納得しているはずのキャリアに、なぜか引っかかる——専門性を活かし続けたい人へ

1|ふと立ち止まってしまう理由

これは、今の役割やポジションに一定の納得感を持ちながらも、
その延長線にある未来を思い浮かべたとき、
ふと立ち止まってしまう人のための文章です。

今のポジションや役割に、不満があるわけではありません。
むしろ、納得感はある。

自分に求められていることも理解しているし、
その期待に応えられている実感もある。
これまで積み上げてきたキャリアとしても、
「順当に来ている」と言っていい状態です。

さらに言えば、
この延長線上にある自分の未来も、ぼんやりではなく描けています。

3年後、
どんな役割を担っていて、
どんな立場で、
どんな仕事をしているのか。

想像がつかないわけではない。
むしろ、かなり具体的にイメージできる。

それでも、です。

納得している現状の延長線上にあるはずなのに、
その未来を思い浮かべたとき、
ふと、こんな感覚がよぎる。

「……それで、いいんだっけ?」

大きな違和感ではありません。
強い拒否感があるわけでもない。

ただ、
その未来に進む自分を想像したとき、
心のどこかが、静かに引っかかる。

ここが少し、厄介なところです。

今の状況に不満がないからこそ、
この引っかかりを「贅沢な悩み」や
「考えすぎ」と片づけてしまいやすい。

合理的に考えれば、
今の選択は間違っていない。
むしろ、安全で、確率の高い道です。

それでもなお、
その未来に全面的にうなずけない自分がいる。

この立ち止まりは、
キャリアがうまくいっていないサインではありません。

むしろ、
これまでの選択に納得してきた人だからこそ、
次の問いが立ち上がってきている状態です。

「この先も、同じ基準で選び続けていいのか」
「自分が大事にしたいものは、もう少し別のところにあるんじゃないか」

続く章では、
この感覚が個人の気分や性格ではなく、
組織の中で役割を重ねてきた人ほど感じやすい理由を整理していきます。

2|専門性を活かし続けたい人ほど、立ち止まる問い

ここで生まれている違和感は、
「もっと上に行きたい」という上昇志向から来ているものではありません。

むしろ、今後も
• 自分の専門性を軸に価値を出したい
• 現場感覚を失わずに、仕事をしたい
• 専門領域での信頼や影響力を高めていきたい

という、まっすぐな欲求から来ています。

そして、その欲求があるからこそ、
ひとつの問いが立ち上がります。

「専門領域での信頼や影響力を高めるには、
 上位職層に上がるしかないのだろうか?」

多くの組織では、
影響力はポジションと結びついています。

肩書きが上がれば、発言は通りやすくなる。
意思決定に関われる範囲も広がる。
それ自体は、合理的です。

でも、ここにもうひとつ、
見過ごしにくい現実があります。

上位職層に近づくほど、
意思決定が“きれいなロジック”だけでは動かなくなる。
• 判断の基準が曖昧なまま決まっていく
• 空気や感情で、結論が左右される
• 本質からズレた評価や称賛が通ってしまう

そういう場面が増える。

(もちろん、すべてがそうだと言いたいわけではありません。
ただ「そういう決まり方が起きやすい領域がある」のも事実です。)

このタイプの違和感を持つ人は、
単純に“感情が苦手”なのではありません。

むしろ逆で、
自分の判断基準を大切にしてきた人です。
• 目的に沿っているか
• 本質的な価値に近いか
• それは再現できるか
• 説明できるか

そういう軸で仕事を積み上げてきた。

だからこそ、
曖昧な基準に迎合していく感覚が、苦しい。

ここで起きるのは、
昇進への抵抗というより、
“自分の専門性の使われ方”への抵抗です。

上位職層に行けば影響力は増す。
でも、その影響力は

「専門性で勝負する影響力」ではなく、
「空気を読んで通す影響力」になってしまうかもしれない。

そう感じた瞬間に、問いが変わります。

「私は、影響力を高めたい。
でも、それは“迎合のスキル”を高めたいという意味ではない。」

だから、ここまで読んでいるあなたの中でも、
もしかするとこんな感覚が芽生えているかもしれない。

「今の職層のまま、
専門領域での信頼や影響力が高まる道があるなら、
その方がいい。」

これは現状維持でも、逃げでもありません。
むしろ、かなり誠実で、戦略的な選択肢です。


次の章では、ここをさらに整理します。
• なぜ組織は「影響力=肩書き」に寄りやすいのか
• そして、肩書きを上げずに“専門性で影響力を増やす”道はあるのか
(あるとしたら、どんな条件と設計が必要なのか)

