期待されているのに、なぜ影響力を発揮しづらいのか── 現場で評価されてきた人が、次の役割に向かうときに起きていること

① はじめに|評価と手応えが、なぜか噛み合わない

現場では、一定の成果を出している。
上司や責任者からも、明確に期待されている。
本人もその期待を、プレッシャーではなく「意気に感じて」前に進もうとしている。

それなのに、
どこか手応えが噛み合わない。

リーダーシップを発揮しようとすると、
前に出きれない感覚が残る。
言っていることは間違っていないはずなのに、
周囲に強い影響力を持てている実感が薄い。

評価されていないわけではない。
成果が出ていないわけでもない。

それでも、

「自分は、いま何を求められているのだろうか」
そんな問いが、ふと頭をよぎることがある。

この違和感は、決して珍しいものではありません。
むしろ、現場で評価されてきた人ほど通りやすい地点だと感じています。

ここで起きているのは、
能力不足でも、意欲の欠如でもありません。
「まだ足りない」「向いていない」という話でもないのです。

実際には、

評価されてきた役割と、
これから期待されている役割が、
少しずつズレ始めている

そんなことが起きているように、ぼくには見えます。

現場で結果を出す力と、
周囲に影響を与える力は、
似ているようで、使いどころが違います。

その切り替えが、
はっきりと言葉で説明されることは多くありません。
そのため、この違和感はしばしば
「自分の中の問題」として、静かに引き取られていきます。

けれど本当は、
これは個人の内面だけで完結する話ではありません。

組織の中で、
評価や期待がどのようにつくられているのか。
役割がどのように切り替わっていくのか。

その構造を少し引いて見てみると、
この違和感の正体は、
別の輪郭を持って見えてきます。

この記事は、
とある20代後半で、現場で活躍しているクライアントさんとの対話をきっかけに、
この「評価と手応えのズレ」について、改めて考えてみたいと思ったことから書き始めました。

——ここから先では、
この違和感を生みやすい
「言語化されていない前提」について、少し整理していきます。

② 言語化されていない前提が、評価の裏側で働いている

多くの組織を見ていると、
はっきりと言葉にされてはいないけれど、
評価や役割の与え方の裏側で、ある前提が静かに働いているように感じることがあります。

それは、
• 現場で成果を出してきた人
• 現場で頼りにされてきた人

が、次の役割として
リーダーや管理職を期待されやすい、という流れです。

誰かが会議の場で
「現場で優秀だから、管理職にも向いている」
と明言しているわけではありません。

けれど、
• 昇格のタイミング
• 任される仕事の種類
• 育成の順番

を眺めてみると、
結果として、そうした流れになっている組織は少なくないように思います。

この前提は、とても自然です。
現場で成果を出してきた人を評価したい。
次のステップに進んでほしい。
そう考えること自体に、違和感はありません。

問題があるとすれば、
その前提が言語化されないまま共有されていることです。

現場で評価されてきた力と、
これから期待されている力が、
同じものなのか、違うものなのか。
その切り替えについて、
きちんと立ち止まって話されることは多くありません。

