冒頭|「あの人といると、なぜかがんばれる」
「なんか、あの人といるとがんばれるんだよね。」
そんな言葉を聞いたことはありませんか?
あるいは、自分が言われたことがある、という方もいるかもしれません。
明確な指導をしたわけでも、特別な成果を出したわけでもない。
でも、気がつくとまわりの人が前向きになっていたり、自然と相談を受けていたり。
「自分って、何かいい影響を与えられてるのかな?」
ふと、そんなことを感じる瞬間があるかもしれません。
先日、とあるクライアントさんとのコーチングセッションで、
まさにそんな話題があがりました。
経験や知識ではなく、「ふるまいや関わり方」がまわりに影響を与えている──
そんな姿に、あらためて大切なことを教わった気がします。
「なぜか一緒にいるとがんばれる人」には、
相手の気持ちを尊重しながら、自分の気持ちもきちんと伝える力がある。
言い換えれば、安心できる空気をつくれる人なんです。
今回は、そんな「いい影響を与える人」になるためのヒントとして、
“感情の伝え方”にフォーカスしてみたいと思います。
⸻
「いい影響」を与える人の共通点
「いい影響を与える人」と聞いて、どんな人物像を思い浮かべるでしょうか。
知識が豊富な人。
判断力がある人。
言葉に説得力がある人。
たしかに、そうした力も影響力を高める要素のひとつかもしれません。
実際にコーチングの現場でも、影響力を高めたいと話す方の多くが、
「もっと成果を出したい」
「専門分野の勉強をがんばりたい」
「まずは資格を取りたい」──そう口にされます。
そのどれもが、とても大切な努力です。
でも、ときどきこうも思うんです。
**“その前にやっておきたいことがあるかもしれない”**と。
誰かと関わるとき、最初に届くのは、
その人の「雰囲気」や「ふるまい」、そして「感情の扱い方」だったりします。
「なんだか話しかけやすい」
「一緒にいると安心する」
「自然と前向きになれる」
そんな印象を持たれている人は、日常の中で確実に“いい影響”を広げているんです。
共通しているのは、雰囲気をやわらかくする力。
ピリピリした場面でも、ふっと空気をゆるめられる。
自分のことばかりを話さず、相手の反応に自然に目を向けられる。
そして何より、自分の感情を丁寧に扱っていることが伝わってくるんです。
感情にふりまわされるのではなく、
でも、感じたことをなかったことにもしない。
そのちょうどいいバランスが、まわりに安心をもたらします。
影響力というと、つい「なにができるか」に目が向きがちですが、
実はその土台には、「どんな人であるか」がしっかり存在している。
その“あり方”が、最初に信頼をつくっているのだと思います。
⸻
感情が伝えられる人が、なぜ信頼されるのか
どれだけ正しいことを言っても、
どれだけ立派な行動をしていても、
なんだか「距離を感じる人」がいます。
一方で、完璧じゃなくても、
*「この人のそばにいたいな」*と感じさせる人もいる。
その違いはどこから来るのか──
ぼくは、「感情の伝え方」がひとつの鍵になっていると思っています。
たとえば、誰かに頼みごとをするとき。
理路整然とお願いするよりも、
「ちょっと困ってて、助けてもらえるとありがたい」
と、自分の気持ちを添えて伝えた方が、相手の心が動くことがあります。
あるいは、失敗した部下に声をかけるとき。
「なんでこうなったの?」と詰めるより、
「正直ちょっと驚いた。でも、どうしたのか話を聞かせて」
と伝えられたほうが、相手は心を開きやすくなります。
感情を言葉にすることは、相手との距離を縮める力を持っています。
とくに、一次感情──「嬉しい」「悲しい」「驚いた」「がっかりした」などの、
素直な気持ちをそのまま伝えられる人は、信頼されやすい。
なぜなら、そこに人としてのリアリティがあるからです。
もちろん、感情をぶつけたり、過剰に表現したりするのとは違います。
必要なのは、「感じたことを、感じたままに、穏やかに伝える」こと。
それだけで、**“ちゃんと自分を持っている人”**という印象が自然と伝わっていきます。
そして、それが信頼の積み重ねになっていくのだと思います。
