「話すのが苦手」は変えられる──脳と心を整える“言葉の筋トレ”

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1. はじめに:話すのが苦手だと思っているあなたへ

「自分の気持ちをうまく言えない」
「何を話したらいいのか、頭が真っ白になる」
「会話の途中で、“これでよかったのかな?”と不安になる」

そんなふうに感じたことはありませんか?
もしあなたがそう感じているなら──安心してください。それは「あなたがダメだから」ではありません。
そして、それは変えていけるものです。

今回のテーマは、あるクライアントさんとのコーチングセッションがきっかけで生まれました。
その方がふと口にした「コミュニケーション、やっぱり苦手で…」という言葉から、
“話すこと”や“言葉にすること”について、改めて深く考える機会をもらったのです。

「話すのが得意な人」はたしかにいます。
でも、彼らが最初から“話す才能”を持っていたとは限りません。
むしろ、言葉にする力は、後天的に伸ばせるスキルだということが、心理学や脳科学の研究からも明らかになってきています。

このブログでは、「話すのが苦手」と感じている人が、
どうすれば少しずつ“言葉にする力”を育てていけるのか──
そのヒントを、科学的な根拠実際の気づきを交えて紹介していきます。

2. 「話す力」は、あとからでも育つ

「自分は話すのが苦手なんです」
そう言う人の多くが、「話すのが得意な人は、もともとそういう素質がある」と思い込んでいるように見えます。
でも実は、“話す力”や“言葉にする力”は、生まれつきの才能ではなく、後天的に伸ばすことができるスキルです。

これは、脳科学でいう「神経可塑性(Neuroplasticity)」という概念とも関係しています。
神経可塑性とは、経験や反復によって脳の神経回路が再編成され、機能そのものが変わっていく仕組みのこと。
つまり、言葉にするという行為を繰り返すことで、私たちの脳は「言語化の通り道」を強化し、よりスムーズに考えや気持ちを言葉にできるようになるのです。

これは、ぼく自身がコーチングの現場で日々実感していることでもあります。
たとえば、最初のころは「うまく話せない」「どう伝えればいいかわからない」と戸惑っていた方が、
セッションを重ねるにつれて少しずつ変化していくことがあります。

その変化は、単に話す内容が整っていくというよりも、
**「行動につながりやすい視点の持ち方」や「行動につながりやすい言葉遣い」**が上手くなっていく、という形で現れることが多いです。

つまり、話し方や言葉の選び方が変わることで、
考え方にも影響が生まれ、最終的には行動まで変わっていく。
これもまさに、言語化を通じて脳が変化し、現実に働きかける力が育っていくプロセスだとぼくは感じています。

「話す力」がある人というのは、才能があるからではなく、
そうした積み重ねを経て、“言葉を使って前に進む”回路ができている人なんだと思います。

そんなふうに、言葉にする力は筋トレのように少しずつ育っていきます。
次の章からはその“トレーニングの仕方”を、科学と実体験の両面からご紹介していきます。

3. 言葉が、こころの“混線”をほどいてくれる

「なんだかモヤモヤする」
「理由はよくわからないけど、気分が沈んでる」

こうした状態のとき、感情や思考が“混線”していることがあります。
でも、そんなときに「なんで自分はモヤモヤしてるんだろう」と問いかけてみたり、
「ちょっと疲れてるかもしれないな」とつぶやいてみたりするだけで、
気持ちが少し落ち着くことってありませんか?

