最近、とあるエンジニアの方とのコーチングセッションで、
「ここ数日、少しパフォーマンスが下がってきていて…」という話題が出ました。
これまでも、ときどき似たテーマを扱ってきましたが、
そのたびに「どう整えていけばいいか」をまじめに考え、
丁寧に向き合おうとする姿勢が印象的な方です。
話を伺いながら、
「こうした状態の揺れは、誰にでも起きることだ」と改めて感じました。
どれだけ誠実に仕事に向き合っている人でも、
ふっと流れが重くなるような時期があります。
そして、その“動きにくくなる時間”は、
自分の状態を知るためのサインにもなります。
この記事では、
そのセッションで整理した“整えるための3つの視点”をもとに、
エネルギーの流れが滞ったときの向き合い方をまとめました。
もし今、調子がどこかしっくり来ないと感じているなら、
そっと読み進めてもらえたら嬉しいです。
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【はじめに】
どれだけ真剣に仕事に向き合っている人でも、
モチベーションが落ちる時期はあります。
頭では「やらなきゃ」とわかっていても、体が重い。
タスクを前にしても気持ちが乗らない。
そんな日々が続くと、「自分はダメなんじゃないか」と
心の中でつぶやいてしまうこともあります。
でも、それは“あなたの中のエネルギーの流れが止まった”のではなく、
静かに整えるタイミングなのかもしれません。
現場で真面目に取り組んでいる人ほど、
「ちゃんとやらなきゃ」「もっと頑張らなきゃ」と思う気持ちが強く、
停滞した自分を責めてしまいがちです。
けれど、**ネガティブな状態は避けるものではなく、“扱うもの”**です。
それは、心のメンテナンスのようなもの。
とくに感情の動き方や働き方を知り、整えることで、再び前に進む力が戻ってきます。
この記事では、
そんな「停滞期」を、“整える時間”として捉え直すためのきっかけに利用する
3つの視点を紹介します。
焦って動くよりも、立て直す。
自分を責めるよりも、自分の状態を整える。
静かな時間の中で、自分のエネルギーを取り戻すヒントになれば幸いです。
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第1章|ネガティブな思考を“止めよう”としない
感情の波が落ちている時ほど、
「こんなふうに考えちゃいけない」と、自分の中のネガティブを押さえつけようとします。
でも、その行為自体が、心の負担をさらに大きくしてしまうことがあります。
ネガティブな思考は、あなたにきっかけをくれるサインのようなもの。
たとえば、
• 不安は、「情報や準備が足りていないかもしれない」というサイン。
• 焦りや苛立ちは、「何かがずれている」「アプローチを変えるタイミングかもしれない」というサイン。
• 無力感は、いったん立ち止まり、物事の捉え方の解像度を上げるタイミングというサイン。
つまり、どの感情も“何かを伝えようとしている”のです。
それを無理に消そうとするのは、車の警告ランプから目をそむけて走り続けるようなもの。
大事なのは、現状を把握すること。
たとえば、
「ちょっと不安が大きいな」
「今、自分は焦ってるな」
そう気づくだけで、感情の流れに巻き込まれにくくなります。
感情に名前をつけることで、自分が思考を“見ている側”に戻れるからです。
それは、仕事のトラブルシューティングにも似ています。
現象だけを見て対処しても、本質にはたどり着けません。
現象を観察し、ログを取り、パターンを読み取る。
そのプロセスの中で、ようやく“何が本当に起きているのか”が見えてくる。
感情の扱い方も同じで、観察→理解→調整の順序を踏むと、流れは自然に整っていきます。
ネガティブを否定する必要はありません。
「今は、そう感じている自分がいるんだな」と一歩引いて見つめる。
それが、心のエネルギーを再び動かす最初のステップになります。
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第2章|感情・現象・環境の3層で見る
ネガティブな状態を整理するとき、
多くの人は“感情”だけに注目してしまいます。
「不安だ」「焦っている、苛立っている」「無力感を覚える」──
けれど、その感情だけを見つめ続けると、かえって視野が狭くなり、
状況の全体像を見失ってしまうことがあります。
感情は大切なサインですが、それは現象と環境の上に生まれているものです。
つまり、「環境」→「現象」→「感情」という順に影響が生まれます。
一方で、人は感情をきっかけに現象や環境を受け取ります。
ここでは、人が感じる流れにそって、感情から外側へと視野を広げる順で整理していきます。
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① 感情|内側で何が起きているかを知る
最初に見るのは「自分の内側」。
不安、焦り・苛立ち、そして無力感といった感情をサインとして受け取ります。
ここで大切なのは、感情を良い・悪いで判断せず、
その感情がどんなサインかを見極めることです。
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② 現象|実際に何が起きているのかを見る
