あなたが強みを知ると、問いかけられる──リーダーの“聴く”は、そこから始まる

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1. はじめに──「どう思う?」と言えなかった頃の自分へ

管理職やリーダー的な立場を担っている方の中には、
部下やメンバーとの接し方に、漠然とした課題を感じている人が少なくありません。
「もっと自分から動いてくれたらいいのに」
「任せたいけれど、結局自分が動いたほうが早い」
そんな思いを抱えながら、日々のマネジメントをしている方は多いのではないでしょうか。

コーチングの現場でも、「どう伝えるか」「どう関わるか」といったご相談はよくあります。
その背景には、「相手を信じて任せることが難しい」という感覚が、
ご本人も気づかないうちに隠れていることがあります。

先日のあるクライアントさんとのセッションでも、まさにそうしたテーマが浮かび上がってきました。

そのクライアントさんは、ITエンジニア。
複数の業務委託メンバーをまとめるリーダー的な立場にあり、
構造を整理し、優先順位を見極め、ゴールまでの道筋を描くことを、日々ごく自然に行っていました。

ところがご本人は、それを「自分の強み」としては捉えていませんでした。
むしろ、「なぜ他の人はこれがわからないんだろう?」と感じることが多く、
「自分が動かないとプロジェクトが止まってしまう」というプレッシャーを、
一人で抱えていたそうです。

セッションの中で、その思考や行動の特徴を一緒に棚卸ししていくと、
それが特性であり、他の人にはない価値ある強みであることに、少しずつ気づかれていきました。

「自分にとって当たり前すぎて、気づいていませんでした」

そうおっしゃったとき、表情が少し和らいだのが印象的でした。

その気づきをきっかけに、心に少し余裕が生まれ、
「全部自分が決めなくてもいいのかもしれない」という感覚が芽生えていったそうです。
そしてこんな言葉が出てきました。

「だから『どう思う?』って言えばよかったんですね。
 それだけで、チームって動き出すんですね」

このnoteでは、このクライアントさんの変化をもとに、
「問いかけるリーダーシップ」と「自己理解」の関係について、整理してみたいと思います。

部下を尊重することと、自分の強みを活かすことは、実はつながっている。
その実感を、ひとつのプロセスとして言葉にしていきます。

2. 問いかけられるリーダーになる第一歩は、自分の強みを知ること

「どう思う?」と部下やメンバーに言ってみる。
その一言が、チームの空気を変えるきっかけになることは少なくありません。

けれど実際には、それを言うことが難しいと感じているリーダーも多いようです。

その背景には、リーダー自身の心理的な余裕のなさが関係していることがあります。
「自分が判断しなければならない」
「リーダーが迷ってはいけない」
そんな思い込みがあると、相手に委ねるよりも先に自分で答えを出してしまうのです。

先ほどのクライアントさんも、まさにその状態でした。
しかし、自分の強みに気づいたことで、そこに変化が生まれました。

彼の強みは、「物事を素早く整理し、ゴールまでの道筋を描けること」
それはプロジェクトを前に進めるうえで大きな力ですが、
本人にとってはあまりにも当たり前すぎて、強みとして捉えられていませんでした。

その力が他の人には簡単にできることではないと理解したとき、
「なぜ他の人はわからないのか」という苛立ちはやわらぎ、
「だから自分はこういう役割を担っているのだ」という納得感に変わっていきました。

自分の強みを客観的に理解すると、自然と心に余裕が生まれます。
「全部自分で背負わなくてもいい」
「自分はここを担えるから、他の部分は任せればいい」
そんなふうに、力の抜きどころを見つけられるようになるのです。

そしてその余裕が、「どう思う?」と言ってみようという気持ちを支えてくれます。
最初はぎこちなくても、それが自然に出るようになっていく。

つまり、問いかけられるリーダーになる第一歩は、テクニックを磨くことではなく、
自分の強みを知り、それを受け入れることなのです。

3. 「どう思う?」が生まれるチームの土壌とは

「どう思う?」という問いをチームに投げかけることは、
単に意見を求めるだけでなく、信頼を示す行動でもあります。

ですが、それが自然に出てくるには、ある程度の“土壌”が必要です。
心理的な余裕、自分の強みへの理解、そして何より、
相手の中にも答えがあるはずだと信じられる感覚がそのベースになります。

