「いい影響を与える人」がしている、シンプルなこと──感情の伝え方

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冒頭|「あの人といると、なぜかがんばれる」

「なんか、あの人といるとがんばれるんだよね。」

そんな言葉を聞いたことはありませんか?
あるいは、自分が言われたことがある、という方もいるかもしれません。

明確な指導をしたわけでも、特別な成果を出したわけでもない。
でも、気がつくとまわりの人が前向きになっていたり、自然と相談を受けていたり。
「自分って、何かいい影響を与えられてるのかな?」
ふと、そんなことを感じる瞬間があるかもしれません。

先日、とあるクライアントさんとのコーチングセッションで、
まさにそんな話題があがりました。
経験や知識ではなく、「ふるまいや関わり方」がまわりに影響を与えている──
そんな姿に、あらためて大切なことを教わった気がします。

「なぜか一緒にいるとがんばれる人」には、
相手の気持ちを尊重しながら、自分の気持ちもきちんと伝える力がある。

言い換えれば、安心できる空気をつくれる人なんです。

今回は、そんな「いい影響を与える人」になるためのヒントとして、
“感情の伝え方”にフォーカスしてみたいと思います。

「いい影響」を与える人の共通点

「いい影響を与える人」と聞いて、どんな人物像を思い浮かべるでしょうか。

知識が豊富な人。
判断力がある人。
言葉に説得力がある人。

たしかに、そうした力も影響力を高める要素のひとつかもしれません。
実際にコーチングの現場でも、影響力を高めたいと話す方の多くが、
「もっと成果を出したい」
「専門分野の勉強をがんばりたい」
「まずは資格を取りたい」──そう口にされます。

そのどれもが、とても大切な努力です。
でも、ときどきこうも思うんです。
**“その前にやっておきたいことがあるかもしれない”**と。

誰かと関わるとき、最初に届くのは、
その人の「雰囲気」や「ふるまい」、そして「感情の扱い方」だったりします。

「なんだか話しかけやすい」
「一緒にいると安心する」
「自然と前向きになれる」
そんな印象を持たれている人は、日常の中で確実に“いい影響”を広げているんです。

共通しているのは、雰囲気をやわらかくする力
ピリピリした場面でも、ふっと空気をゆるめられる。
自分のことばかりを話さず、相手の反応に自然に目を向けられる。
そして何より、自分の感情を丁寧に扱っていることが伝わってくるんです。

感情にふりまわされるのではなく、
でも、感じたことをなかったことにもしない。
そのちょうどいいバランスが、まわりに安心をもたらします。

影響力というと、つい「なにができるか」に目が向きがちですが、
実はその土台には、「どんな人であるか」がしっかり存在している。
その“あり方”が、最初に信頼をつくっているのだと思います。

感情が伝えられる人が、なぜ信頼されるのか

どれだけ正しいことを言っても、
どれだけ立派な行動をしていても、
なんだか「距離を感じる人」がいます。

一方で、完璧じゃなくても、
*「この人のそばにいたいな」*と感じさせる人もいる。

その違いはどこから来るのか──
ぼくは、「感情の伝え方」がひとつの鍵になっていると思っています。

たとえば、誰かに頼みごとをするとき。
理路整然とお願いするよりも、
「ちょっと困ってて、助けてもらえるとありがたい」
と、自分の気持ちを添えて伝えた方が、相手の心が動くことがあります。

あるいは、失敗した部下に声をかけるとき。
「なんでこうなったの?」と詰めるより、
「正直ちょっと驚いた。でも、どうしたのか話を聞かせて」
と伝えられたほうが、相手は心を開きやすくなります。

感情を言葉にすることは、相手との距離を縮める力を持っています。

とくに、一次感情──「嬉しい」「悲しい」「驚いた」「がっかりした」などの、
素直な気持ちをそのまま伝えられる人は、信頼されやすい。

なぜなら、そこに人としてのリアリティがあるからです。

もちろん、感情をぶつけたり、過剰に表現したりするのとは違います。
必要なのは、「感じたことを、感じたままに、穏やかに伝える」こと。

それだけで、**“ちゃんと自分を持っている人”**という印象が自然と伝わっていきます。
そして、それが信頼の積み重ねになっていくのだと思います。

“うまく伝える”ための小さな実践

感情をそのまま伝える──
そう聞くと、「ちょっとハードルが高い」と感じる方もいるかもしれません。

特に、普段から周りに気を遣っていたり、
“空気を読む”ことを大切にしてきた人ほど、
自分の気持ちを言葉にするのがむずかしく感じるものです。

でも、感情を伝えるって、
なにも「熱く語る」とか「はっきり言い切る」ことばかりではありません。

まずは、ちいさく始めることから。

以下に、今日からできる実践をいくつか紹介します。

● 感じたことを、日記に書いてみる

まずはアウトプットの場を“対人”ではなく、“自分の中”に置く。
嬉しかったこと、モヤっとしたこと──一行でもいいので、
「自分はいま、こう感じたんだな」と書いてみることで、
自分の感情に気づく力が育っていきます。

● アドバイスより「わかるよ」を意識する

誰かの話を聞いているとき、ついアドバイスをしようとする自分に気づいたら、
ひと呼吸おいて、「それ、わかるなぁ」「そっか、そう感じたんだね」と
感情を受けとめるひと言に置き換えてみる。
それだけで相手の表情がやわらぐこともあります。

● 感情をゼロにしない

「怒ってないよ」ではなく、「ちょっと残念だったな」
「大丈夫だよ」だけで終わらせず、「でも正直ちょっと焦った」
そんなふうに、自分の感じた“温度”を少しだけ言葉にのせてみる。

感情の「強さ」ではなく、「輪郭」を伝える意識が大切です。

どれも、小さなことばかりかもしれません。
でもこうした日々の積み重ねが、
**“自分の気持ちに誠実でいながら、人とつながる”**という
土台をつくってくれます。

「伝えること」が特別なスキルではなく、
日常の中の“ふるまいのひとつ”になっていくと、
それだけで信頼の空気が育っていくのだと思います。

影響力は、少しの表現から始まる

「影響力」と聞くと、
多くの人を動かしたり、大きな成果を出したりと、
なにか特別なことを想像しがちです。

でも、ほんとうの意味で人に影響を与えるのは、
身近な誰かとの、ささやかな関わりの積み重ねかもしれません。

「その言葉に、救われた」
「ちょっと話せて、ほっとした」
「この人がいると、空気がやわらぐ」

そんなふうに思われる人が、
気づかないうちにまわりの空気を整え、
小さな勇気を広げている。

そして、その力は、
「自分の感情をどう扱うか」「どんなふうに伝えるか」という
日常の表現から、静かに育っていくものです。

自分の感じたことに気づき、
それを押しつけず、なかったことにもせず、
ちょうどいいかたちで伝える。

それだけで、**「この人のそばにいたい」**という信頼が生まれます。

だからこそ、もしあなたが
「もっとまわりに良い影響を与えられるようになりたい」
「リーダーとして信頼される存在になりたい」と思っているなら、
まずはほんの少し、自分の感情を表現してみてください。

特別な言葉じゃなくていい。
完璧に伝えられなくても大丈夫。

影響力は、特別な立場や知識からではなく、日常の「伝え方」から生まれるもの。

あなたが“自分の気持ちに丁寧である”その姿こそが、
 すでに影響力のはじまりなのです。

結び|“伝え方”が、あなたの影響力を育てる

いい影響を与えたい。
まわりに信頼される存在でありたい。

そんな思いを持つ人にとって、
成果や実績、知識や資格を磨くことは、きっとこれからも大切なチャレンジです。

でも、その前に。
**「どんな自分で在るか」**を少し見つめてみることも、とても意味のある時間だと思うのです。

感情に気づき、ことばにして、届ける。
その“伝え方”は、目には見えづらいけれど、
確実にあなたの影響力を育てていきます。

ちいさな日記のひとこと。
ちょっとした相づちの言葉。
少しだけ添えた「自分の気持ち」。

それらが、あなたのまわりに安心感を生み、
信頼という“土壌”を静かに耕していくのだと思います。

リーダーになることは、誰かの上に立つことではなく、
自分のふるまいを通して、まわりに良い空気を広げていくこと。

その第一歩は、今日のあなたの“伝え方”から、始まっているのかもしれません。

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“伝えてないのに伝わってる”──チームの空気を変えるリーダーのふるまい

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① はじめに

現場リーダーとして、「もっと主体的に動いてほしい」と感じる場面は少なくないと思います。

こちらが指示を出す前に動いてくれるのが理想。
でも、現実にはそうならず、結局は痺れを切らして指示を出す──
それでも、思ったような動きにはならない。
そんなジレンマを抱えたことはないでしょうか。

今回のコーチングセッションでは、
まさにその「メンバーがなかなか自律的に動いてくれない」という課題がテーマでした。

対話を深める中で見えてきたのは、
チームリーダー自身が抱いていた“ある感情”──
「この人にはもう言っても無駄かもしれない」
「最終的には強制的にでも動かさなきゃいけない」
といった、あきらめや苛立ちのようなもの。

