経営の信頼は“成果”よりも“姿勢”で積み上がる

Pocket

1. 成果はわかりやすい、でもそれだけでは足りない

経営をしていると、どうしても「成果」で物事を測りがちです。

売上や利益、数字として表れる結果は、経営者、管理職、現場の間で共通言語にしやすいからです

でも、あるクライアントさんとのセッションでの出来事が、改めてぼくに問いを投げかけてきました。

その方は、自社で進めていたプロジェクトがうまくいかず、やむを得ず作り直しに至った案件を振り返っていました。

「結果」として見れば、顧客に満足を与えられなかった事例です。

ところが、その中で光ったのは「失敗をどう受け止め、どう対応したか」という姿勢でした。

顧客への謝罪を避けずに向き合い、必要なパートナーを紹介し、顧客の得たい「結果」に対して今、自社ができることをやり遂げようとする姿勢

それを経営者として実践しようとする姿を目の当たりにして、ぼく自身も大きな気づきを得ました。

──信頼は「成果」ではなく「姿勢」で積み上がるのではないか。

この記事では、その気づきを整理しながら、経営に携わる方にとってのヒントをお伝えしていきます。

2. 数字に頼りすぎると信頼の土台を見失う

成果はわかりやすく、数字で示せます。

経営において数字は間違いなく大切で、売上や利益といった指標がなければ、組織は健全に続けられません。

経営者・管理職・現場、それぞれの立場で共通言語にしやすいのも「数字」という形だからこそです。

ただ──数字だけを拠り所にすると、信頼の土台を見失ってしまうことがあります。

「成果が出たときは評価されるけれど、出なかった瞬間に一気に信頼が揺らぐ」

そんなとき、現場では数字の良し悪しに一喜一憂し、チームの安定感が大きく揺れ動く光景を、ビジネスコーチとして様々な現場で見てきました。

一方で、数字だけでは測れない信頼の軸があります。

それが「どんな姿勢で臨んでいるか」という部分です。

成果が出ているときも、出ていないときも、誠実に相手と向き合い続ける姿勢があるかどうか。

ここが、数字だけでは語れない長期的な信頼を左右していきます。

大切なのは、成果と姿勢のどちらか一方を選ぶことではありません。

数字を追うことと、姿勢を示すことの両輪がそろって初めて、信頼は安定して積み上がっていくのだと思います。

3. 信頼を積み上げる本当の力は「姿勢」

成果は一時的なものですが、姿勢は日常の積み重ねとして相手に映ります。

たとえば「謝るべきときにきちんと謝る」「不都合なことも隠さずに伝える」「できないことを無理に抱え込まず、適切なパートナーにつなぐ」──こうした一つひとつの姿勢が、長い時間をかけて信頼を形づくっていきます。

逆に言えば、姿勢はごまかせません。

成果だけを追っているときには見えにくい部分ですが、人は「この人はどういうスタンスで向き合ってくれているのか」を敏感に感じ取ります。

だからこそ、数字が思うように出ていないときほど、姿勢が信頼の決め手になるのです。

ある経営者のクライアントさんも、プロジェクトが計画通りに進まなかったときに、ただ謝罪するだけでなく「顧客の得たい結果に対して、今、自社ができることをやり遂げよう」とする姿勢を示しました。

