セッションから見えた「問い」
先日のコーチングセッションで、ある管理職の方と「理想の仕事とは何か」というテーマを話し合いました。
その方は会社の現場をまとめながら、新しいプロジェクトをリードしている立場。責任も成果も大きく求められる一方で、「自分にとって理想的な仕事の条件は何だろう」とあらためて考えているところでした。
対話の中で浮かび上がってきたのは、「楽しさと報酬の両立はできるのか?」 という問いです。
やりがいを感じられる仕事に就きたい。でも、家族を支えるために報酬も大切。どちらか一方を選ぶのではなく、両方をどう成り立たせるか。これはキャリアの中盤を迎えた多くの管理職にとって、とてもリアルで切実なテーマだと思います。
この記事では、そのセッションをきっかけに見えてきた考え方を整理しながら、40代の管理職が「楽しさ」と「報酬」をどう捉え直し、“自分づくり”としてキャリアを歩んでいくヒントをお伝えしていきます。
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40代に訪れる「やりがい」と「安心感」の揺れ
40代になると、多くの人が「仕事のやりがいや充実感」と「現状維持の安心感」のあいだで揺れるようになります。
「もっと自分らしい挑戦をしたい」と思う一方で、今の安定した状況を守りたい気持ちや、家族への影響を恐れる気持ちも無視できません。
この時期には、現状維持バイアスが働きやすい環境にいらっしゃる方が多いと感じます。
実際に、ぼく自身も会社員として働きながら40代でコーチングを始めたのは、この揺れを自分なりに受け止め直そうとしたからでした。
そして現在に至るまで、さまざまな40代のビジネスパーソンとのコーチングセッションの中で、この“やりがいと安心感の間での揺れ”はテーマとして繰り返しお話をしてきました。
さらに管理職の場合は、もうひとつ特有の板挟みがあります。
「会社の意向」と「現場の想い」、そして「自分らしさ」。
この三つの間でどうバランスを取るかという課題が、「やりがい」と「現状維持の安心感」の板挟みに重なるのです。
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“条件”ではなく“状態”に注目する
「やりがい」と「安心感」の揺れを考えるとき、多くの方がまず思い浮かべるのは「条件」です。
たとえば──
「給与がいくらなら安心できる」
「この役職についていればやりがいがある」
「在宅勤務できる環境なら自分らしさを保てる」
多くのビジネスパーソンを支援してきて感じるのは、条件で考えることはわかりやすくて具体的ですが、それだけに縛られてしまうと、どこかで満たされない感覚が残ることも多いということです。
大切なのは、「どんな条件を満たすか」ではなく、**「どんな状態にいるとき、自分のエネルギーが自然に湧いているか」**を見つめること。
たとえば──
• 「仲間と成果を喜び合えているとき」
• 「一人でじっくり整理して頭が冴えているとき」
• 「誰かの役に立てている実感を得ているとき」
こうした“状態”に注目することで、自分が大切にしている価値観や強みがより鮮明になります。
そして、それは単なる条件を超えて、キャリアの選び方や働き方の軸をつくる手がかりになるのです。
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「自分づくり」という視点で自分らしさを取り戻す
コーチングを通じて多くのビジネスパーソンを支援してきて感じるのは、キャリアの正解を「探す」のではなく、「自分をつくり続ける」という視点が大切だということです。
診断ツール(ストレングスファインダーやエニアグラムなど)は、自分の素材を知るきっかけとしてとても有効です。
そこから“自分づくり”を進めていくには、その素材をどう磨くか、どう組み合わせれば自分が活きるのかを考えながら実践していくこと。
そこに“自分づくり”の面白さと深さがあります。
そしてもうひとつ視点を広げたいのは、「自分らしさ」が活きるのは“仕事そのもの”だけではないということです。
ある人にとっては、特定の職務や役割が自分らしさを発揮する舞台になります。
一方で別の人にとっては、“働き方のスタイル”こそが自分らしさを支える要素になります。
ここでいう「働き方」とは、テレワークやジョブ型雇用といった制度の話というよりは、もっと個人的で実感的なものです。
• 人と議論しているときにアイデアがどんどん湧くタイプの人
• 一人でじっくり整理しているときに力を発揮するタイプの人
のように、特定のやり方をしているときに自分らしさを強く感じるケースです。
“自分づくり”とは、この「仕事」と「働き方」など複数の視点から柔軟に、自分にフィットする形やバランスを探り続けること。
それは新しい環境を探すこと以上に、自分のスタイルを見出し、育てていくプロセスだと思います。
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実践のヒント|“自分づくり”を始める3つのステップ
ここまで「条件」ではなく「状態」に注目し、“自分づくり”の視点を持つことが大切だとお伝えしてきました。
では、実際にどのように日常のキャリアに取り入れていけばいいのでしょうか。
多くの40代のビジネスパーソンとセッションを重ねる中で見えてきた、シンプルな3つのステップを紹介します。
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1. 強みの棚卸しする
まずは、自分が自然にエネルギーを発揮できる場面を振り返ってみましょう。
• 部下との1on1で安心感を与えられたとき
• プロジェクトの計画を整理しているときに頭が冴えたとき
これは「どんな条件の仕事をしたか」ではなく、どんな状態にあるとき自分が生き生きしていたかに注目するのがポイントです。
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2. 状態を言語化する
次に、そのエネルギーを感じられる瞬間を**「条件」ではなく「状態」として表現**してみます。
• 「仲間とアイデアを膨らませている状態が自分らしい」
• 「計画を形にして周囲に評価されるときに充実感がある」
こうして言語化しておくと、自分にとって大切な価値観がよりクリアになります。
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3. 小さな実験を始める
最後は、日々の仕事や習慣の中で新しい“働き方のスタイル”を試してみることです。
• 普段は議論中心の人が、あえて一人でまとめる時間を長めにとってみる
• 一人で抱え込みがちな人が、あえて人に話してから考えを深めてみる
こうした小さな実験を繰り返すことで、自分らしさが発揮されやすいバランスが少しずつ見えてきます。
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“自分づくり”は一度で完成するものではありません。
探る・試す・整える、そのプロセス自体がキャリアの成長を支えていくのです。
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40代の管理職にとって、挑戦と安定のはざまで揺れるのは、40代だからこそ訪れる大切な時間です
ただ、その揺れをネガティブに捉える必要はありません。むしろ、自分をつくり直していくチャンスでもあります。
キャリアは「条件に合った仕事を選ぶ」ものではなく、自分らしい状態を見つけ出し、つくり続けていくプロセスです。
そしてその過程で、やりがいと安心感の両立も少しずつ形を変えて実現していくのだと思います。
大きな転職や環境の変化だけが答えではありません。
日々の仕事や習慣の中で、小さな実験を重ねながら“自分づくり”を続けること。
その積み重ねが未来のキャリアを形づくり、管理職としての成長を支える大切な土台になります。
最後に、あなたにこんな問いを置いて終わりたいと思います。
👉 今のあなたが最も自分らしさを感じられる状態は、どんなときでしょうか?
👉 そして、それを日常の仕事や習慣に小さく取り入れるとしたら、何から始めますか?