次に焦点を当てるのは“外側の出来事”。
タスクの滞り、人間関係の変化、体調の乱れ──
感情の背後には、必ずトリガーとなった具体的な現象があります。
感情と現象を切り分けて見ることで、
「今の自分は何に反応しているのか」がクリアになります。
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③ 環境|その現象が起きている“場”を捉える
最後に見るのは、現象が起きている環境。
仕事の量やチームの雰囲気、季節の変化、生活リズムなど、
背景にある環境が整っていないと、どんなに努力しても感情は揺らぎます。
ここを見落とすと、“頑張る”ことが空回りしてしまう。
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この3層を整理すると、
たとえば「最近不安を感じる」「焦って空回りしてしまう」「何をしても力が入らない」といった感情の裏にも、
• 感情: 不安・焦り・無力感
• 現象: 仕事が滞っている、タスクが増え続けている、役割の影響範囲が大きい
• 環境: 業務量が多い、営業がとってくる仕事のコントロールができていない、上長とのコミュニケーションが不足しがち
といった構造が見えてきます。
すると、「感情をどうにかしよう」と無理に動く前に、
“現象や環境を整えるだけで自然に感情が整う”ことがあると気づくのです。
感情を起点にして、現象と環境を客観的に観察する。
この3層で見る習慣が、エネルギーの流れを静かに整えていきます。
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第3章|“整える”とは、流れを取り戻すこと
感情の正体を理解し、現象や環境を整理していくと、
次に大切になるのが「整える」というプロセスです。
整えるとは、
焦って無理に“変える”ことではなく、
本来の流れを取り戻すこと。
滞っていた思考やエネルギーが少しずつ動き出し、
“自然に動ける状態”を再びつくっていくことです。
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① 小さな完了を「積み上げる」
エネルギーの流れを戻す最初の一歩は、
「できたこと」を自分に伝えていくこと。
たとえば、
・メールを一件返信できた
・机の上を片づけられた
・資料の1ページだけ修正できた
──これら一つひとつは小さな“完了”です。
「この完了できている自分を自分に伝えていきます。
その積み重ねが、次の一歩を動かす力になるからです。」
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② 外の流れを“取り戻す”
整えるというのは、
自分の内側だけで完結することではありません。
停滞しているときほど、
外とのつながりを再び流すことが大切です。
たとえば、
• 業務量が多いときほど、優先順位を共有し、チーム全体で負荷を見える化する。
• 営業がとってくる仕事の影響範囲が読めないときは、早めにスコープや納期を相談する。
• 上長とのコミュニケーションが不足していると感じたら、短くても定例の確認時間をつくる。
こうした“小さな調整”が、
「自分だけで抱えていたもの」を外に流し、
思考と感情の循環を取り戻してくれます。
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③ 「土台を整える」ことも流れを戻す
そしてもうひとつの“整える”は、自分の土台をメンテナンスすること。
たとえば、睡眠、食事、光、音、空気──
これらは意識していなくても、
私たちの集中力や感情の安定に深く関わっています。
業務量の調整やタスクの見直しと同じくらい、
“土台を整える”ことが、
感情の流れを安定させる最も確実な支えになります。
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焦って動こうとする前に、
まずは小さく完了し、外とつながり、土台を整える。
この3つを繰り返すことで、
止まっていた流れは、自然と戻り始めます。
整えるとは、動き出せる自分をつくること。
そのプロセス自体が、
あなたの中のエネルギーを静かに整えていきます。
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エピローグ|静かに整う時間の中で
エネルギーの流れが滞るとき、
私たちはつい「早く戻さなきゃ」と思ってしまいます。
けれど、本当は“整う時間”そのものが、
次の流れを生み出す準備なのかもしれません。
不安、焦り、無力感などからのサインを受け取りながら、
小さな完了を積み重ね、
周囲との関係と、自分の土台を少しずつ整えていく。
その過程の中で、
心や身体は静かにバランスを取り戻していきます。
整うとは、
「何もしない時間」を持つことではなく、
「今の自分を観察する余白」を持つこと。
頑張って動こうとしなくても、
丁寧に整えることで、自然な流れが生まれてきます。
その瞬間のために、
まずは呼吸を深くするところから始めましょう。
