現場の経験が未来のリーダーシップを育てる

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はじめに

おぼろげながら将来は経営者になりたい──そう思い描きながらも、異動になった先で今の自分がやっているのは「現場の作業をひとつずつ覚えること」。

これは、ぼくのコーチングを受け始めた頃に「私、経営者になってみたいです」と言ってくださった、あるクライアントのお話です。
そのときの彼女の表情は、自信満々というよりは「まだ輪郭ははっきりしていないけれど、心の奥にある熱を言葉にしてみた」という感じでした。

ところが、そんな彼女が異動によって任されたのは、目の前の作業を一から覚えていくこと。
経営に近づくどころか、むしろ遠ざかってしまったように感じても不思議ではありません。

きっと彼女の中には、戸惑いやギャップもあったでしょう。けれど、ぼくはその話を聞いたときに──
「現場の作業を覚える時間には、未来の経営に直結する大事な意味がある」と。

“現場を知る”とは、作業を覚えること以上の意味がある

「現場の作業を覚える」と聞くと、決められた手順を正しくこなせるようになること──そう思いがちです。
確かに、日本の職場では「現場を経験している人は信頼されやすい」という文化的な側面もあります。
一緒に汗をかいた人を自然と信用する──そんな感覚が、組織の中には今も息づいています。
だから、今の現場作業を覚える時間は、将来リーダーとして人を動かすときに「説得力」という形で返ってきます。

けれど、本当に大切なのはそこで終わらせず、その先にあるものを掴み取ることです。
現場を知る本当の意味は、作業をひとつひとつ身につける中で、**「人はどこでつまずきやすいのか」「仕組みはどんな場面で滞りやすいのか」**に気づけること。
マニュアルどおりにやってもうまく進まない瞬間や、人によってつまずくポイントが違う場面に出会うとき、私たちは“人と仕組みのリアル”に触れているのです。

こうした気づきは、将来リーダーとして人を支援したり仕組みを改善したりするときに、必ず役立ちます。
つまり、現場を知るとは「単に作業を覚えること」ではなく、“人と仕組みを理解する力”を掴み取ることなのです。

そして、その視点は仕事の外にも広がっていきます。
異動によって生まれた「公私の時間配分の変化」に向き合うこともまた、24時間という限られたリソースをどう配分するかの実践です。
睡眠・食事・勉強・仕事──その組み立ては小さな経営そのもの。
時間を整える力は、そのまま人と仕組みを整える力へとつながっていきます。

現場に立つ日々も、生活のリズムを整える試行錯誤も。
今、彼女に起きているさまざまな変化を、未来の経営に直結するトレーニングだという視点で見てみる。
そうすると、目の前の出来事の活かし方が見えてきます。

未来への接続

現場での日々は、ただの作業の積み重ねに見えるかもしれません。
けれど、その一つひとつは未来の経営に必要な力へとつながっています。

たとえば──

短期間で業務を一通り回せるようになること。

これは経営者に欠かせない「成果を出す力」の土台になります。限られた時間で結果を出す経験は、そのまま経営の実行力を磨くことにつながります。

委託メンバーと一人ひとり対話すること。

これは将来チームを率いるときに必要な「人を理解する力」へと変わります。人がどう動き、どこでつまずくのかを知ることは、組織を活かすうえで欠かせない視点です。

生活リズムを整える試行錯誤。

これは長期的に人を支える立場に必要な「持続する力」になります。経営はマラソンです。安定して力を発揮するためには、まず自分自身のコンディションを整えることが欠かせません。

──このように見ていくと、目の前の現場での多くのことが「未来の経営につながる練習」になっています。
経営に近い場所にいなくても、すでに経営の基礎は日々の中で育ち始めているのです。

まとめ

現場に立ち、作業を覚えること。
生活のリズムを整えようと試行錯誤すること。
どちらも「経営」とは無縁に見えるかもしれません。

けれど、そのひとつひとつは──
未来の経営に欠かせない力を育てる、確かなトレーニングです。

その力が日々育っている

どうか焦らず、今の経験を自分の糧として眺めてみましょう。
視点を少し変えるだけで、現場の出来事も、日常の工夫も、様々なことがリーダーとしての学びにつながっていきます。

未来のリーダーシップは、特別な場所にあるわけではありません。
現場の中に、日常の中に、その芽はすでに育ち始めているのです。

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