目次
はじめに:昇進はゴールではなくスタート
年度初め。
この時期、新しい肩書きでスタートを切った方も多いのではないでしょうか。
昇進や昇格は、これまでの努力が認められた大きな節目です。
でも同時に、「ここからが本当のスタートだ」と実感する瞬間でもあります。
今年度も、ぼくのコーチングを継続してくださっている方の中に、昇進・昇格を迎えた方が何人かいらっしゃいます。
新しい役割に向き合う姿はどの方も本当に真摯で、ぼく自身も毎回刺激を受けています。
実はこのブログも、その中のお一人とのセッションがきっかけで書いています。
初めて部下を持つことになり、「自分に人を育てることができるのか?」という問いに向き合っていた方です。
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昇進したばかりの頃って、「とにかくミスなく回さないと」とか、「まずは自分がちゃんとやらないと」って気持ちになりやすいですよね。
ぼくもこれまで何人も、そんな気持ちで新しい役割に飛び込んでいく方たちを見てきました。
その姿勢はすばらしいし、責任感のある証拠。
でも、一つだけ視点を足すとしたら──
**「チームとして成果を出すには、自分一人では限界がある」**ということです。
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なりたて管理職がはまりやすい「3つのトラップ」
① ✋ これまでどおり、自分で動いたほうが早いと思ってしまう
→ 手を動かせば成果は出る。でも、それを続けるほど部下は育たない。
② 📈 プレイヤーとしての延長線上で成果を出そうとする
→ 数字や結果で目立とうとするが、それはマネジメントの本質とはズレている。
③ 🧠 部下のことより、自分のことでいっぱいいっぱいになる
→ 「まず自分がちゃんとしなきゃ」と思いすぎて、部下との関係づくりが後回しに。
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これ、全部「自分のがんばり」で何とかしようとしている状態なんですよね。
でも、役割が変わった今こそ、目を向けてほしいことがあります。
それは──
部下と一緒に成果を出していく、という視点です。
たとえば、自分がいないときもチームがちゃんと動いていたり、
誰かが「そのやり方、前に○○さんから学んだんです」とあなたのことを言ってくれたり。
そういう“じわっとくる成果”って、ほんとうに嬉しいんです。
だからこそ、今このタイミングで「育てる」というテーマに目を向けることは、
マネージャーとしてのスタートラインに立った今だからこそ、意味のあることだと思っています。
このブログでは、「育てるマネジメントって、どうやって始めればいいのか?」
そのヒントをお届けしていきます。
自分らしい関わり方を見つけたいと思っているあなたに、少しでも参考になれば嬉しいです。
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1️⃣ 自分でやった方が早い、の壁
「これ、教えるより自分でやった方が早いな…」
管理職になって最初にぶつかる壁が、まさにこの感覚かもしれません。
チームとして成果を出したいと思っていても、現場は待ってくれません。
納期はあるし、質も落としたくない。
だからつい、手を出してしまう。自分でやった方が早いから。
しかも、切羽詰まれば詰まるほど、頭ではわかっていても思うようにいかないんですよね。
•報告の期限が明日まで!
•月末に売上が全然足りてない!
•プレゼンのクオリティがどうしても上がらない!
こういうとき、「育てる」なんて余裕がないよ…って思うのも、正直なところじゃないでしょうか。
「自分がいないと回らない」チームができあがる
もしあなたがずっとそのやり方を続けていたら、
メンバーは「困ったら上司に頼めばいい」「任せても結局自分で直される」と感じるようになります。
その結果、少しずつ自分で考える力や、自分で動く責任感が薄れていってしまうんです。
これって、長い目で見るとけっこう大きなリスクですよね。
でも、それでも少しずつ視点をずらしていくことができれば、
“自分がやる”というスタイルから抜け出していくことができます。
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じゃあ任せるって、どうすればいいの?
「任せよう」と思っても、最初は勇気がいります。
でも、いきなり“全部”任せなくていいんです。
まずは「ここまでは任せる」という範囲を決めること。
その上で、うまくいかなかったときにどうフォローするかもセットで考えておく。
この“準備付きの任せ方”が、育てるマネジメントの最初の一歩になります。
そして大事なのは、「どうだった?」と振り返る時間をつくること。
これは、任せっぱなしではなく、関わり続ける姿勢を伝えることにもつながります。
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任せることは、期待を伝えることでもある
人は、自分に期待されていると感じたときに一歩前に出ます。
逆に「どうせ無理だろうな」と思われていると、それ以上がんばろうとしません。
だからこそ、「やってみて」「任せるね」と伝えることは、
**「あなたならできると信じてる」**というメッセージにもなるんです。
もちろん、うまくいかないこともあります。
でも、そこで一緒に考え、成長のプロセスに付き合うことこそ、マネジメントの醍醐味かもしれません。
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あなたがやった方が早い。
でも、あなたが“任せた先”にしか生まれない成長がある。
それを信じて、最初の一歩を踏み出してみませんか?
