期待されはじめた自分に戸惑ったら──思考と感情の渋滞をほどくシンプルな方法

最近、仕事の幅が広がってきた。

上司や先輩からの期待も感じる。

それ自体は嬉しいけれど、なぜか思考がまとまらず、気づけば頭も気持ちもパンパンに…。

本記事では、そんな“前向きだけど動きづらい”状態に陥ったとき、思考と感情の渋滞をほどくためのシンプルな整理法を紹介します。

「なんとなくうまく進めない」と感じている方に、実践しやすいヒントをお届けします。

1. はじめに

「最近、ちょっと任される仕事が増えてきたな」
「ありがたいことに、周りからの期待も感じる」
そんな実感が芽生えてくる時期って、ありますよね。

もちろん、前向きな気持ちがないわけじゃない。
むしろ、今の状況をちゃんと受け止めて、しっかり応えていきたいと思ってる。
でもその一方で──

「なんだか最近、頭の中がずっとごちゃごちゃしてる」
「気持ちは前に向いてるのに、思ったより体が重たい」
「なんとなく、いろんなことに“追いついてない”感じがする」

そんな感覚を抱えながら、日々を過ごしている人も多いのではないでしょうか。

それは決して「能力が足りない」からではなく、
シンプルに新しい状況での思考にまだ慣れていないだけ。
そこに「もっと応えたい」「自分ならできるはず」という前向きな気持ちが重なって、
気づけば、頭の中で思考と感情が渋滞しているような状態になるんです。

ぼく自身、これまで多くのビジネスパーソンのコーチングをしてきましたが、
この「期待されているのはわかる。嬉しい。けど、しんどい」という状況は、
20代後半の“これから伸びていく人たち”にとてもよく見られる現象だと感じています。

これはむしろ、成長のフェーズに入ったからこそ起こる自然な反応。
だからこそ、その波に押し流される前に、整理する力を身につけておくことが大切です。

この記事では、そんな「整理したいけど、何から手をつければいいかわからない」状態に向き合うために、
・今どんなことが頭の中で起きているのか?
・どうすれば“整理された自分”を取り戻せるのか?
・忙しい日々の中でもできる、小さな習慣とは?
というテーマで、一緒に考えていきたいと思います。

期待に応えたい。
でも、自分のペースも大切にしたい。
そんなあなたの、少しだけ立ち止まる時間になれたら嬉しいです。

2. やりがいと混乱は、セットでやってくる

「仕事、面白くなってきたな」
「やってみたいことに、手が届くようになってきた」
そんな前向きな手応えがあるときこそ、不思議と
「なんだか思うように動けない」
「集中しようとしても、途中で意識が散ってしまう」
──そんな“混乱”もセットでやってくることがあります。

これは決してネガティブなことではありません。
むしろ、**今のあなたが“前に進もうとしている証拠”**なんです。

やりがいがある、期待もされている。
でも、そのぶん“考えること”も、“選ぶこと”も、一気に増えてくる。

たとえば──
• 自分で判断しなきゃいけない場面が急に増える
• 関係者が増えて、情報も指示もあちこちから飛んでくる
• 一つの作業の裏にある「意味」や「責任」が重く感じるようになる

こういった状況が重なると、頭の中で自然と“整理のバッファ”が足りなくなってくるんです。

しかも、あなたはそれを前向きに受け止めている
「なんとか応えたい」
「ちゃんとやりたい」
そう思えば思うほど、自分の中で無意識にスピードを上げようとしてしまう
そして、そのスピードと処理量がアンバランスになったとき、
心や身体が「ちょっと待って」とブレーキをかけ始める。

これが、“やりがいがあるのに、うまく進めない”状態の正体です。

でも大丈夫。
この状態は、“実力不足”や“失敗”の前兆なんかじゃない。
ただ今のステージに、自分の思考のスタイルがまだ追いついていないだけなんです。
そして、それはほんの少し整理の仕方を変えるだけで、ぐっと変わることも多い。

次の章では、
「じゃあ今、自分の頭の中でどんなことが起きているのか?」を、
もう少し具体的に解きほぐしてみましょう。

3. 頭と感情の渋滞の正体は?

「なんとなくスッキリしない」
「優先順位が決められない」
「やることはわかってるのに、手が動かない」

──そんなとき、実際にあなたの頭の中では何が起きているのでしょうか?

