしてる」
「気持ちは前に向いてるのに、思ったより体が重たい」
「なんとなく、いろんなことに“追いついてない”感じがする」

そんな感覚を抱えながら、日々を過ごしている人も多いのではないでしょうか。

それは決して「能力が足りない」からではなく、
シンプルに新しい状況での思考にまだ慣れていないだけ。
そこに「もっと応えたい」「自分ならできるはず」という前向きな気持ちが重なって、
気づけば、頭の中で思考と感情が渋滞しているような状態になるんです。

ぼく自身、これまで多くのビジネスパーソンのコーチングをしてきましたが、
この「期待されているのはわかる。嬉しい。けど、しんどい」という状況は、
20代後半の“これから伸びていく人たち”にとてもよく見られる現象だと感じています。

これはむしろ、成長のフェーズに入ったからこそ起こる自然な反応。
だからこそ、その波に押し流される前に、整理する力を身につけておくことが大切です。

この記事では、そんな「整理したいけど、何から手をつければいいかわからない」状態に向き合うために、
・今どんなことが頭の中で起きているのか?
・どうすれば“整理された自分”を取り戻せるのか?
・忙しい日々の中でもできる、小さな習慣とは?
というテーマで、一緒に考えていきたいと思います。

期待に応えたい。
でも、自分のペースも大切にしたい。
そんなあなたの、少しだけ立ち止まる時間になれたら嬉しいです。

2. やりがいと混乱は、セットでやってくる

「仕事、面白くなってきたな」
「やってみたいことに、手が届くようになってきた」
そんな前向きな手応えがあるときこそ、不思議と
「なんだか思うように動けない」
「集中しようとしても、途中で意識が散ってしまう」
──そんな“混乱”もセットでやってくることがあります。

これは決してネガティブなことではありません。
むしろ、**今のあなたが“前に進もうとしている証拠”**なんです。

やりがいがある、期待もされている。
でも、そのぶん“考えること”も、“選ぶこと”も、一気に増えてくる。

たとえば──
• 自分で判断しなきゃいけない場面が急に増える
• 関係者が増えて、情報も指示もあちこちから飛んでくる
• 一つの作業の裏にある「意味」や「責任」が重く感じるようになる

こういった状況が重なると、頭の中で自然と“整理のバッファ”が足りなくなってくるんです。

しかも、あなたはそれを前向きに受け止めている
「なんとか応えたい」
「ちゃんとやりたい」
そう思えば思うほど、自分の中で無意識にスピードを上げようとしてしまう
そして、そのスピードと処理量がアンバランスになったとき、
心や身体が「ちょっと待って」とブレーキをかけ始める。

これが、“やりがいがあるのに、うまく進めない”状態の正体です。

でも大丈夫。
この状態は、“実力不足”や“失敗”の前兆なんかじゃない。
ただ今のステージに、自分の思考のスタイルがまだ追いついていないだけなんです。
そして、それはほんの少し整理の仕方を変えるだけで、ぐっと変わることも多い。

次の章では、
「じゃあ今、自分の頭の中でどんなことが起きているのか?」を、
もう少し具体的に解きほぐしてみましょう。

3. 頭と感情の渋滞の正体は?

「なんとなくスッキリしない」
「優先順位が決められない」
「やることはわかってるのに、手が動かない」

──そんなとき、実際にあなたの頭の中では何が起きているのでしょうか?

ぼくがこれまで多くのビジネスパーソンと向き合ってきたなかで感じるのは、
この状態には**いくつかの“典型パターン”**がある、ということです。

① 情報と感情がごちゃ混ぜになっている

やらなきゃいけない仕事、気になること、ちょっと不安なこと。
それらがすべて「ひとまとまりのモヤ」として頭の中に漂っている。

明確に言語化されていなかったり、タスクリストに整理されていないと、
ただなんとなく「重たい」「落ち着かない」感じだけが残るんです。

② 「考えること」と「決めること」が混線している

• 情報を集めているつもりが、ずっと迷っている
• 判断する前に、あれもこれもと調べすぎてしまう
• 決断したつもりだけれど、「これでよかったのか?」と考え直してしまう

こういう状態もよく見られます。
頭の中で**“思考のプロセスが渋滞”**しているイメージですね。

③ 目に見えない“期待”や“プレッシャー”がずっと脳内にある

「この案件、ちゃんとやりきれるかな」
「次のステップを見据えた動き、できてるかな」
「期待されてるから、ちゃんと応えたい」

──こうした気持ちは、とても自然なものです。
でも、これが**無自覚な“背景ノイズ”**のようにずっと流れていると、
エネルギーを想像以上に消費してしまいます。

こうして、思考の中に混線やノイズが増えていくと、
実際のタスクはそれほど多くない日でも「疲れた」「もう動けない」と感じてしまうんです。

でも大丈夫。
この状態は、“実力不足”や“失敗”の前兆なんかじゃない。
ただ今のステージに、自分の思考のスタイルがまだ追いついていないだけなんです。
そして、それはほんの少し整理の仕方を変えるだけで、ぐっと変わることも多い。

次の章では、
この「頭と感情の渋滞」をほどくための、実際の整理ステップを紹介していきます。

4. 整理のための3ステップ

ここまで読んで、「たしかに今、自分の中で何かが混線してるかも」と感じた人もいるかもしれません。
でも安心してください。
この状態を解きほぐすのに、特別なツールやスキルは必要ありません。
ちょっとした視点の切り替えと、3つのシンプルなステップで、頭と気持ちの“余白”を取り戻すことができます。
ここからは、この状態を解きほぐすための、誰でも今すぐできる3つのステップを紹介しますね。

ステップ①:頭の中のことを、いったん“全部外に出す”

まずはここから。
ノートでも、スマホのメモでも、なんなら紙の裏でも構いません。
「今、自分の頭にあること」をとにかく全部書き出してみてください。

・やるべきタスク
・気になっていること
・未完了のやりとり
・やらなきゃと思ってるけど先送りしてること
・最近ひっかかってる感情や、引っかかってないけどなんとなく気になること

整理しようとせず、順番も無視してOK。
大事なのは、頭の中に“見えないかたまり”として存在していたものを可視化することです。

ステップ②:「意味」でまとめず、「構造」で分類する

書き出せたら、次は軽く仕分けてみましょう。
このときのポイントは、“意味”や“目的”でまとめようとしないこと。

たとえば──
• プロジェクト別に分ける
• 関係者ごとに分ける
• 今週中に終わること/長期的に考えること
• 外部とのやりとりが必要なもの/自分だけで完結できるもの

