まじめに伝えたつもりが、距離を遠ざけていた──関わり方を整えるという選択

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「そんなつもりはない」これまでの自分の伝え方

あるコーチングセッションでのことです。
そのクライアントさんが、ふとこんなことをこぼしました。
「そんなにきつく言っているつもり、ないんですけど……」

この言葉が、どこか自分の胸にも引っかかりました。
というのも、これまでにも──特に、縦の関係性が色濃い組織でマネジメントに関わっている方たちとのコーチングセッションで、
同じような言い回しを何度か耳にしてきたからです。

「そんなつもりはなかった」。
でもその“つもり”が、人との関係性のなかでは、
ときに“圧”として伝わってしまうことがあります。

今回のセッションをきっかけに、こうした言葉が生まれる背景に、あらためて目が向きました。

コーチングの現場では、「圧が強いよね」と誰かに言われた経験について話をお聞きすることがあります。
それは、部下や後輩、あるいは上司との関係の中で出てきた言葉かもしれません。

そうしたやり取りを聴いていると、
「相手にきちんと覚えてほしい」「ちゃんとできるようになってほしい」
──そんな思いで接している方が多いと感じます。

けれど、そうした関わり方の裏には、

人との関係性を構築することへの不器用さ

でも、役割として“関わらなければならない”。

そのギャップの中で、伝え方が強くなってしまうことがあるのだと思います。

②|“伝え方”に幅を持たせるということ

これまでぼくが対話してきた「圧が強い」と言われがちな方たちは、
一人ひとりとても誠実で、責任感の強い方ばかりでした。

人に何かを教えるときも、任せるときも、
できるだけわかりやすく、丁寧に、きちんと。
抜けや誤解がないように、言葉を選び、説明を尽くす。
そんなふうに、関係性を大切にしようとしている姿を、何度も見てきました。

だからこそ、「なんで伝わらないんだろう?」と戸惑う気持ちになるのも、よくわかります。

でも、ときにその言葉や関わり方が、
相手にとっては「きつい」「重たい」と感じられてしまうことがあります。

伝える側がどれだけ丁寧でも、
受け取る側には「責められているように感じる」「詰められているように聞こえる」と
伝わってしまうことがあるんです。

それは「伝え方が強すぎる」というよりも、
**“伝え方にゆとりや幅を持たせる余地がある”**ということなのかもしれません。

「どの言葉が伝わりやすいのか」
「どのくらいの情報量でちょうどいいのか」
「どのタイミングで伝えるのが効果的なのか」

──そんな問いを持ちながら、
“伝え方”そのものを広げていくこと。

それは、伝える力をさらに磨くだけでなく、
相手との関係性をより深くするための、大切な一歩になると思うのです。

“距離感”を調整して相手に合わせる技術は、
伝える側が心にゆとりを持って、意識的に行わないと
うまくいかないことが多いように思います。

ただ、「きちんとやりたい」「丁寧に伝えたい」という思いがあるからこそ、
その“伝え方の幅”を少しずつ広げていくことで、
もっと自分らしく、相手と関われるようになるのではないか──
そんなふうに感じています。

③ 相手との間にある“ズレ”を自覚する

どんなに誠実に伝えても、「伝わらない」「響かない」というズレは、どこかで必ず生まれます。

たとえば──
言葉を尽くして伝えたつもりなのに、相手の表情は冴えない。
問いかけたはずなのに、「うーん…」と口ごもったり、黙り込まれてしまう。

こんなふうに、相手の反応が薄いときこそ、
「なんで伝わらないんだろう」
「もっとちゃんと話すべきだったかも」
と、自分の“伝え方”を強めてしまう。

でも、実はこれが悪循環の始まりであることも多い。

そして、ときには周りからのフィードバックで、ようやく
「ああ、そういうふうに伝わっていたのか」
と気づくことになるのです。

こうした“ズレ”を認識することができれば、
自分の伝え方にどんな「前提」や「思い込み」があったのか、
それに気づくきっかけとして活かしていけるようになるはずです。

だからこそ、「伝えたこと」と「伝わったこと」の間にある“ズレ”に、
すこしずつ意識を向けられるようになること。
それが、自分らしい伝え方の精度を上げていく土台になるのではないでしょうか。

④ 相手を動かすのは、言葉の量より“距離感の設計”

誠実に、真剣に、丁寧に──
相手に伝わるようにと、言葉を尽くす。
それ自体は悪いことではありません。けれども、
言葉の“量”や“強さ”で関係を動かそうとするほど、かえって相手の心が遠ざかることもあります。