ぼくがこれまで多くのビジネスパーソンと向き合ってきたなかで感じるのは、
この状態には**いくつかの“典型パターン”**がある、ということです。

① 情報と感情がごちゃ混ぜになっている

やらなきゃいけない仕事、気になること、ちょっと不安なこと。
それらがすべて「ひとまとまりのモヤ」として頭の中に漂っている。

明確に言語化されていなかったり、タスクリストに整理されていないと、
ただなんとなく「重たい」「落ち着かない」感じだけが残るんです。

② 「考えること」と「決めること」が混線している

• 情報を集めているつもりが、ずっと迷っている
• 判断する前に、あれもこれもと調べすぎてしまう
• 決断したつもりだけれど、「これでよかったのか?」と考え直してしまう

こういう状態もよく見られます。
頭の中で**“思考のプロセスが渋滞”**しているイメージですね。

③ 目に見えない“期待”や“プレッシャー”がずっと脳内にある

「この案件、ちゃんとやりきれるかな」
「次のステップを見据えた動き、できてるかな」
「期待されてるから、ちゃんと応えたい」

──こうした気持ちは、とても自然なものです。
でも、これが**無自覚な“背景ノイズ”**のようにずっと流れていると、
エネルギーを想像以上に消費してしまいます。

こうして、思考の中に混線やノイズが増えていくと、
実際のタスクはそれほど多くない日でも「疲れた」「もう動けない」と感じてしまうんです。

でも大丈夫。
この状態は、“実力不足”や“失敗”の前兆なんかじゃない。
ただ今のステージに、自分の思考のスタイルがまだ追いついていないだけなんです。
そして、それはほんの少し整理の仕方を変えるだけで、ぐっと変わることも多い。

次の章では、
この「頭と感情の渋滞」をほどくための、実際の整理ステップを紹介していきます。

4. 整理のための3ステップ

ここまで読んで、「たしかに今、自分の中で何かが混線してるかも」と感じた人もいるかもしれません。
でも安心してください。
この状態を解きほぐすのに、特別なツールやスキルは必要ありません。
ちょっとした視点の切り替えと、3つのシンプルなステップで、頭と気持ちの“余白”を取り戻すことができます。
ここからは、この状態を解きほぐすための、誰でも今すぐできる3つのステップを紹介しますね。

ステップ①:頭の中のことを、いったん“全部外に出す”

まずはここから。
ノートでも、スマホのメモでも、なんなら紙の裏でも構いません。
「今、自分の頭にあること」をとにかく全部書き出してみてください。

・やるべきタスク
・気になっていること
・未完了のやりとり
・やらなきゃと思ってるけど先送りしてること
・最近ひっかかってる感情や、引っかかってないけどなんとなく気になること

整理しようとせず、順番も無視してOK。
大事なのは、頭の中に“見えないかたまり”として存在していたものを可視化することです。

ステップ②:「意味」でまとめず、「構造」で分類する

書き出せたら、次は軽く仕分けてみましょう。
このときのポイントは、“意味”や“目的”でまとめようとしないこと。

たとえば──
• プロジェクト別に分ける
• 関係者ごとに分ける
• 今週中に終わること/長期的に考えること
• 外部とのやりとりが必要なもの/自分だけで完結できるもの

など、「構造」や「処理の性質」で分類するとうまくいきます。
頭の中で“ごちゃっと一塊になっていたもの”が整理されるだけで、
不思議と気持ちにも余裕が出てくるはずです。

ステップ③:「不安」や「焦り」ではなく、“今のボトルネック”を基準にする

最後に、「じゃあ、何から手をつける?」という問いに戻ってきたとき。
ここで大切なのは、感情ベースで優先順位を決めないことです。

「不安だから、これをやらなきゃ」
「やってないことで気まずくなるから、こっちを先に」

──このような“気持ち基準”は、頭の中をまた混乱に戻してしまいます。

そうではなくて、
「いまの自分の動きが止まっている一番の原因は何か?」
を探してみてください。
それがタスクであれ、迷っている決断であれ、感情であれ、
一番のボトルネックを1つだけ選ぶ。

そしてその上で、そのタスクの「最初の3ステップ」を書き出してみるのがおすすめです。
それぞれのステップは、**“5分で終わるぐらいの小ささ”**が理想。

たとえば──

・メールの下書きを開くだけ
・必要な資料のファイル名を調べる
・依頼する相手に「5分だけ相談させて」と声をかける

そんな“はじめの一歩”だけで、ぐっと動き出せる感覚が戻ってきます。

この3つのステップを「すべて完璧にやる」必要はありません。
たとえば、ステップ①の書き出しだけでも効果はあります。
大事なのは、**思考と感情をごちゃ混ぜのまま抱え込まず、“一度ひらいてあげること”**です。