その結果、
• 役割だけが少しずつ変わっていく
• 期待の中身が、言葉にならないまま膨らんでいく

という状態が生まれます。

現場ではうまくやれていた。
周囲からも評価されてきた。
それなのに、役割が変わった途端に
影響力を発揮しづらくなる。

このとき起きているのは、
能力が足りなくなったわけでも、
急に向いていなくなったわけでもありません。

これまで評価されてきた力と、
これから求められている力の種類が、
少しずつズレてきている

そんな変化が、
本人にも、周囲にも、
十分に共有されないまま進んでいるだけです。

このズレが厄介なのは、
誰も悪意を持っていない、という点です。

組織側も、
「期待しているからこそ任せている」。
本人も、
「期待に応えたいと思っている」。

だからこそ、この違和感は
「自分の頑張りが足りないのかもしれない」
という形で、個人の内側に引き取られやすくなります。

けれど、少し引いて見てみると、
ここで起きているのは
個人の問題というより、構造の問題だと言えそうです。

次の役割に進むとき、
求められる仕事の中身がどう変わるのか。
どんな力を、どんな形で使うことが期待されているのか。

それが十分に言葉にされないまま、
評価だけが先に動いてしまう。

この「言語化されていない前提」こそが、
評価と手応えのズレを生みやすくしている背景なのではないか。
ぼくは、そんなふうに感じています。

③ この前提が生みやすい、静かなズレ

言語化されていない前提のもとで役割が切り替わっていくと、
組織の中では、ある種の「静かなズレ」が生まれやすくなります。

それは、大きな衝突や明確な失敗として表に出るものではありません。
むしろ、日常の中に、違和感としてじわじわと現れてきます。

たとえば、
• 任される仕事が、少しずつ変わってきた
• 周囲からの期待が、以前とは違う方向を向き始めた
• それなのに、自分が何を軸に振る舞えばいいのかが、はっきりしない

そんな状態です。

現場で評価されてきた人ほど、
「これまで通りやっていればいいはずだ」と感じやすいものです。
実際、それまではそれでうまく回ってきました。

さらに多くの場合、
そのやり方こそが、
自分の強みであり、評価されてきた理由そのものだと感じています。

だからこそ、

「ここを変える必要があるのだろうか」
「このやり方を手放してしまっていいのだろうか」

そんな迷いが生まれるのも、自然なことです。

ところが、ある時点から、
• 自分が前に出ても、場が思うように動かない
• 良かれと思ってやっていることが、少しズレて受け取られる
• 周囲との距離感が、微妙に変わった気がする

そんな感覚が出てくることがあります。

それでも、影響力が思うように立ち上がらない。

ここで起きているのは、
能力の低下とかではなく

これまで評価されてきた振る舞いと、
いま期待されている振る舞いが、
少しずつズレ始めている

ということだと、ぼくは思っています。

ただし、このズレはとても見えにくい。
なぜなら、評価の言葉そのものは、
以前と大きく変わらないことが多いからです。

「期待している」
「任せたいと思っている」

そう言われながらも、
具体的に何をどう変えるべきなのかは、
はっきり示されない。

その結果、
• 期待されているのに、手応えがない
• 任されているのに、影響力が及ばない

という状態が続いていきます。

そしてこの違和感は、
多くの場合、本人の内側で処理されます。

「自分の伝え方が悪いのかもしれない」
「もっと実績を積めばいいのかもしれない」
「まだ自分には早いのかもしれない」

そうやって、
静かに引き取られていく。

評価の前提が変わり始めているのに、
その変化が共有されないまま、
役割だけが先に進んでいる。

この「静かなズレ」こそが、
影響力を発揮しづらくなる正体なのではないか。
ぼくには、そんなふうに見えます。

④ 数字や専門性が“使えなくなっていく場面”で、影響力が試される

影響力が発揮しづらくなる場面には、ある共通点があります。
それは、これまで評価の拠り所になってきたものが、そのまま効きにくくなっていく場面です。

たとえば、
• 数字で押し切れない
• 専門性の高さを示しても、判断が進まない
• 「正しいこと」を言っているだけでは、場が動かない

そんな状況です。

現場で評価されてきた人ほど、
これまでの成功体験の中に、
「これを出せば通る」という手応えを持っています。

数字。
実績。
専門知識。

それらは、現場では確かに強い力を持ってきました。

けれど、役割が変わると、
それらを前面に出しても、以前ほど影響力が発揮されない場面が増えてきます。

たとえば、
• 顧客満足度向上の取り組みのように、
成果は数値として示されていても、
その意味や手応えが見えにくい仕事
• 会議や調整のように、
誰かを論破しても前に進まない場面
• 横断的な取り組みのように、
正解が一つではなく、合意の質が問われる状況

