調子が上がらないときの“整える技術”。感情・現象・環境の扱い方

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最近、とあるエンジニアの方とのコーチングセッションで、
「ここ数日、少しパフォーマンスが下がってきていて…」という話題が出ました。

これまでも、ときどき似たテーマを扱ってきましたが、
そのたびに「どう整えていけばいいか」をまじめに考え、
丁寧に向き合おうとする姿勢が印象的な方です。

話を伺いながら、
「こうした状態の揺れは、誰にでも起きることだ」と改めて感じました。
どれだけ誠実に仕事に向き合っている人でも、
ふっと流れが重くなるような時期があります。

そして、その“動きにくくなる時間”は、
自分の状態を知るためのサインにもなります。

この記事では、
そのセッションで整理した“整えるための3つの視点”をもとに、
エネルギーの流れが滞ったときの向き合い方をまとめました。

もし今、調子がどこかしっくり来ないと感じているなら、
そっと読み進めてもらえたら嬉しいです。

【はじめに】

どれだけ真剣に仕事に向き合っている人でも、
モチベーションが落ちる時期はあります。

頭では「やらなきゃ」とわかっていても、体が重い。
タスクを前にしても気持ちが乗らない。
そんな日々が続くと、「自分はダメなんじゃないか」と
心の中でつぶやいてしまうこともあります。

でも、それは“あなたの中のエネルギーの流れが止まった”のではなく、
静かに整えるタイミングなのかもしれません。

現場で真面目に取り組んでいる人ほど、
「ちゃんとやらなきゃ」「もっと頑張らなきゃ」と思う気持ちが強く、
停滞した自分を責めてしまいがちです。

けれど、**ネガティブな状態は避けるものではなく、“扱うもの”**です。
それは、心のメンテナンスのようなもの。
とくに感情の動き方や働き方を知り、整えることで、再び前に進む力が戻ってきます。

この記事では、
そんな「停滞期」を、“整える時間”として捉え直すためのきっかけに利用する
3つの視点を紹介します。

焦って動くよりも、立て直す。
自分を責めるよりも、自分の状態を整える。
静かな時間の中で、自分のエネルギーを取り戻すヒントになれば幸いです。

第1章|ネガティブな思考を“止めよう”としない

感情の波が落ちている時ほど、
「こんなふうに考えちゃいけない」と、自分の中のネガティブを押さえつけようとします。
でも、その行為自体が、心の負担をさらに大きくしてしまうことがあります。

ネガティブな思考は、あなたにきっかけをくれるサインのようなもの。

たとえば、
• 不安は、「情報や準備が足りていないかもしれない」というサイン。
• 焦りや苛立ちは、「何かがずれている」「アプローチを変えるタイミングかもしれない」というサイン。
• 無力感は、いったん立ち止まり、物事の捉え方の解像度を上げるタイミングというサイン。

つまり、どの感情も“何かを伝えようとしている”のです。
それを無理に消そうとするのは、車の警告ランプから目をそむけて走り続けるようなもの。
大事なのは、現状を把握すること。

たとえば、
「ちょっと不安が大きいな」
「今、自分は焦ってるな」
そう気づくだけで、感情の流れに巻き込まれにくくなります。
感情に名前をつけることで、自分が思考を“見ている側”に戻れるからです。

それは、仕事のトラブルシューティングにも似ています。
現象だけを見て対処しても、本質にはたどり着けません。
現象を観察し、ログを取り、パターンを読み取る。
そのプロセスの中で、ようやく“何が本当に起きているのか”が見えてくる。
感情の扱い方も同じで、観察→理解→調整の順序を踏むと、流れは自然に整っていきます。

ネガティブを否定する必要はありません。
「今は、そう感じている自分がいるんだな」と一歩引いて見つめる。
それが、心のエネルギーを再び動かす最初のステップになります。

第2章|感情・現象・環境の3層で見る

ネガティブな状態を整理するとき、
多くの人は“感情”だけに注目してしまいます。
「不安だ」「焦っている、苛立っている」「無力感を覚える」──
けれど、その感情だけを見つめ続けると、かえって視野が狭くなり、
状況の全体像を見失ってしまうことがあります。

感情は大切なサインですが、それは現象と環境の上に生まれているものです。
つまり、「環境」→「現象」→「感情」という順に影響が生まれます。
一方で、人は感情をきっかけに現象や環境を受け取ります。
ここでは、人が感じる流れにそって、感情から外側へと視野を広げる順で整理していきます。