その姿勢が、信頼を継続させるための大切な一歩になっていました。

信頼は、成果の波に左右されない「姿勢」という土台の上に積み上がります。

その姿勢は、日常のちょっとした態度や対応の中に表れ、相手に安心感や一貫性を感じさせます。

4. 姿勢が信頼を変えた3つの事例

「姿勢」が信頼に影響を与えるのは、抽象的な話ではありません。

現場では、ちょっとした態度や対応の積み重ねが、実際に関係を左右していきます。

今回の記事のきっかけになった、ある経営者のクライアントさんは、

顧客から「プロジェクトで制作したシステムが、運用開始後に現場からの要望で改修が必要になり、他社に開発を依頼することにした」との連絡を受けました。

このクライアントさんはきちんとお客様と向き合い、必要なパートナーを紹介し、

「顧客の得たい結果に対して、今できることをやり遂げる」姿勢を示したのです。

誠実に対応することで、今後の信頼を構築している最中です。

また、営業力がとても高い別のクライアントさんの会社では、

顧客との関係がうまくいかなくなっているときほど、営業所長や営業課長が率先して顧客先に出向くことを当たり前に行っています。

その姿勢が、商品の品質の高さとともに会社のブランドへの信頼を、より確かなものにしているのです。

そして、少し手前味噌な事例ですが──

ぼくが会社員時代、商品の企画や開発に関わる仕事をしていた頃のことです。

ぼくが企画に携わった商品で、製造現場のミスなどからトラブルが発生することが時々ありました。

そういう時に、ぼく自身がまず顧客のもとへ出向き、お話をきちんと聴くようにしていました。

結果としてお客様との距離がグッと縮まり、それ以前よりも強い信頼とともにビジネスをご一緒させていただくという経験が、幾度となくありました。

成果が出ているときはもちろんですが、むしろ成果が揺らいだときほど「姿勢」が信頼を変えていきます。

数字では測れないけれど、日常のふるまいが確実に相手の心に残り、長期的な関係性を支えるのです。

5. 経営者が姿勢を磨く3つの実践ポイント

姿勢は一朝一夕で身につくものではありません。

けれども、日々の意識や小さな行動の積み重ねによって、少しずつ磨いていくことができます。

ここでは、経営者として実践できる3つのポイントをまとめてみます。

1. 短期的な成果に一喜一憂せず、中長期の視点を持つ

数字や成果はもちろん大切です。

ただ、経営を続けていくうえで本当に必要なのは、中長期で信頼を積み上げる姿勢です。

「この判断は、3年後・5年後の会社にどんな意味を持つか」という問いを一つ加えることで、目先の成果に流されず、落ち着いた判断ができるようになります。

2. 不都合なことほど率直に伝え、組織の文化にする

トラブルや想定外のことは、必ず起こります。

そのときに「隠す」より「正直に伝える」ことが、信頼の礎になります。

経営者が自らその姿勢を示すことで、社員も同じ姿勢をとるようになり、誠実さが組織文化として根づいていきます

3. 自社だけで抱え込まず、外部の力を戦略的に使う

限られたリソースの中で、すべてを自前で解決するのは現実的ではありません。

必要に応じて信頼できるパートナーや専門家を紹介することは、顧客にとって「責任を持って対応してくれた」という安心につながります。

そして、このときに借りた外部の力をきちんと分析することが大切です。

どんな技術力を自社として獲得すべきか、どのリソースはアウトソースを継続すべきか、適切な外部パートナーは誰か──。

外部協力を単なる応急対応にせず、向後の経営戦略を明確にしていく機会へとつなげられます。

信頼を支えるのは、目に見える成果だけではなく、日常ににじみ出る姿勢です。

今日からできる小さな一歩に、中長期のビジョンを重ねていくことで、やがて大きな信頼を築く力へと変わっていきます。

6. まとめ──信頼は成果以上に姿勢で築かれる

経営の現場では、つい「成果」ばかりに目が向きがちです。

もちろん成果や数字は大切で、組織を維持し成長させるための共通言語でもあります。

けれども、信頼の本当の土台になっているのは、日々ににじみ出る「姿勢」です。

謝罪の仕方、誠実な説明、パートナーを紹介する判断、中長期を見据えた行動──。

そうした小さな積み重ねこそが、長期的な信頼を支えています。

成果は一時的に上下しますが、姿勢はどんな状況でも示すことができます。

だからこそ、「この人となら長く付き合いたい」と思ってもらえるかどうかは、成果以上に姿勢にかかっているのだと思います。

この記事を読んでくださっている経営者の方も、改めてご自身の「姿勢」を振り返ってみてはいかがでしょうか。

明日の一歩を考えるとき、まずは「どんな姿勢を示すか」から始めてみてください。

Pocket

副業は未来を試すフィールド──会社を辞めるためではなく、自分を広げるために

Pocket

① はじめに:かつての副業のイメージ

いまでは「副業」という言葉を聞いても、あまり特別な響きはないかもしれません。
企業が副業を認めるようになり、誰もが気軽に挑戦できるものとして浸透してきました。
けれど、ぼくがコーチングを始めた当初は、今とはまったく違う空気がありました。
その頃の副業は、「いずれ会社を辞めて独立するための準備」と見なされることが多かったのです。
「副業をやっている=会社に不満がある」
「副業を始めた=独立を目指している」
そんなふうに周囲から思われることも珍しくありませんでした。
だからこそ、副業に取り組むことは、今よりずっと“覚悟”や“勇気”が必要な選択だったのです。
ぼく自身もコーチングを始めた当初は「副業」という形からのスタートでした。
そしてその当初から独立して以降もしばらくは、副業に取り組む多くの方の歩みを支援してきました。