このあたりを、現実的に分解していきます。

3|影響力は「肩書き」だけで増えるわけじゃない

──専門性で信頼を積み上げるための3つの設計

まず整理しておきたいのは、
多くの組織で 「影響力=肩書き」になりやすい理由です。

これは、誰かの意図というより、
組織の構造として自然に起きています。
• 意思決定を速くするため
• 責任の所在を明確にするため
• 調整コストを下げるため

その結果、
上位職層に権限と影響力が集まっていく。

つまり、
**影響力が肩書きに紐づくのは“仕組み”**であって、
個人の優劣の話ではありません。

ただし、ここでひとつ、
見落とされがちなことがあります。

それは、
すべての影響力が、同じ質ではないという点です。

① 肩書きによる影響力

• 決裁権がある
• 発言が通りやすい
• 組織を動かせる

これは確かに強い。
でも同時に、
判断基準が曖昧になりやすい領域でもあります。

空気、感情、政治的配慮。
専門性とは別の要素が、
意思決定に混ざりやすくなる。

② 専門性による影響力

一方で、別の影響力もあります。
• 判断に迷ったとき、相談される
• 難しい局面で名前が挙がる
• 「その分野ならこの人」と認識されている

こちらは、
肩書きがなくても成立します。

そして多くの場合、
判断の質そのものに影響を与える力です。

ここで重要なのは、
この問いを持つ人の多くが求めているのは、
①ではなく、②だという点です。

専門性に裏打ちされた信頼としての影響力

では、その影響力は、
どうすれば高めていけるのか。

ポイントは3つあります。

設計①|「専門性の射程」を自分で定義する

専門性は、
「詳しいこと」ではありません。
• どの範囲までなら責任を持って判断できるのか
• どのレベルの問いに答えられるのか

この“射程”が曖昧だと、
影響力も曖昧になります。

逆に言えば、
射程が明確な人ほど、相談される

設計②|成果ではなく「判断」を共有する

専門性による信頼は、
成果そのものよりも、

「どう考えて、その判断に至ったか」

ここに宿ります。
• 何を捨てたのか
• どこを重視したのか
• なぜその選択をしたのか

これが見える人は、
肩書きがなくても、影響力を持つ。

設計③|迎合しない代わりに、説明を手放さない

迎合しないことと、
距離を取ることは違います。

専門性で影響力を持つ人は、
• 空気に合わせない
• でも、黙らない
• 感情に流されない
• でも、説明は惜しまない

この姿勢を保っています。

だからこそ、
「最終判断は別でも、
 この人の意見は聞いておこう」
というポジションが生まれる。

ここまで来ると、
問いはこう変わります。

「上位職層に行くしかないのか?」
ではなく、

「私は、どの質の影響力を高めたいのか?」

肩書きを上げるかどうかは、
その後に考えればいい。

先に決めるべきなのは、
自分の専門性を、どこで、どう使いたいのかです。

次の章では、
この選択をするときに多くの人が感じる
• 「それって評価されないのでは?」
• 「キャリアとして遠回りでは?」

という不安について、
現実的に整理していきます。

4|それでも不安になる理由

──評価とキャリアの“現実”との向き合い方

ここまで読んで、
頭では納得できている人もいると思います。

「肩書きだけが影響力じゃない」
「専門性で信頼を積み上げる道もある」

確かに、そうだ。
理屈としては、わかる。

それでも、
心のどこかで、こんな声が残る。

「でも、それってちゃんと評価されるんだろうか?」
「キャリアとして、遠回りにならないだろうか?」

この不安は、とても現実的です。

なぜなら、
多くの組織の評価制度は、
依然として“役職”を基準に設計されているから。
• 肩書きが上がる
• 管掌範囲が広がる
• 人をマネジメントする

こうした変化は、
評価シートにも、説明資料にも、
とても書きやすい。

一方で、
• 判断の質が高まった
• 難しい局面での相談が増えた
• 専門的な意思決定の成功確率が上がった

こうした価値は、