こうした場面では、

「どれだけ数字が上がっているか」
「どれだけ詳しいか」

といった要素よりも、

どんな視点で、この場を見ているのか

が、問われるようになります。

ここで、多くの人が戸惑います。

これまで頼ってきた武器を使っているはずなのに、
思ったほど場が動かない。
だから、どう振る舞えばいいのかが分からなくなる。

前に出るべきなのか。
一歩引くべきなのか。
強く言うべきなのか。
待つべきなのか。

判断の軸が、
これまでよりも曖昧になります。

けれど、ここで試されているのは、
発言の強さや説得力ではありません。

試されているのは、
• 何を大事にしようとしているのか
• この場で、何を揃えたいのか
• どんな前提を、共有しようとしているのか

そうした、判断の背景です。

数字や専門性が効きにくくなっていく場面では、
判断そのものよりも、
判断に至る考え方が影響力になります。

だからこそ、
• 正解を出そうとしすぎる
• うまくまとめようとしすぎる

ほど、場は動きにくくなります。

一方で、

「いま、この場で大事にしたいのは何か」
「この議論で、何が揃えば前に進めそうか」

そうした問いを、
場に差し出せる人がいると、
少しずつ空気が変わり始めます。

影響力とは、
誰かを動かす力というよりも、

人が動ける状態をつくる力

なのかもしれません。

数字や専門性が、
以前ほど効かなくなっていく場面は、
不安定で、手応えがなく、
できれば避けたくなる場所でもあります。

けれど同時に、
そこは、影響力の質が切り替わり始める場所でもあります。

現場で評価されてきた人が、
次の役割に進むとき、
最初に立たされるのが、
この「数字や専門性が効きにくくなる場面」なのではないかと、
ぼくは感じています。

⑤ なぜ“今”、これまでの強みとは違う役割を任されているのか

ここまで読んでくると、
ひとつの疑問が浮かんでくるかもしれません。

「なぜ、今の自分が、
これまで評価されてきた強みとは少し違う役割を任されているのだろうか」

評価もされている。
現場では、頼られてもいる。
それなのに、
• 成果がすぐに見えにくいテーマ
• 正解が一つではない取り組み
• 周囲との調整や、場づくりが求められる役割

が、増えていく。

このとき、多くの人は、
どこかでこう感じます。

「まだ、自分はそこまでではないのではないか」
「これまでの強みを活かすために、
この役割から降りた方が良いのではないか」

けれど、少し視点を変えてみると、
別の見え方もあります。

それは、

その役割は、
これまでの強みを評価された結果だけではなく、
次の役割に向けた“準備”として渡されているのではないか

という見方です。

現場で発揮してきた強みは、
これからも大事です。
ただ、役割が変わっていくと、
• 自分が前に出て解決する
から
• 人や関係性を通して、状況が整うのを支える

という位置に、
少しずつ重心が移っていきます。

この移行は、
いきなりは起こりません。

まずは、
• これまでの強みだけでは前に進まない場に立ってみる
• 成果が見えにくい仕事を引き受けてみる
• 人や空気を扱いながら、場を動かしてみる

そんな経験を通して、
影響力の質を切り替える時間が置かれます。

これまでの強みが、
そのままでは効きにくい場面に、
あえて立たされる。

それは、
• 期待されていないから
• 信頼されていないから

ではありません。

むしろ、

強みを一度脇に置いたとき、
どんな視点で場を見て、
どんな関わり方を選ぶのか

を、見られているのではないか。
そんなふうにも考えられます。

場をどう見るのか。
誰の声を拾おうとするのか。
どんな問いを立てるのか。

そこには、
管理職としての資質が、
とても静かな形で現れます。

だからこそ、この段階では、
• うまくまとめられなくてもいい
• 正解を出せなくてもいい

代わりに、

「何を大事にしようとしているのか」
「この場を、どう扱おうとしているのか」

その姿勢そのものが、
次の評価軸になっていきます。

これまでの強みとは違う役割を任されるというのは、
負荷が増えることでもあり、
手応えが減ることでもあります。

けれどそれは同時に、

役割が切り替わる前に与えられる、
とても実践的な“練習の場”