そしてそれが、言葉にしなくても、
表情や態度、雰囲気といった非言語情報を通じて
メンバーに伝わってしまっている可能性があるのでは?と、感じたのでした。

このブログでは、こうした“言葉にならない影響”と、
メンバーの行動原理に目を向けながら、
現場リーダーとしてどんなふるまいや関わり方ができるかを一緒に考えていきたいと思います。

② チームの空気は“言葉にならない情報”でつくられている

「ちゃんと伝えたはずなのに、なぜか空気が重くなる」
「注意したわけでもないのに、相手がよそよそしくなる」
──そんな経験はないでしょうか。

人は言葉だけで相手とやりとりしているわけではありません。
表情、声のトーン、姿勢、タイミング、ちょっとした間(ま)──
こうした“言葉にならない情報”が、思っている以上に周囲に影響を与えています。

実際、現場でよくあるのが──
「自分が動いた方が早い」「何度言ってもできない」
そんな気持ちが、ふとした表情や態度ににじみ出てしまう場面です。

もちろん、声を荒げているわけでも、厳しく詰めているわけでもありません。
それでも、メンバーはどこかで察知してしまう。
「あ、自分は期待されていないのかもしれない」
「また怒られるんじゃないか」──そんな空気を、無意識に感じ取ってしまう。

これは、リーダーの“人としてのクセ”が悪いわけではありません。
むしろ自然な反応です。
でも、この非言語の影響に気づけるかどうかが、
チームの空気を少しずつ変えていく第一歩になるのだと思います。

③ 人は“正しさ”では動かない──行動原理を読むという視点

メンバーに対して「ちゃんと伝えたのに、なぜ動いてくれないんだろう」と感じるとき、
つい「言い方が悪かったのかな」「もう少しハッキリ言うべきだったかな」と
“伝え方”の技術に目が向きがちです。

もちろん、言い方の工夫は大切です。
でも、それだけでは動かないこともある。
それは、相手の“行動原理”とズレてしまっているからかもしれません。

人は、理屈ではなく「自分にとって意味がある」と感じたときに動きます。
たとえば、「このままだとあとで困るかもしれない」という未来の予測や、
「これは自分の役割だ」と感じる納得感。
あるいは、「あの人に頼まれたから応えたい」といった信頼のつながり。

今回のセッションでは、あるメンバーに対して
「これをやっておいた方が、あとで自分が楽になると思うよ」という伝え方を試してみる、
というアイディアが出ました。
これはまさに、“未来を想像する力”を使って行動を促すアプローチです。

ポイントは、“自分の正しさ”ではなく、“相手の行動原理”に合わせること。
指示そのものよりも、「なぜその行動が必要なのか」を、
相手の視点に立って意味づけできるかどうか。

動かないのは“部下のせい”に見えるかもしれませんが、
伝え手の視点を少し変えるだけで、状況が動き出すこともあるのです。

④ “伝えずに伝える”ふるまいを変えてみる

「もっと主体的に動いてほしい」
「指示しなくても気づいて動いてくれるといいんだけど」
──そう感じたとき、まず考えたくなるのは「どう伝えるか」かもしれません。

でも実は、“伝える”より前に
「ふるまいを変える」というアプローチが効くことがあります。

たとえば──
・朝の始まりに「今日はどんな予定?」と軽く声をかけてみる
・説明のとき、図や手順を一緒に見ながら話す
・ミスがあったときも、まず「どう感じてる?」と聞く余白をつくる
・進捗が遅れている相手にも、「前に進もうとしてるのは伝わってるよ」と一言添える

こうしたちょっとしたふるまいには、
「見てるよ」「気にかけてるよ」「信じてるよ」というメッセージが含まれています。
それは、“期待している”という気持ちを、言葉よりもずっと深く伝えてくれるものです。

一方で、
「どうせまた…」
「もう言ってもムダかも」
そんな思いを抱えたままだと、たとえ笑顔で接していても、どこかでその空気がにじみ出てしまう。

こういう状況は、意外と現場ではよくあることです。
だからこそ、ふるまいの根っこにある「自分のスタンス」に目を向けることが大切です。

強く言わなくても、関わり方ひとつでチームの信頼は積み上がっていきます。
まずは「相手を信じている自分でいる」──
その状態から自然に出てくるふるまいこそが、信頼をつくる最初の一歩かもしれません。

⑤ まとめ──チームに影響を与えるのは、言葉の“外側”

チームリーダーとして、メンバーの動きが思わしくないとき、
つい「ちゃんと伝えなきゃ」と思って言葉を重ねてしまう。
でも、実はその前に、すでに“何か”が伝わってしまっていることがある──
今回のテーマは、そんな「言葉の外側」にある影響力についてでした。

人は、言葉だけで動いているわけではありません。
空気を読む、表情を察する、雰囲気を感じる──
そうした非言語の情報が、日々の関わりの中でチームの空気をつくっています。

そして、リーダー自身の「どうせやらないだろう」「また同じだ」というあきらめや苛立ちは、
知らず知らずのうちに態度やふるまいに現れ、
メンバーにも伝わってしまいます。

逆に言えば、
「信じてるよ」「一緒に進もう」というスタンスで関われば、
それもまた言葉以上に伝わっていく。

大事なのは、
“伝え方”のテクニックではなく、
“どんな姿勢で関わっているか”という自分のあり方。

メンバーの行動を変えたいと思ったとき、
相手に言葉を投げる前に、
自分のふるまい・スタンスをほんの少し見直してみる。

それだけで、
チームの空気がふっとやわらかくなることも、実は少なくないのです。

あなたは、今どんなスタンスでメンバーと向き合っていますか?
次に声をかけるとき、あるいはただ隣にいるとき──
“言葉の外側”で伝えているものにも、少し意識を向けてみてください。

きっとそこに、チームが動き出すヒントがあるはずです。

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「No.2」をどう育てるか?──課長の次の仕事はリーダーを育てること

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チームの成績も雰囲気も、まずまず順調。
そんなときこそ、ふと頭をよぎることはありませんか?

「このまま自分が中心で動き続ける状態でいいのか?」
「次のリーダーを育てていく必要があるんじゃないか?」

今回の記事では、実際に営業課長の方とのコーチングセッションを通じて見えてきた、
「No.2育成」のリアルな課題と、育て方の工夫について整理しています。

・なぜNo.2を育てる必要があるのか?
・うまく任せられないときにつまずきやすいポイントは?
・具体的にどんな関わり方をすればいいのか?

そんな疑問を持つ方に、現場感あるヒントをお届けできればうれしいです。

1. 次のリーダーを育てる──営業課長との対話から考えるチームづくり

ぼくのコーチングセッションを継続的に受けていただいている方のひとりに、営業課長を務めている方がいます。
いつもチームメンバー一人ひとりが自分らしさを発揮して活躍できるように、チームのマネジメントに全力で取り組んでいらっしゃる方です。

ある日のセッションでも、メンバーとのコミュニケーションについて話している中で、「No.2をもっと育てたい」という課題が話題に上がりました。

チーム全体としてはまずまず好調。でも、自分が常に中心に立つだけでなく、次のリーダーとなる存在を育てたい──そんな視点を持つことは、課長として次のステージに進むサインでもあります。

今回はそのセッションでの対話をもとに、課長クラスの方が「No.2をどう育てていくか?」について、実際の現場感を交えながら整理していきます。

2. 中心で動くだけでは続かない──チーム成長の次のステージへ

チームが安定してきた今、次に必要なのは「次のリーダー」の育成です。
チーム運営がある程度軌道に乗ってきたタイミングで、「次のリーダーを育てたい」と感じる課長の方は少なくありません。
営業成績もチームの雰囲気も悪くない。でもその一方で、「自分がずっと中心に立ち続ける状態は、この先も続けられるのか?」という問いが生まれてきます。

実際、チームが大きくなればなるほど、課長ひとりで全員を細かく見続けることは難しくなります。
そこで必要になるのが、No.2の存在です。

No.2がいることで──
・課長が見きれない部分まで目を配れる
・メンバー同士で支え合う流れが生まれる
・チーム全体が“自走”できる状態に近づく

つまり、No.2を育てることは、自分自身の負担を減らすためだけではなく、チーム全体の力を最大化するための大切なステップなんです。

特に営業部門のような成果主義の環境では、数字に意識が向きやすく、チーム内でリーダー的な役割を担う人材育成は後回しになりがちです。
だからこそ、意識的に「次のリーダーを育てる」時間を確保していく必要があります。

No.2を育てる必要性は分かった。でも実際には、思うように育たないこともあります。
ここからは、そんなときにつまずきやすいポイントを整理していきます。

3. うまく任せられない時に見直すべき3つの視点

コーチングを通じて多くの管理職の方と対話をしていると、「No.2を育てたい」と考えた時に、いくつか共通するつまずきポイントがあると感じます。

まず一つ目は、
自分がやった方が早い──その気持ちを手放しきれないこと。

目の前の業務や数字が動いている中で、「任せたほうがいい」と頭では分かっていても、つい自分で動いてしまう。
その結果、No.2がリーダーシップを発揮する場面が減ってしまいます。