数字にも肩書きにも、表れにくい。

だから、不安になる。

「私はちゃんと前に進んでいるのか?」
「この選び方は、評価の文脈に乗っているのか?」

これは、
自信がないからではありません。

むしろ、
現実を見ているからこそ生まれる不安です。

ここで一度、
問いを整理しておく必要があります。

それは、

「評価されるかどうか」

「価値を出しているかどうか」
は、必ずしも一致しない、という事実。

短期的には、
評価は肩書きに引っ張られやすい。

でも中長期で見ると、
組織は必ず“頼れる人”に依存し始めます。
• 判断がブレない人
• 修正が効く人
• 本質を外さない人

この依存は、
評価制度よりも先に起きる。

もうひとつ、不安の正体があります。

それは、
「この選択は、説明しづらい」という感覚。

昇進を目指す、
という選択は説明しやすい。

でも、

「今の職層のまま、
 専門性で影響力を高めたい」

これは、
意図を言語化しないと、
誤解されやすい。
• 向上心がない
• 変化を避けている
• 現状維持に見える

そう見られる可能性がある。

だから、不安になる。

ここで重要なのは、
選択そのものよりも、説明の設計です。

専門性による影響力は、
「黙っていれば伝わる」ものではありません。
• どの領域で
• どんな価値を
• どんな判断基準で出しているのか

これを言葉にしない限り、
評価の文脈には乗らない。

逆に言えば、
ここを丁寧に設計できれば、
肩書きがなくても評価はついてくる。

不安が消えないのは、
間違った道を選んでいるからではありません。

評価の仕組みと、
 自分が出したい価値のズレを、
 まだ調整しきれていないだけです。

次の章では、
このズレを埋めるために、
• どんな言葉で
• どんな粒度で
• どんなタイミングで

自分の専門性と価値を
周囲に共有していけばいいのか。

「影響力を可視化する」ための考え方
を整理していきます。

5|肩書きに頼らず、専門性で影響力を持つ人がしていること

肩書きに頼らずに影響力を持つ人は、
特別な才能があるわけでも、
派手な自己主張をしているわけでもありません。

彼らがやっているのは、
とても地味で、でも一貫したことです。

1|「意見」ではなく「判断」を差し出している

専門性で信頼を得ている人は、
単に意見を言いません。

代わりに、
判断の材料と、判断の軸を差し出します。
• 何を前提にしているのか
• どこを重視しているのか
• どこはあえて捨てているのか

だから、たとえ結論が採用されなくても、
「考え方」は残る。

結果として、
次に迷ったときに、
また声がかかる。

2|迎合しない代わりに、対話を手放さない

専門性で影響力を持つ人は、
空気や感情に迎合しません。

でも、
距離を取って黙り込むこともしない。
• 納得できない点は、丁寧に言葉にする
• 感情的にならず、理由を説明する
• 反対意見があっても、対話の席には残る

この姿勢が、
「扱いづらい人」ではなく
「信頼できる人」という評価につながっていく。

3|自分の専門性を“翻訳”している

専門性は、そのままでは伝わりません。

影響力を持つ人は、
自分の専門を、
• 今この組織では、どう役立つのか
• どんな意思決定の質を高めるのか
• どんなリスクを減らすのか

という言葉に翻訳しています。

だから、
専門性が「個人の強み」で終わらず、
「組織にとっての資産」になる。

4|評価を待たずに、価値を可視化している

評価制度が追いつくのを、
ただ待つことはしません。
• 判断プロセスを共有する
• 検討の論点を整理して残す
• 専門領域での成功・失敗を言語化する

こうして、
自分が出している価値を、
周囲が“見える形”にしていく。

これは自己アピールではありません。
誤解されないための設計です。

5|「どの職層にいるか」より「どこで信頼されているか」を見る

肩書きに頼らない人は、
自分の現在地を、こう測っています。
• 誰が、どんな場面で相談してくるか
• どんな判断を期待されているか
• どんな領域で名前が挙がるか