次の章では、この整理を日常の中で“習慣化”していくための、小さな工夫についてお話しします。
一度スッキリした自分を、どうやって保っていくか──そこが、安定感のある成長の鍵です。

5. 忙しいときでも整え直せる“小さな習慣”

頭の中をいったん外に出して整理してみると、
「思っていたより少ないな。ただごちゃごちゃしてただけだった」
──そんなふうに感じる人も多いかもしれません。

でも、日々の忙しさのなかで、
この“整理の時間”を毎回丁寧に取るのは、正直むずかしい。

だからこそ大事なのが、日常に組み込める“小さな習慣”を持っておくことです。
ここでは、そんな習慣を3つ紹介します。

習慣①:朝イチに「脳内メモ」を3つ書く

朝の仕事前に、スマホでも手帳でもOK。
「今、気になってること・やろうとしていること・止まっていること」を3つだけ書き出す。

このときの目的は「全部を管理すること」ではなく、
“今の自分の思考の中心にあるもの”を浮き彫りにすること

1日のスタートに“自分の内側”を整理しておくと、
その日1日がぐっとスムーズに回り始めます。

習慣②:「ひとこと棚卸しタイム」を1日1回つくる

夜や仕事終わりに、ほんの5分でもいいので、
**「今日いちばん意識が引っ張られていたのは何か?」**をひとことで書いてみてください。

・朝のミーティングの件がずっと気になっていた
・納期が重なっている案件が頭から離れなかった
・やろうと思っていたのに、着手できなかったことがある

気づきの言語化は、脳にとっての“クールダウン”。
溜まっている情報や感情が「見える化」されるだけで、脳の疲れがスッと引いていきます。

習慣③:「動ける自分」の再起動スイッチを持っておく

どうしても動けないときや、頭が混乱しているときのために、
自分にとって“動ける状態に戻るためのスイッチ”を用意しておくのもおすすめです。

たとえば──

・お気に入りのカフェで5分間、何も考えずにコーヒーを飲む
・いつものBGMをかけて、深呼吸してからパソコンを開く
・「まず1個だけ」チェックリストに✓を入れてから本格始動する

人は「きっかけ」があると、思った以上にすぐ切り替えられるもの。
ルーティンではなく“リカバリーのトリガー”になる動作を1つ持っておくだけでOKです。

習慣というと、どうしても“続けなきゃいけないもの”に感じてしまうかもしれません。
でもここで大事なのは、「日常の中に織り込める、整え直す選択肢を持っておくこと」。

完璧じゃなくていい。
でも、自分に戻れる場所をちゃんと知っておくこと。

それが、忙しさの波に飲まれず、長く心地よく働き続けるための力になります。

6. おわりに

仕事の幅が広がってきた。
周りからの期待も少しずつ感じるようになってきた。
──それは、あなたがちゃんと成長してきた証だと思います。

でもそのぶん、
頭の中は忙しくなり、感情も揺れやすくなって、
「自分って今、ちゃんと前に進めてるのかな?」と
立ち止まることもあるかもしれません。

そんなとき、思い出してほしいのは──
“やる気”や“覚悟”だけで進み続けなくても大丈夫だということ。
むしろ、一度立ち止まって整理することが、次に進むエネルギーをつくることもあるんです。

整理する力は、成長する力とつながっています。
「今、こんな状態だな」と把握できることは、もうすでに前に進んでいる証拠。

完璧じゃなくていい。
まずは頭の中を少しだけ“ひらいてみる”ことから始めてみませんか?

その小さな一歩が、
今の自分にちゃんと合ったペースで、前に進んでいく力になっていきます。

ここまで読んでくれて、ありがとうございました。
この記事が、あなたの「今」と「これから」をつなぐヒントになれば嬉しいです。

「ありがとう」と「数字」を共有する営業所は、なぜ強くなるのか?