② 時代の変化

あれから10年以上の時間が経ち、副業を取り巻く環境は大きく変わりました。
まず、企業そのものが副業を容認するようになったこと。
背景には「終身雇用や経済的な保証をすべて担い続けることは難しい」という現実もあります。
だからこそ、社員には“自分自身で収入やキャリアを広げる力”を期待する企業が増えてきました。
その結果、副業は「本業の妨げ」ではなく、「広い視野と新しい経験・スキルを得る機会」として受け入れられつつあります。
社会全体でも副業のハードルがぐっと下がりました。
クラウドソーシングやオンラインサービスが整い、SNSを通じて自分の活動を発信することも容易になっています。
副業はもはや特別な挑戦ではなく、誰にとっても身近な選択肢になりました。
その背景には大人世代の“副業観”の変化があります。
かつては「副業=独立へのステップ」というイメージが強かったのに対し、今は「収入の複線化」「選択肢を広げる」「自分の可能性を試す」といった、もっとフラットで自然な感覚へと移り変わっています。
副業は「会社を辞めるための準備」ではなく、「自分らしい生き方を形づくる一つの方法」になってきたのです。


③ 象徴的なクライアントさんたちの歩み

副業に関して特に印象的なのは、まだ副業が一般的でなかった頃から、その歩みをコーチングでご一緒してきたクライアントさんたちです。
当時は、副業を始めること自体が今よりずっと“挑戦的”な選択でした。
そうした方々は、自分の興味や強みを活かしながら、会社員としての仕事と並行して活動を積み重ねてきました。
パラレルワークを育ててきた方もいれば、実際に独立を果たした方もいます。
「どちらが正解」ということではなく、自分の生き方や時代の変化に合った道を選び取ってきた姿です。
副業を通じて得たのは、お金だけではありません。
自分の意思で選び、行動してきたという経験そのものが、今のキャリアや生き方に大きな自信を与えているのです。


④ 副業は「自分の力で一歩を選び取る」ための場

年代の若い方たちには少ない価値観だとは思いますが、
副業というと、いまでも「いつか独立するための準備なのでは?」と思われることがあります。
けれど、実際に多くのクライアントさんとご一緒してきた経験から言えるのは──副業は必ずしも独立に結びつける必要はないということです。
こうした取り組みの本質は、収入を増やすことだけではありません。
「自分の意思で選び、動く」という経験そのものが、主体的に生きる力を育てます。
会社の仕事だけでは得られない出会いや視点、責任感に触れることで、ものの見方や行動の選択肢が広がります。
その積み重ねが、自分らしい働き方やキャリアをつくる土台になるのです。
だから副業は、独立を目指す人だけのものではありません。
「自分の力で一歩を選び取る」ための場として、誰にとっても意味のある選択肢なのだと思います。


⑤ まとめ

副業の形やゴールは、ひとりひとりの人生が違うのと同じように人それぞれ違います。
独立を目指す人もいれば、会社員としての仕事と両立しながら副業を続ける人もいる。
どちらが正解ということはなく、大切なのは「自分の意思で選び取る」という姿勢です。
副業を通じて手にするのは、お金やスキルだけではありません。
自分の選択に責任を持ち、自分の人生を主体的に形づくる力です。
それはこれからの時代を生きるうえで、最も確かな土台になるものだと思います。
あなたにとっての副業は──
あなたが選び取った一歩の先に、どんな未来を描いてみたいですか?

Pocket

会社文化と自分らしさ、そのはざまで──バランスを取り戻す小さなヒント

Pocket

会社文化と“自分らしさ”の間で揺れるとき

先日、とあるクライアントさんとのコーチングセッションで、こんな気づきがありました。
それは──**「プロ意識を取り戻すこと」こそが、その方の課題の本質的な解決策につながる**ということです。

その課題とは、会社文化を受け入れきれずに“自分らしさ”との間で揺れる気持ちをどう扱うか、ということでした。

このテーマは、特定の誰かだけに限らず、多くの人に共通するものだと感じています。
大企業の中で働いていると、組織の文化や空気にどうしても影響を受けます。会社の伝統的な価値観や文化、外から見ると独特な暗黙のルール。そうしたものに触れ続けるうちに、「自分はどう働きたいのか」「どんな価値を提供したいのか」という基準が、少しずつ揺らいでしまうことがあるのです。

会社の文化に明確な違和感を感じている方もいれば、
「どこの会社もこんな感じで、ただ自分の価値観とずれているのだろう」と思い込んでしまう方もいるかもしれません。

実はその背景には、転職の経験がある人と、新卒から一社で働き続けている人とで、
“違和感の解像度”が違うという可能性があります。

もちろん、こうした会社の文化に適応していくことは、円滑に仕事を進める上で欠かせないでしょう。
しかし、適応に偏りすぎると、自分のスタイルや考え方を置き去りにしてしまう。
その結果、“プロとしての誇り”や“自分らしさ”が曖昧になり、仕事へのエネルギーも削がれていきます。