職層ではなく、
信頼の集まり方を見る。

これができると、
昇進する・しないの選択も、
恐れではなく、戦略で決められるようになります。

ここまで読んで、
こう感じているかもしれません。

「それでも、やっぱり不安は残る」

それでいいと思います。

この選択は、
わかりやすい正解がある道ではありません。

でも少なくとも、
こう言える状態にはなっているはずです。

「私は、
 何を大切にして影響力を持ちたいのか」

肩書きを上げることは、
いつでも選べます。

でも、

専門性で信頼を積み上げる時間は、
意識しないと失われていく。

だからこそ、
今この問いが立ち上がっている。

それは、
迷っている証拠ではなく、
自分のキャリアを
ちゃんと引き受けようとしている証拠です。

答えを出さなくていい。
ただ、この問いを持ったまま、
日常に戻ってみてください。

次に立ち止まるとき、
きっと、見え方が少し変わっています。

「何を売るか」より、「どう進むか」──ある営業所長が描いた、成果への道筋

1|大型案件を追いすぎて、足元が見えなくなる瞬間

営業所長という立場に立つと、
「何を売るか」は、単なる戦術の話ではなくなります。

会社としては、
経営戦略の観点から、
これから力を入れていく商品や領域を
明確に絞り込み、現場に伝えてきます。

市場環境や利益構造、
中長期的な成長を見据えれば、
その判断には当然の理由があります。
現場を預かる側としても、
その意図自体を否定するものではありません。

ただ、実際に現場を見ていると、
その方針が、そのまま成果につながるかどうかは、
別の話だと感じられる場面があります。

会社として「売っていきたいもの」と、
まだまだ成長途上の現場が「今、勝ちやすいもの」は、
必ずしも一致しないことがあります。

一件あたりの期待値が高い商品ほど、
提案の難易度は上がり、
準備や受注後にかかる時間や
心理的な負荷も大きくなります。

経験のある営業であれば対応できても、
全員が同じように動けるわけではありません。

「会社が決めた方向だから」

その言葉だけでは、
現場の動きは、なかなか軽くなりません。
そんな空気が、
少しずつ広がっていくことがあります。

今回の記事は、
ぼくのコーチングを継続的に受けていただいている
ある営業所長とのコーチングセッションをきっかけにしたものです。

会社が目指している方向に、
どうすれば現場が現実的にたどり着けるのか。

たとえ遠回りに見えるとしても、
• 現場がキャッチアップできる道筋
• 現場が納得できる道筋
• たどり着いたときに、現場が自信を持てるようになっている道筋

その道筋を描くことこそが、
今、求められている役割ではないか。

今の現場の所員たちには、
これまで積み上げてきた強みがあります。

説明しやすく、
お客様の反応も想像しやすい。
営業自身が、迷わず話せる。

「これは、うちの得意なものです」
と、自然に言える商品がある。

いきなり大きな成果を狙うのではなく、
まずは、得意なもので、確実に勝つ。

そこで信頼をつくり、
成功体験を積み重ねていく。

その延長線上に、
一件あたりの成果が大きい仕事が
自然とつながっていくはずだ、という仮説を立てました。

やり方としては、
会社が想定している進め方とは、
少し違って見えるかもしれません。

それでも、
この営業所長であるクライアントさんは腹をくくります。

まずは、得意なものから売ろう。

それは、
楽をするための判断ではありません。

現場を前に進め、
最終的に成果へとつなげるための、道筋を設計する決断でした。

2|「得意な商品」とは、楽な商品のことではない

ここで言う「得意な商品」とは、
楽に売れる商品のことではありません。

値引きをすれば決まるものでも、
説明を省略しても通るものでもない。

今の現場の所員たちが、自分の言葉で語れる商品。

それが、このクライアントさんが捉えていた「得意な商品」でした。

うまくいっている提案には、いくつかの共通点があります。
• 説明の流れが頭の中で整理できている
• お客様の反応を想像しながら話せている
• 「次に何を伝えるか」で迷っていない

つまり、営業自身が、その商品を“理解している”状態です。

得意な商品とは、
知識量が多い商品ではありません。

営業が、
「この話なら大丈夫だ」と感じながら、
安心して向き合える商品のことです。

多くの場合、会社として力を入れていきたい商品ほど、
説明は複雑になりがちです。

選択肢が多く、
提案の組み立てに時間がかかる。
受注後の調整も多く、
営業一人ひとりにかかる負荷は重くなります。

成長途上の現場にとっては、
それ自体が大きなハードルになります。

だからこそ、
クライアントさんは
まずは「得意な商品」から始めることが有効だと考えました。

得意な商品であれば、受注までのイメージが描ける。
お客様の反応にも、余裕をもって対応できます。

そして、この余裕が、
営業の質を大きく変えていきます。

聞く余裕が生まれると、
営業は「話す人」ではなく、判断を支える人になります。

説明の順番を必死に追いかける必要がなくなり、
お客様の言葉を、
情報としてではなく背景として受け取れるようになります。

すると、
• 言葉の裏にある不安
• 本人も整理しきれていない迷い
• 家族や社内の事情

こうしたものに、
自然と気づけるようになります。

その結果、提案は
「用意してきた話」ではなく、
その場で組み立てられた話に変わっていきます

無理に背中を押さなくても、
判断材料を整理して渡すことで、
決めるのはお客様自身になる。

この状態が、
結果的に成約率を高めていきます。

何より大きいのは、一つひとつの成功体験が、所員たちの自信として積み上がっていくことです。

この自信があるからこそ、
次の、より大きな提案にも、
前向きに向き合えるようになります。

クライアントさんが実現したかったのは
単に「売りやすい順番」を整えたい、という話ではありませんでした。

人が育つ順番を
どう設計するか、という視点です。
• 現場がキャッチアップできる
• 現場が納得できる
• 成果を出したときに、現場が自信を持てる

その順番で、
商品と向き合ってもらいたいと考えていました。

得意な商品から売る。

それは、
現場を甘やかすための判断ではありません。

現場が次のステージに進むための、
確かな土台をつくる選択でした。

3|得意な商品は、「信頼づくりの入口」になる

得意な商品から売る。

この判断は、
単に現場を動かしやすくするためのものではありません。
お客様との信頼関係をつくるための、入口をどう設計するか
という問いにつながっています。

コーチングセッションの中で、
クライアントさんが大切だと感じていたのは
「売りたいかどうか」ではなく、
「お客様が安心して判断できているかどうか」でした。

得意な商品での提案には、
無理がありません。

説明に余白があり、
お客様の反応を見ながら話を進めることができます。
必要以上に話を盛らず、
「できること」と「できないこと」を
きちんと分けて伝えられる。

この姿勢が、
お客様に安心感を与えていきます。

お客様は、
営業の説明内容だけを見ているわけではありません。
• この人は、信用できそうか
• 無理に売ろうとしていないか
• 自分たちの状況を理解しようとしているか