――とある営業所長との対話から見えた、“信頼の空気”をつくるふたつの鍵

第1章 はじめに

「所内の空気は悪くないし、売上も上がっています。

でも…どこかに“温度差”がある気がするんです。」

そんな言葉から始まった、とある営業所長とのコーチングセッション。

その方はこれまで複数の営業所で経験を重ね、今年4月に現在の営業所に着任しました。

プレイヤーとして結果を出しながら、育成にも真剣に取り組んできた方です。

今回の営業所でも、数字は安定しており、外から見れば順調に見えます。

しかし、着任から数週間、所内を丁寧に観察する中で、

少しずつ“見えない課題”に気づきはじめました。

「課をまたいだ連携が弱い気がする」

「非営業部門の動きに、やや“やらされ感”がある」

「報告や会議はあるけれど、行動の芯が揃っていない感じがする」

こうした感覚は、制度や仕組みの問題というよりも、空気の問題です。

表には見えにくいけれど、確実に営業所全体の力に影響しているものだと感じさせる内容でした。

その違和感に、正面から向き合おうとする姿勢に、

コーチとしての私も強く共感しました。

コーチングセッションを進めていく中で、とある営業所長の中に少しずつ浮かび上がってきたのが、

「ありがとうをもっと増やしたい」

「数字をもっとオープンにしていきたい」

という、ふたつのキーワードです。

どちらもシンプルな言葉ですが、

背景には「この営業所を、もっと信頼でつながった場所にしたい」という思いがありました。

この記事では、とある営業所長とのコーチングセッションを通じて見えてきた、

営業所全体を“信頼で動く組織”に育てていくための具体的なヒントを、

コーチとしての視点からお伝えしていきます。

第2章|数字を全所員と共有する──“営業所のひとつの船”としての自覚を育てる

コーチングセッションの中で、このクライアントさんはこんな話をしてくれました。

「営業のメンバーは、自分の数字とか、自分の課の数字にはちゃんとこだわるんです。

でも、“営業所全体の数字”に対しては、あまり関心がないというか…

そこへのこだわりが、もう少し欲しいなと思ってるんですよね。」

そしてもうひとつ。

「非営業のメンバーにも、もっと“数字への意識”を持ってもらいたい」とも話してくれました。

これは、営業所という単位でマネジメントをしていく上で、非常に本質的な課題だと感じました。

個人や課が目標に向かって努力する姿勢はもちろん大事です。

でも、それだけでは営業所全体の一体感や連携は生まれてきません。

営業所という「ひとつの船」を意識できるか

営業所は、ひとつのチームではなく、複数の課や機能が集まった集合体です。

それぞれが目標に向かって動いているからこそ、

全体を“ひとつの船”として動かしていくには、意識のベクトルを揃える必要があります。

クライアントさんはこう話していました。

「自分の数字は気にする。自分の数字をやっていれば営業所の数字はなんとかなるだろうってなりがちなんです。」

この“他人任せの空気”を変えていくためには、

やはり営業所全体の数字を「見える化」していくことが大切です。

・今、営業所はどんな状況なのか?

・どこに強みがあって、どこに弱点があるのか?

・数字の意味や背景を、全体で共有できているか?

数字の見せ方を工夫することで、営業所内に「共通言語」を育てていくことができます。

非営業メンバーの“数字感覚”を育てる

クライアントさんがもうひとつ強く望んでいたのは、

非営業メンバーにも“数字へのこだわり”を持ってほしいということでした。

でも、非営業の立場からすると、

「自分の仕事が数字とどうつながっているか」は見えにくいものです。

だからこそ、所長であるクライアントさんが、そのつながりを丁寧に言葉にしていくことが求められています。

・この仕事が、どういう数字に影響しているのか

・それが営業所にとって、どんな意味を持つのか

・その一手が、営業所の“力”をつくっていること

情報をただ共有するだけでなく、「腹落ち」してもらうことが大切です。

全員が“同じ数字”を見ているという感覚

クライアントさんは今後、営業所会議の場で、

経営の数字を全所員と共有していく予定です。

もちろん、細部まで細かく開示するわけではありません。

けれど、「この営業所は今こういう状況にある」

「この目標を達成するには、こういう力が必要なんだ」

というメッセージを、自分の言葉で伝えていくつもりだそうです。

数字を開示するのは、管理や評価のためではなく、

“一緒に動いていくための言葉”を整えることなのだと感じます。

全員が「自分の数字」「自分の課の数字」だけでなく、

「営業所全体の数字」も“自分ごと”として見られるようになったとき、

ようやく営業所は“組織としての力”を発揮しはじめるのではないでしょうか。

次章では、もうひとつのキーワード「ありがとう」を通じて、

“関係性の空気”をどう整えていくかを掘り下げていきます。

第3章|“ありがとう”が自然に生まれる営業所とは?