二つ目は、
任せる範囲や役割があいまいなままになってしまうこと。

「リーダーらしく動いてほしい」と思っていても、No.2自身もまだ“チーム全体を見て動く”という感覚よりも、
「自分が動いたほうが早い」という意識が強く残っていることが多いんです。

そのため、こちらが期待しているほど周りを巻き込む動きが見られなかったり、
チームマネジメントよりも自分の数字を優先しがちになったりする場面も出てきます。

ここは、No.2育成において一番大事なポイントだと感じます。
だからこそ、任せる内容や判断の範囲を具体的に言語化して、No.2自身が「どこまで自分が責任を持つのか」を腹落ちできる状態をつくる必要があります。

そして三つ目は、
「任せた=放置」になってしまうこと。

任せることと、任せきりにすることは別物です。
任せたからこそ、節目節目でフィードバックをしたり、相談しやすい関係を保ったりする必要があります。

これらはどれも、忙しい日常の中ではつい後回しになりがちなポイントです。
だからこそ、意識的に仕組みや関わり方を整えていく必要があります。

4. 実践で使える! 育成を進めるための3つの工夫

ここまで触れてきたポイントをふまえて、「No.2」を育てるための具体的なアプローチを3つに絞って整理します。

① 役割の明確化と任せる範囲の言語化

No.2に対しては、「どこまで自分で判断していいか」を明確に伝えることが大前提です。
たとえば、チーム内の進捗確認や後輩指導の主担当はNo.2に任せる、といった具合に、範囲や権限をはっきりさせること。

あいまいなままだと、結局また自分に仕事が戻ってきます。
さらに、No.2の「自分でやった方が早い」が発揮されてしまい、育成が思うように進まなくなることもあります。

② 定期的な対話とフィードバック

任せっぱなしにならないように、No.2とは定期的に状況を確認する場を持つことが大切です。
特に意識したいのは、数字や業務だけでなく「今どんなふうに感じているか」「何がやりづらいか」といった内面的な部分まで話せる関係をつくること。
面談の場所やタイミングを変えるのも一つの工夫です。

③ チーム全体との関係性づくりを支援する

No.2が本当の意味で“リーダー”として機能するためには、他のメンバーからも頼られる存在になる必要があります。
そのためには、課長自身が「No.2を通す」場面を増やしたり、ナンバー3・4・5といった他のメンバーとの橋渡し役を積極的に任せたりすることも有効です。
No.2が自然と中心に立つ流れをつくること。
それが、結果的にチーム全体の自走力につながります。
この3つを意識して関わることで、「自分だけで何とかする」状態から「チームで自然に回る」状態へと、一歩進めるきっかけになります。

 

多くの場合、まずは自分が中心で動く時期があります。
でも、チームが成長し続けるためには、いつかその状態を手放すタイミングがやってきます。

No.2を育てることは、自分の仕事を減らすことではなく、チームの力を底上げすること。
むしろ、自分よりも優秀なNo.2が育った時こそ、本当の意味でチームが強くなったと言えるのかもしれません。

今回まとめた3つのアプローチは、そのための一つのヒントです。
「自分ひとりで全部やる」のではなく、「チームみんなで自然に回る」状態を目指して。
次のリーダーを育てることも、リーダー自身の大事な役割です。
チームの未来を考えるなら、No.2育成から、ぜひ始めてみてください。

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重責を担う管理職が、自分らしさを取り戻すとき──仕事のストーリーを描き直す3つの問い

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責任ある立場を任され、チームや組織全体を見渡す毎日。
ふと気がつくと、自分自身の気持ちや「わたしらしさ」を後回しにしてしまっている──
そんな感覚を持ったことはありませんか?

この記事では、経営企画部門課長という立場を例に、
重責を担う管理職が、自分らしさを取り戻すためのヒントをまとめました。

忙しい日々の中でも立ち止まり、自分自身を見つめ直すための「3つの問い」をご紹介します。
よかったら、今のあなた自身と重ねながら読み進めてみてください。

① はじめに

経営企画部門の課長として、日々多くの判断や調整を任される。
それは、信頼されている証でもあり、組織を支える大切な役割です。

けれど──
「このままでいいんだろうか」
「自分の気持ちは、どこに置いてきたんだろう」

ふとそんな風に立ち止まる瞬間もあるのではないでしょうか。
家族やチーム、組織のことを優先し続ける中で、
自分らしさがどこかに行ってしまった気がする。

そんな時こそ、一度立ち止まって
「わたし自身のストーリー」を描き直す時間を持ってみませんか。

今日は、とある経営企画部門の管理職の方とのコーチングセッションをきっかけに
重責を担いながら自分らしく働くことについて考えてみたいと思います。

自分らしさを忘れずに働き続けるためのヒント。ぜひ最後までお読みください。

② 「課長」という役割に押しつぶされそうになる瞬間

経営企画部門の課長という立場は、現場の状況を見渡し、
組織全体の流れをつくるポジションでもあります。

自分ひとりの判断が、部署や会社全体に影響する──
そんな責任の重さが、いつの間にか心に積み重なっているかもしれません。

さらに、家族やプライベートの時間も大切にしたい。
でも、すべてを完璧にこなそうとすればするほど、
「時間が足りない」「もっとできるはずなのに」と
自分自身を責める気持ちが強くなってしまうこともあります。

気がつけば、
「わたしは何のためにこの仕事をしているんだろう」
そんな問いさえ後回しになり、
ただ目の前のタスクをこなすだけの日々になってしまう──。

役割が大きくなればなるほど、
そんなふうに自分自身を見失いそうになる瞬間は、誰にでもあるものです。

まずはその事実に静かに気づき、
一度立ち止まること。
それもまた、大切なひとつの選択なのかもしれません。

③ 仕事は“タスク”ではなく“ストーリー”

経営企画部門の課長という役割を担っていると、
日々やるべきことは山のようにあります。
会議、資料作成、調整業務、チームマネジメント…。

気づけば、それら一つひとつが「ただのタスク」に見えてしまう。
そんな状態に陥ることもあるかもしれません。

けれど本来、仕事は単なるタスクの積み重ねではなく、
あなた自身の“ストーリー”の一部でもあります。

「このプロジェクトは、誰のために役立つものなのか?」
「この提案書は、どんな未来につながっていくのか?」
そんなふうに一歩引いて全体を見渡すと、
自分が今やっていることの意味や価値が、少しずつ輪郭を取り戻してきます。

これは、“英雄の旅”とも呼ばれる『ヒーローズジャーニー』という考え方にも通じます。
物語や神話に共通する流れをまとめたもので、
主人公がある日、普段の世界から一歩踏み出し、
さまざまな試練や学びを経て成長し、また元の場所に戻ってくる──
そんな循環のことを指します。

どんな物語にも、挑戦や試練があり、
それを越えた先に成長や新しい視点があります。

日々の忙しさに埋もれてしまいそうなときこそ、
「いま、自分はどんなストーリーのどの場面にいるんだろう?」
そんな問いを、そっと自分自身に投げかけてみてください。

タスクをこなすだけの日々から、
一歩先の視点を持つことができるはずです。

④ 「自分らしさ」を取り戻すための3つの問い

忙しさや責任感に押される日々の中でも、
自分らしさを見失わずに働き続けるためには、
ときどき自分自身と向き合う時間が必要です。

とはいえ、いきなり「自分らしさとは?」と考えるのは難しいもの。
そこで、日々の中で立ち止まったときに役立つ
3つの問いをお届けします。

1. いま、自分はどんなストーリーのどの場面にいるのか?

──「挑戦の真っ只中」かもしれないし、
「少し休む時期」かもしれません。
まずはその場所を静かに確認することから。

2. この経験を通じて、誰に何を伝えたいのか?

──仕事は、自分一人のものではありません。
後輩や部下、家族、あるいは未来の自分へ。
この経験を通じて伝えたいことを考えてみると、
今やっていることの意味がまた少し変わって見えるはずです。

3. 自分の強みは、どの場面で一番活かせるのか?