でもあります。

この時間を、
「本筋ではない仕事」と捉えるか、
「次に進むための準備」と捉えるかで、
その後の見え方は大きく変わります。

ぼくは、
このタイミングで任される役割の質に、
その人への期待が、
かなり正直に表れているように感じています。

⑥ この局面で、影響力が立ち上がり始める人の共通点

この局面で、
影響力が少しずつ立ち上がり始める人たちには、
いくつかの共通点があります。

それは、
特別なスキルや、強い主張を持っていることではありません。

むしろ、
**「何をしなくなったか」**のほうに、
その兆しが現れます。

まずひとつは、
自分の強みを、使おうとしすぎなくなることです。

数字で語れる。
専門性で説明できる。
現場の感覚もある。

そうしたものを「出せば通る武器」として
前に押し出すのではなく、

「今、この場でそれは本当に必要だろうか」

と、一拍置けるようになります。

強みを捨てるわけではありません。
ただ、強みを主役にしない時間が増える

この切り替えが起き始めると、
場の見え方が変わってきます。

次に、
答えを出す前に、場を整えようとするようになります。

何が正しいか。
どう決めるべきか。

そうした思考よりも先に、
• いま、この場はどんな状態なのか
• 誰が、どこで引っかかっているのか
• 何が、まだ揃っていないのか

を見ようとする。

議論を前に進めるために、
何かを「言う」よりも、
何を「共有するか」を選び始めます。

その結果、
本人の発言量が減ることもあります。

けれど、不思議と、
場は前より動きやすくなる

もうひとつの共通点は、
自分の立ち位置を、固定しなくなることです。

前に出る。
一歩引く。
誰かに任せる。

そのどれかを「自分の役割」と決め打ちせず、
場に応じて立ち位置を変えていく。

ここには、

「自分がどう見られるか」
よりも
「この場がどう進めばいいか」

という関心の移動があります。

この関心の向きが変わると、
周囲の受け取り方も変わります。

「指示された」
ではなく
「考えやすくなった」

「動かされた」
ではなく
「動ける状態になった」

そんな感覚が、
少しずつ周囲に広がっていきます。

影響力が立ち上がるとき、
本人の中に
はっきりした手応えがあるとは限りません。

むしろ、
• 以前より発言を控えるようになった
• 前より注目されることが少なくなった
• 自分の役割を、説明するのが難しくなった

そんな実感を伴うこともあります。

けれど、その裏側で、
• 話がまとまりやすくなっている
• 人が動くスピードが上がっている
• 小さな合意が、静かに積み重なっている

という変化が起き始めます。

そして多くの場合、
この力が立ち上がり始めたあとで、
あなた自身が、影響力の変化を実感するようになります。

この局面で立ち上がる影響力は、
「引っ張る力」ではありません。

人が動きやすい状態を、
繰り返しつくっていく力

です。

それは派手ではありません。
結果も、すぐには見えにくい。

けれど、
あなたに、これまでとは違う役割を求め始めた組織の中では、
確実に必要とされる力です。

⑦ 期待されているのに、影響力を発揮しづらいと感じているあなたへ

もし今、
• 評価はされている
• 期待も、感じている
• けれど、以前のような手応えがない

そんな状態にいるとしたら、
それは、何かが足りないからではないのだと思います。

むしろ、
扱うものが変わり始めているのかもしれません。

これまで、
あなたが現場で積み上げてきた強みは、
間違いなく価値のあるものでした。

結果を出してきたこと。
頼られてきたこと。
自分なりのやり方をつくってきたこと。

それらがあったからこそ、
今の場所に立っています。

ただ、役割が切り替わり始めると、
同じ強みを、同じ使い方では活かせなくなる瞬間があります。

それは、
• 強みが通用しなくなった
• 評価が下がった

という話ではありません。

強みの使いどころが、
少しずつ変わってきている

ということなのだと、ぼくは感じています。

この時期に感じる違和感は、
成長のサインとしては、とても静かです。

派手な成功も、