たとえば、何度も念押しをしたり、繰り返し確認したり、強い言葉を使ったり。
あるいは、「わかってほしい」という気持ちが強くなりすぎて、
知らず知らずのうちに、相手の思考や感情のスペースを奪ってしまう──。
そんなことも、少なくないのではないでしょうか。

大切なのは、「どれだけ言うか」や「強い言葉で伝えること」ではなく、
「どんな距離で関わるか」という感覚です。

それは、“近づきすぎない”ということではなく、
相手のペースやタイミングに寄り添える、余白ある関係性。
つまり、「踏み込みすぎず、離れすぎず」という“距離感の設計”のようなものです。

もちろん、言葉は関係を築くための大切な手段です。
でも、それだけでは足りないこともある。
ときには、「あえて言わない」ことや「ちょっと待つ」ことが、
信頼をつくる助けになることもあるはずです。

“伝え方”を磨こうとするのと同じくらい、
“関わり方”の距離感に意識を向けること。
それが、相手を動かす静かな力になっていくのではないでしょうか。

⑤ 関係性を選びなおすための「3つの見直しポイント」

相手を動かす「距離感の設計」と言っても、
感覚だけに頼るのは難しいこともあります。

そんなときは、次のような観点から
関わり方を見直してみると、ヒントが見えてくるかもしれません。

1|“近づきすぎていないか”を見直す

• 相手の成果や成長に、過剰に責任を感じていないか?
• 「わかってほしい」「変わってほしい」という気持ちが強くなりすぎていないか?

→ 一歩引くことで、相手との関係を健全に保ちやすくなります。

2|“離れすぎていないか”を見直す

• 言わなくても伝わるだろう、と放置していないか?
• 無関心やあきらめが距離をつくっていないか?

→ あらためて伝えてみることで、想像以上に関係が動くこともあります。

3|“お互いの立場や状態”を見直す

• いま相手はどんな状況にいて、何に余裕がないのか?
• 自分の立場や発言が、どう受け取られている可能性があるか?

→ 状況の変化に合わせて関わり方を選ぶことは、信頼を保つカギになります。

これら3つの見直しを実践することで、完璧ではなくとも「距離感の再設計」をする事ができます。

⑥「関わり方」は、選び直せる

「そんなつもりじゃなかったのに」──
意図していない伝わり方に気がついた時に、
多くの人が抱くのは、“誤解された”という戸惑いや、“うまくできない”という落ち込みです。

けれど、人との関係性は、
一度つくったら終わりではなく、何度でも選び直すことができるものです。

「こうすれば伝わるはず」と思っていた関わり方も、
相手の状況や自分の立場が変われば、かえって負担になってしまうことがあります。
逆に、以前は届かなかった言葉が、タイミング次第でスッと入ることもある。

だからこそ大切なのは、
言葉の“量”や“強さ”を変えることよりも、関わり方を“見直す”視点を持ち続けること。

・近づきすぎていないか
・離れすぎていないか
・相手との「今」をちゃんと見ているか

この3つの問いかけを通して、自分のスタンスを少しずつ調整していくことで、
たとえすぐに関係が改善されなかったとしても、
「自分にできる関わり方」を丁寧に選び取っていくことができます。

完璧じゃなくていい。
でも、自分の意志で関わり方を整えていけるという実感は、
きっとあなたの人間関係に、静かな安心感をもたらしてくれるはずです。

小さな見直しの積み重ねが、やがて大きな信頼につながっていきます。

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“伝わらない立場”にいるリーダーへ──支える力を言葉に変えるヒント