今回のセッションでの気づきを通じてあらためて思ったのは、これは決して個人の弱さの問題ではなく、
「個人」と「組織」とのバランスをどう取るかという普遍的なテーマだということです。

会社文化との付き合い方──“適応”と“距離感”

会社という組織には、それぞれ固有の文化があります。
それは理念や制度といった目に見えるものだけでなく、日々の会話の雰囲気や、当たり前とされている働き方のリズム、そして「ここではこうするものだ」という無言の圧力まで含まれます。

文化にうまく適応することは、円滑に仕事を進めるうえで欠かせません。新しい環境に入ったときほど、まずは周囲の空気に合わせることが重要です。そこから信頼関係が生まれ、任される仕事も広がっていくからです。

一方で、適応に偏りすぎてしまうと、次第に「自分は何を大事にしたいのか」が見えなくなっていきます。会社の文化に完全に飲み込まれると、思考や判断の基準が自分の外側にあることになり、やがて疲れや違和感につながってしまいます。

一概に正解があるわけではないと思いますが、ビジネスコーチとして様々な組織の方々を支援してきた経験から言うと、
大切なポイントのひとつは、“どこまで適応するか、どこからは自分を守るか”を意識的に決めることだと感じています。

つまり、会社文化との関係は「ゼロいち」ではなく、“適応”と“距離感”のバランスを取り続けることが、プロとしての健全さを保つカギなのです。

プロとしての姿勢を取り戻すためにできること

プロ意識を揺らさないためには、まず「自分はどうありたいか」をあらためて確認することが欠かせません。
会社の文化や環境は変えられなくても、自分の立ち位置や姿勢は自分で選び直すことができます。

その際に、「違和感の感受性」には人によって差があることを心に留めておくことも大切です。

たとえば、転職経験がある人は、別の文化を知っているからこそ今の環境に違和感を覚えやすい。
一方で、新卒から一社に勤めている人は「どこの会社もこんなものだろう」と思い込みやすく、
本当はうまく言葉にできないだけで会社とのズレを感じていても、比較対象がないために「自分だけがズレている」と思い込み、苦しんでしまうケースがあります。

この点も踏まえると、これまで様々な立場のビジネスパーソンをコーチングしてきた経験から、
次のような取り組みが効果的であることが多いと感じます。

• 自分の強みを棚卸しする

「努力せずに自然と評価されていること」を書き出してみる。
それは、プロとしての価値を支えている“素の力”です。

• 外の世界に触れる機会を増やす

社外の勉強会や副業のチャレンジ、異業種の人との会話。
会社の内と外、両方の視点を持つことで、バランスが整います。

• 評価の軸を自分に取り戻す

周囲の期待や組織の基準だけでなく、「私はどういう仕事を誇りに思うか」という視点で日々を見直してみる。

こうした「自分の基準をどこに置くか」を少しずつ確かめていくことが、プロ意識を整えていく大切なプロセスになります。

プロ意識を支える“小さなルール”

プロ意識を取り戻すといっても、大きな変化を起こす必要はなく
むしろ日常の中で、ささやかな「小さなルール」を持つことが、自分を支える大きな力になります。

• 仕事の区切りを意識する

たとえば、始業と終業の時間を自分で決める。メールを送る時間を区切る。
こうした小さな線引きが「ここからは仕事」「ここからは自分」という切り替えを助けます。

• 一日の成果を短く言葉にする

「今日はこれをやり切った」と3行程度でまとめる。
仕事に流される感覚を減らし、自分の達成感を確かめられます。

• 感情を外に出す練習をする

モヤっとしたら心の中で飲み込まず、言葉やメモで表現してみる。
それだけで冷静さを取り戻すきっかけになります。

こうした小さなルールは、実際にやってみると思いのほか気持ちよく感じるものです。
おそらく自己承認ができるからでしょう。
そして、それが積み重なると、会社の文化に流されすぎず、かといって突き放すこともなく、バランスを保ちながら働くことができるようになります。

プロとしての姿勢は、一度決めたら揺るがないものではありません。
日常に置いた“小さなルール”が、揺らぎを整える支えとなり、自然と自分らしい働き方へと導いてくれるのです。

まとめ:流されず、自分を守る働き方

会社文化との違和感に苦しむとき、どう自分を守り、働き方のバランスを整えるか──今回の記事でお伝えしてきたのは、この問いへのヒントです。
どのように自分を守り、働き方のバランスを整えていけるのかについて考えてきました。