前章でお伝えしたように、このクライアントさんは、営業所全体のベクトルを揃えるために、

まず「数字を全所員と共有する」ことに取り組もうとしていました。

営業のメンバーは自分や課の数字には強くこだわる一方で、

営業所全体の数字には無関心になりがち。

また、非営業のメンバーは数字とのつながりを実感しづらく、当事者意識を持ちにくい。

そこで、数字を“見える化”し、みんなで同じ方向を向けるようにする――

このアプローチは、所長としての意思ある一歩でした。

けれど、コーチングセッションのなかでぼくと対話を重ねていく中で、

クライアントさんは、ふとこうつぶやきました。

「数字を共有すれば、確かに意識はそろうかもしれません。

でも、それだけで営業所が一体感を持って動けるようになるとは思えなくなってきました。」

数字で方向をそろえるだけでは、心のベクトルを揃えることは難しい

クライアントさんが感じていたのは、

「全体の目標はある。でも、個々の行動や関わりには“温度差”がある」という感覚でした。

そのとき、以前から頭の片隅にあったキーワードが、再び浮かび上がってきました。

それが――**「感謝される営業所」**です。

この言葉を思い出したとき、クライアントさんの中で、ある確信が生まれました。

お客様に「ありがとう」と言われる組織になるためには、まず自分たちが、互いに積極的に感謝を表現する必要がある。

「感謝される営業所」の第一歩は、営業所のなかで『ありがとう』が自然に飛び交う空気をつくることだ――

そんな考えに至ったのです。

「ありがとう」は、感情のベクトルをそろえる

クライアントさんは言います。

「ありがとうって、気づいたときに自然に出る言葉じゃないですか。

でも、その“気づき”自体が、今ちょっと薄れている気がするんです。」

ありがとうの言葉が自然に出てくるようになるためには、

お互いの動きや思いを“見る”力が必要です。

そしてその根っこには、「この場所を良くしたい」「一緒にやっていきたい」という

感情の方向性=ベクトルの一致があります。

感謝を“増やす”というマネジメント

クライアントさんは、感謝の言葉を増やすことを、

単なる“雰囲気づくり”とは捉えていませんでした。

むしろ、それを営業所の基礎力を上げるアプローチだと考えています。

・小さな気づきを見逃さない

・役割や立場を超えて声をかけ合う

・「助かった」「ありがたい」をためらわずに言葉にする

こうしたことが日常的に行われるようになると、

数字や制度では生まれにくい“関係性の信頼”が育っていきます。

「ありがとう」が飛び交う営業所にしたい。

その思いは、どんなマネジメント手法よりも、

このクライアントさんのあり方そのものを体現しているように感じました。

次章では、このような空気を営業所全体に広げていくために、

どんな“仕掛け”が考えられるのかをご紹介していきます。

第4章|言葉を空気に変えていくための「仕掛け」

「営業所のなかに“ありがとう”が飛び交う空気をつくりたい」

そんな思いを口にしたこのクライアントさんの言葉を受けて、

ぼく自身も、感謝の言葉が自然と交わされる組織にはどんな共通点があるのかを改めて考えていました。

その中で浮かんできたのが、「仕掛け」というキーワードです。

“いい雰囲気になったら感謝が増える”のではなく、

意図して空気をつくるための導線を用意することが必要なのではないかと。

雰囲気ではなく、仕掛けで空気をつくる

「ありがとう」は、自発的な言葉だからこそ力を持ちます。

でも、それを職場で自然に交わし合うには、ちょっとしたきっかけや仕組みがあった方がいいと感じています。

たとえば──

•面談や振り返りの場で「感謝したこと・されたこと」を言葉にする時間をつくる

•チャットやホワイトボードに“ありがとうメモ”を貼れるスペースを設ける

•定例の営業所会議に「今週のありがとう」という一言共有コーナーをつくる

こうした“動線”があるだけで、感謝の言葉は少しずつ日常に溶け込んでいきます。

感謝は「言おう」ではなく「言いたくなる」をつくるもの

「ありがとう」は強制できません。

むしろ、「感謝すべきことを探さなきゃいけない」となると、言葉が軽くなってしまうこともあります。

だからこそ大事なのは、自然と感謝したくなる空気をつくること

そのためには、“誰かが見てくれている”“自分も誰かを見ている”という相互の関心が必要です。

仕掛けの役割は、その“最初の一歩”を後押しすることにあると、ぼくは考えています。

そして、所長が動き方で語る

どんな仕掛けも、“誰がどう動くか”によって意味が変わります。

クライアントさんは、それをよく理解していました。

仕掛けを用意するだけでなく、

所長自身が一番最初に「ありがとう」を口にし、形にしていく――