こうした点を、
会話の端々から感じ取っています。

得意な商品であれば、
営業自身に余裕があります。
その余裕が、
「この人なら任せても大丈夫そうだ」
という感覚につながっていきます。

ここで大切なのは、
最初からお客様が必要性を感じていない大きな提案をしないことです。

まずは、
お客様にとって負担の少ない選択肢を提示し、
一度、納得してもらう。

その経験が、
次の相談を生みます。

「次は、ここも見てもらえますか?」

この一言が出たとき、
営業は初めて、
信頼の土台に立てたと言えます。

信頼は、
説明のうまさで生まれるものではありません。

「この人は、
自分たちの判断を尊重してくれる」

そう感じてもらえたときに、
静かに積み上がっていくものです。

得意な商品から始める提案は、
その感覚をつくりやすい。
このクライアントさんは、そう考えていました。

クライアントさんが見ていたのは、
短期的な売上の最大化ではありませんでした。
• 現場が無理なく提案できる
• お客様が安心して判断できる
• 次の相談につながっていく

この循環を、
現場で再現できる形にすること。
それが、この判断の背景にありました。

得意な商品は、
ゴールではありません。

信頼をつくるための、
最初の一歩です。

その一歩があるからこそ、
次の、より大きな提案にも、
自然に進んでいける。

4|それでも「得意なものから」と言い切る理由

「得意なものから売る」。

この判断は、
一見すると、
会社が示している方向性と
少しずれて見えるかもしれません。

もっと大きな成果を狙うべきではないのか。
もっと早く、次の段階に進むべきではないのか。
そんな声が上がっても、不思議ではありません。

それでも、クライアントさんは
「得意なものから」と言い切りました。

結果が出なければ、
その判断の責任は、
すべて自分が引き受けることになります。
その覚悟がなければ、
この言葉は口にできません。

現場に任せる、という言葉は簡単です。
しかし、
現場の状態を理解したうえで、
進む順番を決めることは、
所長にしかできない仕事でもあります。
• 今の現場は、どこまでなら無理なく進めるのか
• どこから先は、まだ負荷が大きすぎるのか
• 何を積み重ねれば、次の段階に進めるのか