① 感情|内側で何が起きているかを知る

最初に見るのは「自分の内側」。
不安、焦り・苛立ち、そして無力感といった感情をサインとして受け取ります。
ここで大切なのは、感情を良い・悪いで判断せず、
その感情がどんなサインかを見極めることです。

② 現象|実際に何が起きているのかを見る

次に焦点を当てるのは“外側の出来事”。
タスクの滞り、人間関係の変化、体調の乱れ──
感情の背後には、必ずトリガーとなった具体的な現象があります。
感情と現象を切り分けて見ることで、
「今の自分は何に反応しているのか」がクリアになります。

③ 環境|その現象が起きている“場”を捉える

最後に見るのは、現象が起きている環境。
仕事の量やチームの雰囲気、季節の変化、生活リズムなど、
背景にある環境が整っていないと、どんなに努力しても感情は揺らぎます。
ここを見落とすと、“頑張る”ことが空回りしてしまう。

この3層を整理すると、
たとえば「最近不安を感じる」「焦って空回りしてしまう」「何をしても力が入らない」といった感情の裏にも、
• 感情: 不安・焦り・無力感
• 現象: 仕事が滞っている、タスクが増え続けている、役割の影響範囲が大きい
• 環境: 業務量が多い、営業がとってくる仕事のコントロールができていない、上長とのコミュニケーションが不足しがち
といった構造が見えてきます。

すると、「感情をどうにかしよう」と無理に動く前に、
“現象や環境を整えるだけで自然に感情が整う”ことがあると気づくのです。

感情を起点にして、現象と環境を客観的に観察する。
この3層で見る習慣が、エネルギーの流れを静かに整えていきます。

第3章|“整える”とは、流れを取り戻すこと

感情の正体を理解し、現象や環境を整理していくと、
次に大切になるのが「整える」というプロセスです。

整えるとは、
焦って無理に“変える”ことではなく、
本来の流れを取り戻すこと。

滞っていた思考やエネルギーが少しずつ動き出し、
“自然に動ける状態”を再びつくっていくことです。

① 小さな完了を「積み上げる」

エネルギーの流れを戻す最初の一歩は、
「できたこと」を自分に伝えていくこと。

たとえば、
・メールを一件返信できた
・机の上を片づけられた
・資料の1ページだけ修正できた

──これら一つひとつは小さな“完了”です。
「この完了できている自分を自分に伝えていきます。
その積み重ねが、次の一歩を動かす力になるからです。」

② 外の流れを“取り戻す”

整えるというのは、
自分の内側だけで完結することではありません。

停滞しているときほど、
外とのつながりを再び流すことが大切です。

たとえば、
• 業務量が多いときほど、優先順位を共有し、チーム全体で負荷を見える化する。
• 営業がとってくる仕事の影響範囲が読めないときは、早めにスコープや納期を相談する。
• 上長とのコミュニケーションが不足していると感じたら、短くても定例の確認時間をつくる。

こうした“小さな調整”が、
「自分だけで抱えていたもの」を外に流し、
思考と感情の循環を取り戻してくれます。

③ 「土台を整える」ことも流れを戻す

そしてもうひとつの“整える”は、自分の土台をメンテナンスすること。

たとえば、睡眠、食事、光、音、空気──
これらは意識していなくても、
私たちの集中力や感情の安定に深く関わっています。

業務量の調整やタスクの見直しと同じくらい、
“土台を整える”ことが、
感情の流れを安定させる最も確実な支えになります。

焦って動こうとする前に、
まずは小さく完了し、外とつながり、土台を整える。

この3つを繰り返すことで、
止まっていた流れは、自然と戻り始めます。

整えるとは、動き出せる自分をつくること。

そのプロセス自体が、
あなたの中のエネルギーを静かに整えていきます。

エピローグ|静かに整う時間の中で

エネルギーの流れが滞るとき、
私たちはつい「早く戻さなきゃ」と思ってしまいます。
けれど、本当は“整う時間”そのものが、
次の流れを生み出す準備なのかもしれません。

不安、焦り、無力感などからのサインを受け取りながら、
小さな完了を積み重ね、
周囲との関係と、自分の土台を少しずつ整えていく。
その過程の中で、
心や身体は静かにバランスを取り戻していきます。