その姿勢そのものが、組織へのメッセージになるのだと思います。

「ありがとう」の出発点に、自分がなる。

そのリーダーシップのある姿勢は、周囲の信頼と空気を確実に変えていく力を持っています。

“言葉を空気に変える”。

そのためにできる工夫は、決して大げさなものである必要はありません。

けれど、そこに意図があるかどうかで、営業所の未来は大きく変わると、ぼくは信じています。

次章では、ここまでの対話や気づきを踏まえて、

このクライアントさんが取り組もうとしている営業所マネジメントの“今とこれから”を整理していきます。

第5章|「信頼で動く営業所づくり」の今とこれから

ここまで書いてきたように、このクライアントさんは、

営業所を“信頼で動く組織”へと少しずつ変えていこうとしています。

その取り組みは、派手さこそありませんが、

現場で日々のリアルと向き合いながら、一歩ずつ“空気の質”を変えていく営みです。

取り組みの3つの柱

現在、営業所で進めようとしている取り組みは、大きく分けて3つの柱で構成されています。

① 数字の共有で、見ている方向をそろえる

営業や課の数字だけでなく、営業所全体の状況や経営的な観点も丁寧に共有していくことで、

メンバー一人ひとりが“営業所の一員”としての意識を持てるようにする。

② 感謝の言葉で、関係性の温度を上げる

「ありがとう」が自然と出てくるような関係性を、所内に少しずつ育てていく。

感情のベクトルをそろえることで、行動のベクトルにも影響が生まれていく。

③ 所長が仕掛け人として動く

場の空気は、自然発生するものではなく、意図してつくっていくもの。

その出発点に立つのが所長自身であり、日々の姿勢やふるまいこそが最大のメッセージになる。

“マネジメントとは、空気をつくること”

コーチとしてこのクライアントさんと関わる中で、

ぼく自身が改めて実感したことがあります。

それは――**マネジメントとは、“人を動かすこと”ではなく、“空気を整えること”**だということです。

制度や仕組みを整えても、思うように人が動かないのはよくある話です。

でも、関係性の空気が変わると、言葉の届き方も、行動の変化も、まるで違ってきます。

このクライアントさんのように、

目の前のチームや所の“空気”に意識を向け、より良い組織にしていこうとする姿勢は、

とても誠実で、実践的なマネジメントのあり方だと感じています。

「できることからやる」ことの力

最後に強調しておきたいのは、

このクライアントさんが決して完璧な状態を目指しているわけではない、ということです。

大きな改革でも、制度の見直しでもなく、

「できることからやる」というシンプルな行動こそが、営業所の空気を変える原動力になっています。

だからこそ、同じようにマネジメントに悩む方々にとっても、

こうした取り組みは“特別なこと”ではなく、すぐにでも始められる現実的な一歩として響くのではないでしょうか。

おわりに

この記事は、あるクライアントさんとのセッションを通じて見えてきた、

“信頼で動く営業所”へのヒントを整理したものです。

現場を預かる責任と孤独の中で、

「どうしたらうまくいくか」ではなく「どうしたら信頼が育つか」を考え続ける。

そんな所長の姿に、ぼく自身もたくさんエネルギーをいただきました。

組織が変わるきっかけは、いつも“小さな気づき”と“丁寧な実践”から始まります。

もしこの文章が、誰かのその一歩の背中をそっと押せたなら、これ以上うれしいことはありません。

トッププレイヤーから営業所長へ。課長時代とは違う“次のマネジメント視点”

はじめに

4月の人事異動で、より上位の管理職に就かれた方も多いのではないでしょうか。
現場の第一線で成果を出し続け、課長としてチームをまとめながら部下育成とチームの業績の両立を成し遂げてきたからこその結果が評価されたのだと思います。
まさに「プレイヤーとしてもマネージャーとしても結果を残してきた優秀な方々」ですね。

実際、ぼくのクライアントさんの中にも、この4月の人事異動でさらに上位の役職に就かれた方が複数いらっしゃいます
日々のセッションを通じて感じるのは、「すでに管理職経験も実績もある方」であっても、次の役職では求められる視点や取り組み方がここでもう一回変わるということです。

たとえば、これまでは「自らのチームや担当メンバー」に目を向けていれば良かったところが、今後は「営業所全体」や「部門横断の組織運営」に関与する場面が増えてきます。

今回のブログでは、営業所長をされているとあるクライアントさんの事例をもとに、複数のリーダーの個性を活かして組織をマネジメントしていくヒントをお伝えしていきます。

ご自身の現場と重ね合わせながら、次のステージでのマネジメントの視点として活用していただければ幸いです。

1. チームのカギは“3名の課長の個性”