それらを見極め、
一つの道筋として示す。
クライアントさんは、
そこに自分の役割を置いていました。

「遠回りに見えるかもしれない」

その前提を、
あらかじめ引き受けます。

数字だけを見れば、
もっと派手な打ち手も考えられます。
しかし、
現場がついてこない戦略は、
長くは続かない。

そうした現場感覚が、
判断の軸にありました。

新しい営業所に着任して、
半期が過ぎました。

数字には、
良いところもあれば、
まだ整える余地のあるところもあります。

クライアントさんにとって一番大きかったのは、
「進む道筋が見えたこと」でした。

会社が目指している方向そのものを、
否定しているわけではありません。

経営の視点に立てば、
注力すべき商品や領域を
絞り込む判断は、自然なものです。

ただし、
その戦略が成果になるかどうかは、
現場がその道を歩けるかどうかにかかっています。

今の現場には、
今なりの強みがあります。
同時に、
今だからこその課題もあります。

その両方を直視したうえで、
無理のない一歩を積み重ねていく。
クライアントさんは
そのプロセスを何より大切にしていました。

得意なものから始める。

それは、
今の現場を肯定するということでもあり、
次の成長に向けた準備でもあります。

小さな成功体験が、
やがて自信につながり、
その自信が、
次の挑戦を支えていきます。

すべてを一気に変えようとはしていません。
ただ、現場が前を向いて進める状態をつくること。

そのために、
何を積み上げるべきかを考え続ける。
それが、
営業所長としての立場から、
このクライアントさんが選んだスタンスでした。

「得意なものから」。

この言葉は、
楽な選択を意味するものではありません。

現場を信じ、
現場の成長に賭ける。

第3半期を終えた今、
その判断は、
より確かな手応えを持ちはじめています。

メンバー間に能力差があるチームをどう設計するか ――管理職が担う「前提の解像度を上げる」という仕事

先日、とあるクライアントさんとのコーチングセッションが、
このテーマについて立ち止まって考えるきっかけになりました。

その方は、チームの人間関係を丁寧に整え、
メンバー同士の信頼関係も、少しずつ築いてきた管理職の方です。

中心的な話題は、
「メンバー間に能力差がある状態で、
どうチームを前に進めていけばいいのか」という問いでした。

配慮が必要なメンバーもいる。
一方で、成長を期待している優秀なメンバーもいる。
そして、チームとしては前に進まなければならない。

どれも間違っていない。
むしろ、真剣に向き合っているからこそ、
判断が簡単には割り切れない。

セッションを通して感じたのは、
この悩みは特定の誰かのものではなく、
多くの管理職が静かに抱えている問いだということでした。

この記事では、
そのときの対話をきっかけに、
「メンバー間に能力差のあるチームをどう設計していくのか」
というテーマについて、言葉を整理しています。

正解を出すための記事ではありません。
管理職として、
どこに解像度を上げて考えると、
チームが動きやすくなるのか。

その視点を、共有できればと思います。

はじめに

メンバー間に能力差があるチームは、前提条件である

チームの中に、能力差がある。
経験値も、得意分野も、体調も、ライフステージも揃っていない。

これは、特別な状況ではありません。
今の多くの職場では、ごく自然な前提条件です。

それでも多くの管理職の方は、
「この状態で、どうチームを回していけばいいのか」
一度は立ち止まる場面が出てくるのではないでしょうか。

けれど、その違和感の本質は、
「能力差があること」そのものに対するものではないように思います。

多くの場合、管理職の方が向き合っているのは、
能力差がある状況の中で、
どう設計するのが“いまのチームにとって妥当なのか”を、簡単には決めきれない
という感覚です。

やみくもに厳しくしたいわけでもない。
かといって、守ることだけを優先したいわけでもない。

配慮が必要なメンバーもいる。
一方で、成長を期待したい優秀なメンバーもいる。
そして、チームとしては前に進んでいきたい。

この3つを同時に成立させようとすれば、
判断が簡単でないのは、むしろ当然です。

この記事では、
「正解のマネジメント方法」を提示することはしません。

代わりに、
管理職として、どの部分の解像度を上げて考えると、チームの設計が現実的になるのか。
その視点を、ひとつずつ整理していきます。

管理職の仕事は、
すべてを抱え込むことでも、
すぐに答えを出し続けることでもありません。

状況をもう少し立体的に捉え、
判断の前提を整えていくこと。

ここから一緒に、
そのための視点を言葉にしていきましょう。

1|能力差のあるチームで、管理職が同時に抱える3つの前提

現場で本当によくある状態

メンバー間に能力差のあるチームをマネジメントするとき、
多くの管理職が、無意識のうちにいくつかの前提を同時に背負っています。

ひとつひとつを見れば、どれももっともな判断です。
けれど、それらが同時に存在するとき、
マネジメントは一気に難易度を上げます。

まずひとつ目は、
配慮が必要なメンバーには、無理な負荷をかけられないという前提です。

体調やコンディションの波があったり、
今は踏ん張りどきではない時期にいるメンバーもいる。
その状態を理解していればいるほど、
「これ以上は任せられない」という判断が自然と生まれます。

二つ目は、
優秀なメンバーには、成長につながる仕事を任せたいという前提です。

能力があり、責任感もある。
チームの中心として期待しているからこそ、
簡単な仕事ばかりではなく、
一段階上の経験につながる負荷をかけたいと考えます。

一方で、
自分ばかりが常に大きな負荷を背負っていると、
感じさせたくはない
という思いも同時にあります。

期待しているからこそ任せている。
けれど、その背景が伝わらなければ、
負荷だけが偏って見えてしまうこともある。

そして三つ目は、
それでも、チームとしては前に進んでいきたいという前提です。

守る判断と、育てる判断。
どちらかを優先すれば楽になる場面でも、
管理職は「チーム全体としての前進」を手放したくはありません。

この三つは、相反するものではありません。
どれかが間違っているわけでもありません。

ただし同時に満たそうとするなら、
チーム全体として
どの速度で進むのかを決めておくことが重要になります。

進むスピードが明確であれば、
仕事の重みづけや役割分担は、
必要以上に迷わずに済むようになります。

ここで大切なのは

メンバー間に能力差があるチームでは、
複数の前提を同時に扱いながら判断する場面が増えます。
いま管理職に求められているのは、
その前提をどう並べて、どう整理するか、という視点です。