──強みは「いつも同じ形で発揮するもの」ではありません。
状況に応じて形を変えながら活かしていくもの。
だからこそ、自分の強みと仕事の場面をすり合わせる視点を持つことが大切です。

この3つの問いは、特別な時間を取らなくても大丈夫。
朝の通勤時間や、ふと一息ついたとき。
そんなちょっとした瞬間に、自分自身に問いかけてみてください。

小さな習慣の積み重ねが、
「わたし自身のストーリー」を描き直す力になります。

⑤ おわりに

経営企画部門の課長という立場は、
チームや組織を支える重要な役割である一方で、
ときに「わたし自身」を置き去りにしてしまうこともあります。

けれど、役割や立場が変わったとしても、
あなた自身のストーリーは、ずっと続いています。

誰かの期待に応えることも大切。
組織を守ることももちろん大切。
でも、その中に「自分自身の想い」をそっと置いておけるかどうか。

それが、責任ある立場を長く続けていくための、
静かでしなやかな土台になるのだと思います。

今回お伝えした3つの問いを、ぜひ日々の中で思い出してみてください。
立場や状況がどんなに変わっても、
「わたし自身のストーリー」を描き続けていけるように。

あなたのストーリーが、これからもあなたらしく続いていくことを願っています。

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『人が足りない』は本質じゃない??──とあるセッションで感じた、“感情を扱う”という視点

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「人が足りないんです」

そんな言葉を、現場を預かる立場の方から聞くことは少なくありません。

たしかに、採用が難しい。育成にも時間がかかる。

仕組みや制度を見直しても、思うように動かない──

そんな歯がゆさを感じている方も多いのではないでしょうか。

今回のブログは、ある取締役とのコーチングセッションをきっかけに書いたものです。

その方の現場で起きていたのも、「人が足りない」ことで見えてきた業務の停滞でした。

でも、対話を通じてあらためて浮かび上がってきたのは、

仕組みや制度の話だけではなく、

“関係性の中にある小さな感情”が、チームや業務の流れを左右しているという事実でした。

「うまくいかない理由」に、もう少しだけ丁寧に目を向けてみる。

そんな視点のヒントになれば嬉しいです。

① 背景にある問い:「人が足りない」のか、本当に?

先日、とある企業の取締役の方とのコーチングセッションを行いました。

バックオフィス全体を統括されている方で、実務にも現場にも深く関わっておられます。

その日のテーマは、経理業務が思うように進まず、全体の流れに遅れが出ているというものでした。

人が足りないのかもしれない。

経験者を採用しても定着せず、派遣で補っても引き継ぎに時間がかかる。

今いるメンバーには限界が見えはじめている──

そんな現場の実感が、静かな語り口の中ににじんでいました。

話は自然と、人材の配置や教育プロセス、新しいシステムの導入といった「実務上の打ち手」に流れていきます。

けれど、そのやり取りの中で、ぼくの中にはある問いが浮かび上がってきました。

仕組みや制度だけじゃなくて、

人と人との関わり方にも、業務をスムーズにするヒントがあるんじゃないか。

関係性が止めていた:仕組みだけでは動かない理由

セッションでは、業務の流れをどう整えるか、人の配置をどう見直すか、具体的な話題が次々と出てきました。

チームや業務が滞っているとき、多くの組織では「仕組み」「制度」「スキル」の話をします。

もちろん、それらはとても大事な要素です。

でも、多くの企業をコーチングを通じて支援してきた中で、

実際には「仕組み」「制度」「スキル」の改善をしてもうまくいかない場面をたくさん見てきました。

うまく回らない原因が、“人と人との関係性”の中にあることは、これまで何度も見てきました。

たとえば──

誰に、どう伝えるか。どこまで任せるか。

マネージャーになることを避ける人に、どう声をかけるか。

こうしたテーマは一見、実務の範囲内に見えます。

でもその奥には、ちょっとした気まずさや、失敗への恐れ、責任感の重さといった“感情”の層がある。

それらは会議の議題には上がらないし、表立っては語られない。

でも、そこに少し目を向けるだけで、滞っていたやりとりがスッと動き出すことがある──

これも、コーチングを通じてぼくが何度も実感してきたことの一つです。

今回のセッションは、そのことをあらためて思い出させてくれるような時間でした。

③ 話すより、まず“聴く”:リーダーにできる対話のつくり方

役職が上がるほど、「どう判断するか」「どう決めるか」が求められる場面が増えていきます。

それ自体は当然のことだし、現場が混乱しないようにするための重要な役割でもあります。

でも、状況が複雑だったり、メンバーの思いや関係性が絡むときほど、

「まずは、相談という形で話してみる」という選択肢が、有効な場面もあると感じています。

今回のセッションでも、

「それって、決めるというより、まず“相談ベース”で伝えてみるのはどうでしょう?」

というやり取りが自然と出てきました。

誰かに動いてもらいたいとき、指示や依頼ではなく「聴くこと」から始める。

その余白があるだけで、相手の受け取り方がまったく変わることもあります。

何かを決めてから伝えるのではなく、

まだ決まっていない段階で声をかけてみる。

そうすることで、相手との間に「考える時間」や「すり合わせの余地」が生まれていく。

そんな関わり方が、感情が複雑に絡むような場面では、

実はすごく実務的な“前進のきっかけ”になるんじゃないか──

そんなことを、あらためて感じたセッションでした。

④ おわりに:感情は“チームを動かす力”になる

業務が滞っているとき、つい「仕組みを整えよう」「人を増やそう」といった対策に意識が向きがちです。

でも実際には、その前に「関係性のひっかかり」や「伝え方への迷い」といった、

表に出にくい“感情の層”が、動きを止めていることも少なくありません。

感情といっても、大げさな話ではなくて──

ちょっとした気まずさとか、失敗への恐れとか、「これ以上負担をかけたくないな」という遠慮とか。

そういう小さな気持ちの積み重ねが、チームや業務の流れをじわじわと止めてしまうことがあるんです。

今回のセッションでは、そうした話題が大きく扱われたわけではありません。

むしろ、話題の中心はあくまで実務でした。

でも、その中にふと現れた一言や反応が、ぼく自身にとって大事なヒントになりました。

「感情を扱う」というと、構えてしまう方も多いかもしれません。

でも実はそれは、チームをスムーズに動かすための、ごく実践的なヒントでもあるんだと思います。

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その言葉、誰のため? 聴くことから始まるチームづくり

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1. 冒頭:「伝えること」に必死になっていないか?

部下が思うように動かない。
チームにどうも一体感がない。
──そんなとき、つい考えてしまうのが「もっと伝えなきゃ」ということ。

指示の出し方が悪かったのかもしれない。
期待をもっと明確に伝えるべきだったかもしれない。
あるいは、感情的にならずに、もっと冷静に説明するべきだったのかも。

でも、こうした“伝えること”への意識が強くなればなるほど、
逆にチームの反応が鈍くなる…そんな感覚に覚えがある方もいるのではないでしょうか。

実はそこに、「関係性が動き出すヒント」が隠れていることがあります。
それは、伝えることよりも“聴くこと”のほうが、チームを変える力を持っているという事実です。

ぼくがこれまでコーチングの現場でご一緒してきた、
さまざまな業種の多くの管理職の方も、
あるタイミングから“伝えること”への力みを少し手放し、
「どう聴くか」「何を受け取るか」に目を向け始めたときに、
チームとの関係性が少しずつ変化していくのを実感されています。

コミュニケーションを変える第一歩は、
“話し方を磨くこと”ではなく、「伝える前に立ち止まること」かもしれません。

2. 会話が変わると、チームが変わる──その実感

「最近、前よりも話してくれるようになった気がする」
「ミーティングで誰かが話し始めると、自然と他のメンバーも反応してくれるようになった」

そんな変化の声を、コーチングの中で管理職の方から聞くことがあります。
そのきっかけになっているのは、多くの場合、特別なスキルや施策ではありません。

それは、“聴き方”が変わったことによる、空気の変化です。

「こう言えば部下が動くだろう」「これを伝えれば納得してくれるはず」──
そんな“伝えようとする努力”は、もちろん大切なものです。
けれど、それだけでは伝わらないことがある。

むしろ、相手が話すのを待つ。
言葉をかぶせずに聴く。
評価せずに受け止める。
その“余白”があることで、メンバーは少しずつ「話してもいい」と思えるようになる。

とくに、管理職という立場であるあなたの一言は、
本人が意図する以上に大きく響き、影響を与えます。
だからこそ、言葉を選ぶこと以上に、“聴く姿勢”が大切になる場面があるのです。

「伝えよう」とする気持ちが強いほど、
知らず知らずのうちに、相手の言葉が入るスペースを奪っていることがある。

ほんの少し立ち止まって、相手の声に耳を傾ける。
その姿勢が、チームの空気を変え、関係性をじんわりと動かしていくのです。

3. “伝える力”よりも、“受け取る力”が先

コミュニケーションというと、「どう伝えるか」が主役になりがちです。
プレゼン力、言語化力、ロジカルシンキング──それらは確かにビジネスにおいて重要なスキルです。

でも、チームを動かし、関係性を育てるという文脈においては、
“受け取る力”が先にあってこそ、“伝える力”が活きるのではないでしょうか。

たとえば、メンバーに「期待してるよ」と声をかけるとき。
それが応援になるか、プレッシャーになるかは、相手が今どんな状態かによって変わります。
つまり、“何を言うか”と同じくらい、“いつ、誰に、どんな気持ちで言うか”が大事なんです。