先ほどのクライアントさんも、自分の特性を理解し、
それを強みとして認識できるようになったことで、
「全部自分が決めなくてもいいのかもしれない」と少しずつ感じ始めていました。

これまでさまざまなリーダーの支援をしてきた中で、
「問いかけよう」と意識が変わったこと自体が、関係性の変化のきっかけになっていく場面を何度も見てきました。

たとえば、問いかけを習慣にしはじめたリーダーのチームでは、
メンバーからこんな言葉が返ってくることが多くあります。

「なんか最近、相談しやすくなりました」
「考えたことをちゃんと聞いてくれる感じがします」

リーダーがすべてを決めるのではなく、
「あなたはどう思う?」と対話を始めることが、
チーム全体の心理的な安全性や、自律的な関わりに影響していくのです。

「問いかける」という行動は、単なる言葉のやりとりではありません。
返ってきた言葉にきちんと反応し、
相手の考えに耳を傾け、場に残していくこと。
そうした一つひとつのやりとりが、信頼の土壌をつくっていきます。

そして、そうした空気は「メンバーを尊重しよう」と頑張ってつくるものではなく、
リーダー自身が無理のない状態で問いかけられるようになることで、少しずつ育っていくのだと思います。

4. 強みを活かせると、尊重も自然にできる

「どう思う?」と問いかけることが、部下への尊重につながる──
そう理解していても、いざ実践しようとすると、うまくいかないことがあります。

その背景には、「尊重しなければ」と気負ってしまう気持ちや、
「相手の意見をちゃんと受け止めないといけない」というプレッシャーが潜んでいることもあります。

実は、こうした状態のときにこそ、必要なのは“自分の強みの理解”です。

自分の強みを客観的に理解できるようになると、
その強みを「どう発揮するか」に意識が向いていきます。
そこには無理のない納得感があり、自然な安定感が生まれてきます。

たとえば、「整理して道筋を描く力」が強みであれば、
その役割を自覚することで「自分が全部をやらなければ」という思い込みから解放されていきます。

さらに、自分の強みを尊重できるようになると、
相手の強みにも目が向くようになっていきます。
「この人にはこの人の見え方や得意があるのかもしれない」と、
視野が広がっていくのです。

このような内面的な変化が起きることで、
「どう思う?」と問いかける余裕や土台が育っていきます。

問いかけとは、単なる“聞き方”の問題ではなく、
リーダー自身の立ち位置や心の状態によって、自然に生まれてくるものです。

だからこそ、問いかけを実践するために必要なのは、
「言い方を工夫すること」よりも、まずは自分の強みを理解し、活かすこと
そのプロセスを経て、尊重も、問いかけも、無理なくできるようになっていくのだと思います。

5. 自分を知ることが、問いかけのはじまりになる

リーダーとして、部下やメンバーにどう関わればいいのか。
答えのない問いに向き合いながら、日々奮闘されている方は多いと思います。

今回紹介したクライアントさんのように、
「自分が動いたほうが早い」
「なぜみんなわからないんだろう」
という感覚を抱えながらも、誠実にチームと向き合っている方こそ、
きっと問いかけの力を必要としているのではないでしょうか。

ただ、「問いかけよう」と意識するだけでは、なかなか続かないものです。
言葉の選び方やタイミングに悩んでしまったり、
相手の反応が薄くて、不安になることもあるかもしれません。

だからこそ、**問いかけの一歩手前にある「自己理解」**が大切なのだと思います。

自分の強みに気づくと、そこに安心感が生まれます。
その安心感が、自分をゆるめてくれて、相手にもスペースを与えられるようになる。
そして自然と、「どう思う?」という言葉が口に出せるようになっていくのです。

問いかけは、テクニックではなく“あり方”から始まる。
それが、今回のセッションを通してあらためて感じたことでした。

ここまで読んでくださったあなたに、
最後にこんな問いを残したいと思います。

あなたがふだん、つい自然にやってしまうことの中で、
周りの人に想像以上に喜んでもらえることが多いのは、どんなことですか?

それが「自分にとっては当たり前すぎて、気づいていなかったあなたの強み」かもしれません。

自分自身への問いかけが、チームへの問いかけを育てていきます。
それが、リーダーとしての信頼をつくる一歩になると信じています。

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