能力差のあるチームをマネジメントするということは、
単純な正解を一つ選ぶ作業ではありません。

いまのチームにとって、
どの前提を、どの順番で扱うのか。
その整理の粒度が、そのままチームの動き方に表れていきます。

次の章では、
こうした前提が揃ったときに、
現場で「自然と起きてしまいやすいこと」について、
もう少し具体的に見ていきます。

2|管理職が示すべき「解像度」とは何か

業務の取捨選択・重みづけ・納期を、言葉にするという仕事

メンバー間に能力差があるチームでは、
「どう進むか」を決めるだけでは、まだ十分ではありません。

もう一段、
管理職として示しておきたいことがあります。

それは、
チームが前に進むための判断の解像度を揃えておくことです。

ここでいう解像度とは、
細かな指示や、逐一の確認を意味するものではありません。

むしろ、
メンバーがそれぞれの立場で判断するときに、
同じ前提に立てる状態をつくることを指しています。

具体的には、
次の三つを、運用できるレベルまで言葉にしておくことです。

① 業務の取捨選択

まず最初に必要なのは、
「すべてをやるわけではない」という前提を
チームとして共有することです。

今のこの時期に、
• 本当に取り組むべき仕事は何か
• 今はやらなくていいことは何か

これを管理職が言葉にしないままだと、
メンバーはそれぞれの判断で、
「やれることはすべてやろう」としてしまいます。

前進スピードを決めるとは、
やらないことを含めて決めることでもあります。

② 仕事の重みづけ(完成度の指定)

次に必要なのは、
任せる仕事ごとに
どの程度の完成度を求めているのかを示すことです。

すべての仕事に
同じ熱量や作り込みが必要なわけではありません。
• まず形にできれば十分な仕事
• 一定の品質でまとめればよい仕事
• しっかり時間をかけて仕上げるべき仕事

この違いが言葉として共有されていないと、
特に責任感の強いメンバーほど、
すべてを全力で仕上げようとしてしまいます。

重みづけを示すことは、
仕事の質を下げることではなく、
力を使う場所を揃えることです。

③ 納期と優先順位

三つ目は、
時間軸の明確化です。
• どれを先に終わらせたいのか
• どこまでを、いつまでにできていればよいのか

ここが曖昧なままだと、
メンバーはそれぞれの基準で
「急ぎそうなもの」から手を付けることになります。

納期を示すというのは、
詰めるためではなく、
判断の迷いを減らすためのものです。

この三つが運用レベルで共有されていると、
管理職がすべてを決め続けなくても、
チームは同じ方向に進みやすくなります。

解像度を上げるというのは、
管理を細かくすることではありません。

判断の前提を、先にそろえておくこと。
それが、能力差のあるチームを前に進めるための、
管理職の重要な仕事です。

次の章では、
この「解像度を上げる」という行為が、
決してマイクロマネジメントではない理由について、
もう少し整理していきます。

3|解像度を上げることは、細かく管理することではない

管理職が手放していいもの、手放してはいけないもの

「解像度を上げる」と聞くと、
細かく指示することや、
進捗を頻繁に確認することを思い浮かべる方もいるかもしれません。

けれど、ここで言う解像度は、
そうしたマイクロマネジメントのことではありません。

むしろ、
管理職が細かく見続けなくても済む状態をつくることに近い考え方です。

管理職が手放していいもの

まず、手放していいのは
日々の判断そのものです。

業務の取捨選択や、
仕事の重みづけ、
納期の優先順位。

これらが共有されていれば、
現場で起きる小さな判断は、
メンバー自身が行えるようになります。

管理職が逐一判断を下さなくても、
「この判断で問題ない」と、
メンバーが自分で確かめられる状態をつくる。

それが、解像度を上げるということの大きな意味です。

管理職が手放してはいけないもの

一方で、
手放してはいけないものもあります。

それは、
方向性と判断基準を示すことです。
• 今、どの仕事を大事にしているのか
• どのレベルまでを求めているのか
• 何を優先し、何を後回しにするのか

ここを曖昧にしたまま
「任せているつもり」になると、
現場には余計な迷いが生まれます。

解像度を上げるというのは、
裁量を奪うことではなく、
裁量を使いやすくする条件を整えることです。

解像度が低いと、なぜ管理が増えるのか

皮肉なことに、
判断の前提が曖昧なままだと、
管理職はかえって現場に関わらざるを得なくなります。
• 想定と違うアウトプットが出てくる
• やり直しが増える
• 状況説明のやり取りが増える

結果として、
「確認」「修正」「フォロー」に
多くの時間を取られてしまう。

管理が増える原因は、
管理しようとし過ぎていることではなく、
判断の前提が共有されていないことにあります。

解像度を上げると、チームはどう変わるか

解像度が揃うと、
チームの会話は少しずつ変わっていきます。
• 「これ、今やるべきですか?」
• 「ここは、8割で一度出しますね」
• 「納期を優先して、今回はこう判断しました」