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2️⃣ 1on1は“管理”じゃなく“関係づくり”
昇進後にまず始めたほうがいいアクションは何ですか?
そう聞かれたら、ぼくは迷わずこう答えます。
「1on1をやってみてください」と。
メンバー一人ひとりと、落ち着いて話す時間を取ること。
これは、これからのチームづくりの土台になります。
でも、1on1ってやったことがないと、ちょっとハードル高く感じますよね。
「何を話せばいいんだろう…」とか
「ちゃんとアドバイスできる自信がない…」とか。
大丈夫です。
最初の1on1でいきなり深い話をしようとしなくてOKです。
むしろ、“管理”じゃなく“関係”をつくる場なんだと考えてもらえたら十分です。
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聴くことから始まる信頼関係
1on1でいちばん大切なのは、相手の話を“ちゃんと聴く”こと。
アドバイスすることでも、管理することでもありません。
「最近どう?」というシンプルな問いからでも大丈夫。
相手の口から出てくる言葉を、途中でさえぎらず、評価せずに聴く。
これだけで、少しずつ「この人には話してもいいかも」という空気が生まれてきます。
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上司が“ちゃんと聴いてくれる人”であることの価値
メンバーにとって、上司が「ちゃんと話を聴いてくれる人」かどうかは、とても大きな意味を持ちます。
ここでの“ちゃんと”には、ただ聞いているのではなく、評価せずに、途中で遮らずに、最後まで耳を傾けてくれるというニュアンスが含まれます。
仕事で判断に迷ったとき、誰かとの関係に悩んだとき。
そんなときに「この人なら話してもいいかも」と思える存在がいるだけで、人は安心し、前を向いていけるんです。
あなたが1on1を通じて「この人は大丈夫」と思ってもらえる存在になれたら、
それだけでチームの安心感と自走力は、確実に上がっていきます。
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完璧な質問なんていらない
「どんな質問をすればいいですか?」と聞かれることもありますが、
正解の質問なんて、実はありません。
大事なのは、あなたが相手に関心を持っているかどうか。
その気持ちがあれば、多少ぎこちなくても1on1は成立します。
たとえば:
•「最近、仕事で面白かったことってある?」
•「いま、ちょっとしんどいなって思ってることってある?」
•「このチームで、もっとこうなったらいいなって思うことある?」
ちょっとした問いでも、関係性を深めるきっかけになります。
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まずは月1回でも、10分でもいい。
1on1を始めてみることで、チームの空気は確実に変わりはじめます。
そして気づいたとき、きっとこう思うはずです。
「チームって、ひとりひとりとの対話の積み重ねでできていくんだな」と。
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3️⃣ “強み”からマネジメントするという視点
部下の育成というと、つい「どこが足りないか」「何を直すべきか」に目が向きがちです。
もちろん、改善点に気づいて支援することは大切ですが──
そればかりだと、本人のモチベーションが下がってしまうこともあります。
そんなときこそ、“強み”に目を向けるという視点が力を発揮します。
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弱点を補うより、強みを活かす方が伸びる
人は、自分の得意なことをやっているときに、自然とエネルギーが湧いてきます。
集中力も高まるし、周囲にも良い影響を与えやすくなる。
それはきっと、あなた自身も経験があるはずです。
だからこそ、上司として「この人は何が得意なのか?」「どんなときにイキイキしてるのか?」に目を向けて観察すること。
それが、育成の入り口になります。
では、具体的にどこを見ればいいのか?
ぼくがよくお伝えしているのは、こんな3つの観点です。
• その人が楽しそうに取り組んでいること(=好き)
• 周囲が自然とその人に頼っていること(=任せたくなる)
• 結果が出ていて、周囲からも評価されていること(=成果)
この3つが重なるところに、その人の“強み”が隠れていることがよくあります。
しかもそれは、目に見えるスキルだけじゃなく、関わり方や姿勢、仕事へのスタンスのような「その人らしさ」にも現れるんです。
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「役割」ではなく「可能性」で関わる
マネージャーになると、つい“役割”で人を見てしまいがちです。
「あの人は経理だから数字まわり」「彼は中堅だから後輩指導」など。
でも、強みで見るということは、「この人にはこんな可能性があるかもしれない」という視点を持つということ。
実際にやったことがなくても、「向いてそう」と思えることを小さく任せてみることで、思わぬ成長につながることもあります。
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強みを活かすチームは、自走する
強みを起点に任せられたメンバーは、「自分の力が活かされている」と感じやすくなります。
その実感が、自信と行動につながり、少しずつチーム全体の流れが変わっていきます。
こうした経験を積み重ねることで、メンバーの「自立」や「主体性」が育っていきます。
自分の意思で動ける人が増えると、やがてチーム全体が“自走”しはじめる。
「この人なら、あれを任せてみようかな」
そんな小さな選択の連続が、自走できるチームを育てていくんです。
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強みを見る視点は、マネジメントにおいてとても優しい眼差しです。
それは、「あなたを見ているよ」「可能性を信じてるよ」というサインでもあります。
あなたがその視点を持つだけで、メンバーの表情がふっと明るくなる瞬間が、きっとあるはずです。
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4️⃣ 自分の“理想の上司像”を棚卸ししてみる
部下を育てたい。
でも、自分はどう関わればいいのか、正解がわからない。
そんなときこそ、「自分がどんな上司でいたいか?」を考えてみることがヒントになります。
難しく考えなくても大丈夫です。
過去をちょっとだけ振り返ってみるだけでいいんです。
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「この人みたいになりたい」と思った上司は誰でしたか?