• 企業には伝統的な価値観や文化、独特な暗黙のルールがあり、それに触れ続けるうちに自分の基準が揺らぐことがある。

• 文化に適応することは必要だけれど、「ゼロいち」ではなくバランスを取ることが大切。

• そして、そのバランスを取る方法のひとつが、プロとしての姿勢を取り戻すことです。

• 具体的には、「自分はどうありたいか」を確認し、誇れる基準を自分で選ぶこと。

• 日常に“小さなルール”を置くことで、自然とバランスを取り戻せる。

プロ意識とは、特別な肩書きや完璧な成果のことではなく、
むしろ、日々の中で「自分の基準をどこに置くか」を選び直し続ける姿勢そのものではないでしょうか?

会社の文化にただ流されるのでもなく、突き放すのでもなく。
自分らしいプロ意識を持ちながら働くことが、結果的に心地よいパフォーマンスや周囲からの信頼につながっていくはずです。

では、あなたにとっての「基準」は、今どこにあり、これからどこに置いていきたいでしょうか。

Pocket

あなたが強みを知ると、問いかけられる──リーダーの“聴く”は、そこから始まる

Pocket

1. はじめに──「どう思う?」と言えなかった頃の自分へ

管理職やリーダー的な立場を担っている方の中には、
部下やメンバーとの接し方に、漠然とした課題を感じている人が少なくありません。
「もっと自分から動いてくれたらいいのに」
「任せたいけれど、結局自分が動いたほうが早い」
そんな思いを抱えながら、日々のマネジメントをしている方は多いのではないでしょうか。

コーチングの現場でも、「どう伝えるか」「どう関わるか」といったご相談はよくあります。
その背景には、「相手を信じて任せることが難しい」という感覚が、
ご本人も気づかないうちに隠れていることがあります。

先日のあるクライアントさんとのセッションでも、まさにそうしたテーマが浮かび上がってきました。

そのクライアントさんは、ITエンジニア。
複数の業務委託メンバーをまとめるリーダー的な立場にあり、
構造を整理し、優先順位を見極め、ゴールまでの道筋を描くことを、日々ごく自然に行っていました。

ところがご本人は、それを「自分の強み」としては捉えていませんでした。
むしろ、「なぜ他の人はこれがわからないんだろう?」と感じることが多く、
「自分が動かないとプロジェクトが止まってしまう」というプレッシャーを、
一人で抱えていたそうです。

セッションの中で、その思考や行動の特徴を一緒に棚卸ししていくと、
それが特性であり、他の人にはない価値ある強みであることに、少しずつ気づかれていきました。

「自分にとって当たり前すぎて、気づいていませんでした」

そうおっしゃったとき、表情が少し和らいだのが印象的でした。

その気づきをきっかけに、心に少し余裕が生まれ、
「全部自分が決めなくてもいいのかもしれない」という感覚が芽生えていったそうです。
そしてこんな言葉が出てきました。

「だから『どう思う?』って言えばよかったんですね。
 それだけで、チームって動き出すんですね」

このnoteでは、このクライアントさんの変化をもとに、
「問いかけるリーダーシップ」と「自己理解」の関係について、整理してみたいと思います。

部下を尊重することと、自分の強みを活かすことは、実はつながっている。
その実感を、ひとつのプロセスとして言葉にしていきます。

2. 問いかけられるリーダーになる第一歩は、自分の強みを知ること

「どう思う?」と部下やメンバーに言ってみる。
その一言が、チームの空気を変えるきっかけになることは少なくありません。

けれど実際には、それを言うことが難しいと感じているリーダーも多いようです。

その背景には、リーダー自身の心理的な余裕のなさが関係していることがあります。
「自分が判断しなければならない」
「リーダーが迷ってはいけない」
そんな思い込みがあると、相手に委ねるよりも先に自分で答えを出してしまうのです。

先ほどのクライアントさんも、まさにその状態でした。
しかし、自分の強みに気づいたことで、そこに変化が生まれました。

彼の強みは、「物事を素早く整理し、ゴールまでの道筋を描けること」
それはプロジェクトを前に進めるうえで大きな力ですが、
本人にとってはあまりにも当たり前すぎて、強みとして捉えられていませんでした。

その力が他の人には簡単にできることではないと理解したとき、
「なぜ他の人はわからないのか」という苛立ちはやわらぎ、
「だから自分はこういう役割を担っているのだ」という納得感に変わっていきました。

自分の強みを客観的に理解すると、自然と心に余裕が生まれます。
「全部自分で背負わなくてもいい」
「自分はここを担えるから、他の部分は任せればいい」
そんなふうに、力の抜きどころを見つけられるようになるのです。