など、「構造」や「処理の性質」で分類するとうまくいきます。
頭の中で“ごちゃっと一塊になっていたもの”が整理されるだけで、
不思議と気持ちにも余裕が出てくるはずです。

ステップ③:「不安」や「焦り」ではなく、“今のボトルネック”を基準にする

最後に、「じゃあ、何から手をつける?」という問いに戻ってきたとき。
ここで大切なのは、感情ベースで優先順位を決めないことです。

「不安だから、これをやらなきゃ」
「やってないことで気まずくなるから、こっちを先に」

──このような“気持ち基準”は、頭の中をまた混乱に戻してしまいます。

そうではなくて、
「いまの自分の動きが止まっている一番の原因は何か?」
を探してみてください。
それがタスクであれ、迷っている決断であれ、感情であれ、
一番のボトルネックを1つだけ選ぶ。

そしてその上で、そのタスクの「最初の3ステップ」を書き出してみるのがおすすめです。
それぞれのステップは、**“5分で終わるぐらいの小ささ”**が理想。

たとえば──

・メールの下書きを開くだけ
・必要な資料のファイル名を調べる
・依頼する相手に「5分だけ相談させて」と声をかける

そんな“はじめの一歩”だけで、ぐっと動き出せる感覚が戻ってきます。

この3つのステップを「すべて完璧にやる」必要はありません。
たとえば、ステップ①の書き出しだけでも効果はあります。
大事なのは、**思考と感情をごちゃ混ぜのまま抱え込まず、“一度ひらいてあげること”**です。

次の章では、この整理を日常の中で“習慣化”していくための、小さな工夫についてお話しします。
一度スッキリした自分を、どうやって保っていくか──そこが、安定感のある成長の鍵です。

5. 忙しいときでも整え直せる“小さな習慣”

頭の中をいったん外に出して整理してみると、
「思っていたより少ないな。ただごちゃごちゃしてただけだった」
──そんなふうに感じる人も多いかもしれません。

でも、日々の忙しさのなかで、
この“整理の時間”を毎回丁寧に取るのは、正直むずかしい。

だからこそ大事なのが、日常に組み込める“小さな習慣”を持っておくことです。
ここでは、そんな習慣を3つ紹介します。

習慣①:朝イチに「脳内メモ」を3つ書く

朝の仕事前に、スマホでも手帳でもOK。
「今、気になってること・やろうとしていること・止まっていること」を3つだけ書き出す。

このときの目的は「全部を管理すること」ではなく、
“今の自分の思考の中心にあるもの”を浮き彫りにすること

1日のスタートに“自分の内側”を整理しておくと、
その日1日がぐっとスムーズに回り始めます。

習慣②:「ひとこと棚卸しタイム」を1日1回つくる

夜や仕事終わりに、ほんの5分でもいいので、
**「今日いちばん意識が引っ張られていたのは何か?」**をひとことで書いてみてください。

・朝のミーティングの件がずっと気になっていた
・納期が重なっている案件が頭から離れなかった
・やろうと思っていたのに、着手できなかったことがある

気づきの言語化は、脳にとっての“クールダウン”。
溜まっている情報や感情が「見える化」されるだけで、脳の疲れがスッと引いていきます。

習慣③:「動ける自分」の再起動スイッチを持っておく

どうしても動けないときや、頭が混乱しているときのために、
自分にとって“動ける状態に戻るためのスイッチ”を用意しておくのもおすすめです。

たとえば──

・お気に入りのカフェで5分間、何も考えずにコーヒーを飲む
・いつものBGMをかけて、深呼吸してからパソコンを開く
・「まず1個だけ」チェックリストに✓を入れてから本格始動する

人は「きっかけ」があると、思った以上にすぐ切り替えられるもの。
ルーティンではなく“リカバリーのトリガー”になる動作を1つ持っておくだけでOKです。

習慣というと、どうしても“続けなきゃいけないもの”に感じてしまうかもしれません。
でもここで大事なのは、「日常の中に織り込める、整え直す選択肢を持っておくこと」。

完璧じゃなくていい。
でも、自分に戻れる場所をちゃんと知っておくこと。

それが、忙しさの波に飲まれず、長く心地よく働き続けるための力になります。

6. おわりに

仕事の幅が広がってきた。
周りからの期待も少しずつ感じるようになってきた。
──それは、あなたがちゃんと成長してきた証だと思います。

でもそのぶん、
頭の中は忙しくなり、感情も揺れやすくなって、
「自分って今、ちゃんと前に進めてるのかな?」と
立ち止まることもあるかもしれません。

そんなとき、思い出してほしいのは──
“やる気”や“覚悟”だけで進み続けなくても大丈夫だということ。
むしろ、一度立ち止まって整理することが、次に進むエネルギーをつくることもあるんです。

整理する力は、成長する力とつながっています。
「今、こんな状態だな」と把握できることは、もうすでに前に進んでいる証拠。

完璧じゃなくていい。
まずは頭の中を少しだけ“ひらいてみる”ことから始めてみませんか?

その小さな一歩が、
今の自分にちゃんと合ったペースで、前に進んでいく力になっていきます。

ここまで読んでくれて、ありがとうございました。
この記事が、あなたの「今」と「これから」をつなぐヒントになれば嬉しいです。

Pocket

「ありがとう」と「数字」を共有する営業所は、なぜ強くなるのか?