•どんな関わり方をしてくれていましたか?
•どんな言葉が印象に残っていますか?
•自分がどんなふうに変わっていったか、覚えていますか?
あなた自身が成長したと感じた瞬間には、きっと誰かの“関わり”があったはずです。
そして大事なのは、その人のすべてを真似しようとしなくていいということ。
完璧に理想的な人なんて、きっといません。
でも、「あのときの言葉が嬉しかったな」「あの接し方は印象に残ってるな」
そんな“ひとつひとつの部品”のような要素を、自分なりに切り取って取り入れていけばいいんです。
そうやって、少しずつ自分だけのマネジメントスタイルをつくっていけばいい。
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正解を探すのではなく、「自分の軸」を持つこと
マネジメントに“正解”はありません。
でも、「自分がどんな上司でいたいか」という軸があると、
迷ったときにもブレにくくなります。
•部下にどんなふうに関わりたいか
•どんなチームをつくりたいか
•自分がどんなふうに信頼されたいか
言葉にしてみることで、自分のマネジメントスタイルが少しずつ見えてきます。
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育てるマネジメントは、他人のマネをすることじゃない。
あなた自身の言葉と行動で、少しずつ形づくられていくものです。
だからまずは、自分の過去を棚卸しして、
「自分が大切にしたい関わり方」を見つけるところから始めてみませんか?
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5️⃣ 育成に“正解”はない
ここまで読んで、「なるほど、とは思うけれど…」と感じている方もいるかもしれません。
現場は忙しいし、余裕なんてない日もある。
ちゃんとやれている実感が持てないまま、毎日が過ぎていく。
そんな中で、「育てるマネジメント」なんて言われても、うまくできる気がしない──
そう感じるのも、すごく自然なことです。
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育成は、正解を目指すものじゃない
マネジメントって、“うまくやろう”と思えば思うほど、プレッシャーが増します。
でも実際は、育成に「これが正解!」という唯一の答えなんてありません。
相手も状況も日々変わっていく中で、
あなた自身も試行錯誤を繰り返しながら、少しずつ形をつくっていくしかない。
ときには遠回りに感じることもあるけれど、
そのプロセスこそが、あなたのチームを育てていく時間になります。
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大切なのは、「関わろうとする意志」
うまくいくかどうかよりも、
何より大切なのは、**「部下と関わろうとする意志があるかどうか」**です。
忙しい中でも、少し時間を取って話を聴こうとする。
うまく伝わらなくても、また別の角度で伝えようとする。
任せたことに口を出したくなっても、信じて見守ろうとする。
その積み重ねが、メンバーに伝わっていきます。
「ちゃんと見てもらえている」「自分のことを気にかけてもらえている」
そんな実感が、行動を変えていくんです。
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あなたのマネジメントには、あなたらしさがあっていい
ここまで読んでくれたあなたには、きっと「いいマネジメントをしたい」という思いがあるはずです。
その気持ちがある限り、たとえ迷いながらでも、きっとチームはついてきてくれます。
大事なのは、正しくやろうとしすぎないこと。
完璧じゃなくていい。あなたらしさがある関わり方こそが、チームの空気をつくっていきます。
育成は、ゆっくりでいいんです。
関わる中で、お互いが育っていけばいい。
それが、あなたのチームの、これからの土台になっていきます。
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🧭 おわりに:あなたらしい育成の一歩を
ここまで、「育てるマネジメント」をテーマに、5つの視点をお届けしてきました。
✅ 自分でやった方が早い、の壁を超える
✅ 1on1は“管理”ではなく“関係づくり”
✅ 強みからマネジメントするという視点
✅ 自分の理想の上司像を棚卸ししてみる
✅ 育成に“正解”はない
どれも、すぐに完璧にできるものではありません。
でも、どれも「意識して関わろう」と思ったその瞬間から、
少しずつチームの空気は変わっていきます。
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昇進・昇格は、ゴールではなく新しいスタート。
大変なことも増えるけれど、その分だけ“育てる喜び”も手にしていけるはずです。
だからこそ、正解を探すのではなく、
「自分だったら、どんなふうに関わりたいか?」を問いながら、
あなたらしい育成の一歩を踏み出してみてください。
その一歩が、未来のチームをつくっていきます。
今日もその歩みを応援しています
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