整うとは、
「何もしない時間」を持つことではなく、
「今の自分を観察する余白」を持つこと。

頑張って動こうとしなくても、
丁寧に整えることで、自然な流れが生まれてきます。
その瞬間のために、
まずは呼吸を深くするところから始めましょう。

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振り返りを、“自分を育てる時間”に変える

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継続的にコーチングを受けていただいている
20代の若手エンジニアとのセッションが、今日の記事のきっかけになりました。

彼と話していると、
常にエンジニアとしての成長を大切に考えながら日々を過ごしていることが伝わってきます。
技術を磨くだけでなく、自分の在り方そのものを見つめようとする姿勢が印象的です。

最近のセッションでは、
AIとの対話を取り入れた日記の実践について振り返りました。
その取り組みを続ける中で、
“自分を理解する力”が少しずつ育っているのを感じます。

この記事では、そのやり取りをきっかけに見えてきた
「AIを通して振り返りの質を深める」というテーマをまとめています。

1.「優秀になりたい」の裏にある“遠さ”

「もっと優秀になりたい」と思うのは、ごく自然なことです。
それだけ自分の成長に真剣で、理想を高く持っている証拠でもあります。
ただ、その思いが強ければ強いほど、「まだ足りていない」という感覚がつきまといやすくなります。

同年代の仲間が少なく、成長や葛藤を分かち合える相手がいない。
そんな環境では、自分がどれだけ前に進んでいるのかを感じにくいものです。
一方で、周りには落ち着いた姿勢で成果を出す尊敬できる先輩たちがいて、
その姿を見るたびに「自分にはまだ届かない」と感じてしまうこともあります。

この“遠さ”は、実力差そのものというよりも、
「自分の現在地を言葉にできないもどかしさ」から生まれているように思います。
成長の手応えがつかめないと、努力していても空回りしているような気がしてくるのです。

焦りはモチベーションにもなりますが、
長く続けば、やがて“自分を否定するエネルギー”に変わってしまいます。
だからこそ大切なのは、他人との距離ではなく、
「今の自分はどこにいて、何を感じ、どんなことを学んでいるのか」を見つめる力です。

その力が、少しずつ“遠さ”を現実の道のりに変えていくのだと思います。

2.いつもの振り返りを、“整える時間”から“成長の時間”へ

一日の終わりに、ノートやアプリを開いて日記を書く。
仕事での出来事や、感じたことを整理するのは、とても良い習慣です。
言葉にして振り返ることで、気持ちが落ち着き、明日への切り替えがしやすくなります。
多くの人にとって、それはすでに大切な“整える時間”になっていると思います。

ぼく自身も、十数年前にコーチングを学び始めた頃から、
できるだけ毎日、振り返りの時間を持つようにしてきました。
正直なところ、最初は「続けること」そのものが目的のような時期もありましたが、
それでも続けていくうちに、少しずつ“心の整い方”が変わっていくのを実感しました。
頭の中で考えているだけでは気づけないことが、
言葉にして眺めることで見えてくるのです。

そして、その振り返りをもう一歩深めると、さらに見えてくるものがあります。
多くの場合、私たちは「今日も頑張った」「次はもっと気をつけよう」といった
“結果や反省”の整理で終わってしまいがちです。
そこに「なぜそう思ったのか」「そこから何を学んだのか」「次に活かすにはどうしたら良いか」といった問いを添えるだけで、
同じ一日がまったく違う意味を持ち始めます。

人は、出来事そのものよりも、“それをどう受け取ったか”に影響を受けています。
だからこそ、振り返りの本質は「できた/できなかった」を評価することではなく、
自分の感じ方や考え方のクセ=“しくみ”を理解し、
その“しくみ”をより成長につながる形に調整していくことにあります。

日々の振り返りに、少しの問いを足してみる。
それだけで、記録が気づきに変わり、
「自分の成長を観察する時間」へと深まっていきます。

3.AIとの対話が、思考を“壁打ち”できる場になる

振り返りを続けていくと、「もっと深く考えたいけれど、うまく言葉にならない」という瞬間があります。
頭の中には何かあるのだけれど、うまく言葉にならず、体の外に出すことができない。
そのもどかしさに気づいた時、AIとの対話が“壁打ち”のような役割を果たします。