そしてその余裕が、「どう思う?」と言ってみようという気持ちを支えてくれます。
最初はぎこちなくても、それが自然に出るようになっていく。

つまり、問いかけられるリーダーになる第一歩は、テクニックを磨くことではなく、
自分の強みを知り、それを受け入れることなのです。

3. 「どう思う?」が生まれるチームの土壌とは

「どう思う?」という問いをチームに投げかけることは、
単に意見を求めるだけでなく、信頼を示す行動でもあります。

ですが、それが自然に出てくるには、ある程度の“土壌”が必要です。
心理的な余裕、自分の強みへの理解、そして何より、
相手の中にも答えがあるはずだと信じられる感覚がそのベースになります。

先ほどのクライアントさんも、自分の特性を理解し、
それを強みとして認識できるようになったことで、
「全部自分が決めなくてもいいのかもしれない」と少しずつ感じ始めていました。

これまでさまざまなリーダーの支援をしてきた中で、
「問いかけよう」と意識が変わったこと自体が、関係性の変化のきっかけになっていく場面を何度も見てきました。

たとえば、問いかけを習慣にしはじめたリーダーのチームでは、
メンバーからこんな言葉が返ってくることが多くあります。

「なんか最近、相談しやすくなりました」
「考えたことをちゃんと聞いてくれる感じがします」

リーダーがすべてを決めるのではなく、
「あなたはどう思う?」と対話を始めることが、
チーム全体の心理的な安全性や、自律的な関わりに影響していくのです。

「問いかける」という行動は、単なる言葉のやりとりではありません。
返ってきた言葉にきちんと反応し、
相手の考えに耳を傾け、場に残していくこと。
そうした一つひとつのやりとりが、信頼の土壌をつくっていきます。

そして、そうした空気は「メンバーを尊重しよう」と頑張ってつくるものではなく、
リーダー自身が無理のない状態で問いかけられるようになることで、少しずつ育っていくのだと思います。

4. 強みを活かせると、尊重も自然にできる

「どう思う?」と問いかけることが、部下への尊重につながる──
そう理解していても、いざ実践しようとすると、うまくいかないことがあります。

その背景には、「尊重しなければ」と気負ってしまう気持ちや、
「相手の意見をちゃんと受け止めないといけない」というプレッシャーが潜んでいることもあります。

実は、こうした状態のときにこそ、必要なのは“自分の強みの理解”です。

自分の強みを客観的に理解できるようになると、
その強みを「どう発揮するか」に意識が向いていきます。
そこには無理のない納得感があり、自然な安定感が生まれてきます。

たとえば、「整理して道筋を描く力」が強みであれば、
その役割を自覚することで「自分が全部をやらなければ」という思い込みから解放されていきます。

さらに、自分の強みを尊重できるようになると、
相手の強みにも目が向くようになっていきます。
「この人にはこの人の見え方や得意があるのかもしれない」と、
視野が広がっていくのです。

このような内面的な変化が起きることで、
「どう思う?」と問いかける余裕や土台が育っていきます。

問いかけとは、単なる“聞き方”の問題ではなく、
リーダー自身の立ち位置や心の状態によって、自然に生まれてくるものです。

だからこそ、問いかけを実践するために必要なのは、
「言い方を工夫すること」よりも、まずは自分の強みを理解し、活かすこと
そのプロセスを経て、尊重も、問いかけも、無理なくできるようになっていくのだと思います。

5. 自分を知ることが、問いかけのはじまりになる

リーダーとして、部下やメンバーにどう関わればいいのか。
答えのない問いに向き合いながら、日々奮闘されている方は多いと思います。

今回紹介したクライアントさんのように、
「自分が動いたほうが早い」
「なぜみんなわからないんだろう」
という感覚を抱えながらも、誠実にチームと向き合っている方こそ、
きっと問いかけの力を必要としているのではないでしょうか。

ただ、「問いかけよう」と意識するだけでは、なかなか続かないものです。
言葉の選び方やタイミングに悩んでしまったり、
相手の反応が薄くて、不安になることもあるかもしれません。

だからこそ、**問いかけの一歩手前にある「自己理解」**が大切なのだと思います。

自分の強みに気づくと、そこに安心感が生まれます。
その安心感が、自分をゆるめてくれて、相手にもスペースを与えられるようになる。
そして自然と、「どう思う?」という言葉が口に出せるようになっていくのです。

問いかけは、テクニックではなく“あり方”から始まる。
それが、今回のセッションを通してあらためて感じたことでした。

ここまで読んでくださったあなたに、
最後にこんな問いを残したいと思います。

あなたがふだん、つい自然にやってしまうことの中で、
周りの人に想像以上に喜んでもらえることが多いのは、どんなことですか?