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はじめに|「言っているのに、伝わらない」

「ちゃんと伝えたつもりなのに、なぜか伝わらない」──。

そんな感覚を抱えたまま日々を過ごしているリーダーは少なくありません。

上司には、現場の課題や限界を言葉にして伝えている。

メンバーにも、社長の意図をできるだけ丁寧に説明している。

どちらにも誠実に向き合っているのに、なぜか誤解されたり、

“わかってもらえない”まま話が終わってしまう。

声の大きさの問題でも、説明力の問題でもない。

それはむしろ、組織の中で立っている位置がそうさせている。

上と下のあいだに立つ人ほど、言葉が空中でほどけていくような感覚を抱く。

支える立場のリーダーが感じる「伝わらなさ」は、

怠慢でも無関心でもなく、誠実さの副作用なのかもしれません。

先日、とある社員数百名規模の企業で取締役を務める方との

コーチングセッションの中で、彼女が抱えるジレンマを聞くことがありました。

「上にも下にも伝わらない」と語るその言葉の奥には、

長く続く努力と、静かな諦めが同居していました。

現状の構造|上にも下にも「中継するだけ」のポジション

その取締役の彼女は、社長の言葉を現場へ、

現場の声を社長へと橋渡しする役割を担っている。

日々、経営会議と実務のあいだを往復しながら、

どちらにも混乱が生まれないように気を配り続けている。

社長から新しい方針が下りると、彼女はまず内容を整理し、

現場にどう伝えるのが最も理解されやすいかを考える。

会議資料を整え、言葉をやわらげ、

時には「社長の意図」を代弁するような形でメンバーに話す。

一方で、現場で生じる課題や不安を社長に届けるのも彼女の仕事だ。

「この仕組みでは運用が難しそうです」「今の時期に実施するのは負担が大きいかもしれません」

──そんな現場のリアルを慎重に伝えるが、

返ってくるのは「いや、それはできる」「やるしかない」という言葉。

社長には、現場の戸惑いや混乱が“やればわかるはずのこと”であったり、

“覚悟の足りなさ”に映っているようだ。

けれど、彼女には**“見え方のずれ”に見えている。**

気づけば、自分の言葉がどちらにも届かないような感覚が残る。

経営の近くにいながら、意思決定には関われない。

現場を理解しているのに、裁量を発揮できない。

社長は現場の未熟さを感じ、

現場は社長の“方針がコロコロ変わる”ように見えて苛立っている。

そのあいだに立つ彼女は、どちらの言い分も理解できるがゆえに、どちらからも距離を置かれる。

ときに社長の意図を代弁すれば、現場から反発を受け、

現場の声を拾えば、社長から「言い訳に聞こえる」と言われる。

だからこそ、一番誠実に立ち回っているのに、いちばん板挟みになる。

この立場の孤独は、静かだけれど、深い。

内省|「伝わらない」には3つのパターンがある

彼女が感じている「伝わらなさ」は、

単に言葉の選び方や伝達手段の問題ではない。

その根っこには、**立場によって異なる“伝わらなさの構造”**がある。

そしてそれは、大きく三つのパターンに分けられる。

① 上に伝わらない──現場のリアルが、理想の中で薄まる

社長は、会社全体を動かすための理想やスピード感を大切にしている。

だから、現場の課題を聞いても「やればできる」と返す。

そこには、成長への信念もあれば、現実への鈍感さもある。

一方で、彼女が丁寧に言葉を選ぶほど、

その“現場の温度”は、社長の頭の中で抽象化されていく。

結果として、伝えたはずの内容が、意味の輪郭を失っていく。

② 下に伝わらない──社長の意図が、彼女の口を通して弱まる

彼女は、社長の方針をできるだけ柔らかく、誤解を生まないように伝えようとする。

けれど、その“配慮”が意図の鮮度を下げてしまう。

現場のメンバーには、「また上からの指示か」としか届かない。

伝えようとすればするほど、言葉が摩耗していく。

③ 自分にも伝わらない──“考えること”を自分の役割としていない

上にも下にも橋をかけ続けるうちに、

「自分はどうしたいのか」「どうすべきなのか」を言葉にする機会が少なくなっていく。

社長の意図を理解し、現場の状況を整理する──

その“翻訳”の仕事に意識の大半を使っているからだ。

彼女は、経営の意図を正確に伝えることが自分の役割だと信じている。

だから、自分の意見を明確にする必要をあまり感じていない。

仮に「どう思う?」と問われても、

経営の全体像を描くための視点や経験がないまま、

自分の言葉を整えることができずにいる。

誠実に動いているのに、

その誠実さが“自分の意思”を育てる方向には向かっていない。

ここに、彼女が抱える“伝わらなさ”の根がある。

“伝わらない”という現象の背景には、

伝える力の不足ではなく、それぞれが見ている位置の違いがある。

そのズレを整理することが、次に進むための第一歩になる。

その“一歩”とは、何か。

