メンバー間に能力差があるチームをどう設計するか ――管理職が担う「前提の解像度を上げる」という仕事

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先日、とあるクライアントさんとのコーチングセッションが、
このテーマについて立ち止まって考えるきっかけになりました。

その方は、チームの人間関係を丁寧に整え、
メンバー同士の信頼関係も、少しずつ築いてきた管理職の方です。

中心的な話題は、
「メンバー間に能力差がある状態で、
どうチームを前に進めていけばいいのか」という問いでした。

配慮が必要なメンバーもいる。
一方で、成長を期待している優秀なメンバーもいる。
そして、チームとしては前に進まなければならない。

どれも間違っていない。
むしろ、真剣に向き合っているからこそ、
判断が簡単には割り切れない。

セッションを通して感じたのは、
この悩みは特定の誰かのものではなく、
多くの管理職が静かに抱えている問いだということでした。

この記事では、
そのときの対話をきっかけに、
「メンバー間に能力差のあるチームをどう設計していくのか」
というテーマについて、言葉を整理しています。

正解を出すための記事ではありません。
管理職として、
どこに解像度を上げて考えると、
チームが動きやすくなるのか。

その視点を、共有できればと思います。

はじめに

メンバー間に能力差があるチームは、前提条件である

チームの中に、能力差がある。
経験値も、得意分野も、体調も、ライフステージも揃っていない。

これは、特別な状況ではありません。
今の多くの職場では、ごく自然な前提条件です。

それでも多くの管理職の方は、
「この状態で、どうチームを回していけばいいのか」
一度は立ち止まる場面が出てくるのではないでしょうか。

けれど、その違和感の本質は、
「能力差があること」そのものに対するものではないように思います。

多くの場合、管理職の方が向き合っているのは、
能力差がある状況の中で、
どう設計するのが“いまのチームにとって妥当なのか”を、簡単には決めきれない
という感覚です。

やみくもに厳しくしたいわけでもない。
かといって、守ることだけを優先したいわけでもない。

配慮が必要なメンバーもいる。
一方で、成長を期待したい優秀なメンバーもいる。
そして、チームとしては前に進んでいきたい。

この3つを同時に成立させようとすれば、
判断が簡単でないのは、むしろ当然です。

この記事では、
「正解のマネジメント方法」を提示することはしません。

代わりに、
管理職として、どの部分の解像度を上げて考えると、チームの設計が現実的になるのか。
その視点を、ひとつずつ整理していきます。

管理職の仕事は、
すべてを抱え込むことでも、
すぐに答えを出し続けることでもありません。

状況をもう少し立体的に捉え、
判断の前提を整えていくこと。

ここから一緒に、
そのための視点を言葉にしていきましょう。

1|能力差のあるチームで、管理職が同時に抱える3つの前提

現場で本当によくある状態

メンバー間に能力差のあるチームをマネジメントするとき、
多くの管理職が、無意識のうちにいくつかの前提を同時に背負っています。

ひとつひとつを見れば、どれももっともな判断です。
けれど、それらが同時に存在するとき、
マネジメントは一気に難易度を上げます。

まずひとつ目は、
配慮が必要なメンバーには、無理な負荷をかけられないという前提です。

体調やコンディションの波があったり、
今は踏ん張りどきではない時期にいるメンバーもいる。
その状態を理解していればいるほど、
「これ以上は任せられない」という判断が自然と生まれます。

二つ目は、
優秀なメンバーには、成長につながる仕事を任せたいという前提です。

能力があり、責任感もある。
チームの中心として期待しているからこそ、
簡単な仕事ばかりではなく、
一段階上の経験につながる負荷をかけたいと考えます。

一方で、
自分ばかりが常に大きな負荷を背負っていると、
感じさせたくはない
という思いも同時にあります。

期待しているからこそ任せている。
けれど、その背景が伝わらなければ、
負荷だけが偏って見えてしまうこともある。

そして三つ目は、
それでも、チームとしては前に進んでいきたいという前提です。

守る判断と、育てる判断。
どちらかを優先すれば楽になる場面でも、
管理職は「チーム全体としての前進」を手放したくはありません。

この三つは、相反するものではありません。
どれかが間違っているわけでもありません。

ただし同時に満たそうとするなら、
チーム全体として
どの速度で進むのかを決めておくことが重要になります。

進むスピードが明確であれば、
仕事の重みづけや役割分担は、
必要以上に迷わずに済むようになります。

ここで大切なのは

メンバー間に能力差があるチームでは、
複数の前提を同時に扱いながら判断する場面が増えます。
いま管理職に求められているのは、
その前提をどう並べて、どう整理するか、という視点です。

能力差のあるチームをマネジメントするということは、
単純な正解を一つ選ぶ作業ではありません。

いまのチームにとって、
どの前提を、どの順番で扱うのか。
その整理の粒度が、そのままチームの動き方に表れていきます。

次の章では、
こうした前提が揃ったときに、
現場で「自然と起きてしまいやすいこと」について、
もう少し具体的に見ていきます。

2|管理職が示すべき「解像度」とは何か

業務の取捨選択・重みづけ・納期を、言葉にするという仕事

メンバー間に能力差があるチームでは、
「どう進むか」を決めるだけでは、まだ十分ではありません。

もう一段、
管理職として示しておきたいことがあります。

それは、
チームが前に進むための判断の解像度を揃えておくことです。

ここでいう解像度とは、
細かな指示や、逐一の確認を意味するものではありません。

むしろ、
メンバーがそれぞれの立場で判断するときに、
同じ前提に立てる状態をつくることを指しています。

具体的には、
次の三つを、運用できるレベルまで言葉にしておくことです。

① 業務の取捨選択

まず最初に必要なのは、
「すべてをやるわけではない」という前提を
チームとして共有することです。

今のこの時期に、
• 本当に取り組むべき仕事は何か
• 今はやらなくていいことは何か

これを管理職が言葉にしないままだと、
メンバーはそれぞれの判断で、
「やれることはすべてやろう」としてしまいます。

前進スピードを決めるとは、
やらないことを含めて決めることでもあります。

② 仕事の重みづけ(完成度の指定)