営業所長として組織を見るとき、重要な視点の一つが「誰がどのポジションで、どのような役割を果たしているのか」という組織設計です。
特に営業所では、複数の課長が存在し、それぞれが異なる強みやスタイルを持ちながらチームをマネジメントしています。

ぼくのクライアントさんが所長をしている営業所でも、

その個性を活かしながら組織全体を機能させていくことが、営業所長としての大きなテーマとなりました。
ここでは、その3つのタイプをご紹介します。

① 縁の下で信頼を勝ち取る課長

このタイプの課長は、あえて前に出ることなく周囲から厚い信頼を得ています。
指示や指導よりも「見守り」や「支え」に重きを置き、メンバーの相談に対しては親身に応えます。
チームのメンバーからすると、「この人がいるから安心して挑戦できる」と感じられる存在です。

営業所全体の安定感や継続的な成果には、このような“影の安定軸”となる課長の存在が不可欠です。

② 経験と実績を持つベテラン課長

長年の経験と豊富な知識で、チーム内の「文化」や「基準」を守る役割を担っています。
特に業界や自社のルール・慣習に詳しく、チームの意思決定や若手メンバーの育成にも影響力を持ちます。

一方で、自身のやり方への強いこだわりや変化への抵抗感が出やすい側面もあります。
営業所長としては、その経験と知見を尊重しつつ、適度に変化を促す関わり方が求められます。

③ チャレンジ精神旺盛な次世代課長

新しいアイデアや手法を積極的に提案し、行動力と実行力でチームをリードしていくタイプです。
特に若手メンバーに対しては、指示待ちではなく「自ら考え行動する」スタンスを育てる点で頼もしい存在となります。

ただし、既存のルールや手順よりも成果・スピードを重視する傾向もあり、営業所全体としてはバランスが求められます。
このタイプの課長には「枠を与えすぎない自由さ」と「方向性のガイド」の両立がカギになります。

3名の課長の個性とスタイルは異なりますが、それぞれがチームの成果に欠かせない存在です。
営業所長としては、こうした多様なマネジメントスタイルを対立させるのではなく補完し合う関係として設計していくことが、営業所全体の成果につながっていきます。

2. 課長として経験した「営業所を動かす」チャレンジ

上位管理職に昇進された多くの方は、すでに課長としての経験を積み、チームマネジメントにおいて成果を上げてこられたことでしょう。
プレイヤーとして自身の営業成績を残し、その後は課長として **「メンバーを通じて成果を出す」**という難しさとやりがいの両方を体験されたはずです。

ぼくのクライアントさんも、まさにこのプロセスを経て営業所長に就任されました。
課長時代には、自ら動いて成果を出すのではなく、メンバーに任せ、成長を促しながらチームとして結果を出すことに力を注いでこられました。
プレイヤーとして成果を出していた時代とは違い、課長として **「人を通じて成果を出すこと」**に意識を切り替えることは、決して簡単なことではありません。

そして今、営業所長として再び「役割の変化」に直面しています。
課長時代は **「自分のチーム」**をマネジメントすればよかったものが、
営業所長となった今は **「営業所全体」**をどう動かすか、
複数の課長や部門をどのように連携させ成果につなげていくかが問われる立場となりました。

プレイヤー→課長→所長とステージが変わる中で、求められるマネジメントの視点やスタンスも進化しています。
クライアントさんも今、**「課長の個性を活かしながら営業所全体として成果を出す」**という次のチャレンジに挑んでいます。

この変化にうまく対応するためのカギとなるのが、課長同士の役割設計営業所全体の方針やビジョンを明確にすることです。
次章では、その具体的な考え方についてご紹介していきます。

3. チームの成果を引き出す役割設計

営業所長として営業所全体の成果を生み出すためには、課長同士の役割設計が非常に重要なポイントになります。
現場を預かる課長たちは、それぞれ異なる強み・スタイルを持っています。
その個性を理解し、意図的にチームや営業所全体のパフォーマンスにつなげる設計が求められます。

ぼくのクライアントさんも、3名の課長の強みと課題を整理するところから取り組みを始めました。
例えば「縁の下でメンバーを支える課長」「経験と実績を持つベテラン課長」「チャレンジ精神旺盛な次世代課長」という特徴をふまえ、