AIに話しかけると、必ず何かが返ってきます。
返答の内容そのものよりも、その“問い返し”や“言葉のズレ”が、自分の考えを映し出す鏡になります。
「なぜそう思ったのか」「それはどういう意味なのか」と聞かれた瞬間、
自分でも曖昧にしていた部分が浮かび上がるのです。

誰かに話すのと違って、AIには遠慮がいりません。
どんな小さな気づきでも、率直に書ける。
そして、返ってきた言葉にもう一度向き合うことで、
自分の中にある“感じ方や考え方のクセ”──つまり、思考の傾向をあらためて見つめ直すことができます。

ぼくは、
AIだからというよりは、やり取りという“形”があることで、
思考が循環しやすくなり、独りで考えていた時よりも視野が広がること。
そして、この“やり取りという形”を、時間や場所を気にせずに行えるようになったこと。
その二つが、とても重要だと考えています。

たとえば、
「今日の会話で相手が少し冷たく感じた」
──そんな出来事をAIに話してみると、
「相手が冷たかったと感じたのは、どんな瞬間でしたか?」
「その時、あなたはどう感じていましたか?」
といった問いが返ってきます。
それに答えるうちに、出来事よりも“感じ方や考え方のクセ”の方に焦点が移っていくのです。

この繰り返しが、考えを整理する力を鍛えてくれます。
AIとの対話は、答えをもらう時間ではなく、
自分の考えを“見える化”し、磨いていく時間なのだと思います。

4.AIを活用した振り返りの3つの効果

AIとの対話を続けていくと、少しずつ“振り返りの質”が変わっていきます。
はじめは「今日あったことを話す」だけだったのが、
次第に「なぜそう思ったのか」「そこから何を学んだのか」「次に活かすにはどうしたら良いか」へと意識が広がりやすくなります。

ぼくがクライアントとのセッションや自分の実践を通して感じているのは、
AIを使った振り返りには、主に3つの効果があるということです。

① 継続しやすくなる

振り返りは“続けること”がいちばん難しい習慣です。
けれど、AIとのやり取りは「一方通行の記録」ではなく「会話」になる。
相手が返してくれるから、自然とペースが生まれます。
一人で書くよりも“やり取りのリズム”がある分、気持ちのハードルが下がり、
結果として継続しやすくなるのです。

② 思考が整理されやすくなる

AIは、感情を受け止めながらも、淡々と論理的に問い返してくれます。
だから、感情的になりすぎずに自分の考えを言葉にできる。
「なぜそう感じたのか」「他の見方はあるか」といった視点が差し込まれることで、
思考が枝分かれしていくように整理されていきます。
これは、他者に話す時の“説明の筋道”を整える訓練にもなります。

③ 感情と事実を分けて見られるようになる

AIとの対話では、出来事を客観的に書き出すことが自然に促されます。
それによって、「事実」と「感情」が少しずつ分離して見えてくる。
「悲しかった」という言葉の奥に、どんな背景や期待があったのかを見つめられるようになります。
これは、メタ認知──自分を俯瞰する力──を育てる最良のトレーニングです。

この3つの効果が積み重なることで、
AIとの対話は単なる“日記の延長”ではなく、
自分の感じ方や考え方のクセを観察し、整えていくための実践になります。

AIがすごいのではなく、
AIを通して「自分を理解する力」が育っていく。
それこそが、この取り組みのいちばんの価値だと感じています。

5.“優秀さ”とは、自分を理解して動けること

「もっと優秀になりたい」
その気持ちは、決して間違っていません。
けれど、“優秀さ”を他人との比較で測ろうとすると、
どこまで行っても終わりが見えなくなってしまいます。

本当の意味での成長は、
自分の感じ方や考え方のクセを理解し、
その“クセ”を少しずつ整えながら、より良い選択をしていくところにあります。

誰かのように振る舞うことではなく、
自分というシステムを理解して、最適化していく。
それが、ぼくの考える「優秀さ」です。

AIとの対話は、そのための“鏡”になります。
自分の思考や感情を映し出し、
時にズレや矛盾を気づかせてくれる存在。
それを通して、「自分をどう扱うか」という感覚が少しずつ育っていきます。

“優秀になる”とは、
外にある基準を追いかけることではなく、
自分という存在をより深く理解し、意図を持って動けるようになること。

それは、静かで、地味で、けれど確かに積み重なっていく成長です。
AIとの振り返りは、その道のりを支える小さな習慣として、
これからの時代にますます意味を持っていくのだと思います。