Pocket

――とある営業所長との対話から見えた、“信頼の空気”をつくるふたつの鍵

第1章 はじめに

「所内の空気は悪くないし、売上も上がっています。

でも…どこかに“温度差”がある気がするんです。」

そんな言葉から始まった、とある営業所長とのコーチングセッション。

その方はこれまで複数の営業所で経験を重ね、今年4月に現在の営業所に着任しました。

プレイヤーとして結果を出しながら、育成にも真剣に取り組んできた方です。

今回の営業所でも、数字は安定しており、外から見れば順調に見えます。

しかし、着任から数週間、所内を丁寧に観察する中で、

少しずつ“見えない課題”に気づきはじめました。

「課をまたいだ連携が弱い気がする」

「非営業部門の動きに、やや“やらされ感”がある」

「報告や会議はあるけれど、行動の芯が揃っていない感じがする」

こうした感覚は、制度や仕組みの問題というよりも、空気の問題です。

表には見えにくいけれど、確実に営業所全体の力に影響しているものだと感じさせる内容でした。

その違和感に、正面から向き合おうとする姿勢に、

コーチとしての私も強く共感しました。

コーチングセッションを進めていく中で、とある営業所長の中に少しずつ浮かび上がってきたのが、

「ありがとうをもっと増やしたい」

「数字をもっとオープンにしていきたい」

という、ふたつのキーワードです。

どちらもシンプルな言葉ですが、

背景には「この営業所を、もっと信頼でつながった場所にしたい」という思いがありました。

この記事では、とある営業所長とのコーチングセッションを通じて見えてきた、

営業所全体を“信頼で動く組織”に育てていくための具体的なヒントを、

コーチとしての視点からお伝えしていきます。

第2章|数字を全所員と共有する──“営業所のひとつの船”としての自覚を育てる

コーチングセッションの中で、このクライアントさんはこんな話をしてくれました。

「営業のメンバーは、自分の数字とか、自分の課の数字にはちゃんとこだわるんです。

でも、“営業所全体の数字”に対しては、あまり関心がないというか…

そこへのこだわりが、もう少し欲しいなと思ってるんですよね。」

そしてもうひとつ。

「非営業のメンバーにも、もっと“数字への意識”を持ってもらいたい」とも話してくれました。

これは、営業所という単位でマネジメントをしていく上で、非常に本質的な課題だと感じました。

個人や課が目標に向かって努力する姿勢はもちろん大事です。

でも、それだけでは営業所全体の一体感や連携は生まれてきません。

営業所という「ひとつの船」を意識できるか

営業所は、ひとつのチームではなく、複数の課や機能が集まった集合体です。

それぞれが目標に向かって動いているからこそ、

全体を“ひとつの船”として動かしていくには、意識のベクトルを揃える必要があります。

クライアントさんはこう話していました。

「自分の数字は気にする。自分の数字をやっていれば営業所の数字はなんとかなるだろうってなりがちなんです。」

この“他人任せの空気”を変えていくためには、

やはり営業所全体の数字を「見える化」していくことが大切です。

・今、営業所はどんな状況なのか?

・どこに強みがあって、どこに弱点があるのか?

・数字の意味や背景を、全体で共有できているか?

数字の見せ方を工夫することで、営業所内に「共通言語」を育てていくことができます。

非営業メンバーの“数字感覚”を育てる

クライアントさんがもうひとつ強く望んでいたのは、

非営業メンバーにも“数字へのこだわり”を持ってほしいということでした。

でも、非営業の立場からすると、

「自分の仕事が数字とどうつながっているか」は見えにくいものです。

だからこそ、所長であるクライアントさんが、そのつながりを丁寧に言葉にしていくことが求められています。

・この仕事が、どういう数字に影響しているのか

・それが営業所にとって、どんな意味を持つのか

・その一手が、営業所の“力”をつくっていること

情報をただ共有するだけでなく、「腹落ち」してもらうことが大切です。

全員が“同じ数字”を見ているという感覚

クライアントさんは今後、営業所会議の場で、

経営の数字を全所員と共有していく予定です。

もちろん、細部まで細かく開示するわけではありません。

けれど、「この営業所は今こういう状況にある」

「この目標を達成するには、こういう力が必要なんだ」

というメッセージを、自分の言葉で伝えていくつもりだそうです。

数字を開示するのは、管理や評価のためではなく、

“一緒に動いていくための言葉”を整えることなのだと感じます。

全員が「自分の数字」「自分の課の数字」だけでなく、

「営業所全体の数字」も“自分ごと”として見られるようになったとき、

ようやく営業所は“組織としての力”を発揮しはじめるのではないでしょうか。

次章では、もうひとつのキーワード「ありがとう」を通じて、

“関係性の空気”をどう整えていくかを掘り下げていきます。

第3章|“ありがとう”が自然に生まれる営業所とは?