誰にどの領域・期待を託すのか

ポイント1:組織課題と個人課題を切り分ける

所長として「何が営業所全体の課題なのか」「どこは各課長に任せられるのか」を整理することが大切です。
たとえば、営業所全体の方針や人材育成の枠組みは所長が担い、
日々の目標管理やメンバーの育成は各課長に裁量を持たせるといった 役割のすみ分け を意識します。

ポイント2:期待値を明確にする

課長のスタイルや強みが違うからこそ、**「何を期待しているのか」**をあらかじめ言語化し、すり合わせることが欠かせません。
「この領域ではリードしてほしい」「このテーマは一緒に取り組もう」など、

あいまいさを減らし、安心して動ける環境

ポイント3:若手と次期所長候補の育成を意識する

営業所全体として中長期的に成果を出すためには、若手育成の視点も外せません。
課長には「日々の業務を回す責任」だけでなく、若手のチャレンジの場を意図的に作る役割も期待します。
また営業所長としては、中長期的な視点で**「次期所長候補となる人材を見極め、成長を支援していくこと」**も重要な役割になります。
次の世代の所長を意識して育成しておくことは、営業所全体の安定と継続的な成果につながります。

複数の課長の強みとスタイルを組み合わせて営業所の成果を引き出すこと。
そのための「役割の整理と言語化」が営業所長としての重要なマネジメントポイントになります。
次章では、この土台の上に「所長自身の発信力」がなぜ求められるのかについて考えていきます。

4. 所長としての“言語化力と発信力”

営業所長の役割に就くと、多くの方が感じるのが「課長時代と比べて自分の考えや方針を“言葉にして伝える”機会が圧倒的に増えた」という変化です。

課長としてチームをマネジメントしていたときは、日常のコミュニケーションや行動の積み重ねでメンバーと信頼関係を築けました。
しかし営業所長になると、複数の課長や部門、さらには経営層や他拠点との連携も必要になります。
その中で求められるのが **「所長としての発信力」**です。

組織の方針・優先順位を明確に伝える

複数のチーム・課長を束ねる立場では、所長自身が組織の「軸」を言語化し、明確に発信することが不可欠です。
営業所の方針や優先順位、期待する行動基準をあいまいにせず、誰もが理解できる形で示すことがメンバーの安心感と行動の統一につながります。

コーチングの視点を取り入れる

ぼくのクライアントさんの場合も、コーチングで培った**「問いかけ力」「対話力」**を所長のマネジメントに活かしています。
「〇〇について意見を聴かせて?」「この課題の解決策を提案して?」など、

課長自身に考えさせる言葉を投げかけることで、自走力や当事者意識を育てる

言葉の力で組織を前進させる

組織が大きくなればなるほど「察してくれるだろう」は通用しません。
所長の発信がなければ、現場は迷い、判断基準を失いがちです。
所長の役割として大事なのは、「細かなやり方を教えること」ではなく、課長や営業所員ひとりひとりが自ら考え判断ができるようになるための方向性を示すことです。
この発信が、課長たちの主体的なリーダーシップを後押しし、営業所全体の成長につながっていきます。

次章では最後に、こうした考え方を踏まえて所長としてのスタンスのまとめと、読者への問いかけをしていきます。

5. おわりに

営業所長としての役割は、プレイヤーや課長としての経験・実績を土台にしながらも、さらに視野とスタンスを広げることが求められます。
自身で成果を出す・自チームを動かすところから、営業所全体をどのように動かし成果につなげていくかという「組織全体視点」への進化です。

ぼくのクライアントさんも、3名の課長の個性や強みを活かしながら、
役割の設計や営業所としての方針の言語化、さらには次期所長候補の育成までを意識したマネジメントに取り組んでいます。
その過程は決して簡単ではありませんが、「人を通じて成果を生み出す」という上位管理職としての醍醐味とやりがいを実感されています。

この内容は、ぼくが実際にご支援しているクライアントさんとの取り組みの中でも成果につながっている実践例です。
ぜひ、ご自身の営業所や組織でも活かしていただければ嬉しいです。

ここまで読んでくださった方も、ぜひご自身の営業所や組織に置き換えて考えてみてください。
自分は今、どの課題に取り組むべきだろうか?
課長やメンバーが主体的に動ける環境を整えられているだろうか?
次のステージに進むために、今の自分に必要な成長は何だろうか?

日々の業務の中でこの問いを持ち続けることが、次の成果と成長への第一歩になるはずです。

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