実はこれ、偶然ではありません。

感情を言葉にすることには、脳科学的にもはっきりとした効果があります。
アメリカの研究者マシュー・リーバーマンの実験によると、
自分の感情を言葉で表現する(アフェクト・ラベリング)と、感情の中枢である扁桃体の活動が低下することが分かっています。
つまり、「ムカついてる」「不安だ」「なんか疲れてる」と言葉にするだけで、気持ちが整理されやすくなるということ。

言葉にすることは、単なる“説明”ではなく、
感情と距離をとるための技術でもあるのです。

ぼくがセッションでご一緒している方の中でも、
「言語化するだけで、自分の気持ちがはっきり見えてきた」と話してくれる場面があります。
一見ネガティブに見える気持ちも、
「ちゃんと自分にとって意味のある感情だったんだな」と腑に落ちるだけで、ぐっとラクになることがあるんですよね。

大切なのは、“うまく話す”ことではなく、
いま感じていることを、そのままの言葉で置いてみること
それだけでも、心は少しずつ整っていきます。

4. 話すことが怖いあなたに、ちょっとした入口を

ここまで読んで、「言葉にすることって大事なんだな」と感じてくれた方もいるかもしれません。
でもきっと、こんなふうにも思うはずです。

「でもやっぱり、言葉が出てこないんだよな」
「どこから手をつけていいのか、わからない」

そんなとき、いきなり“うまく話そう”としなくていいんです。
大切なのは、**まず「ちょっと言ってみる」「ちょっと書いてみる」**こと。
それだけで、脳の中にはちゃんと“言語化の回路”が少しずつ育っていきます。

たとえば、こんなシンプルなことから始めてみてはどうでしょう?
ここからは、ぼくがクライアントさんに実際におすすめしている“言葉のストレッチ”を3つ紹介します。

📓 一言日記をつけてみる

「今日は〇〇でうれしかった」
「なんとなく疲れてた。たぶん△△のせい」
一言でいいんです。正確じゃなくても、きれいな言葉じゃなくても大丈夫。
「いまの自分にとってリアルな言葉」を出してみることに意味があります。

🗣 声に出して読んでみる

書いたことを、少しだけ声に出して読んでみるのもおすすめです。
自分の言葉を、自分の耳で聞いてみる。
それだけで、「あ、自分はこう思ってたんだな」と気づけることがあります。

💬「正しい言い方」より「出すこと」が大事

話すのが苦手な人ほど、「どう言えば正しいんだろう」と考えすぎてしまいがち。
でも、本当に必要なのは**“出してみる”こと**です。
少しくらい違和感があっても、曖昧でも、まずは出す。
そこから少しずつ、言葉の輪郭がはっきりしてきます。

こうした小さな「言葉のストレッチ」を続けていくうちに、
「前より言いやすくなったかも」と感じる瞬間が出てきます。
そしてその小さな成功体験が、自信や前向きな感覚につながっていきます。

“話すのが苦手”という自分に優しく向き合いながら、
まずは「出すことから始めてみる」──その選び方こそ、
言葉とのいい関係をつくる第一歩になるんじゃないかと思います。

5. さいごに──言葉は、あなたの味方になる

「話すのが苦手」
そう思う気持ちは、決して否定すべきものではありません。
その背景には、まじめさや、慎重さ、人への思いやりがあることも多いからです。

でも同時に、「話すのが苦手」と決めつけてしまうことで、
本当は届けたかった自分の思いや、本音や、小さな願いをしまい込んでしまうのも、少しもったいないなと思うのです。

このブログで紹介してきたように、
言葉にする力は、生まれつきの才能ではなく、あとから育てることができる力です。
神経可塑性の考え方が示すように、言語化を繰り返すことで脳の回路は変わり、
言葉は少しずつ、あなたの中で“使えるツール”になっていきます。

その変化は、たとえ小さくても、ちゃんと実感できる形で現れてきます。
・気持ちが整理できた
・人と話すのがちょっと楽になった
・自分のことを、少し前より理解できた気がする
そんな体験を、あなたにも味わってほしいと思っています。

言葉は、うまく使わなければいけない“武器”じゃありません。
自分自身を守ったり、整えたりする“味方”になってくれるものです。

最初の一歩は、たった一言からで十分です。
自分のために、自分の気持ちを、ちょっとだけ言葉にしてみる。
その繰り返しが、未来のあなたにとって、きっと大きな支えになってくれるはずです。

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