前章でお伝えしたように、このクライアントさんは、営業所全体のベクトルを揃えるために、

まず「数字を全所員と共有する」ことに取り組もうとしていました。

営業のメンバーは自分や課の数字には強くこだわる一方で、

営業所全体の数字には無関心になりがち。

また、非営業のメンバーは数字とのつながりを実感しづらく、当事者意識を持ちにくい。

そこで、数字を“見える化”し、みんなで同じ方向を向けるようにする――

このアプローチは、所長としての意思ある一歩でした。

けれど、コーチングセッションのなかでぼくと対話を重ねていく中で、

クライアントさんは、ふとこうつぶやきました。

「数字を共有すれば、確かに意識はそろうかもしれません。

でも、それだけで営業所が一体感を持って動けるようになるとは思えなくなってきました。」

数字で方向をそろえるだけでは、心のベクトルを揃えることは難しい

クライアントさんが感じていたのは、

「全体の目標はある。でも、個々の行動や関わりには“温度差”がある」という感覚でした。

そのとき、以前から頭の片隅にあったキーワードが、再び浮かび上がってきました。

それが――**「感謝される営業所」**です。

この言葉を思い出したとき、クライアントさんの中で、ある確信が生まれました。

お客様に「ありがとう」と言われる組織になるためには、まず自分たちが、互いに積極的に感謝を表現する必要がある。

「感謝される営業所」の第一歩は、営業所のなかで『ありがとう』が自然に飛び交う空気をつくることだ――

そんな考えに至ったのです。

「ありがとう」は、感情のベクトルをそろえる

クライアントさんは言います。

「ありがとうって、気づいたときに自然に出る言葉じゃないですか。

でも、その“気づき”自体が、今ちょっと薄れている気がするんです。」

ありがとうの言葉が自然に出てくるようになるためには、

お互いの動きや思いを“見る”力が必要です。

そしてその根っこには、「この場所を良くしたい」「一緒にやっていきたい」という

感情の方向性=ベクトルの一致があります。

感謝を“増やす”というマネジメント

クライアントさんは、感謝の言葉を増やすことを、

単なる“雰囲気づくり”とは捉えていませんでした。

むしろ、それを営業所の基礎力を上げるアプローチだと考えています。

・小さな気づきを見逃さない

・役割や立場を超えて声をかけ合う

・「助かった」「ありがたい」をためらわずに言葉にする

こうしたことが日常的に行われるようになると、

数字や制度では生まれにくい“関係性の信頼”が育っていきます。

「ありがとう」が飛び交う営業所にしたい。

その思いは、どんなマネジメント手法よりも、

このクライアントさんのあり方そのものを体現しているように感じました。

次章では、このような空気を営業所全体に広げていくために、

どんな“仕掛け”が考えられるのかをご紹介していきます。

第4章|言葉を空気に変えていくための「仕掛け」

「営業所のなかに“ありがとう”が飛び交う空気をつくりたい」

そんな思いを口にしたこのクライアントさんの言葉を受けて、

ぼく自身も、感謝の言葉が自然と交わされる組織にはどんな共通点があるのかを改めて考えていました。

その中で浮かんできたのが、「仕掛け」というキーワードです。

“いい雰囲気になったら感謝が増える”のではなく、

意図して空気をつくるための導線を用意することが必要なのではないかと。

雰囲気ではなく、仕掛けで空気をつくる

「ありがとう」は、自発的な言葉だからこそ力を持ちます。

でも、それを職場で自然に交わし合うには、ちょっとしたきっかけや仕組みがあった方がいいと感じています。

たとえば──

•面談や振り返りの場で「感謝したこと・されたこと」を言葉にする時間をつくる

•チャットやホワイトボードに“ありがとうメモ”を貼れるスペースを設ける

•定例の営業所会議に「今週のありがとう」という一言共有コーナーをつくる

こうした“動線”があるだけで、感謝の言葉は少しずつ日常に溶け込んでいきます。

感謝は「言おう」ではなく「言いたくなる」をつくるもの

「ありがとう」は強制できません。

むしろ、「感謝すべきことを探さなきゃいけない」となると、言葉が軽くなってしまうこともあります。

だからこそ大事なのは、自然と感謝したくなる空気をつくること

そのためには、“誰かが見てくれている”“自分も誰かを見ている”という相互の関心が必要です。

仕掛けの役割は、その“最初の一歩”を後押しすることにあると、ぼくは考えています。

そして、所長が動き方で語る

どんな仕掛けも、“誰がどう動くか”によって意味が変わります。

クライアントさんは、それをよく理解していました。

仕掛けを用意するだけでなく、

所長自身が一番最初に「ありがとう」を口にし、形にしていく――

その姿勢そのものが、組織へのメッセージになるのだと思います。

「ありがとう」の出発点に、自分がなる。

そのリーダーシップのある姿勢は、周囲の信頼と空気を確実に変えていく力を持っています。

“言葉を空気に変える”。

そのためにできる工夫は、決して大げさなものである必要はありません。

けれど、そこに意図があるかどうかで、営業所の未来は大きく変わると、ぼくは信じています。

次章では、ここまでの対話や気づきを踏まえて、

このクライアントさんが取り組もうとしている営業所マネジメントの“今とこれから”を整理していきます。

第5章|「信頼で動く営業所づくり」の今とこれから

ここまで書いてきたように、このクライアントさんは、

営業所を“信頼で動く組織”へと少しずつ変えていこうとしています。

その取り組みは、派手さこそありませんが、

現場で日々のリアルと向き合いながら、一歩ずつ“空気の質”を変えていく営みです。

取り組みの3つの柱

現在、営業所で進めようとしている取り組みは、大きく分けて3つの柱で構成されています。

① 数字の共有で、見ている方向をそろえる

営業や課の数字だけでなく、営業所全体の状況や経営的な観点も丁寧に共有していくことで、

メンバー一人ひとりが“営業所の一員”としての意識を持てるようにする。

② 感謝の言葉で、関係性の温度を上げる

「ありがとう」が自然と出てくるような関係性を、所内に少しずつ育てていく。

感情のベクトルをそろえることで、行動のベクトルにも影響が生まれていく。

③ 所長が仕掛け人として動く

場の空気は、自然発生するものではなく、意図してつくっていくもの。

その出発点に立つのが所長自身であり、日々の姿勢やふるまいこそが最大のメッセージになる。

“マネジメントとは、空気をつくること”

コーチとしてこのクライアントさんと関わる中で、

ぼく自身が改めて実感したことがあります。

それは――**マネジメントとは、“人を動かすこと”ではなく、“空気を整えること”**だということです。

制度や仕組みを整えても、思うように人が動かないのはよくある話です。

でも、関係性の空気が変わると、言葉の届き方も、行動の変化も、まるで違ってきます。

このクライアントさんのように、

目の前のチームや所の“空気”に意識を向け、より良い組織にしていこうとする姿勢は、

とても誠実で、実践的なマネジメントのあり方だと感じています。

「できることからやる」ことの力

最後に強調しておきたいのは、

このクライアントさんが決して完璧な状態を目指しているわけではない、ということです。

大きな改革でも、制度の見直しでもなく、

「できることからやる」というシンプルな行動こそが、営業所の空気を変える原動力になっています。

だからこそ、同じようにマネジメントに悩む方々にとっても、

こうした取り組みは“特別なこと”ではなく、すぐにでも始められる現実的な一歩として響くのではないでしょうか。

おわりに

この記事は、あるクライアントさんとのセッションを通じて見えてきた、

“信頼で動く営業所”へのヒントを整理したものです。

現場を預かる責任と孤独の中で、

「どうしたらうまくいくか」ではなく「どうしたら信頼が育つか」を考え続ける。

そんな所長の姿に、ぼく自身もたくさんエネルギーをいただきました。

組織が変わるきっかけは、いつも“小さな気づき”と“丁寧な実践”から始まります。

もしこの文章が、誰かのその一歩の背中をそっと押せたなら、これ以上うれしいことはありません。

Pocket

トッププレイヤーから営業所長へ。課長時代とは違う“次のマネジメント視点”

Pocket

はじめに

4月の人事異動で、より上位の管理職に就かれた方も多いのではないでしょうか。
現場の第一線で成果を出し続け、課長としてチームをまとめながら部下育成とチームの業績の両立を成し遂げてきたからこその結果が評価されたのだと思います。
まさに「プレイヤーとしてもマネージャーとしても結果を残してきた優秀な方々」ですね。

実際、ぼくのクライアントさんの中にも、この4月の人事異動でさらに上位の役職に就かれた方が複数いらっしゃいます
日々のセッションを通じて感じるのは、「すでに管理職経験も実績もある方」であっても、次の役職では求められる視点や取り組み方がここでもう一回変わるということです。

たとえば、これまでは「自らのチームや担当メンバー」に目を向けていれば良かったところが、今後は「営業所全体」や「部門横断の組織運営」に関与する場面が増えてきます。

今回のブログでは、営業所長をされているとあるクライアントさんの事例をもとに、複数のリーダーの個性を活かして組織をマネジメントしていくヒントをお伝えしていきます。

ご自身の現場と重ね合わせながら、次のステージでのマネジメントの視点として活用していただければ幸いです。

1. チームのカギは“3名の課長の個性”

営業所長として組織を見るとき、重要な視点の一つが「誰がどのポジションで、どのような役割を果たしているのか」という組織設計です。
特に営業所では、複数の課長が存在し、それぞれが異なる強みやスタイルを持ちながらチームをマネジメントしています。