転換点|“翻訳”から“意味づけ”へ

「社長の言葉をどう伝えるか」──

これまでの彼女の関心は、ほとんどがその一点にあった。

誤解を防ぎ、現場を混乱させないように。

社長の意図を崩さずに、できるだけわかりやすく。

けれど、どれだけ丁寧に“翻訳”しても、

現場が動かなければ、経営は進まない。

彼女はそのシンプルな事実に気づきはじめている。

少しずつ、彼女の中に「伝える」よりも

“どう受け取らせるか”という視点が生まれてきた。

それはまだ言葉にならないけれど、

“翻訳者”ではなく“意味づけを促す人”としての小さな目覚めでもある。

社長の言葉をそのまま伝えるのではなく、

「こう受け取りました。こう動くことで、こんな変化が想定されるので、まずそこまでやります。」

と返してみる。

それは、“意図をくんでもらう”ためではなく、

動いてもらう中で気づきを生み出すための返し方だ。

現場に理解を求めすぎず、

段階的なアプローチで「現場が動く」ことを優先する。

その小さな実践が、やがて“現場が自ら意味づけできる組織”への土台になっていく。

「伝える」から「動かす」へ。

その転換が、彼女自身の言葉に“自分の意思”を取り戻していく第一歩になる。

結び|「支えるリーダー」に共通する、静かなテーマ

今回の彼女のケースは、決して特別なものではない。

「支える立場」にいる人ほど、

自分の意思よりも、誰かの意図を優先してしまう。

その誠実さが、いつの間にか“自分の言葉の薄まり”につながっていく。

けれど、経営やチームが動くためには、

支える側がただの“翻訳者”で終わってはいけない。

言葉の背景を理解し、状況の意味を整理し、

ときに「まずこう動いてみます」と意思を返す。

その小さな対話の積み重ねが、

組織に“考える文化”をつくっていく。

支えるリーダーの成長は、

声を大きくすることでも、立場を強く主張することでもない。

状況の中で、自分なりの意味を見つけ、行動で示すこと。

静かに、けれど確かに組織を変えていく。その姿勢が、支えるリーダーの原点だ。

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現場の経験が未来のリーダーシップを育てる

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はじめに

おぼろげながら将来は経営者になりたい──そう思い描きながらも、異動になった先で今の自分がやっているのは「現場の作業をひとつずつ覚えること」。

これは、ぼくのコーチングを受け始めた頃に「私、経営者になってみたいです」と言ってくださった、あるクライアントのお話です。
そのときの彼女の表情は、自信満々というよりは「まだ輪郭ははっきりしていないけれど、心の奥にある熱を言葉にしてみた」という感じでした。

ところが、そんな彼女が異動によって任されたのは、目の前の作業を一から覚えていくこと。
経営に近づくどころか、むしろ遠ざかってしまったように感じても不思議ではありません。

きっと彼女の中には、戸惑いやギャップもあったでしょう。けれど、ぼくはその話を聞いたときに──
「現場の作業を覚える時間には、未来の経営に直結する大事な意味がある」と。

“現場を知る”とは、作業を覚えること以上の意味がある

「現場の作業を覚える」と聞くと、決められた手順を正しくこなせるようになること──そう思いがちです。
確かに、日本の職場では「現場を経験している人は信頼されやすい」という文化的な側面もあります。
一緒に汗をかいた人を自然と信用する──そんな感覚が、組織の中には今も息づいています。
だから、今の現場作業を覚える時間は、将来リーダーとして人を動かすときに「説得力」という形で返ってきます。

けれど、本当に大切なのはそこで終わらせず、その先にあるものを掴み取ることです。
現場を知る本当の意味は、作業をひとつひとつ身につける中で、**「人はどこでつまずきやすいのか」「仕組みはどんな場面で滞りやすいのか」**に気づけること。
マニュアルどおりにやってもうまく進まない瞬間や、人によってつまずくポイントが違う場面に出会うとき、私たちは“人と仕組みのリアル”に触れているのです。

こうした気づきは、将来リーダーとして人を支援したり仕組みを改善したりするときに、必ず役立ちます。
つまり、現場を知るとは「単に作業を覚えること」ではなく、“人と仕組みを理解する力”を掴み取ることなのです。

そして、その視点は仕事の外にも広がっていきます。
異動によって生まれた「公私の時間配分の変化」に向き合うこともまた、24時間という限られたリソースをどう配分するかの実践です。
睡眠・食事・勉強・仕事──その組み立ては小さな経営そのもの。
時間を整える力は、そのまま人と仕組みを整える力へとつながっていきます。

現場に立つ日々も、生活のリズムを整える試行錯誤も。
今、彼女に起きているさまざまな変化を、未来の経営に直結するトレーニングだという視点で見てみる。
そうすると、目の前の出来事の活かし方が見えてきます。