分かりやすい称賛も、
すぐには返ってこない。

だからこそ、

「自分は、ちゃんと期待に応えられているのだろうか」
「このまま進んでいいのだろうか」

そんな問いが、
心の中に残り続けます。

けれど、その問いが生まれていること自体が、
すでに次の役割に足を踏み入れている証でもあります。

これから求められていくのは、
• 前に出て答えを出す力
よりも
• 人が動ける状態をつくる力

かもしれません。

自分が目立たなくても、
場が前に進む。

自分が話さなくても、
対話が深まる。

そんな変化は、
最初はとても心細く感じられるかもしれません。

けれど、
その静かな変化の中でしか育たない影響力も、
確かに存在します。

もし今、

「影響力を発揮できていない気がする」

と感じているなら、
それは、影響力を失っているのではなく、
影響力の質が切り替わる途中にいるだけなのかもしれません。

焦らなくていい。
無理に、以前の自分に戻らなくてもいい。

今、目の前で起きている違和感を、
「足りなさ」ではなく、
「役割の変わり目」として扱ってみてください。

あなたが、
これまで積み上げてきたものは、
この先も、ちゃんと土台になります。

その上に、
少し違う形の影響力が、
静かに立ち上がっていく。

ぼくは、
多くの人のその過程を見てきて、
そう感じています。

会社文化と自分らしさ、そのはざまで──バランスを取り戻す小さなヒント

会社文化と“自分らしさ”の間で揺れるとき

先日、とあるクライアントさんとのコーチングセッションで、こんな気づきがありました。
それは──**「プロ意識を取り戻すこと」こそが、その方の課題の本質的な解決策につながる**ということです。

その課題とは、会社文化を受け入れきれずに“自分らしさ”との間で揺れる気持ちをどう扱うか、ということでした。

このテーマは、特定の誰かだけに限らず、多くの人に共通するものだと感じています。
大企業の中で働いていると、組織の文化や空気にどうしても影響を受けます。会社の伝統的な価値観や文化、外から見ると独特な暗黙のルール。そうしたものに触れ続けるうちに、「自分はどう働きたいのか」「どんな価値を提供したいのか」という基準が、少しずつ揺らいでしまうことがあるのです。

会社の文化に明確な違和感を感じている方もいれば、
「どこの会社もこんな感じで、ただ自分の価値観とずれているのだろう」と思い込んでしまう方もいるかもしれません。

実はその背景には、転職の経験がある人と、新卒から一社で働き続けている人とで、
“違和感の解像度”が違うという可能性があります。

もちろん、こうした会社の文化に適応していくことは、円滑に仕事を進める上で欠かせないでしょう。
しかし、適応に偏りすぎると、自分のスタイルや考え方を置き去りにしてしまう。
その結果、“プロとしての誇り”や“自分らしさ”が曖昧になり、仕事へのエネルギーも削がれていきます。

今回のセッションでの気づきを通じてあらためて思ったのは、これは決して個人の弱さの問題ではなく、
「個人」と「組織」とのバランスをどう取るかという普遍的なテーマだということです。

会社文化との付き合い方──“適応”と“距離感”

会社という組織には、それぞれ固有の文化があります。
それは理念や制度といった目に見えるものだけでなく、日々の会話の雰囲気や、当たり前とされている働き方のリズム、そして「ここではこうするものだ」という無言の圧力まで含まれます。

文化にうまく適応することは、円滑に仕事を進めるうえで欠かせません。新しい環境に入ったときほど、まずは周囲の空気に合わせることが重要です。そこから信頼関係が生まれ、任される仕事も広がっていくからです。

一方で、適応に偏りすぎてしまうと、次第に「自分は何を大事にしたいのか」が見えなくなっていきます。会社の文化に完全に飲み込まれると、思考や判断の基準が自分の外側にあることになり、やがて疲れや違和感につながってしまいます。

一概に正解があるわけではないと思いますが、ビジネスコーチとして様々な組織の方々を支援してきた経験から言うと、
大切なポイントのひとつは、“どこまで適応するか、どこからは自分を守るか”を意識的に決めることだと感じています。