ぼくのクライアントさんが所長をしている営業所でも、

その個性を活かしながら組織全体を機能させていくことが、営業所長としての大きなテーマとなりました。
ここでは、その3つのタイプをご紹介します。

① 縁の下で信頼を勝ち取る課長

このタイプの課長は、あえて前に出ることなく周囲から厚い信頼を得ています。
指示や指導よりも「見守り」や「支え」に重きを置き、メンバーの相談に対しては親身に応えます。
チームのメンバーからすると、「この人がいるから安心して挑戦できる」と感じられる存在です。

営業所全体の安定感や継続的な成果には、このような“影の安定軸”となる課長の存在が不可欠です。

② 経験と実績を持つベテラン課長

長年の経験と豊富な知識で、チーム内の「文化」や「基準」を守る役割を担っています。
特に業界や自社のルール・慣習に詳しく、チームの意思決定や若手メンバーの育成にも影響力を持ちます。

一方で、自身のやり方への強いこだわりや変化への抵抗感が出やすい側面もあります。
営業所長としては、その経験と知見を尊重しつつ、適度に変化を促す関わり方が求められます。

③ チャレンジ精神旺盛な次世代課長

新しいアイデアや手法を積極的に提案し、行動力と実行力でチームをリードしていくタイプです。
特に若手メンバーに対しては、指示待ちではなく「自ら考え行動する」スタンスを育てる点で頼もしい存在となります。

ただし、既存のルールや手順よりも成果・スピードを重視する傾向もあり、営業所全体としてはバランスが求められます。
このタイプの課長には「枠を与えすぎない自由さ」と「方向性のガイド」の両立がカギになります。

3名の課長の個性とスタイルは異なりますが、それぞれがチームの成果に欠かせない存在です。
営業所長としては、こうした多様なマネジメントスタイルを対立させるのではなく補完し合う関係として設計していくことが、営業所全体の成果につながっていきます。

2. 課長として経験した「営業所を動かす」チャレンジ

上位管理職に昇進された多くの方は、すでに課長としての経験を積み、チームマネジメントにおいて成果を上げてこられたことでしょう。
プレイヤーとして自身の営業成績を残し、その後は課長として **「メンバーを通じて成果を出す」**という難しさとやりがいの両方を体験されたはずです。

ぼくのクライアントさんも、まさにこのプロセスを経て営業所長に就任されました。
課長時代には、自ら動いて成果を出すのではなく、メンバーに任せ、成長を促しながらチームとして結果を出すことに力を注いでこられました。
プレイヤーとして成果を出していた時代とは違い、課長として **「人を通じて成果を出すこと」**に意識を切り替えることは、決して簡単なことではありません。

そして今、営業所長として再び「役割の変化」に直面しています。
課長時代は **「自分のチーム」**をマネジメントすればよかったものが、
営業所長となった今は **「営業所全体」**をどう動かすか、
複数の課長や部門をどのように連携させ成果につなげていくかが問われる立場となりました。

プレイヤー→課長→所長とステージが変わる中で、求められるマネジメントの視点やスタンスも進化しています。
クライアントさんも今、**「課長の個性を活かしながら営業所全体として成果を出す」**という次のチャレンジに挑んでいます。

この変化にうまく対応するためのカギとなるのが、課長同士の役割設計営業所全体の方針やビジョンを明確にすることです。
次章では、その具体的な考え方についてご紹介していきます。

3. チームの成果を引き出す役割設計

営業所長として営業所全体の成果を生み出すためには、課長同士の役割設計が非常に重要なポイントになります。
現場を預かる課長たちは、それぞれ異なる強み・スタイルを持っています。
その個性を理解し、意図的にチームや営業所全体のパフォーマンスにつなげる設計が求められます。

ぼくのクライアントさんも、3名の課長の強みと課題を整理するところから取り組みを始めました。
例えば「縁の下でメンバーを支える課長」「経験と実績を持つベテラン課長」「チャレンジ精神旺盛な次世代課長」という特徴をふまえ、

誰にどの領域・期待を託すのか

ポイント1:組織課題と個人課題を切り分ける

所長として「何が営業所全体の課題なのか」「どこは各課長に任せられるのか」を整理することが大切です。
たとえば、営業所全体の方針や人材育成の枠組みは所長が担い、
日々の目標管理やメンバーの育成は各課長に裁量を持たせるといった 役割のすみ分け を意識します。

ポイント2:期待値を明確にする

課長のスタイルや強みが違うからこそ、**「何を期待しているのか」**をあらかじめ言語化し、すり合わせることが欠かせません。
「この領域ではリードしてほしい」「このテーマは一緒に取り組もう」など、

あいまいさを減らし、安心して動ける環境

ポイント3:若手と次期所長候補の育成を意識する

営業所全体として中長期的に成果を出すためには、若手育成の視点も外せません。
課長には「日々の業務を回す責任」だけでなく、若手のチャレンジの場を意図的に作る役割も期待します。
また営業所長としては、中長期的な視点で**「次期所長候補となる人材を見極め、成長を支援していくこと」**も重要な役割になります。
次の世代の所長を意識して育成しておくことは、営業所全体の安定と継続的な成果につながります。

複数の課長の強みとスタイルを組み合わせて営業所の成果を引き出すこと。
そのための「役割の整理と言語化」が営業所長としての重要なマネジメントポイントになります。
次章では、この土台の上に「所長自身の発信力」がなぜ求められるのかについて考えていきます。

4. 所長としての“言語化力と発信力”

営業所長の役割に就くと、多くの方が感じるのが「課長時代と比べて自分の考えや方針を“言葉にして伝える”機会が圧倒的に増えた」という変化です。

課長としてチームをマネジメントしていたときは、日常のコミュニケーションや行動の積み重ねでメンバーと信頼関係を築けました。
しかし営業所長になると、複数の課長や部門、さらには経営層や他拠点との連携も必要になります。
その中で求められるのが **「所長としての発信力」**です。

組織の方針・優先順位を明確に伝える

複数のチーム・課長を束ねる立場では、所長自身が組織の「軸」を言語化し、明確に発信することが不可欠です。
営業所の方針や優先順位、期待する行動基準をあいまいにせず、誰もが理解できる形で示すことがメンバーの安心感と行動の統一につながります。

コーチングの視点を取り入れる

ぼくのクライアントさんの場合も、コーチングで培った**「問いかけ力」「対話力」**を所長のマネジメントに活かしています。
「〇〇について意見を聴かせて?」「この課題の解決策を提案して?」など、