未来への接続

現場での日々は、ただの作業の積み重ねに見えるかもしれません。
けれど、その一つひとつは未来の経営に必要な力へとつながっています。

たとえば──

短期間で業務を一通り回せるようになること。

これは経営者に欠かせない「成果を出す力」の土台になります。限られた時間で結果を出す経験は、そのまま経営の実行力を磨くことにつながります。

委託メンバーと一人ひとり対話すること。

これは将来チームを率いるときに必要な「人を理解する力」へと変わります。人がどう動き、どこでつまずくのかを知ることは、組織を活かすうえで欠かせない視点です。

生活リズムを整える試行錯誤。

これは長期的に人を支える立場に必要な「持続する力」になります。経営はマラソンです。安定して力を発揮するためには、まず自分自身のコンディションを整えることが欠かせません。

──このように見ていくと、目の前の現場での多くのことが「未来の経営につながる練習」になっています。
経営に近い場所にいなくても、すでに経営の基礎は日々の中で育ち始めているのです。

まとめ

現場に立ち、作業を覚えること。
生活のリズムを整えようと試行錯誤すること。
どちらも「経営」とは無縁に見えるかもしれません。

けれど、そのひとつひとつは──
未来の経営に欠かせない力を育てる、確かなトレーニングです。

その力が日々育っている

どうか焦らず、今の経験を自分の糧として眺めてみましょう。
視点を少し変えるだけで、現場の出来事も、日常の工夫も、様々なことがリーダーとしての学びにつながっていきます。

未来のリーダーシップは、特別な場所にあるわけではありません。
現場の中に、日常の中に、その芽はすでに育ち始めているのです。

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「やりがい」と「安心感」のはざまで──40代管理職が築く“自分づくり”のキャリア

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セッションから見えた「問い」

先日のコーチングセッションで、ある管理職の方と「理想の仕事とは何か」というテーマを話し合いました。
その方は会社の現場をまとめながら、新しいプロジェクトをリードしている立場。責任も成果も大きく求められる一方で、「自分にとって理想的な仕事の条件は何だろう」とあらためて考えているところでした。

対話の中で浮かび上がってきたのは、「楽しさと報酬の両立はできるのか?」 という問いです。
やりがいを感じられる仕事に就きたい。でも、家族を支えるために報酬も大切。どちらか一方を選ぶのではなく、両方をどう成り立たせるか。これはキャリアの中盤を迎えた多くの管理職にとって、とてもリアルで切実なテーマだと思います。

この記事では、そのセッションをきっかけに見えてきた考え方を整理しながら、40代の管理職が「楽しさ」と「報酬」をどう捉え直し、“自分づくり”としてキャリアを歩んでいくヒントをお伝えしていきます。

40代に訪れる「やりがい」と「安心感」の揺れ

40代になると、多くの人が「仕事のやりがいや充実感」と「現状維持の安心感」のあいだで揺れるようになります。
「もっと自分らしい挑戦をしたい」と思う一方で、今の安定した状況を守りたい気持ちや、家族への影響を恐れる気持ちも無視できません。
この時期には、現状維持バイアスが働きやすい環境にいらっしゃる方が多いと感じます。

実際に、ぼく自身も会社員として働きながら40代でコーチングを始めたのは、この揺れを自分なりに受け止め直そうとしたからでした。
そして現在に至るまで、さまざまな40代のビジネスパーソンとのコーチングセッションの中で、この“やりがいと安心感の間での揺れ”はテーマとして繰り返しお話をしてきました。

さらに管理職の場合は、もうひとつ特有の板挟みがあります。
「会社の意向」と「現場の想い」、そして「自分らしさ」。
この三つの間でどうバランスを取るかという課題が、「やりがい」と「現状維持の安心感」の板挟みに重なるのです。

“条件”ではなく“状態”に注目する

「やりがい」と「安心感」の揺れを考えるとき、多くの方がまず思い浮かべるのは「条件」です。
たとえば──
「給与がいくらなら安心できる」
「この役職についていればやりがいがある」
「在宅勤務できる環境なら自分らしさを保てる」

多くのビジネスパーソンを支援してきて感じるのは、条件で考えることはわかりやすくて具体的ですが、それだけに縛られてしまうと、どこかで満たされない感覚が残ることも多いということです。