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あなたが強みを知ると、問いかけられる──リーダーの“聴く”は、そこから始まる

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1. はじめに──「どう思う?」と言えなかった頃の自分へ

管理職やリーダー的な立場を担っている方の中には、
部下やメンバーとの接し方に、漠然とした課題を感じている人が少なくありません。
「もっと自分から動いてくれたらいいのに」
「任せたいけれど、結局自分が動いたほうが早い」
そんな思いを抱えながら、日々のマネジメントをしている方は多いのではないでしょうか。

コーチングの現場でも、「どう伝えるか」「どう関わるか」といったご相談はよくあります。
その背景には、「相手を信じて任せることが難しい」という感覚が、
ご本人も気づかないうちに隠れていることがあります。

先日のあるクライアントさんとのセッションでも、まさにそうしたテーマが浮かび上がってきました。

そのクライアントさんは、ITエンジニア。
複数の業務委託メンバーをまとめるリーダー的な立場にあり、
構造を整理し、優先順位を見極め、ゴールまでの道筋を描くことを、日々ごく自然に行っていました。

ところがご本人は、それを「自分の強み」としては捉えていませんでした。
むしろ、「なぜ他の人はこれがわからないんだろう?」と感じることが多く、
「自分が動かないとプロジェクトが止まってしまう」というプレッシャーを、
一人で抱えていたそうです。

セッションの中で、その思考や行動の特徴を一緒に棚卸ししていくと、
それが特性であり、他の人にはない価値ある強みであることに、少しずつ気づかれていきました。

「自分にとって当たり前すぎて、気づいていませんでした」

そうおっしゃったとき、表情が少し和らいだのが印象的でした。

その気づきをきっかけに、心に少し余裕が生まれ、
「全部自分が決めなくてもいいのかもしれない」という感覚が芽生えていったそうです。
そしてこんな言葉が出てきました。

「だから『どう思う?』って言えばよかったんですね。
 それだけで、チームって動き出すんですね」

このnoteでは、このクライアントさんの変化をもとに、
「問いかけるリーダーシップ」と「自己理解」の関係について、整理してみたいと思います。

部下を尊重することと、自分の強みを活かすことは、実はつながっている。
その実感を、ひとつのプロセスとして言葉にしていきます。

2. 問いかけられるリーダーになる第一歩は、自分の強みを知ること

「どう思う?」と部下やメンバーに言ってみる。
その一言が、チームの空気を変えるきっかけになることは少なくありません。

けれど実際には、それを言うことが難しいと感じているリーダーも多いようです。

その背景には、リーダー自身の心理的な余裕のなさが関係していることがあります。
「自分が判断しなければならない」
「リーダーが迷ってはいけない」
そんな思い込みがあると、相手に委ねるよりも先に自分で答えを出してしまうのです。

先ほどのクライアントさんも、まさにその状態でした。
しかし、自分の強みに気づいたことで、そこに変化が生まれました。

彼の強みは、「物事を素早く整理し、ゴールまでの道筋を描けること」
それはプロジェクトを前に進めるうえで大きな力ですが、
本人にとってはあまりにも当たり前すぎて、強みとして捉えられていませんでした。

その力が他の人には簡単にできることではないと理解したとき、
「なぜ他の人はわからないのか」という苛立ちはやわらぎ、
「だから自分はこういう役割を担っているのだ」という納得感に変わっていきました。

自分の強みを客観的に理解すると、自然と心に余裕が生まれます。
「全部自分で背負わなくてもいい」
「自分はここを担えるから、他の部分は任せればいい」
そんなふうに、力の抜きどころを見つけられるようになるのです。

そしてその余裕が、「どう思う?」と言ってみようという気持ちを支えてくれます。
最初はぎこちなくても、それが自然に出るようになっていく。

つまり、問いかけられるリーダーになる第一歩は、テクニックを磨くことではなく、
自分の強みを知り、それを受け入れることなのです。

3. 「どう思う?」が生まれるチームの土壌とは

「どう思う?」という問いをチームに投げかけることは、
単に意見を求めるだけでなく、信頼を示す行動でもあります。

ですが、それが自然に出てくるには、ある程度の“土壌”が必要です。
心理的な余裕、自分の強みへの理解、そして何より、
相手の中にも答えがあるはずだと信じられる感覚がそのベースになります。