その違いを見極めるには、まず相手のことをよく“見る”こと、
そして、“聴くこと”が必要です。

自分の正しさや意図を押しつける前に、
「相手は何を感じているだろうか」
「どんな前提をもって、この話を受け取るだろうか」
そんな問いを、言葉を発する前の1秒間に、自分に向けてみる。

その“間”があるかないかで、
言葉の届き方も、相手の反応も、大きく変わってくるのです。

だからこそ、伝えるスキルを磨くよりも先に、
相手を受け取る土台を、自分の中につくっておくことが、信頼を育てる一歩になります。

4. 自然体のリーダーシップと、余白のある対話

管理職という立場になると、
「ちゃんとしなきゃ」「見本にならなきゃ」と、どうしても構えてしまうことがあります。

でも、その“構え”が、かえってコミュニケーションの流れを堰き止めてしまうことがあるんです。

こちらが肩に力を入れて話せば、相手も構えます。
完璧に伝えようとするほど、対話の“余白”がなくなってしまう。
結果として、「話しやすさ」が失われていくんですね。

実は、自然体でいることそのものが、強いメッセージになることがあります。

「すごいことを言わなくてもいい」
「ちゃんと答えられなくても大丈夫」
そう思ってもらえる空気感があるだけで、
部下は自分の言葉で話そうとし始めます。

そのきっかけになるのが、何気ない問いです。

「どう思う?」
「何か気になることある?」
「最近どう?」

──こんな、答えに“正解”のない問いかけ。
評価や判断をしない問いが、相手の心を少しずつ開いていきます。

そして、その姿勢こそがリーダーシップの本質ではないか と、ぼくは思うんです。

自然体で関わること。
構えずに、相手と同じ地平に立つこと。
対話に余白を持たせること。

それは、管理職としての“弱さ”ではなく、
むしろ“信頼をつくる強さ”なのかもしれません。

5. 相手の価値観に立った“ひとこと”が、関係を変える

言葉は、ときに人を動かします。
でもそれは、「正しい言葉」を選べば動く、という単純な話ではありません。

同じ言葉でも、ある人には届き、別の人には響かない。
それは、相手の価値観や、そのときの状態によって、言葉の意味が変わるからです。

たとえば、部下に「もっと自信を持って」と伝えたとき。
その言葉が励ましになることもあれば、
「プレッシャーだな」と感じさせてしまうこともある。

この違いは、伝える側の“言い方”や“論理”ではなく、
相手が今、どんな状態でその場にいるか──
その“前提”に目を向けられているかどうか、にかかっています。

だからこそ、「この言葉、誰のために言ってるんだろう?」と立ち止まる習慣が大切になります。

「自分を安心させるために言っているのか」
「相手を動かすためだけに言っているのか」
それとも、相手の価値観を尊重して、本当に支えになりたいと思っているのか

そこに自覚があると、同じ言葉でも“温度”が変わります。

相手に寄り添おうとする気持ちがにじんだひとことは、
派手じゃなくても、確実に相手の心に残るものになります。

管理職として言葉を使うということは、
“コントロールするため”ではなく、
相手が伸び伸びと働き、自分らしく成長していけるよう支援するためにある。

その土台となるのが、相手の価値観に立って言葉をかける姿勢であり、
信頼に根ざした、あたたかなコミュニケーションなのだと思います。

6. 結び:関係の質は、対話の積み重ねで変えられる

「もっと伝えなきゃ」と力んでいたときには見えなかったことが、
少し立ち止まって“聴く”ことを意識し始めると、不思議と見えてくることがあります。

表情の変化。
言葉の選び方。
沈黙の向こうにある感情。

相手の反応を丁寧に“受け取る”ようになると、
それまで一方通行だったコミュニケーションが、すこしずつ“対話”に変わっていきます。

そしてこの「対話の質」が、
チームの空気を変え、関係性を育て、
結果的に一人ひとりのパフォーマンスや働き方にも影響していくのです。

伝え方の工夫も、言葉の力も、もちろん大切です。
でもその前に、自分の“聴く姿勢”がどうあるかを問い直すことが、
管理職としてのリーダーシップをぐっと深めてくれる──
ぼくはそう信じています。

日々の会話のなかで、ほんの少し立ち止まる。
「この言葉は誰のため?」と自分に問うてみる。
「今、何を感じている?」と相手に尋ねてみる。

そんな小さな対話の積み重ねが、
“伝わるチーム”をつくり、
“安心して働ける関係性”を育てていくはずです。

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売れない商品と向き合う──整理することで見えてくること

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売れない商品があるとき、よくある反応はこうです。
「これ、本当に置いておく意味ある?」
「売れないなら、もうカタログから外してもいいんじゃない?」

でも、そんなふうに“売れない”ことばかりに目を向けてしまうと、
その商品が本来もっている役割や、ラインナップ全体に与えている影響を見逃してしまうことがあります。

実は──
「売れる商品」と同じくらい、「選ばれるプロセスを支えている商品」があるんです。
それは、比較対象としての展示品かもしれないし、
選択肢の幅を広げるために必要な“静かな存在”かもしれない。
あるいは、ラインナップを“面”で見せるために欠かせない、構成上のピースかもしれません。

今回は、そんな“売れない商品”との向き合い方について、
整理と伝え方の工夫から生まれる「選びやすさ」の話をしてみたいと思います。

第1章:「売れない=いらない」ではない

つい、「売れない=価値がない」と見なしてしまう。
忙しい日常のなかで、数字に表れない価値を評価するのは難しいから──
これは、どんな現場でも起きうる自然な感覚です。

でも本当に、その商品は「いらない」のでしょうか?

たとえば、同じジャンルの中で幅広い価格帯をカバーするラインナップ。
その“端”に位置する商品は、数としては出ていなくても、
実は「真ん中の価格の商品を選びやすくする」という役割を果たしていることがあります。

これは、**行動経済学で言う“極端回避性”**──
人は、複数の選択肢があるときに、極端なものを避けて「中間」を選ぶ傾向がある、という理論です。
たとえば3つの価格帯があると、「一番高いのは手が出ないけど、一番安いのも不安…」という心理が働き、結果として“真ん中”が選ばれやすくなります。

また、**“アンカリング効果”**とも関係しています。
最初に提示された価格(アンカー)が高いほど、その後に提示される価格が“お得”に感じられる。
つまり、一見売れそうにない高価格商品にも、「他の商品を魅力的に見せる」という効果があるわけです。

こうした視点で見ると、売れていない商品にも
“ラインナップ全体の選ばれやすさを設計するためのピース”としての価値があることがわかってきます。

また、ひとつの用途やシーンを“面”で見せたいとき、
パーツとしてはあまり選ばれない商品が、全体の統一感や安心感をつくっていることもあります。
そういう商品は、目立たずとも、選ばれるプロセスの一部を支えているのです。

商品ひとつひとつに「売る」という役割だけを求めると、
この“静かな存在感”に気づけなくなってしまう。
むしろ、数字が出ていないからこそ、その価値を問い直すことが大切になってきます。

売れていないものを、ただ切り捨てる前に。
「この商品の存在は、意味を持っているだろうか?」
そんな問いを立てるところから、次の一手が見えてくるかもしれません。

第2章:商品マトリックスが教えてくれること

“なんとなく”で扱い続けてきた商品たち。
それらをあらためて見直したいとき、ただ眺めているだけでは全体像は見えてきません。
必要なのは、「整理すること」で、見えなかった関係性や抜けを“見える化”することです。

そのときに役に立つのが、金額や用途別、アイテムごとに整理したマトリックスです。

たとえば、価格帯を縦軸に、用途別やカテゴリーごとを横軸にして並べてみる。
あるいは、「単体で選ばれる商品」と「他の商品とセットで選ばれる商品」を分けてみる。
──そうやって整理してみると、意外と空白が多いことに気づくことがあります。
• この価格帯に、特定の用途の商品だけがない
• ある用途に使える中価格帯の選択肢が極端に少ない
• 一番高い価格帯に属する商品が、他の商品とつながっていない

つまり、“売れていない”という現象を、個別ではなく「構造」で見る視点が生まれてくるのです。

もうひとつのポイントは、マトリックスが“比較と選択”を可視化するツールにもなること。
「AとB、どちらにしようか」と迷ってもらうためには、並べる土台が必要です。
その土台がなければ、比較されることなく、最初から選ばれないまま終わってしまう商品もあります。

整理とは、「売る順番を決めること」ではありません。
まずは、ラインナップ全体を判断できる状態にしてあげること。
マトリックスは、そのための地図のような役割を果たしてくれます。

第3章:整理すれば、伝え方が変えられる

商品をマトリックスで整理してみると、
これまで「よくわからないけど売れない」と思っていたものに対しても、
その位置づけや関連性が見えてくるようになります。

すると、今度は「どう伝えるか?」という視点が生まれてきます。

たとえば──
・この価格帯では“選ばれにくい”のではなく、“比較されにくい”だけだった
・ある用途の商品が孤立していたのは、他の商品との関係が言語化されていなかったから
・売れ筋の商品ばかりを前に出していた結果、それ以外が“伝わる場”を失っていた