課長自身に考えさせる言葉を投げかけることで、自走力や当事者意識を育てる

言葉の力で組織を前進させる

組織が大きくなればなるほど「察してくれるだろう」は通用しません。
所長の発信がなければ、現場は迷い、判断基準を失いがちです。
所長の役割として大事なのは、「細かなやり方を教えること」ではなく、課長や営業所員ひとりひとりが自ら考え判断ができるようになるための方向性を示すことです。
この発信が、課長たちの主体的なリーダーシップを後押しし、営業所全体の成長につながっていきます。

次章では最後に、こうした考え方を踏まえて所長としてのスタンスのまとめと、読者への問いかけをしていきます。

5. おわりに

営業所長としての役割は、プレイヤーや課長としての経験・実績を土台にしながらも、さらに視野とスタンスを広げることが求められます。
自身で成果を出す・自チームを動かすところから、営業所全体をどのように動かし成果につなげていくかという「組織全体視点」への進化です。

ぼくのクライアントさんも、3名の課長の個性や強みを活かしながら、
役割の設計や営業所としての方針の言語化、さらには次期所長候補の育成までを意識したマネジメントに取り組んでいます。
その過程は決して簡単ではありませんが、「人を通じて成果を生み出す」という上位管理職としての醍醐味とやりがいを実感されています。

この内容は、ぼくが実際にご支援しているクライアントさんとの取り組みの中でも成果につながっている実践例です。
ぜひ、ご自身の営業所や組織でも活かしていただければ嬉しいです。

ここまで読んでくださった方も、ぜひご自身の営業所や組織に置き換えて考えてみてください。
自分は今、どの課題に取り組むべきだろうか?
課長やメンバーが主体的に動ける環境を整えられているだろうか?
次のステージに進むために、今の自分に必要な成長は何だろうか?

日々の業務の中でこの問いを持ち続けることが、次の成果と成長への第一歩になるはずです。

Pocket

会社を辞めるだけが自由じゃない。選べる自分になるための準備

Pocket

副業が少しずつ軌道に乗ってきた。
本業もそれなりにうまくいっていて、収入も安定している。
「じゃあ、何も問題ないはずじゃない?」
…頭ではそう思っているのに、ふとした瞬間にモヤモヤする。

このまま、ずっと会社に軸足を置いて生きていくんだろうか。
副業の予定も、本業の合間や夜間に詰め込む日々。
どこかで、「これが本当にやりたいことだったっけ?」という問いがよぎる。

——辞めたいわけじゃない。
でも、「もっと自分らしく働ける形があるんじゃないか」と思い始めている。
副業で感じた“手応え”や“自分の可能性”を、もっと活かせる道はないのだろうか——。

そんな思いを語ってくれたクライアントさんとの対話が、ぼくの中にも響きました。
実はぼく自身も、ただの会社員だった頃から副業としてコーチングを始め、独立、法人化と、段階的に選択肢を広げてきたひとりです。
だからこそ、「会社を辞めるかどうか」ではなく、“どうすれば自分らしく選べる状態でいられるか”という問いには、今でも何度も立ち返っています。

その選択の結果が、副業でも、転職でも、社内の異動でも、今の仕事を続けることでも、どれが正しいかではないと思っています。
大切なのは、それを「自分で選んでいる」と感じられること。

今これを読んでいるあなたが、
自分の人生や、仕事、働き方を「自分らしく選ぶ」ヒントを持ち帰っていただけたら嬉しいです。

1. 「辞める or 辞めない」の二択思考が、自分を縛ってしまう

副業がうまくいきはじめると、ふとした瞬間にこんなことを考える人がいます。

「このまま会社を続けるか、思い切って辞めるか」
「いっそ独立したほうがスッキリするんじゃないか」
「でも、家族のことを考えると…現実的じゃないよな」

実際、こうした話はコーチングの現場でもよく出てきます。
でも、ここで少し立ち止まって考えてみてほしいのです。

「このまま」か「辞めるか」しかないように見えるとき、視野そのものが狭くなっている

自分の中にある違和感や物足りなさ。
それを「辞める or 辞めない」という大きな決断に置き換えると、思考はたしかに動き出しやすくなります。
でも、それが本当に自分の納得感や充実感につながるとは限りません。
結果として、どちらを選んでもなんだかしっくりこない——そんな状態に陥ることもあります。

でも本来、「辞めたいわけじゃない」と思っている自分も確かにいる。
同時に、「このままでいいのかな」と問いかけている自分もいる。
この2つの感覚は、矛盾ではなく“共存”しているものなんです。

選択肢が見えていないのではなく、
“見えない状態”を許せない気持ちが、二択というシンプルな構造に無理やり当てはめてしまう。
そこに気づけると、「選べない」と感じていた状況にも、少し余白が生まれてきます。

決めきれないのではなく、
まだ言語化できていない感覚が、自分の中にあるだけかもしれません。

そして、その感覚は、必ずしも今すぐ言葉にできるようになる必要はないのだと思います。
まだ言葉にならない“違和感”や“もやもや”も、
自分にとって何か大事なことを知らせてくれているのかもしれません。

無理に結論を出そうとするのではなく、

「これは何を教えてくれようとしているんだろう?」

と、そっと問いを置いてみる。

そんなふうに、少し距離をとって感じてみるのも、一つの選択だと思うのです。

2. 副業の充実や手応えが、キャリアの選択肢を広げてくれる

副業が少しずつ形になってきたとき、私たちは数字や成果に注目しがちです。
「年収にどのくらいインパクトがあるか」
「本業と比較して、どれくらい意味があるのか」
そんなふうに、わかりやすい尺度で“価値”を測ろうとしてしまう。

でも、副業の本当の価値は、数字では見えにくい部分にこそあるのではないかと思います。

たとえば——
「自分で考えて、自分で動いて、結果を出した」という手応え。
本業ではなかなか得られなかった、“自分の感覚が通用した”という実感。
あるいは、普段出会わない人たちとのやりとりの中で感じた、新鮮な視点や広がり。

それらはすべて、「選べる自分」を育ててくれる要素です。

副業がうまくいっているからといって、すぐに独立する必要はありません。
むしろ、副業があるからこそ、「辞める/辞めない」以外の選択肢が自分の中に育っていく。
そしてそれが、本業に対するスタンスや関わり方にも、少しずつ変化をもたらしていく。