つまり、会社文化との関係は「ゼロいち」ではなく、“適応”と“距離感”のバランスを取り続けることが、プロとしての健全さを保つカギなのです。

プロとしての姿勢を取り戻すためにできること

プロ意識を揺らさないためには、まず「自分はどうありたいか」をあらためて確認することが欠かせません。
会社の文化や環境は変えられなくても、自分の立ち位置や姿勢は自分で選び直すことができます。

その際に、「違和感の感受性」には人によって差があることを心に留めておくことも大切です。

たとえば、転職経験がある人は、別の文化を知っているからこそ今の環境に違和感を覚えやすい。
一方で、新卒から一社に勤めている人は「どこの会社もこんなものだろう」と思い込みやすく、
本当はうまく言葉にできないだけで会社とのズレを感じていても、比較対象がないために「自分だけがズレている」と思い込み、苦しんでしまうケースがあります。

この点も踏まえると、これまで様々な立場のビジネスパーソンをコーチングしてきた経験から、
次のような取り組みが効果的であることが多いと感じます。

• 自分の強みを棚卸しする

「努力せずに自然と評価されていること」を書き出してみる。
それは、プロとしての価値を支えている“素の力”です。

• 外の世界に触れる機会を増やす

社外の勉強会や副業のチャレンジ、異業種の人との会話。
会社の内と外、両方の視点を持つことで、バランスが整います。

• 評価の軸を自分に取り戻す

周囲の期待や組織の基準だけでなく、「私はどういう仕事を誇りに思うか」という視点で日々を見直してみる。

こうした「自分の基準をどこに置くか」を少しずつ確かめていくことが、プロ意識を整えていく大切なプロセスになります。

プロ意識を支える“小さなルール”

プロ意識を取り戻すといっても、大きな変化を起こす必要はなく
むしろ日常の中で、ささやかな「小さなルール」を持つことが、自分を支える大きな力になります。

• 仕事の区切りを意識する

たとえば、始業と終業の時間を自分で決める。メールを送る時間を区切る。
こうした小さな線引きが「ここからは仕事」「ここからは自分」という切り替えを助けます。

• 一日の成果を短く言葉にする

「今日はこれをやり切った」と3行程度でまとめる。
仕事に流される感覚を減らし、自分の達成感を確かめられます。

• 感情を外に出す練習をする

モヤっとしたら心の中で飲み込まず、言葉やメモで表現してみる。
それだけで冷静さを取り戻すきっかけになります。

こうした小さなルールは、実際にやってみると思いのほか気持ちよく感じるものです。
おそらく自己承認ができるからでしょう。
そして、それが積み重なると、会社の文化に流されすぎず、かといって突き放すこともなく、バランスを保ちながら働くことができるようになります。

プロとしての姿勢は、一度決めたら揺るがないものではありません。
日常に置いた“小さなルール”が、揺らぎを整える支えとなり、自然と自分らしい働き方へと導いてくれるのです。

まとめ:流されず、自分を守る働き方

会社文化との違和感に苦しむとき、どう自分を守り、働き方のバランスを整えるか──今回の記事でお伝えしてきたのは、この問いへのヒントです。
どのように自分を守り、働き方のバランスを整えていけるのかについて考えてきました。

• 企業には伝統的な価値観や文化、独特な暗黙のルールがあり、それに触れ続けるうちに自分の基準が揺らぐことがある。

• 文化に適応することは必要だけれど、「ゼロいち」ではなくバランスを取ることが大切。

• そして、そのバランスを取る方法のひとつが、プロとしての姿勢を取り戻すことです。

• 具体的には、「自分はどうありたいか」を確認し、誇れる基準を自分で選ぶこと。

• 日常に“小さなルール”を置くことで、自然とバランスを取り戻せる。

プロ意識とは、特別な肩書きや完璧な成果のことではなく、
むしろ、日々の中で「自分の基準をどこに置くか」を選び直し続ける姿勢そのものではないでしょうか?

会社の文化にただ流されるのでもなく、突き放すのでもなく。
自分らしいプロ意識を持ちながら働くことが、結果的に心地よいパフォーマンスや周囲からの信頼につながっていくはずです。

では、あなたにとっての「基準」は、今どこにあり、これからどこに置いていきたいでしょうか。