それが「自分にとっては当たり前すぎて、気づいていなかったあなたの強み」かもしれません。

自分自身への問いかけが、チームへの問いかけを育てていきます。
それが、リーダーとしての信頼をつくる一歩になると信じています。

Pocket

不安も焦りも“味方”に変える──若手営業が安定して成長するためのヒント

Pocket

はじめに

営業の仕事をしていると、心が揺れる瞬間はどうしても出てきます。
調子がいいときは「自分はやれる」と思えるのに、ちょっとした失敗や成果の停滞で一気に不安に引き込まれてしまう。
「なんであんなこと言っちゃったんだろう」「またやってしまった」と、頭の中で反省や自己否定がぐるぐる回り続ける。

先日のセッションでも、あるクライアントさんがまさに同じような悩みを口にしていました。
「考えすぎてしまい、自分のネガティブな面ばかりに目が行ってしまう」と。
このテーマは、多くの若手営業職にとって共通する課題だと感じています。

そんな時、「もっとポジティブに考えなきゃ」「ネガティブをなくさなきゃ」と力んでしまうほど、逆にしんどくなる経験はありませんか?

ネガティブな感情や「嫌いな自分」を完全に消す必要はありません。
むしろ、それを受け入れて扱い方を工夫したほうが、感情の波に振り回されにくくなります。

この記事では、
• ネガティブを「消す」のではなく「受け入れる」こと
• 「嫌いな自分」も含めて自己受容すること
• 考えすぎにハマる前に、行動で切り替える「置き換え行動」を持つこと

この3つを軸に、営業の現場で気持ちを安定させるヒントをお伝えします。

1. ネガティブを消すのではなく「受け入れる」

ネガティブな感情が生まれること自体は、決して悪いことではありません。
不安や焦り、自己否定の気持ちは、誰にでも自然に湧いてくるものです。営業という仕事は成果が数値で明確に表れるため、特にその波を強く感じやすい職種だと言えるでしょう。

問題は、ネガティブな感情が「あること」ではなく、それにとらわれすぎてしまうことです。
ネガティブな感情には本来“役割”があり、不安は「準備不足のサイン」、焦りは「計画を見直すタイミング」を示してくれている場合もあります。

「こんな気持ちは持ってはいけない」と押し込めようとすると、かえって意識がそこに集中してしまい、気持ちが重くなってしまう。

ここで大事なのは、ネガティブを“消そうとしない”ことです。
むしろ「今、自分はこう感じている」と認めてしまうことで、その感情に振り回される時間はぐっと短くなります。

たとえば、あるクライアントさんは「イライラを隠そう」とすればするほど、表情や声のトーンにぎこちなさが出てしまうと話していました。
そこで「まずは湧いてきた感情を受け止める」ことを意識すると、不思議と周りに与える影響も和らいだそうです。

つまり、「今、自分は不安を感じているな」「ぼくは今、焦っているな」と気づけること自体がメタ認知です。
この一歩があるだけで、感情に流されるのではなく「扱える対象」として見つめ直せるようになります。

ネガティブはなくす対象ではなく、受け入れた上で「どう扱うか」を工夫する対象。
そう捉えるだけで、心のエネルギーの使い方が大きく変わっていきます。

👉 ネガティブを受け入れられるようになると、次に向き合うのは「嫌いな自分」です。
成果やコミュニケーションの失敗でつまずいたとき、その自分をどう扱うかが安定感を大きく左右します。

2. 「嫌いな自分」も含めて自己受容する

「もっとできるはずなのに」「また同じミスをしてしまった」──。
営業という仕事は成果が目に見える分、自己評価も上下しやすくなります。
調子がいいときは自信を持てても、少し失敗すると「自分はダメだ」と嫌いな自分に目が向きやすい。

多くの人は、「好きな自分」だけを受け入れようとしがちです。
しかし、それでは気分や成果の波に強く左右されてしまいます。
本当に安定して力を発揮できるようになるためには、「嫌いな自分」も含めて受け入れることが欠かせません。

あるクライアントさんは、「目標の数字に届かなかった」「お客様とのコミュニケーションでうまく言葉が出てこなかった」と、自分を責めてしまうことがよくありました。
そこで取り組んだのは、「そんな自分も自分の一部だ」と認めること。
完璧に数字を達成できる日ばかりではなく、会話が空回りしてしまう瞬間も含めて“自分全体”だと見つめ直すことです。