副業は、“逃げ道”でも“野望”でもなく、
**「自分らしさを確かめられる場」**として活かすことができる。

そう考えると、キャリアの軸が少しずつ“外側”にも育っていく感じがして、
選択肢が増えるだけでなく、「今ここ」にも安心していられるようになるのだと思います。

3. 「選べる自分」をつくる3つの準備

ここまでの話を読んで、
「たしかに…今すぐ辞めたいわけじゃないけど、もっと“選べる状態”になっていたい」
そう感じた方もいるかもしれません。

では、どうすれば“選べる自分”になれるのでしょうか?
これは一気に変えるものではなく、小さな準備の積み重ねで育っていくものだと、ぼくは思っています。

ここでは、そのためのヒントを3つ、ご紹介します。

① スキルと関係性の棚卸しをしてみる

自分には何ができて、どんな人とのつながりがあるのか。
これは、いざというときの選択肢を考えるうえで、土台になる情報です。

でも「強み」や「キャリアの棚卸し」といった言葉を聞くと、
ちょっと構えてしまう人もいるかもしれません。

そんなときは、

「今、自分が周りから求められていることって何だろう?」

「どんな時に“自分らしさ”を感じているだろう?」

そんな問いからゆるく始めても、十分価値があります。

② 社内と社外、両方に“話せる人”を持っておく

選択肢を広げるときに、一人で考えすぎると行き詰まりがちです。
社内の同僚や上司も大事ですが、**利害関係のない“社外の誰か”**との会話が、とても助けになることがあります。

過去にお世話になった上司、副業を通じて出会った人、
あるいはコーチやメンター的な存在。
「話すと、思考が整理される」という感覚をくれる人がいると、選択肢を“実感”として持てるようになっていきます。

③ 「こうありたい」を、ふんわりでも言葉にしておく

キャリアの選択肢を広げるうえで、「こうしたい」よりも大事なのは、
**「こうありたい」**という自分の感覚です。

・誰と、どんな時間を過ごしたいのか
・どんな状態だと、自分らしくいられるのか
・暮らし方、働き方、ペース感…心地よさの基準

こうした感覚は、はっきりと言葉にならなくてもかまいません。
でも、意識のどこかに持っておくことで、「選択肢の中から選ぶ」のではなく、
**「自分の基準で選ぶ」**ことができるようになっていきます。

たくさん準備しなければならないわけではありません。
でも、ちょっとした問いかけや、身近な誰かとの会話がきっかけになって、
“選べる自分”という感覚は少しずつ育っていく。

焦らず、でも見ないふりをしないで。
そんな距離感で、自分と向き合ってみてください。

4. まとめ:「自分で選んでいる」という感覚が、働き方の安心感につながる

「副業がうまくいってきたけど、このままでいいのかな」
「本業も悪くないけど、何か物足りない」
「辞めたいわけじゃない。でも、選択肢が少ない気がする」

そんな声に、これまで何度も出会ってきました。
そして、これらの声に共通していたのは、「どうしたらもっと自分らしく働けるか?」という問いでした。

“会社を辞める”ことが正解ではないし、
“今のまま続ける”ことが間違いでもない。

大切なのは、「自分で選んでいる」と感じられること

副業があること、誰かに話せること、
そして、「こうありたい」とふんわりでも描けること。
それらが少しずつ積み重なって、選択肢が見えてくる。
すると、「今ここ」にいる自分にも、安心できるようになっていきます。

この先も、働き方や人生に“答え”はないかもしれません。
でも、問いを持ち続けていくことはできます。
そしてその問いが、「自分の人生を、自分でつくっている」という感覚につながっていく。

あなたの今ある選択肢が、
これからもゆるやかに広がっていきますように。
会社を辞めるだけが自由じゃない。そんな日常を、自分で選んでいけますように。

Pocket

法人化して感じる違和感と向き合う。これから整えていくべき、本当のこと

Pocket

「法人化したのに、なんだか手応えがない…その理由」

会社をつくる。

それって、やっぱりすごいことだと思います。

「ようやく一歩踏み出せた」

「これで本格的にスタートできる」

そんなふうに感じながら、登記を終えて、口座を開設して、名刺に「代表取締役」と入れてみる。

けど、ふと立ち止まる瞬間も出てくるんですよね。

「で、これから何すればいいんだろう?」って。

実際、今年に入って法人化されたクライアントさんもいらっしゃいました。

これまでコツコツと副業を積み上げてきて、いよいよ自分のやりたいことを、自分の看板で始めていこうっていうタイミング。

話を聞いていて感じたのは、

「法人化」って、たしかにひとつの節目ではあるけれど、それで何かが完了するわけじゃないんですよね。

むしろ、ここからが本番。

どう事業を育てていくのか、どんな価値を届けていくのか、いろんな問いが目の前に出てきます。

「法人にしたのに、急に仕事が増えるわけでもない」

「責任は大きくなったけど、やるべきことはまだモヤっとしてる」

そんな感覚、あって当然だと思います。

それでも大丈夫。

大事なのは、「法人にしたこと」そのものよりも、

これからどう使っていくか、どう活かしていくかなんですよね。

ここから先は、「自分のやりたいこと」と「ビジネスとして続けること」をつなげていくフェーズ。

法人化は、そのための土台。

これから先の動き方次第で、ぐっと事業に広がりが出てきます。

「変わったような、変わってないような。でも確実に動き始めていること」

「法人化したけど、何か大きく変わった気がしない」

そんな声を聞くことがあります。

たしかに、普段の仕事内容やサービス内容が急に変わるわけじゃありませんし、目に見える変化は少ないかもしれません。

でも、実は静かに、だけど確実に、いろんなことが変わってるんですよね。

たとえば——

信頼感が変わる

取引先や見込み顧客から見ると、「個人」ではなく「会社」として仕事をしているというだけで、ひとつフィルターが変わります。

もちろん、法人=信頼できる、という単純な話ではないんですが、法人であることが信用の土台として働く場面は少なくありません。

ぼく自身も、知人のコーチから「この案件は企業との契約になるから、法人じゃないと厳しい」と声をかけてもらい、受託の窓口として法人格があったことで参加できたことがありました。