このように、「整理された情報」は、伝え方の土台になります。
伝える順番・見せる組み合わせ・ラベルの言葉ひとつで、印象は大きく変わるのです。

たとえば、同じ商品でも──
「この商品は高いけれど長持ちします」ではなく、
「同じジャンルで比較すると、実は10年スパンでは一番コストパフォーマンスが高いんです」と伝える。
これは、事実の変換ではなく、“伝え方の設計”です。

整理されていないものは、どう伝えるかも定まりません。
逆に言えば、整理ができれば“まだ伝えられていない価値”に手が届くのです。

売るためだけじゃなく、ちゃんと伝えるために整理する。
その発想が、売れない商品との関係を変えていくかもしれません。

第4章:展示や紹介の“意味”を、チームで共有する

商品の整理や伝え方を見直す中で気づくのは、
「これは売れないけれど、置いてある意味がある」という商品が意外と多いということです。

たとえば、売れ筋商品の隣に置かれることで「比較されるために存在している」商品。
あるいは、選ばれることは少なくても「ラインナップ全体の印象を支えている」商品。
こうした存在には、数字には出ないけれど確かな意味があります。

ただ、それをチーム全体で共有できていないと──
「なんでこれ、まだ扱ってるの?」
「場所を取るだけじゃない?」
そんな声が出てきてしまいます。

商品そのものを守るためではなく、
意図のある展示・紹介ができるチームにするために
「この商品は、こういう意図でここにある」という認識を言葉にしておくことが大切です。

たとえば、こんなふうに整理してみることができます。
比較の起点になる商品:売るためというより、“選ばせる”ために必要
ラインナップの幅を感じさせる商品:安心感や多様性の演出に貢献
未来提案のための商品:いまは選ばれなくても、「こういう選択肢もあります」と伝える材料

こうした“語りの補助線”が共有されていると、営業や接客の現場でも
無理に売ろうとするのではなく、「どう見せればよいか」が明確になっていきます。

展示とは、在庫ではない。
展示とは、対話のきっかけであり、選択の幅であり、
「この会社は、どういう姿勢で商品を見せているのか?」というメッセージでもあります。

だからこそ、「なぜここにあるのか?」という問いと、それに対する答えを
チームで共有できているかどうかが、売れない商品との付き合い方を変えていくのです。

第5章:「売れるかどうか」ではなく、「どう扱うか」を判断できるチームへ

商品を整理し、見せ方を見直し、社内でその意味を共有していく──
そうした一つひとつの積み重ねが、チーム全体に変化を生みはじめます。

その変化とは、
「売れない商品をどうするか?」という話を、ただ感覚や前例で済ませずに
「今のラインナップに、この商品はどう位置づけられるのか?」
「この商品を扱う意味は、現時点でも十分にあるのか?」
と、自ら問い、判断する力が育っていくことです。

たとえば、こんな場面で違いが表れます。
• 「これはずっと売れてないから、もういいよね?」という声に対して、
 →「今は売れていないけれど、〇〇の比較軸として必要なんです」と返せる
• 「展示するには弱いよね」と言われたときに、
 →「展示というより、これは“対話の起点”として置いているんです」と位置づけを共有できる

このように、**商品の有無を“数字だけで決めない視点”**が生まれてくると、
売れない商品に対する会話そのものが変わっていきます。
誰かが一方的に決めるのではなく、現場とマネジメントが同じ地図を見ながら、
「扱い方そのもの」を戦略的に考えられるようになるのです。

大切なのは、「売るか、やめるか」の二択だけにしないこと。
ときに、“あえて置く”“あえて伝える”という選択もまた、有効な戦略になり得ます。

そのためには、問いを立て、整理し、伝え方を設計し、それを共有するプロセスが必要です。
そして、それを繰り返すうちに、チームは“売上を出す”だけではなく、
「判断できる組織」へと変わっていくのです。

まとめ:問い直す力が、商品にもチームにも変化を生む

「売れないものを、どうするか?」

この問いに向き合うとき、
私たちはつい“売上”や“数字”だけを判断基準にしてしまいがちです。

でも、売れていないからといって、すぐに「いらない」と決めてしまう前に──
その商品の存在が、選ばれるプロセスの中でどんな役割を果たしているのか。
ラインナップ全体の中で、何を支えていたのか。
そうした視点をいったん整理してみることには、十分に意味があります。

そしてその整理は、
伝え方や見せ方、さらにチームの中での共有や対話へとつながっていきます。

・なぜこれを展示しているのか
・誰にどう伝えたくて、どこに置いているのか
・その理由を、自分たちの言葉で説明できるか

それができるチームは、たとえ同じ商品ラインナップであっても、
「売る」ことだけでなく「扱う」ことそのものに意味を持たせることができます。

この取り組みは、劇的な改革ではありません。
でも、小さな問いを起点に、少しずつ見方を変えていくことで、
商品との関係性も、チームの判断力も、確実に変わっていくはずです。

売れないものをどう扱うか──その問いが、
自分たちのあり方を映し出す“鏡”になることもあるのです。

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「優しいね」と言われてきたあなたへ──“らしさ”を自分で選び直すということ

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1. はじめに

「優しいね」「しっかりしてるね」「落ち着いてるね」。
昔から、よくそんなふうに言われてきた。

もちろん、それを言ってもらえるのは嬉しいし、ありがたい。
実際、自分でも「そうありたい」と思ってきた部分はあるし、
その評価に違和感があるわけでもない。

でも時々、ふと考えることがある。
──これは“私”そのものなのか、それとも“役割”として身につけてきたものなのか。

たとえば、家族の中で自然と空気を読んだり、
職場で相手に合わせて言葉を選んだり。
気づけば「そう振る舞ってきた自分」がいて、
それがそのまま“評価”になっている気がする。

今回の記事では、そんな“長女っぽい”私を自認しているとあるクライアントさんが、
他者からの評価をどう受け取り、それをどう自分の中に位置づけていくのか

コーチングセッションで一緒に見つめ直した、そのプロセスをご紹介します。

2. 「長女っぽい」と言われる私のこれまで

今回ご紹介するクライアントさんは、自分のことを
「長女っぽいって、よく言われます」と表現しました。

話を聞いていくと、それが決してネガティブな意味ではなく、
これまでの人間関係の中で自然に身につけてきたスタイルであることが伝わってきました。

子どものころから
「しっかりしてるね」「空気が読めるね」「よく人に譲っているよね」と
言われることが多かったそうです。

特別頑張ってそうしてきたわけではないけれど、
気づけば人に気を配り、場に合わせて振る舞うことが“当たり前”になっていた。

その延長にあるのが、今の職場での評価です。
「優しい」「頼りになる」「落ち着いてる」など、周囲からの信頼を集めている。
そしてご本人も、その評価を概ね納得し、むしろ「ありがたいこと」として受け止めている。

ただ、そのうえでふと立ち止まったんです。
「これって本当に“私らしさ”なんだろうか?」
「もし私が“長女っぽくない人”だったら、どう振る舞っているんだろう?」と。

こうした問いは、自己否定から生まれるものではなく、
むしろ「今の自分を見つめ直す」という前向きな探求心から出てきたものでした。
そしてこの探求が、他者評価を“外の声”ではなく“自分の選択の結果”として受け止めていくプロセスの入口になっていきます。

3. 「落ち着いてるね」の奥にある感情と行動

クライアントさんは、職場でもよく「落ち着いているね」と言われるそうです。
プレッシャーがかかる場面でもいい意味でマイペースで、周囲に安心感を与えている──
そうした印象を持たれていることに、ご本人も納得している様子でした。

でも、本人の内側ではこんな感覚の時もあると言います。

「実はけっこう、焦ってるんですよね。
でも表に出さないようにしてるというか、
たぶん、出ないように“してる”んです。」

この言葉が出てきたとき、「落ち着いている」という状態の中には
“感情”と“行動”の二層構造があることが浮かび上がってきました。

外から見えるのは「行動としての落ち着き」。
でもその内側には、「揺れ」や「戸惑い」といった感情がある。
それらを無理に押し殺しているわけではないけれど、
ちゃんと見極めて、自分の中で「整える」ようにしている。

つまり彼女は、感情を“なくしている”のではなく、
感情を抱えたままでも、落ち着いて行動できる状態を
自分なりに作っていたということです。

この気づきは、彼女にとっても大きなものでした。
「ちゃんと感じてる自分」も、「落ち着いて動けている自分」も、
どちらも間違いなく自分なんだと認められたことで、
それまでよりも少しだけ、肩の力が抜けたように感じました。

4. 優しさと境界線──どちらも守っていい

クライアントさんは、「人に優しくしたい」という気持ちをとても大切にしている方です。
職場でもプライベートでも、相手の気持ちを思いやって接している。
その姿勢が、周囲からの「優しい」「気が利く」「頼りになる」といった評価にもつながっています。