こうした言葉が自然に出てくるようになると、
管理職は
「全部を管理する人」ではなく、
方向を確認する人になっていきます。

解像度を上げることは、
管理を強めることではありません。

チームが自分たちで判断できる範囲を、広げていくこと。
そのために、
管理職が最初に示すべきものを、
少しだけ具体にすることです。

次は最後に、
この記事全体をまとめながら、
管理職の仕事を一つの言葉で言い換えてみます。

まとめ|正解を出すのではなく、前提を揃える仕事

ここまで、
能力差のあるチームを前にしたとき、
管理職が何に向き合っているのかを整理してきました。

大事なのは、
「正しいマネジメントの型」を身につけることでも、
すべての判断を自分で背負い続けることでもありません。

メンバー間に能力差があるチームでは、
判断が難しくなるのは自然なことです。
問題は、その難しさを
個人の資質や決断力の話にしてしまうことにあります。

管理職の仕事は、
その場その場で「正解」を出し続けることではありません。

むしろ大切なのは、
チームとして
• 何をやるのか
• どこまでを求めるのか
• 何を優先するのか

こうした判断の前提条件を、運用できる形で揃えておくことです。

前提が揃っていれば、
現場の判断は一気にやりやすくなります。
管理職がすべてを見なくても、
メンバーは同じ方向を向いて考えられるようになります。

それは、
管理を強めることでも、
裁量を奪うことでもありません。

チームが自律的に判断できる範囲を、少しずつ広げていくこと。
そのために、
管理職が果たすべき役割があります。

メンバー間の能力差は、なくなりません。
状況も、常に変わり続けます。

だからこそ、
「どうすれば正解か」を探すよりも、
「何を前提として進むのか」を揃え続けること。

それが、
メンバー間に能力差のあるチームを前に進める、
管理職の仕事なのだと思います。

言語化しているのに、なぜ動けないのか ── 次の行動を選ぶための思考の整え方

「ちゃんと考えているはずなのに、なぜか次の行動が決まらない」

「言葉にはしている。でも、そこから先に進めない」

コーチングの現場で、こうした声を聞くことは少なくありません。

多くの人は、

・自分の状況を振り返り

・気持ちや違和感を言葉にし

・「何が問題なのか」をある程度理解しています。

それでも、行動が止まってしまう。

この状態は、決して珍しいものではありません。


「言語化=行動につながる」とは限らない

一般的に、「言語化が大事」と言われることが増えました。

たしかに、言葉にしなければ、自分の状態を扱うことはできません。

ただ、ここで一つ、見落とされがちなポイントがあります。

それは、

言語化にはいくつかの段階がある ということです。

たとえば、

  • モヤモヤしている気持ちを言葉にする

  • 何に引っかかっているのかを整理する

  • 不安や違和感の正体を説明できるようになる

ここまでできていても、

「次に何をするか」が決まらないことは、よくあります。

この段階で多くの人は、

「まだ言語化が足りないのでは?」

と感じて、さらに考え続けてしまいます。

けれど実際には、

言語化の方向が少しズレているだけ

というケースも多いのです。


行動が止まるとき、起きていること

行動が止まっているとき、内側ではこんな状態が起きています。

  • 情報や感情は、ある程度言葉になっている

  • でも「どれを選ぶか」が決まっていない

  • 判断の基準が、まだ見えていない

この状態でさらに考え続けると、

思考は「足りないもの探し」や

「もっと良い答え探し」に偏りがちになります。

すると、

考えているのに疲れる

考えているのに前に進まない

というループに入りやすくなるのです。


必要なのは「答え」ではなく「整え方」

ここで大切なのは、

正解を見つけることではありません。

必要なのは、

次の行動を選ぶための思考の整え方 です。

行動が決まる人は、

いきなり「何をすべきか」を考えていません。

まず、

  • 課題が解決した理想的な状態を、いったん思い描く

  • そこに近づくために、すでにできていることを確認する

  • 使えそうなもの・頼れそうなものを洗い出す

  • そのうえで「今は何が足りていないか」を見る

こうした順序で、思考を進めています。

この流れがあると、

「やる/やらない」ではなく、

「次にどれを選ぶか」 が自然に決まっていきます。


「断る」「進む」が軽くなる理由

行動が決まると、

「断る」「進む」という言葉の重さも変わります。

無理に勇気を出して断るのではなく、

自分がやらないことを、静かに選べるようになる。

これは、

意思が強くなったからではありません。

思考の整理が進み、判断が明確になった結果です。


この先でお伝えしていること

今回ご紹介した内容は、

有料noteの一部を要約したものです。

有料記事では、

  • 言語化が「行動につながらない」理由を、もう一段深く整理し

  • 行動を選ぶための具体的な問いの立て方

  • 行動に移しにくいときの分解の仕方

などを、順を追って解説しています。

「考えているのに動けない」状態から抜け出したい方にとって、

ヒントになるはずです。


👉 有料noteはこちら

「言語化しているのに、なぜ動けないのか」

https://note.com/kng1970/n/n1199b8bcfb89

次の行動を選ぶための思考の整え方を、実践的にまとめています。


 

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