特に大きめの企業になると、個人事業主とはそもそも契約ができない、というケースもあるんですよね。

だからこそ、「法人化したから急に信頼される」ではなくて、**法人であることで入り口に立てる場面が増える”**と考えるといいかもしれません。

お金の扱いが変わる

これは良くも悪くも、ですね。

法人にすると「自分のお金」と「会社のお金」がはっきり分かれるようになります。

経費や報酬の扱い、税金の仕組み、キャッシュフローの見方もガラッと変わります。

ぼくの場合も、法人化したことでお金の流れをより客観的に見るようになりました。

「これは事業の支出として妥当か?」「手元に残るキャッシュはいくらか?」といった視点で見る癖がついて、自然と数字に強くなっていった感覚があります。

あわせて、税金の仕組みについても理解が深まり、リアルな気づきが増えたのを覚えています。

最初はちょっと面倒に感じるかもしれませんが、逆に言えば、ビジネスとしての自覚が育つタイミングでもあるんですよね。

「思ったよりお金が残らないな」とか「税金ってこういう仕組みなんだ!」と、これまでとは違う視点でお金と向き合うようになる

これは、法人化したからこそ得られる感覚かもしれません。

事業との向き合い方が変わる

副業のときは「できるときに」「好きな範囲で」というスタンスだった人も、法人化をきっかけに、

「これを続けていくにはどうしたらいいんだろう?」と視点が変わってきます。

ビジネスモデルや収支のバランス、事業としてのをどう育てていくか。

これまで感覚でやってきた部分が、少しずつ設計に変わっていく。

言い換えると、「想い」だけでなく「戦略」も必要になるタイミングなんです。

「肩書きだけじゃ変わらない。動き出すために必要なこと」

「法人にすれば、もっと仕事が増えるかな」

「ちゃんとした会社として見てもらえたら、安心して依頼されるようになるかも」

そんな期待を持つのは、すごく自然なことです。

実際、これまで副業で頑張ってきた人ほど、「ここからもっと広げていきたい」という気持ちが強くなるものですし、ぼくもそうでした。

でも、ここでひとつ立ち止まって考えてみてほしいんです。

法人化しただけで、ビジネスが勝手に成長することは、残念ながらないんです。

もちろん、法人格があることで信頼の土台ができたり、できる仕事の幅が広がったりするのは確かです。

でもそれはあくまでができたということであって、中身のビジネスが自動的に育つわけではありません。

むしろ、スタートラインに立ったからこそ、これまでよりも一歩深く、「自分の事業とどう向き合っていくか」が問われるフェーズに入っていきます。

たとえばこんなふうに、心のどこかで感じていませんか?

名刺に「代表取締役」と書かれていても、どこかしっくりきていない

「法人を立てたんです」と言うのが、ちょっと気恥ずかしい

自分のサービスを説明するたびに、「本当にこれでいいのかな」と不安になる

もしそうだとしたら、大丈夫です。それは、自然な反応です。

新しいステージに進んだとき、人はみんな少し戸惑うものだから。

ただここで大切なのは、「やりたいこと」を「続けられる形」にするという視点を持つこと。

どれだけ素敵な理念や想いがあっても、ビジネスとして続いていかなければ、届けたい人に届きません。

法人化は肩書き形式を整えることじゃなく、

自分の提供したい価値を、より確かな形で届けるための一歩

だからこそ、「法人化=完成」ではなく、

**「法人化=ようやく本番が始まるところ」**と捉えて、

少しずつ、中身を育てていければそれで十分なんです。

「“代表”になったあなたへ。まず整えておきたい3つのこと」

法人にしたあと、まず感じるのは「やることが多いな」という感覚かもしれません。

経理、契約、SNSの発信、商品の見直し。

やりたいことも、やらなきゃいけないこともたくさんあるけれど、全部いっぺんにはできない。

だからこそ大事なのは、「優先順位をつける」こと

特に最初の数ヶ月は、より強固な土台を整えることに力を注いでみてほしいんです。

ここでは、法人化した後に見直しておきたい3つのテーマをお伝えします。

ビジネスモデルの整理:どうやって売上を立てるか?

「これから何をしていくか?」だけでなく、

**「その活動がどうやって売上につながるか?」**まで見通せるようになることが大切です。

たとえば——

単発の講座で終わってしまわないようにするには?

継続的に収益が入る仕組みをどう作るか?

誰に・どんな価値を届けるのかが、きちんと整理されているか?

商品やサービスを「やりたいこと」だけで組み立てるのではなく、

続けられる形にしていく視点が必要になってきます。

キャッシュフローの把握:お金の動きをつかむ

「法人にしたけど、思ったよりお金が残らない」

これは本当によくある話です。

最初は見えづらいですが、売上の中から何が出ていって、何が残るのかをちゃんと見ていく必要があります。

そのためにおすすめなのは、まずは「ざっくりでもいいから毎月の収支を数字で把握する」こと。

利益が出るかどうか以上に、

「お金の動きがわかるようになる」ことの方が、最初のうちは大事だったりします。

「どの数字を把握しておけば上手くいくか」、あなたなりのダッシュボードを整備するのがこのタイミングです。

この感覚が掴めると、その後の意思決定がぐっとスムーズになります。

たとえば「ここは経費で出していいけど、ここはまだ早いかもな」といったことも、根拠のある感覚で判断できるようになるんですよね。

数字は、意外と自分の思考を整理してくれるんです。

事業の「らしさ」を整える:自分らしい軸をつくる

法人化すると、「ちゃんとしなきゃ」という気持ちが強くなる人が多いです。

でも実は、「らしさ」が失われるのもこの時期に起こりやすいんですよね。

大切なのは、「何をやるか」だけでなく、

**「なぜそれをやるのか」「どんな人に届けたいのか」**を自分の言葉で話せるようになること。

肩書きや形式に引っ張られすぎず、自分の中にあるを言葉にする

それがあると、迷ったときにも立ち戻れるし、周りとの関係性もグッと築きやすくなります。

ここまでの取り組みは、どれも立ち上げ期の基盤づくりです。

一つひとつを完璧にする必要はありません。

でも、焦らず丁寧に向き合っていくことで、

「なんとなくやってる」から「意図して動いている」に変わっていきます。

それが、ビジネスとしての自信につながっていくんです。

「次のステージに立ったあなたへ」

法人化は、たしかに大きな一歩です。

でもそれは「完成」の証ではなく、

ここから本格的に事業を形にしていくフェーズに入ったという合図のようなもの。

ここから先は、「想い」と「しくみ」の両方を少しずつ育てていく時間です。

そのときに、自分にこんな問いを投げかけてみてください:

この商品・サービスは、続けて提供できるか?

お金の流れは、把握できているか?

この事業は、自分らしさを表現できているか?

判断は、なんとなくじゃなく根拠のある感覚でできているか?

これらの問いに「今はまだ答えられないかも」と思っても大丈夫。

むしろ問い続けて、少しずつ創り上げていけばいいんです。

それこそが、あなただけのビジネスの形になっていきます。

「なんとなくやっている」から「意図して動いている」へ。

その変化が、ビジネスとしての自信をつくっていきます。

法人化はゴールじゃない。

でも、確かにあなたは、次のステージに立っている。

ここから始まる事業の旅を、ぜひあなたらしく、たのしんでください。

Pocket

PAGE TOP