大切なのは、「どんな条件を満たすか」ではなく、**「どんな状態にいるとき、自分のエネルギーが自然に湧いているか」**を見つめること。

たとえば──
• 「仲間と成果を喜び合えているとき」
• 「一人でじっくり整理して頭が冴えているとき」
• 「誰かの役に立てている実感を得ているとき」

こうした“状態”に注目することで、自分が大切にしている価値観や強みがより鮮明になります。
そして、それは単なる条件を超えて、キャリアの選び方や働き方の軸をつくる手がかりになるのです。

「自分づくり」という視点で自分らしさを取り戻す

コーチングを通じて多くのビジネスパーソンを支援してきて感じるのは、キャリアの正解を「探す」のではなく、「自分をつくり続ける」という視点が大切だということです。
診断ツール(ストレングスファインダーやエニアグラムなど)は、自分の素材を知るきっかけとしてとても有効です。
そこから“自分づくり”を進めていくには、その素材をどう磨くか、どう組み合わせれば自分が活きるのかを考えながら実践していくこと。
そこに“自分づくり”の面白さと深さがあります。

そしてもうひとつ視点を広げたいのは、「自分らしさ」が活きるのは“仕事そのもの”だけではないということです。
ある人にとっては、特定の職務や役割が自分らしさを発揮する舞台になります。
一方で別の人にとっては、“働き方のスタイル”こそが自分らしさを支える要素になります。

ここでいう「働き方」とは、テレワークやジョブ型雇用といった制度の話というよりは、もっと個人的で実感的なものです。
• 人と議論しているときにアイデアがどんどん湧くタイプの人
• 一人でじっくり整理しているときに力を発揮するタイプの人

のように、特定のやり方をしているときに自分らしさを強く感じるケースです。

“自分づくり”とは、この「仕事」と「働き方」など複数の視点から柔軟に、自分にフィットする形やバランスを探り続けること。
それは新しい環境を探すこと以上に、自分のスタイルを見出し、育てていくプロセスだと思います。

実践のヒント|“自分づくり”を始める3つのステップ

ここまで「条件」ではなく「状態」に注目し、“自分づくり”の視点を持つことが大切だとお伝えしてきました。
では、実際にどのように日常のキャリアに取り入れていけばいいのでしょうか。
多くの40代のビジネスパーソンとセッションを重ねる中で見えてきた、シンプルな3つのステップを紹介します。

1. 強みの棚卸しする

まずは、自分が自然にエネルギーを発揮できる場面を振り返ってみましょう。
• 部下との1on1で安心感を与えられたとき
• プロジェクトの計画を整理しているときに頭が冴えたとき

これは「どんな条件の仕事をしたか」ではなく、どんな状態にあるとき自分が生き生きしていたかに注目するのがポイントです。

2. 状態を言語化する

次に、そのエネルギーを感じられる瞬間を**「条件」ではなく「状態」として表現**してみます。
• 「仲間とアイデアを膨らませている状態が自分らしい」
• 「計画を形にして周囲に評価されるときに充実感がある」

こうして言語化しておくと、自分にとって大切な価値観がよりクリアになります。

3. 小さな実験を始める

最後は、日々の仕事や習慣の中で新しい“働き方のスタイル”を試してみることです。
• 普段は議論中心の人が、あえて一人でまとめる時間を長めにとってみる
• 一人で抱え込みがちな人が、あえて人に話してから考えを深めてみる

こうした小さな実験を繰り返すことで、自分らしさが発揮されやすいバランスが少しずつ見えてきます。

“自分づくり”は一度で完成するものではありません。
探る・試す・整える、そのプロセス自体がキャリアの成長を支えていくのです。

 

40代の管理職にとって、挑戦と安定のはざまで揺れるのは、40代だからこそ訪れる大切な時間です
ただ、その揺れをネガティブに捉える必要はありません。むしろ、自分をつくり直していくチャンスでもあります。

キャリアは「条件に合った仕事を選ぶ」ものではなく、自分らしい状態を見つけ出し、つくり続けていくプロセスです。
そしてその過程で、やりがいと安心感の両立も少しずつ形を変えて実現していくのだと思います。

大きな転職や環境の変化だけが答えではありません。
日々の仕事や習慣の中で、小さな実験を重ねながら“自分づくり”を続けること。
その積み重ねが未来のキャリアを形づくり、管理職としての成長を支える大切な土台になります。

最後に、あなたにこんな問いを置いて終わりたいと思います。

👉 今のあなたが最も自分らしさを感じられる状態は、どんなときでしょうか?
👉 そして、それを日常の仕事や習慣に小さく取り入れるとしたら、何から始めますか?

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