でも、その“優しさ”が、時に自分自身を苦しくさせてしまうことがある。
たとえば、本当は余裕がないのに「大丈夫です」と言ってしまったり、
誰かのために行動しすぎて、自分の時間やエネルギーがすり減ってしまったり。

こんなふうに語ってくれました。

「“いい人でいたい”というより、“そういう自分でいたい”という気持ちなんです。
でも、その分、自分に無理させてるときがあるのもわかってて……。
気づかないうちに、自分の境界線が薄くなってるなって思うときがあるんです。」

この気づきもまた、とても大切なものでした。

人に優しくすることと、自分の境界線を守ること。
この2つは、相反するものではなく、両立していていいもの。
むしろ、自分をすり減らさずに人に接するためには、
「どこまでなら心地よく関われるか」という“優しさの半径”を知っておくことが必要なのかもしれません。

そして、それを知ることは、「自分を大切にする」という選択でもあります。
自分を雑に扱ったまま、他者に丁寧には接し続けられないからこそ──
優しさと境界線、どちらも守っていい。
このシンプルだけど奥行きのある前提を、彼女は少しずつ自分の中に育てはじめていました。

5. 評価は“土台”にも“呪縛”にもなる

「優しいね」「落ち着いてるね」「しっかりしてるね」──
クライアントさんが受け取ってきた評価は、どれも温かく、信頼のこもったものです。
そしてそれは、まさに彼女がこれまでしてきた選択と行動の積み重ねに対する“結果”でもあります。

本人が意識していたかどうかにかかわらず、
彼女は周囲に安心感を与えるような振る舞いを、自然と選んできた。
だからこそ、その評価に納得できるということは、
「そうしたくて、そうしてきたんだって、自分でも思えること」
という自分への信頼でもあるんです。

こうした見方に立つと、評価というものは
“他人から与えられるラベル”ではなく、
**「自分が育ててきたひとつの結果」**として捉え直せるようになります。

ぼくが一番大切だと思うのは、

自分の選択を肯定しながら、これからの選択も自由にできる。

ということ。

今までは「しっかりしてなきゃ」「落ち着いて見られてるから」──
そんな無言の期待に応えようとしていたかもしれない。
でも、評価を「過去の自分が築いてきたもの」として受け止められたとき、
そこに縛られる必要はないことにも気づけたんです。

「そういう自分でありたい」と思えば、これからもそうしていける。
でももし違う選択をしたくなったら、それも自分で決めていい。
評価を“自分の軸”にしながらも、進む方向は自由に選んでいい。

彼女の中に、そんな柔らかくもしなやかな自覚が芽生えていくのを感じました。

6. おわりに

「長女っぽいよね」と言われてきた彼女には、
人を思いやる力や、場を整える力が、自然と備わっていました。
そしてその力は、彼女自身が無意識のうちに選び、磨いてきたものでもあります。

他者からの評価は、外側からのラベルに見えるかもしれません。
でもそれは、自分が選んできた行動や姿勢の“積み重ね”に対する反応でもある。
だからこそ、その評価に納得できるということは、
**「私はそうしたくて、そうしてきた」**という自分への肯定でもあるんだと思います。

ただ、どんなにその評価がポジティブなものであっても、
それに縛られ続ける必要はありません。

これまでを肯定しながら、これからの選択は自由にできる。
そう思えることが、ほんとうの意味で「自分らしさ」を大切にするということかもしれません。

ぼくは、彼女のその姿勢にとても希望を感じました。

さて、ここまで読んでくださったあなたに、ひとつだけ問いかけを残して終わりにします。

あなたが今、大切にしている“らしさ”は、どんな選択の積み重ねからできていますか?

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「話すのが苦手」は変えられる──脳と心を整える“言葉の筋トレ”

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1. はじめに:話すのが苦手だと思っているあなたへ

「自分の気持ちをうまく言えない」
「何を話したらいいのか、頭が真っ白になる」
「会話の途中で、“これでよかったのかな?”と不安になる」

そんなふうに感じたことはありませんか?
もしあなたがそう感じているなら──安心してください。それは「あなたがダメだから」ではありません。
そして、それは変えていけるものです。

今回のテーマは、あるクライアントさんとのコーチングセッションがきっかけで生まれました。
その方がふと口にした「コミュニケーション、やっぱり苦手で…」という言葉から、
“話すこと”や“言葉にすること”について、改めて深く考える機会をもらったのです。

「話すのが得意な人」はたしかにいます。
でも、彼らが最初から“話す才能”を持っていたとは限りません。
むしろ、言葉にする力は、後天的に伸ばせるスキルだということが、心理学や脳科学の研究からも明らかになってきています。

このブログでは、「話すのが苦手」と感じている人が、
どうすれば少しずつ“言葉にする力”を育てていけるのか──
そのヒントを、科学的な根拠実際の気づきを交えて紹介していきます。

2. 「話す力」は、あとからでも育つ

「自分は話すのが苦手なんです」
そう言う人の多くが、「話すのが得意な人は、もともとそういう素質がある」と思い込んでいるように見えます。
でも実は、“話す力”や“言葉にする力”は、生まれつきの才能ではなく、後天的に伸ばすことができるスキルです。

これは、脳科学でいう「神経可塑性(Neuroplasticity)」という概念とも関係しています。
神経可塑性とは、経験や反復によって脳の神経回路が再編成され、機能そのものが変わっていく仕組みのこと。
つまり、言葉にするという行為を繰り返すことで、私たちの脳は「言語化の通り道」を強化し、よりスムーズに考えや気持ちを言葉にできるようになるのです。

これは、ぼく自身がコーチングの現場で日々実感していることでもあります。
たとえば、最初のころは「うまく話せない」「どう伝えればいいかわからない」と戸惑っていた方が、
セッションを重ねるにつれて少しずつ変化していくことがあります。

その変化は、単に話す内容が整っていくというよりも、
**「行動につながりやすい視点の持ち方」や「行動につながりやすい言葉遣い」**が上手くなっていく、という形で現れることが多いです。

つまり、話し方や言葉の選び方が変わることで、
考え方にも影響が生まれ、最終的には行動まで変わっていく。
これもまさに、言語化を通じて脳が変化し、現実に働きかける力が育っていくプロセスだとぼくは感じています。

「話す力」がある人というのは、才能があるからではなく、
そうした積み重ねを経て、“言葉を使って前に進む”回路ができている人なんだと思います。

そんなふうに、言葉にする力は筋トレのように少しずつ育っていきます。
次の章からはその“トレーニングの仕方”を、科学と実体験の両面からご紹介していきます。

3. 言葉が、こころの“混線”をほどいてくれる

「なんだかモヤモヤする」
「理由はよくわからないけど、気分が沈んでる」

こうした状態のとき、感情や思考が“混線”していることがあります。
でも、そんなときに「なんで自分はモヤモヤしてるんだろう」と問いかけてみたり、
「ちょっと疲れてるかもしれないな」とつぶやいてみたりするだけで、
気持ちが少し落ち着くことってありませんか?

実はこれ、偶然ではありません。

感情を言葉にすることには、脳科学的にもはっきりとした効果があります。
アメリカの研究者マシュー・リーバーマンの実験によると、
自分の感情を言葉で表現する(アフェクト・ラベリング)と、感情の中枢である扁桃体の活動が低下することが分かっています。
つまり、「ムカついてる」「不安だ」「なんか疲れてる」と言葉にするだけで、気持ちが整理されやすくなるということ。

言葉にすることは、単なる“説明”ではなく、
感情と距離をとるための技術でもあるのです。

ぼくがセッションでご一緒している方の中でも、
「言語化するだけで、自分の気持ちがはっきり見えてきた」と話してくれる場面があります。
一見ネガティブに見える気持ちも、
「ちゃんと自分にとって意味のある感情だったんだな」と腑に落ちるだけで、ぐっとラクになることがあるんですよね。

大切なのは、“うまく話す”ことではなく、
いま感じていることを、そのままの言葉で置いてみること
それだけでも、心は少しずつ整っていきます。

4. 話すことが怖いあなたに、ちょっとした入口を

ここまで読んで、「言葉にすることって大事なんだな」と感じてくれた方もいるかもしれません。
でもきっと、こんなふうにも思うはずです。

「でもやっぱり、言葉が出てこないんだよな」
「どこから手をつけていいのか、わからない」

そんなとき、いきなり“うまく話そう”としなくていいんです。
大切なのは、**まず「ちょっと言ってみる」「ちょっと書いてみる」**こと。
それだけで、脳の中にはちゃんと“言語化の回路”が少しずつ育っていきます。

たとえば、こんなシンプルなことから始めてみてはどうでしょう?
ここからは、ぼくがクライアントさんに実際におすすめしている“言葉のストレッチ”を3つ紹介します。

📓 一言日記をつけてみる

「今日は〇〇でうれしかった」
「なんとなく疲れてた。たぶん△△のせい」
一言でいいんです。正確じゃなくても、きれいな言葉じゃなくても大丈夫。
「いまの自分にとってリアルな言葉」を出してみることに意味があります。