次に必要なのは、
任せる仕事ごとに
どの程度の完成度を求めているのかを示すことです。

すべての仕事に
同じ熱量や作り込みが必要なわけではありません。
• まず形にできれば十分な仕事
• 一定の品質でまとめればよい仕事
• しっかり時間をかけて仕上げるべき仕事

この違いが言葉として共有されていないと、
特に責任感の強いメンバーほど、
すべてを全力で仕上げようとしてしまいます。

重みづけを示すことは、
仕事の質を下げることではなく、
力を使う場所を揃えることです。

③ 納期と優先順位

三つ目は、
時間軸の明確化です。
• どれを先に終わらせたいのか
• どこまでを、いつまでにできていればよいのか

ここが曖昧なままだと、
メンバーはそれぞれの基準で
「急ぎそうなもの」から手を付けることになります。

納期を示すというのは、
詰めるためではなく、
判断の迷いを減らすためのものです。

この三つが運用レベルで共有されていると、
管理職がすべてを決め続けなくても、
チームは同じ方向に進みやすくなります。

解像度を上げるというのは、
管理を細かくすることではありません。

判断の前提を、先にそろえておくこと。
それが、能力差のあるチームを前に進めるための、
管理職の重要な仕事です。

次の章では、
この「解像度を上げる」という行為が、
決してマイクロマネジメントではない理由について、
もう少し整理していきます。

3|解像度を上げることは、細かく管理することではない

管理職が手放していいもの、手放してはいけないもの

「解像度を上げる」と聞くと、
細かく指示することや、
進捗を頻繁に確認することを思い浮かべる方もいるかもしれません。

けれど、ここで言う解像度は、
そうしたマイクロマネジメントのことではありません。

むしろ、
管理職が細かく見続けなくても済む状態をつくることに近い考え方です。

管理職が手放していいもの

まず、手放していいのは
日々の判断そのものです。

業務の取捨選択や、
仕事の重みづけ、
納期の優先順位。

これらが共有されていれば、
現場で起きる小さな判断は、
メンバー自身が行えるようになります。

管理職が逐一判断を下さなくても、
「この判断で問題ない」と、
メンバーが自分で確かめられる状態をつくる。

それが、解像度を上げるということの大きな意味です。

管理職が手放してはいけないもの

一方で、
手放してはいけないものもあります。

それは、
方向性と判断基準を示すことです。
• 今、どの仕事を大事にしているのか
• どのレベルまでを求めているのか
• 何を優先し、何を後回しにするのか

ここを曖昧にしたまま
「任せているつもり」になると、
現場には余計な迷いが生まれます。

解像度を上げるというのは、
裁量を奪うことではなく、
裁量を使いやすくする条件を整えることです。

解像度が低いと、なぜ管理が増えるのか

皮肉なことに、
判断の前提が曖昧なままだと、
管理職はかえって現場に関わらざるを得なくなります。
• 想定と違うアウトプットが出てくる
• やり直しが増える
• 状況説明のやり取りが増える

結果として、
「確認」「修正」「フォロー」に
多くの時間を取られてしまう。

管理が増える原因は、
管理しようとし過ぎていることではなく、
判断の前提が共有されていないことにあります。

解像度を上げると、チームはどう変わるか

解像度が揃うと、
チームの会話は少しずつ変わっていきます。
• 「これ、今やるべきですか?」
• 「ここは、8割で一度出しますね」
• 「納期を優先して、今回はこう判断しました」

こうした言葉が自然に出てくるようになると、
管理職は
「全部を管理する人」ではなく、
方向を確認する人になっていきます。

解像度を上げることは、
管理を強めることではありません。

チームが自分たちで判断できる範囲を、広げていくこと。
そのために、
管理職が最初に示すべきものを、
少しだけ具体にすることです。

次は最後に、
この記事全体をまとめながら、
管理職の仕事を一つの言葉で言い換えてみます。

まとめ|正解を出すのではなく、前提を揃える仕事

ここまで、
能力差のあるチームを前にしたとき、
管理職が何に向き合っているのかを整理してきました。

大事なのは、
「正しいマネジメントの型」を身につけることでも、
すべての判断を自分で背負い続けることでもありません。

メンバー間に能力差があるチームでは、
判断が難しくなるのは自然なことです。
問題は、その難しさを
個人の資質や決断力の話にしてしまうことにあります。

管理職の仕事は、
その場その場で「正解」を出し続けることではありません。

むしろ大切なのは、
チームとして
• 何をやるのか
• どこまでを求めるのか
• 何を優先するのか

こうした判断の前提条件を、運用できる形で揃えておくことです。

前提が揃っていれば、
現場の判断は一気にやりやすくなります。
管理職がすべてを見なくても、
メンバーは同じ方向を向いて考えられるようになります。

それは、
管理を強めることでも、
裁量を奪うことでもありません。

チームが自律的に判断できる範囲を、少しずつ広げていくこと。
そのために、
管理職が果たすべき役割があります。

メンバー間の能力差は、なくなりません。
状況も、常に変わり続けます。

だからこそ、
「どうすれば正解か」を探すよりも、
「何を前提として進むのか」を揃え続けること。

それが、
メンバー間に能力差のあるチームを前に進める、
管理職の仕事なのだと思います。

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