つまり、「今、自分は数字を達成できなかったと感じているな」「ぼくは今、会話がうまく運ばなかったな」と気づき、その状態を否定せずに受け止める。
例えば、そのまんま
「今、自分は数字を達成できなかったと感じているな」とか
「今日の商談、ぼくの会話うまく運ばなかったな」
こうした独り言を声に出してみるだけでも、自己受容が一歩前に進みます。

嫌いな自分を排除するのではなく、あえて抱きしめてみる。
その積み重ねが、結果として「波の少ない営業スタイル」を形づくっていきます。

👉 ネガティブも、嫌いな自分も受け入れられたとしても、気を抜くと頭の中で同じ考えがぐるぐる回ってしまいます。
そこで次に大切なのが、“考えすぎを断ち切る工夫”です。

3. 考えすぎる前に“置き換え行動”を用意する

ネガティブな感情や嫌いな自分を受け入れたとしても、頭の中で考えがぐるぐると回り続けることがあります。
「なぜ失敗したんだろう」「次もうまくいかなかったらどうしよう」──。
考えすぎは、エネルギーを奪うだけでなく、行動を止めてしまう大きな要因になります。

ここで役に立つのが、“置き換え行動”です。
過剰な思考に入り込む前に、あらかじめ自分の 「置き換え行動リスト」 を用意しておき、感情や思考を 前に進む行動に切り替えましょう。

例えば、クライアントさんとのセッションではこんな置き換え行動が出てきました。
• 音楽を聴いて気持ちをリセットする
• ランニングや筋トレで身体を動かす
• 海や自然を眺めて気分を切り替える
• 思考を紙に書き出して、その紙を捨てる

ポイントは、すぐに実行できる行動を自分の“ストック”として持っておくことです。
「今、自分は考えすぎに入りそうだな」と気づいた瞬間に、「よし、走ってくるか」「一曲だけ聴こう」と行動に移せるだけで、思考のループを断ち切ることができます。

置き換え行動は、気分を誤魔化すためではありません。
むしろ、「一度気持ちを切り替えてから、改めて現実に向き合う」ための準備です。
考えすぎを止めるだけでなく、その後の営業活動を前向きに続けるためのエネルギー補給になるのです。

同じ考えが頭の中でぐるぐると回り始めたら、それは“置き換え行動”のタイミングです。
その瞬間に、あなたがやりやすい置き換え行動を一つ試してみましょう。

そして日頃から、ちょっとだけ心がけて「置き換え行動のストック」を増やし、リストに書き加えていく。
その積み重ねが、考えすぎに振り回されない営業スタイルを育てていきます。

👉 こうして気持ちを受け入れ、自己受容し、考えすぎを断ち切る準備が整ったら、あとは実際の営業現場でどう使うか。
そこで役立つのが、日常に取り入れやすい小さな工夫です。

4. 営業現場で実践する小さな工夫

ここまでの内容を、実際の営業現場で活かすために整理すると、日常で取り入れられる小さな工夫は3つにまとめられます。

ネガティブを受け入れる

 「今、自分は不安を感じているな」「ぼくは今、焦っているな」と気づけること自体がメタ認知です。
 この一歩があるだけで、感情に流されるのではなく「扱える対象」として見つめ直せるようになります。

嫌いな自分も受け入れる

 「今、自分は数字を達成できなかったと感じているな」とか
 「今日の商談、ぼくの会話うまく運ばなかったな」
 こうした独り言を声に出してみるだけでも、自己受容が一歩前に進みます。

 置き換え行動を実践する

 同じ考えが頭の中でぐるぐると回り始めたら、それは“置き換え行動”のタイミングです。
 その瞬間に、あなたがやりやすい置き換え行動を一つ試してみましょう。

この3つを日常に取り入れるだけで、感情の波に振り回されにくくなり、営業の現場で自然体に近いスタンスを保ちやすくなります。

まとめ

誰にでも、不安や焦りに揺れる瞬間はあります。
「ネガティブをなくそう」と無理をするのではなく、「そんな自分もいる」と認めて一歩ずつ進んでいくこと。
それだけで、日常の景色は少しずつ変わっていきます。

大事なのは、完璧さではなく“続けてみること”。
今日の商談で少しつまずいたとしても、明日また自然体でお客様と向き合えばいい。
その積み重ねが、あなた自身の安定した営業スタイルや、次のステージに立つ力になっていきます。

どうか自分を責めすぎず、時には受け入れ、時には切り替えながら。
そのプロセスこそが、成長の証なのだと思います。

Pocket

PAGE TOP