⸻
“うまく伝える”ための小さな実践
感情をそのまま伝える──
そう聞くと、「ちょっとハードルが高い」と感じる方もいるかもしれません。
特に、普段から周りに気を遣っていたり、
“空気を読む”ことを大切にしてきた人ほど、
自分の気持ちを言葉にするのがむずかしく感じるものです。
でも、感情を伝えるって、
なにも「熱く語る」とか「はっきり言い切る」ことばかりではありません。
まずは、ちいさく始めることから。
以下に、今日からできる実践をいくつか紹介します。
⸻
● 感じたことを、日記に書いてみる
まずはアウトプットの場を“対人”ではなく、“自分の中”に置く。
嬉しかったこと、モヤっとしたこと──一行でもいいので、
「自分はいま、こう感じたんだな」と書いてみることで、
自分の感情に気づく力が育っていきます。
⸻
● アドバイスより「わかるよ」を意識する
誰かの話を聞いているとき、ついアドバイスをしようとする自分に気づいたら、
ひと呼吸おいて、「それ、わかるなぁ」「そっか、そう感じたんだね」と
感情を受けとめるひと言に置き換えてみる。
それだけで相手の表情がやわらぐこともあります。
⸻
● 感情をゼロにしない
「怒ってないよ」ではなく、「ちょっと残念だったな」
「大丈夫だよ」だけで終わらせず、「でも正直ちょっと焦った」
そんなふうに、自分の感じた“温度”を少しだけ言葉にのせてみる。
感情の「強さ」ではなく、「輪郭」を伝える意識が大切です。
⸻
どれも、小さなことばかりかもしれません。
でもこうした日々の積み重ねが、
**“自分の気持ちに誠実でいながら、人とつながる”**という
土台をつくってくれます。
「伝えること」が特別なスキルではなく、
日常の中の“ふるまいのひとつ”になっていくと、
それだけで信頼の空気が育っていくのだと思います。
⸻
影響力は、少しの表現から始まる
「影響力」と聞くと、
多くの人を動かしたり、大きな成果を出したりと、
なにか特別なことを想像しがちです。
でも、ほんとうの意味で人に影響を与えるのは、
身近な誰かとの、ささやかな関わりの積み重ねかもしれません。
「その言葉に、救われた」
「ちょっと話せて、ほっとした」
「この人がいると、空気がやわらぐ」
そんなふうに思われる人が、
気づかないうちにまわりの空気を整え、
小さな勇気を広げている。
そして、その力は、
「自分の感情をどう扱うか」「どんなふうに伝えるか」という
日常の表現から、静かに育っていくものです。
自分の感じたことに気づき、
それを押しつけず、なかったことにもせず、
ちょうどいいかたちで伝える。
それだけで、**「この人のそばにいたい」**という信頼が生まれます。
だからこそ、もしあなたが
「もっとまわりに良い影響を与えられるようになりたい」
「リーダーとして信頼される存在になりたい」と思っているなら、
まずはほんの少し、自分の感情を表現してみてください。
特別な言葉じゃなくていい。
完璧に伝えられなくても大丈夫。
影響力は、特別な立場や知識からではなく、日常の「伝え方」から生まれるもの。
あなたが“自分の気持ちに丁寧である”その姿こそが、
すでに影響力のはじまりなのです。
⸻
結び|“伝え方”が、あなたの影響力を育てる
いい影響を与えたい。
まわりに信頼される存在でありたい。
そんな思いを持つ人にとって、
成果や実績、知識や資格を磨くことは、きっとこれからも大切なチャレンジです。
でも、その前に。
**「どんな自分で在るか」**を少し見つめてみることも、とても意味のある時間だと思うのです。
感情に気づき、ことばにして、届ける。
その“伝え方”は、目には見えづらいけれど、
確実にあなたの影響力を育てていきます。
ちいさな日記のひとこと。
ちょっとした相づちの言葉。
少しだけ添えた「自分の気持ち」。
それらが、あなたのまわりに安心感を生み、
信頼という“土壌”を静かに耕していくのだと思います。
リーダーになることは、誰かの上に立つことではなく、
自分のふるまいを通して、まわりに良い空気を広げていくこと。
その第一歩は、今日のあなたの“伝え方”から、始まっているのかもしれません。