🗣 声に出して読んでみる

書いたことを、少しだけ声に出して読んでみるのもおすすめです。
自分の言葉を、自分の耳で聞いてみる。
それだけで、「あ、自分はこう思ってたんだな」と気づけることがあります。

💬「正しい言い方」より「出すこと」が大事

話すのが苦手な人ほど、「どう言えば正しいんだろう」と考えすぎてしまいがち。
でも、本当に必要なのは**“出してみる”こと**です。
少しくらい違和感があっても、曖昧でも、まずは出す。
そこから少しずつ、言葉の輪郭がはっきりしてきます。

こうした小さな「言葉のストレッチ」を続けていくうちに、
「前より言いやすくなったかも」と感じる瞬間が出てきます。
そしてその小さな成功体験が、自信や前向きな感覚につながっていきます。

“話すのが苦手”という自分に優しく向き合いながら、
まずは「出すことから始めてみる」──その選び方こそ、
言葉とのいい関係をつくる第一歩になるんじゃないかと思います。

5. さいごに──言葉は、あなたの味方になる

「話すのが苦手」
そう思う気持ちは、決して否定すべきものではありません。
その背景には、まじめさや、慎重さ、人への思いやりがあることも多いからです。

でも同時に、「話すのが苦手」と決めつけてしまうことで、
本当は届けたかった自分の思いや、本音や、小さな願いをしまい込んでしまうのも、少しもったいないなと思うのです。

このブログで紹介してきたように、
言葉にする力は、生まれつきの才能ではなく、あとから育てることができる力です。
神経可塑性の考え方が示すように、言語化を繰り返すことで脳の回路は変わり、
言葉は少しずつ、あなたの中で“使えるツール”になっていきます。

その変化は、たとえ小さくても、ちゃんと実感できる形で現れてきます。
・気持ちが整理できた
・人と話すのがちょっと楽になった
・自分のことを、少し前より理解できた気がする
そんな体験を、あなたにも味わってほしいと思っています。

言葉は、うまく使わなければいけない“武器”じゃありません。
自分自身を守ったり、整えたりする“味方”になってくれるものです。

最初の一歩は、たった一言からで十分です。
自分のために、自分の気持ちを、ちょっとだけ言葉にしてみる。
その繰り返しが、未来のあなたにとって、きっと大きな支えになってくれるはずです。

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行動量とフォローアップ──営業を“継続できる人”になるためのヒント

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1. はじめに──「いま動くべき」営業とは?

「とにかく動け」「数を打てば当たる」──営業の世界では、そんな言葉を聞くことがあります。たしかに行動量は成果に直結する大切な要素です。でも、それだけで本当に成果が出るかというと、現実はもう少し複雑です。

9月末決算のとある営業パーソンとの先月(5月)のコーチングセッションで、
あらためてそのことを感じるやりとりがありました。
「今年度、残り数ヶ月。いま動けなきゃ、たぶん流れる」
この感覚には、“焦り”というより、「いまだからこそ動く理由」が込められています。

「いま動くべき」とは、単にがむしゃらに動くことではありません。
自分の目標やタイミングを見極めたうえで、“意味のある一手”を積み重ねていくこと。

この記事では、営業の現場で“勢い”をつくりながら、信頼を積み重ねていくスタイルについて紹介していきます。

2. “いま動くべき理由”が明確な人は、行動に軸がある

「いま動かなきゃ」──そう思っても、どこから手をつければいいかわからない。
そんなとき、多くの人は“動くこと”より先に、“迷うこと”に時間を使ってしまいます。

先月のコーチングセッションで、ある営業パーソンと一緒に6月・7月の見込み案件を整理しました。
動くべきタイミングや、注力すべき対象が明確になってくると、「この期間は営業強化のフェーズ」と、自分なりの方針が定まっていきました。

行動量を出せる人、継続して動ける人には、共通して「判断の軸」があります。
たとえば──
• 新規だけでなく、「過去の商談相手」にもあえてアプローチしている
• 同僚への相談や、社内の協力体制づくりを“計画的に”進めている
• 「このタイミングで30社フォローアップ」と数字を明確に定めている

動く理由が曖昧なままだと、行動も散らかります。
でも、「この期間で何を掴みたいか」が見えてくると、迷いが減り、継続しやすくなる。
行動量が安定して出せる人ほど、自分なりの判断軸を持っているものです。

3. 行動が続く人の共通点──“リズム”を自分でつくっている

行動量は、気合や気分に頼っていると長続きしません。
続けられる人は、特別な意志力があるわけではなくて、自分なりの“リズム”を持っていることが多いです。

たとえば、先ほど紹介した営業パーソンの場合。
「今月中に30社フォローアップする」と数字を明確に掲げた上で、
• 朝イチで同僚に相談する
• 自分のスキルを求めてくれそうな顧客に、順番に声をかけていく
• 営業チームにもフォローアップリストを渡して協力体制をつくる

など、毎日の動きに小さな仕掛けを入れてリズムを整えることにしました。

ポイントは、「一気にやる」ではなく「自然と続く流れをつくる」こと。
予定が入らない日でも「誰かに相談する」「ひと声かける」といった小さな動きを積み重ねることで、行動の流れは止まりにくくなります。

そしてこのリズムは、周囲との関係にも波及します。
社内の誰かを巻き込んで動ける人は、“相談できる関係性”も日々の行動で育てているのかもしれません。

4. フォローアップは「紹介」と「信頼」の起点になる

フォローアップという言葉には、どこか“おまけ”のような印象があるかもしれません。
でも、実際の現場ではむしろ、**フォローアップこそが「信頼関係の本番」**と言える場面が多くあります。

一度やりとりをしたものの、その後話が止まってしまっているお客様。
その存在を「まだ見込みが薄い」として放置するのか、
「今こそもう一度声をかけるチャンス」と捉えるのかで、次の動きは大きく変わります。

今回のセッションでは、過去の商談相手や既存顧客へのアプローチを改めて見直しました。
そのなかで出てきたのが、**「そういえば、あのときの●●さんにも連絡してみよう」**という気づき。
実際、このひと声が関係性の再接続につながることもあります。

また、社内に向けて「こういうお客様、今いませんか?」と具体的に聞いてみることで、
思いもよらない紹介や新しい情報が入ってくるケースもある。

紹介は、狙って得るものではなく、日々の積み重ねの中から自然に返ってくる、信頼の先にある“ギフト”のようなものです。

フォローアップとは、「売り込む」ではなく、「気にかけている」という姿勢を示す行為。
それが結果的に、紹介や次の商談の“種”を育てる動きになっていきます。

5. 「売る営業」より「思い出される営業」

目の前の数字を追いかけていると、「どう売るか」「どう契約を取るか」に意識が偏りがちです。
でも、実際の現場では──とくに関係性がものを言う営業では──**「売ろうとしない人」の方が信頼される**という場面もよくあります。

たとえば、「あのとき丁寧に話を聞いてくれた人」とか、
「こちらの状況をよく覚えてくれていた人」って、時間が経ってもふと“思い出す”ものです。
そして、そのときに“また声をかけよう”と思ってもらえるかどうかが、大きな差を生みます。

今回のセッションでも、このクライアントさんが元々大事にしてきた「思い出される関係性」を意識した動き方を、あらためて整理していきました。
新しい提案を出すことだけが営業じゃない。
必要なときに「そうだ、この人に相談してみよう」と思ってもらえる状態をつくる。
そのために、普段からのフォローアップや、小さな接点づくりを積み重ねていくんです。

「自分のスキルで誰かの役に立ちたい」「ちゃんと価値を届けたい」──
そんな思いをもって動いている人ほど、その姿勢は自然と相手に伝わります。
そして、相手の記憶の中に“信頼できる誰か”として残っていきます。

“売るための営業”ではなく、“思い出してもらえる営業”。
それは、焦らず・途切れず・気にかけ続ける人にしか、つくれない関係なのかもしれません。

6. おわりに──動き続けることが、信頼を育てる

営業という仕事の面白さは、「今」の行動が、ずっと先の未来に返ってくるところにあります。
すぐに成果が出ることもあれば、数ヶ月、あるいは数年越しで「またお願いしたい」と声がかかることもある。
その“時差のある成果”を信じて動き続けられるかどうかが、大きな分かれ道になるのかもしれません。

今回のセッションを通じて感じたのは、
行動量を増やすことも、リズムを整えることも、フォローアップを丁寧にすることも、
すべてが「思い出される存在であり続ける」ための工夫だということです。

営業は、“いま売る”だけがすべてじゃない。
むしろ、“また声をかけたいと思ってもらえる関係性”こそが、その人らしい営業スタイルの中心にある。
その関係性は、焦らず・丁寧に・動き続けることで育っていきます。

目の前の一歩を重ねることで、未来の誰かがあなたを思い出す。
それが営業の本質のひとつだと、ぼくは思っています。

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