先ほどのクライアントさんも、自分の特性を理解し、
それを強みとして認識できるようになったことで、
「全部自分が決めなくてもいいのかもしれない」と少しずつ感じ始めていました。

これまでさまざまなリーダーの支援をしてきた中で、
「問いかけよう」と意識が変わったこと自体が、関係性の変化のきっかけになっていく場面を何度も見てきました。

たとえば、問いかけを習慣にしはじめたリーダーのチームでは、
メンバーからこんな言葉が返ってくることが多くあります。

「なんか最近、相談しやすくなりました」
「考えたことをちゃんと聞いてくれる感じがします」

リーダーがすべてを決めるのではなく、
「あなたはどう思う?」と対話を始めることが、
チーム全体の心理的な安全性や、自律的な関わりに影響していくのです。

「問いかける」という行動は、単なる言葉のやりとりではありません。
返ってきた言葉にきちんと反応し、
相手の考えに耳を傾け、場に残していくこと。
そうした一つひとつのやりとりが、信頼の土壌をつくっていきます。

そして、そうした空気は「メンバーを尊重しよう」と頑張ってつくるものではなく、
リーダー自身が無理のない状態で問いかけられるようになることで、少しずつ育っていくのだと思います。

4. 強みを活かせると、尊重も自然にできる

「どう思う?」と問いかけることが、部下への尊重につながる──
そう理解していても、いざ実践しようとすると、うまくいかないことがあります。

その背景には、「尊重しなければ」と気負ってしまう気持ちや、
「相手の意見をちゃんと受け止めないといけない」というプレッシャーが潜んでいることもあります。

実は、こうした状態のときにこそ、必要なのは“自分の強みの理解”です。

自分の強みを客観的に理解できるようになると、
その強みを「どう発揮するか」に意識が向いていきます。
そこには無理のない納得感があり、自然な安定感が生まれてきます。

たとえば、「整理して道筋を描く力」が強みであれば、
その役割を自覚することで「自分が全部をやらなければ」という思い込みから解放されていきます。

さらに、自分の強みを尊重できるようになると、
相手の強みにも目が向くようになっていきます。
「この人にはこの人の見え方や得意があるのかもしれない」と、
視野が広がっていくのです。

このような内面的な変化が起きることで、
「どう思う?」と問いかける余裕や土台が育っていきます。

問いかけとは、単なる“聞き方”の問題ではなく、
リーダー自身の立ち位置や心の状態によって、自然に生まれてくるものです。

だからこそ、問いかけを実践するために必要なのは、
「言い方を工夫すること」よりも、まずは自分の強みを理解し、活かすこと
そのプロセスを経て、尊重も、問いかけも、無理なくできるようになっていくのだと思います。

5. 自分を知ることが、問いかけのはじまりになる

リーダーとして、部下やメンバーにどう関わればいいのか。
答えのない問いに向き合いながら、日々奮闘されている方は多いと思います。

今回紹介したクライアントさんのように、
「自分が動いたほうが早い」
「なぜみんなわからないんだろう」
という感覚を抱えながらも、誠実にチームと向き合っている方こそ、
きっと問いかけの力を必要としているのではないでしょうか。

ただ、「問いかけよう」と意識するだけでは、なかなか続かないものです。
言葉の選び方やタイミングに悩んでしまったり、
相手の反応が薄くて、不安になることもあるかもしれません。

だからこそ、**問いかけの一歩手前にある「自己理解」**が大切なのだと思います。

自分の強みに気づくと、そこに安心感が生まれます。
その安心感が、自分をゆるめてくれて、相手にもスペースを与えられるようになる。
そして自然と、「どう思う?」という言葉が口に出せるようになっていくのです。

問いかけは、テクニックではなく“あり方”から始まる。
それが、今回のセッションを通してあらためて感じたことでした。

ここまで読んでくださったあなたに、
最後にこんな問いを残したいと思います。

あなたがふだん、つい自然にやってしまうことの中で、
周りの人に想像以上に喜んでもらえることが多いのは、どんなことですか?

それが「自分にとっては当たり前すぎて、気づいていなかったあなたの強み」かもしれません。

自分自身への問いかけが、チームへの問いかけを育てていきます。
それが、リーダーとしての信頼をつくる一歩になると信じています。

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